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難治性進行癌に対する樹状細胞ワクチン療法:最近の動向と我々の取り組み

2010年 6月 2日

米満吉和

米満吉和:
九州大学大学院薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学 教授

生年月日:1963年4月17日

経歴

1990年九州大学医学部卒業、1996年医学博士。
九州大学第2外科(血管外科)の後1997年よりロンドン大学インペリアルカレッジへリサーチアソシエート。
2006年九州大学病院講師、2007年九州大学大学院病理病態学・助教授を経て2007年より千葉大学大学院医学研究院遺伝子治療学客員教授。
2009年より現職。

主な研究テーマ

血管生物学、腫瘍免疫学、分子・遺伝子治療学


齊藤 智

齊藤 智:
九州大学大学院薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学 博士課程

生年月日:1983年11月2日

経歴:

2008年3月 北海道大学大学院医学研究科医科学専攻 修士課程修了
(遺伝子病制御研究所 癌ウイルス分野)
同4月より千葉大学大学院医学薬学府先端生命科学専攻 4年博士課程
(先端応用外科学、遺伝子治療学)
2009年10月より現職(九州大学大学院薬学研究院特別研究学生)

1.はじめに

 我が国において悪性腫瘍の患者数・死亡者数は共に増加し続けており、1981年以降は死亡原因第1位、平成19(2007)年において総死亡の30.4%を占めている。悪性腫瘍は高齢になるほど羅患率・死亡率共に増加することから、我が国の社会の高齢化を考えた場合、今後も患者数・死亡者数が増加していくと考えられる。

 わが国では2004年より「第3次対がん10ヶ年計画」が策定され、現在のがん3大治療である外科手術、放射線療法、化学療法のエビデンスに基づいた標準化・均てん化が進められており、また新しい分子標的治療薬、抗体医薬の開発も相俟って、国内の多くの医療機関で一定レベル以上のがん治療を享受できると共にさらなる生存率の向上が得られつつある。しかしながら、進行がんは依然難治性であることは間違い無く、標準治療終了後の選択肢が無いことから、新たな第4の選択肢を確立することはきわめて重要である。

 本稿では悪性腫瘍に対する治療法の中で将来、第4の選択肢の有力候補として研究が進められているがん免疫療法、特に樹状細胞(DC: dendritic cell)ワクチン療法開発の現状について概略を示し、またその効果増強のための我々の試みを紹介する。

2.がん免疫療法:発展の歴史

 がん免疫療法は約1世紀前に米国のColeyらががん患者に対し、バクテリアを混合したワクチンを接種する治療を行ったのが最初と考えられている。(Starnes CO. Nature 1992)しかしながら、当時は放射線療法や化学療法の登場により影に隠れ、注目をあびることはなかった。しかしその後の臨床的検討から、放射線療法や化学療法は効果が一過性かつ限定的であることが明らかとなり、再びがん免疫療法が注目されるようになった。その結果1970年代に入りわが国では結核菌製剤BCGや溶連菌製剤OK432などの細菌製剤、担子菌抽出物製剤のクレスチン、レンチナン、ソフィラニンなどが医薬品として認可され使われるようになり、これらは現在「非特異的免疫賦活化剤(第1世代)」として分類されている。

 1980年代に入ると、免疫学の発展によりがんに対する細胞レベル・分子レベルで免疫機構が解明されてきた。その結果、第2世代としてインターロイキン2(IL-2)やインターフェロン(IFN)などを用いたサイトカイン療法が、1980年代後半には第3世代として、初の免疫細胞療法となる活性化自己リンパ球療法の開発が進められてきた。

 これら第1~3世代の免疫療法はいずれも「非特異的免疫療法」に分類され、ヒトの持つ免疫力全体を底上げすることにより腫瘍をたたくことを目的とする非特異的免疫療法である。しかしながら臨床的な治療効果は当初期待されたほど高くなく、また一部のサイトカイン療法には重篤な副作用が問題となるなど、現在でも使用されているのは一部のものに過ぎない。

 一方、1989年Knuthらによる腫瘍抗原MAGE1の発見(Knuth A, et al. Proc Natl Acad Sci USA 1989)を皮切りに、「がんの目印」となる種々の腫瘍抗原が発見されてきた。これが「がんを特異的に叩く」、すなわち腫瘍特異的免疫療法開発のきっかけとなり、1990年代半ばより、第4世代といわれるがん特異的細胞傷害性T細胞(CTL)療法、ペプチドワクチン、そして樹状細胞ワクチンが次々に発案されるようになった。これら腫瘍免疫療法の中で、現在第4の治療法として最も期待されるのが「がんワクチン」である。

3.なぜ、がんワクチンは「第4のがん治療」として期待されるのか

 現在の標準治療のうち、外科手術と放射線療法は「局所治療」であり、遠隔転移を有する進行がんには無力である。従って残る選択肢は化学療法しかない。最近では多くの臨床的エビデンスが集積し、化学療法のみで完全寛解へ至るがん種も増えているが、一方で完全に消失したように見えるがんが一定期間を置いて再発することはまれではなく、また再発時には化学療法剤対し耐性を獲得していることが多い。従って別種の化学療法剤へ変更することになるが、次第にその効果は減弱すると共に選択肢は狭められる。

 がんワクチンの効果には、その免疫学的な機序から、(1)今存在するがんを抑え込むこと、(2)転移巣を抑えること、(3)再発させないことが期待される。これらはがん3大標準治療には期待できないワクチン独自の抗腫瘍効果であり、そのため「第4のがん治療」として期待されている。

4.がんワクチン、特に樹状細胞によるがんワクチン開発の現状

 がんを攻撃できる免疫細胞には様々なものがあり、貪食作用を発揮するマクロファージ、直接攻撃するエフェクター細胞であるリンフォカイン活性化キラー細胞(LAK: lymphokine-activated killer cells)、ナチュラルキラー細胞(NK: natural killer cell)、ナチュラルキラーT細胞(NKT: natural killer T cell)、細胞傷害性T細胞(CTL: cytotoxic T-lymphocyte)などが存在する。一方でワクチンによりがん抗原が認識され、持続性にその効果を発揮するためにはがん抗原に対する獲得免疫と免疫学的記憶(メモリー)が成立することが重要であり、その目的のためには免疫の司令塔であるDCを用いることが最も有効であると考えられる。

 世界で初めてのDCワクチンの臨床試験は、1996年にB細胞リンパ腫に対して報告されており(Hsu, F.J. et al. Nat Med 1996)、また1998年にはステージⅣのメラノーマ患者に対して奏功率約30%という報告がなされた(Nestle, F. et al. Nat Med 1998)。その後世界中が種々のがんに対してDCワクチンの臨床試験を実施しているが、これまでの報告によれば、当初期待されていたレベルの効果は得られていない。2004年に米国NCI(National Cancer Institute)における成績をRosenbergらがまとめたところによるとその臨床効果は、約7.1%とされている(Rosenberg, S. Nat Med 2004)。

 このように当初期待された臨床効果が得られなかった原因として様々な理由が考えられているが、その中でも最も重要なものとしてDCの品質の問題が挙げられている。今後、最適なDCワクチン施行のために検討すべきこととして以下6点があげられる。それは(1)最適なDCの種類の選択、(2)DCの活性化方法、(3)抗原取込み方法と抗原の種類、(4)投与ルート、(5)投与細胞数、(6)投与頻度・回数であり、これらを臨床的に最適化することが必要であるとされている(Figdor, C. G. et al. Nat Med 2004)。

 以上のDCワクチンの問題点を克服すべく、我々は特にワクチンの効果を決定するパラメータの探索を実施してきた。その結果、(1)DCの活性化方法、および(5)投与細胞数が効能を左右する最も重要なファクターであることを明らかした。従って現在我々は、この2点に焦点を当て、DCワクチンの効果を飛躍的に向上させるための2つの技術開発、「樹状細胞の大量増幅技術」と「免疫刺激型ウイルス療法のDC療法への応用技術の開発」を進めている。

5.樹状細胞大量増幅技術の開発

 本技術開発の目的は、その治療成績がDCの投与細胞数依存的であることが実験的に示されたこと (Tatsuta K, et al. Gene Ther 2009)、さらにはマウス治療モデルと同様の十分な抗腫瘍効果をヒトで得ることを考えた場合、体重比で計算を行うと1回の投与あたり現行法の約100倍のDCを用いる必要があることに由来する。しかしながら、従来よりDCは増幅しない細胞であると考えられていたため、我々は改めてDCの分化系譜よりその増幅法の詳細な検討を行った。

 ヒトでの応用の前段階として、まずマウスを使いDC増幅技術の開発を行った(Harada Y, et al. PLoS One 2009)。マウス骨髄細胞よりDC前駆細胞を選択し、前駆細胞の状態を維持したまま4種のサイトカインカクテルを用いて通常法のおよそ1,000倍以上のDCを得る技術を確立することに成功した。本技術で増幅されたDCは、通常のミエロイド系DCと全く同様の生物学的・免疫学的形質を示し、またマウス担がんモデルにおいて実際に高い治療効果を発揮することを示した。次にヒトDC大量増幅法の開発にあたり、ヒト臍帯血由来CD34陽性細胞を材料とし、同様に最適化されたサイトカインカクテルを用いた増幅をおこなった(Harada Y, et al. in preparation, 特許申請済み)。この増幅法を用いることにより5週間で従来法と比較しておよそ100,000倍に増幅されることを明らかとし、また増幅されたDCが現行の培養法により得られるDCと同等の機能を持つことが確認された。次に我々はさらに研究を進め、より臨床的に使用頻度が高いと考えられるヒト末梢血単核球を用いた増幅法の開発を行い、従来法の約100倍以上のDCを得る方法を確立するに至っている(unpublished data)。

 以上の研究成果から、本技術開発によりDC療法による治療成績の向上、現行のアフェレーシス回数削減による低侵襲化、DC治療ワクチン患者の範囲拡大が期待される。

6.免疫刺激型ウイルス療法のDCワクチンへの応用技術の開発

 DCの活性化法の選択は、大きくDCの性質に影響を与えるため非常に重要である。従来の研究では、DCワクチンの抗腫瘍効果を得るためには細胞性免疫が重要であると考えられており、特にDCの活性化をTh1系へ制御し、いかにして効率よく細胞性免疫を活性化するかに焦点が注がれてきた。従来の方法として腫瘍壊死因子(TNF: tumor necrosis factor)などのサイトカイン、あるいはOK-432などのToll様受容体刺激物質などが使用されているが、いずれの方法が最適か、については議論が分かれており、また刺激により誘導されるDCの活性化状態についても、まだ最適化が行われてる訳ではない。

 このような状況の中、我々は従来とは全く異なる発想のもと、組換えセンダイウイルスベクター(rSeVベクター)がDCに高効率に感染し、強力に活性化させることができることに着目しDC療法への応用技術の開発を進めている。rSeVベクターは感染効率が極めて高く、感染後ゲノムの複製、転写全てが完全に細胞質内で行われる ‘cytoplasmic RNA vector’であり(Yonemitsu Y, et al. Nature Biotechnol. 2000、他)、DCにおけるウイルス感染の検知はRNAヘリカーゼであるRIG-I(retinoic acid-inducible gene-I)依存性に行われることが明らかとなっている(Yoneyama, et al. Nat Immunol 2004, Kato T, et al Front Biosci 2008)。これまで十分に成長し、血管が豊富になった後に腫瘍の治療を開始し、再現性よく腫瘍の増殖を抑制したモデルは存在しないとされていたが、我々はこのSeVにより強力に活性化されたDC(SeV/DC)を用いることにより、このような腫瘍モデルを完全消失されることに成功した(Shibata S, et al. J Immunol 2006; Yoneyama Y, et al. BBRC 2007) 。またラットおよびマウスの肺転移モデルにおいてSeV/DCを用いることにより腫瘍の転移巣を強力かつ持続性に抑制すること(Komaru A, et al. J Immunol 2009)、さらにはがん再発モデルにおいてSeV/DCを投与しておくことにより腫瘍の再生着が防止できる(Tatsuta, et al. Gene Ther 2009)などが明らかとなり、rSeV/DCワクチンの有効性が示された。rSeVは遺伝子治療ベクターとして、現在九州大学病院にて重症下肢虚血に対する臨床研究に使用されており、既に12例へ投与されたが安全性の問題は検出されていない。従って、現在我々はrSeV/DCワクチンの安全性と有効性を確認する臨床研究を計画しているところである。

7.おわりに

 がん免疫療法は、わが国でも多くの先駆的研究が成されており、WT1ペプチドのように抗腫瘍に有効であることが示唆される抗原ペプチドも発見が相次ぐと共に、久留米大学とグリーンペプタイド、東京大学医科学研究所とオンコセラピーなど産学連携によるがんペプチドワクチンの積極的な開発が進められている。またわが国では医師法の規制のもと、DCワクチンやLAKなどが自由診療として患者へ提供されている。大学病院での臨床研究をもとに厳密な細胞加工システムで実施されている例もあれば、その科学的・医学的根拠が不明確な例もあり、今後はどのようなレベルで規制して行くか、についても行政上の重要な課題である。

 このような中、2010年4月29日には、米国FDAにより米国Dendron社の前立腺がん治療用ワクチン「PROVENGE」の製造販売が承認された。これは、がんDCワクチン療法の悪性腫瘍に対する有効性が正式に認められた点で重要であり、がんワクチン療法が今後第4の治療法となる上で大きな1歩といえる。

 今後の進展に期待したい。

図1

図1:主要死因別粗死亡率年次推移(1947~2007年)

出典:国立がんセンター「がんの統計’09」

図2

図2:免疫療法の歴史


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