抗腫瘍免疫反応機構の研究の進展
2010年 7月16日
範祖森(FAN Zusen):
中国科学院生物物理研究所研究員、博士指導教官、イノベーションテーマグループグループ長、生物物理研究所感染免疫中心・中国科学院感染免疫重点実験室副主任
1998年上海交通大学医学院で免疫学博士学位取得後、アメリカハーバード大学医学大学院でポストドクター研究に従事、2003年にハーバード大学医学大学院講師に就任。その間、グランザイムA媒介によるターゲット細胞アポトーシスの新たなメカニズムを解明し、筆頭著者としてCell、Nature Immunology、MCB等の雑誌に論文を発表。Current Opinion Immunologyの招請により本研究分野の総括評論を執筆。2004年に中国科学院の「百人計画」研究員として帰国し業務に従事、2005年に「国家傑出青年基金」より資金支援を取得。2006年に「新世紀百千万人材プログラム」の国家レベル人材に入選。2008年に中国科学院の「百人計画」最終試験で優秀な成績を収める。2009年「国家傑出青年基金」最終課題で優秀評価を受ける。帰国後に20数名によりイノベーション研究チームを結成、これまでにポストドクター4名を育成し、博士8名を卒業するとともに博士学位の取得ができるように育成。テーマグループは、免疫細胞活性化と抗腫瘍分子メカニズムの面で革新的な進展を見、その研究成果は本分野で最高レベルの評論に紹介され、国際会議への招請を受け数回学術報告を行うなど、本分野に一定の影響を与えている。帰国後、実験室はSCI論文14編を発表、うちインパクトファクターが10を超えるものが1編、5を超えるものが10編。
細胞傷害性T細胞(CTL)とナチュラルキラー細胞(NK)は、獲得免疫と自然免疫の主な免疫活性細胞の2種類であり、人体の抗ウィルス感染と抗腫瘍の主な免疫反応細胞でもある。これらの免疫キラー細胞(CTL/NK)がどのように活性化し、ウィルス感染や癌変した標的細胞をどのように識別し殺傷するかは、現在の抗腫瘍・抗感染免疫研究にとって展望ある分野である。CTL/NK細胞は、主にFas/Fasリガンドとパーフォリン/グランザイムという2つの経路を媒介して標的細胞の殺傷にいたる。遺伝子ノックアウト実験から、パーフォリン/グランザイム媒介による殺傷が人体の抗ウィルス感染と腫瘍細胞殺傷の主な経路であることが明らかになっている。[1]。活性化したキラー細胞がそのターゲット細胞を識別した後に、細胞傷害性顆粒(granule)がエクソサイトーシスによってキラー細胞とターゲット細胞により形成される免疫シナプス内に放出される。顆粒内容物がターゲット細胞に入って殺傷作用を誘導し、ターゲット細胞のアポトーシスを起こす。細胞傷害性顆粒の内容物は、主にパーフォリン、グラニュリシン、グランザイム蛋白ファミリーである。現在のところ、ヒトNK/CTL細胞中にはグランザイムA、B、H、K、Mの5種類が発見されており、ラットでは8種類のグランザイム(A、B、C、F、I、J、K、M)、さらにマウスで発見されているグランザイムは11種類に上る(A-G、K-N)。グランザイムAとBは活性化したCTL細胞中に大量に発現されるため、グランザイムAとBについては機能研究が最も進んでいる。グランザイムA、B以外のグランザイムに関する研究は少なく、これらグランザイムは希少グランザイム(orphan granzyme)と呼ばれる。希少グランザイムは自然免疫反応細胞であるNK細胞中に大量に発現される。NK細胞では顆粒内容物が組み合わさるように傷害性顆粒の中に結合し、NK細胞がターゲット細胞を識別後、数分の間に直ちにターゲット細胞を殺傷する。NK細胞は刺激を受けると急速に免疫応答を発生するが、顕著な増殖はない。私たちは、腫瘍の発生早期にはNK細胞は腫瘍組織に大量に集中しており、NK細胞は腫瘍排除に必須であることを発見している[2]。しかしNK細胞だけでは腫瘍を完全に取り除くことはできず、CTL細胞の関与が欠かせない。NK細胞はインターフェロンg(IFN-g)の分泌を通じて直接CTL細胞を活性化し、腫瘍後期ではCTL細胞が腫瘍組織に大量に集まって腫瘍細胞を取り除く。近年、私たちと他の研究グループでは希少グランザイムについて詳細な研究を行い、グランザイムのこうした作用とメカニズムについて解明している。本文では、免疫活性細胞パーフォリン/グランザイムを経路とする抗腫瘍メカニズムの研究の進展についてまとめる。
一、パーフォリン
パーフォリン遺伝子は、1980年代中期にクローン生成されたもので、当初はオリゴマー化され細胞膜上に空洞を形成することが発見されたため、空洞形成蛋白(PFP)とも呼ばれる。パーフォリンの発見からすでに20数年たっているものの、その実際の生理機能は未だに解明されていない。CTL、gdT、NK細胞などすべての細胞傷害性細胞にはパーフォリンが発現し、パーフォリンの発現はT細胞活性化と関係があって、IL-2を経路とする調節を受ける可能性がある。パーフォリンは小胞体(ER)中に合成された後、その阻害剤であるカルレティキュリンと結合して、ゴルジ体の働きにより傷害性顆粒の中に運ばれる。細胞傷害性顆粒は酸性(pH5.1-5.4)で、そのためパーフォリンの安定性と不活性化状態を維持している。パーフォリンは補体成分C9と同属体であり、ターゲット細胞の細胞膜上に15-20ナノメーターの空洞を形成することができる。この過程にはカルシウムイオンの関与が必要である。電子顕微鏡では、細胞膜傷害複合体(MAC)補体が形成する空洞に類似した空洞の形成を観察することができる。パーフォリンは体外で細胞を処理し、細胞のネクローシスを急速に引き起こすことができる。しかし、準最適な量のパーフォリンはグランザイムがターゲット細胞に入るのを助け、ターゲット細胞のアポトーシスを誘導することができる。実際には、準最適な量のパーフォリンが細胞膜上に形成する空洞は小さく、細胞膜の完全性を破壊することはできず、またグランザイム等の大きな分子をこうした小さな空洞に通過させることもできない。パーフォリン不活性化のマウスでは重度の免疫欠陥が発生しており、ヒトのパーフォリン遺伝子突然変異は、家族性血球貧食性リンパ組織球症(FHL)を引き起こす。パーフォリンが細胞殺傷においてどのような役割を果たすかは、一貫して腫瘍殺傷の分野での研究の注目課題であり、パーフォリンの構造を解析しパーフォリンの機能を確実に理解できることが期待されている。
二、グラニュリシン
グラニュリシンは、1987年にクレンスキー実験室がクローン化したT細胞が活性化した後に特異発現した遺伝子である。この遺伝子の特異発現はT細胞系に現れ、多くの腫瘍細胞系では発現が観測されていない。遺伝子組み換えをしたグラニュリシン9kDには幅広い抗病原微生物作用があるほか、さらに腫瘍細胞の殺傷作用を媒介する。2007年にクレンスキー研究グループはグラニュリシン遺伝子組み換えマウスの生成に成功し、グラニュリシンはマウスの免疫系統で広範囲にわたって発現した[3]。研究により、グラニュリシン遺伝子組み換えマウスでは、接種されたC6VL腫瘍細胞(主にCD8+T細胞に依存して除去)に対して明らかな抑制作用が現れることが発見された。私たち研究グループは、グラニュリシンが媒介する腫瘍細胞の殺傷は、典型的なアポトーシスにも、典型的なネクローシスにも似ていないことを発見した。グラニュリシンは、腫瘍細胞核を分散させ、塊状に凝集させ、DNA二本鎖の典型的な切断は起こさないが、ターゲット細胞核の一本鎖に非常に大きい損傷を引き起こすとともに、カスパーゼ3をわずかに活性化させることができる。これによりグラニュリシンが媒介するのが新型のネクロトーシスである[4]。グラニュリシンは腫瘍細胞を処理した後にリソソームに入り、リソソーム中の主要プロテアーゼであるカテプシンBをリソソームから細胞質へと放出させる。続いて重要なアポトーシス促進蛋白Bidを切断する。切断されたtBidはミトコンドリアに作用し、ミトコンドリア中のシトクロムCとアポトーシス誘導因子(AIF)の放出を引き起こして、それにより腫瘍細胞を死滅させる。細胞内カテプシンBの活性を抑制したり、RNAがカテプシンBの発現を阻害すると、グラニュリシンが媒介するBidの切断と細胞の死滅が妨げられ、カテプシンBが反応しないためにシトクロムCとAIFの放出量が減少する。私たちはリソソーム-ミトコンドリアの経路が、グラニュリシンが媒介する腫瘍細胞殺傷において果たす重要な役割を実証している。
三、グランザイムA
グランザイムAは、CTL細胞顆粒の中でも最も早く発見されたセリンプロテアーゼであり、活性化したCTLにおいてよく発現する。グランザイムAは、ジスルフィド結合により連結した二量体の形で存在し役割を発揮する。グランザイムAはトリプターゼの一種であり、アルギニン(Arg)又はリジン(Lys)の裏でその基質を切断し、細胞にクロマチン濃縮、フォスファチジルセリンの外反、核崩壊、ミトコンドリアの経膜電位の喪失などアポトーシスの典型的な特徴を発生させる[5]。しかしグランザイムAのアポトーシスの経路はカスパーゼ活性化に依存せず、シトクロムCの放出を引き起こさず、Bcl-2による抑制を受けない。グランザイムAは、ターゲット細胞のクロマチンのDNA二本鎖切断を引き起こさずに、DNA一本鎖の切断を引き起こして、なおかつカスパーゼ阻害剤ZVADはこのアポトーシスの過程を阻害することができない。これによりグランザイムAは、細胞アポトーシスの新たな経路を発生させる。
一)グランザイムAが攻撃するSET蛋白複合体
グランザイムAは、グランザイムBとは異なるターゲット細胞死滅を起こす。グランザイムAの作用基質を鑑定するために、私たちは突然変異によって活性グランザイムAを不活性のグランザイムA(184Ser-Ala)に変えた。不活性化されたグランザイムAと基質とを合わせてクロマトグラフィーカラムを作成し、K562の細胞質分解液を用いてグランザイムAクロマトグラフィーカラムを通して、各種のクロマトグラフィー技術を経て、最終的にグランザイムAに作用する蛋白複合体約270-470kDを分離した[6]。これがSET蛋白質複合体である。
HMG2はDNAと非特異的に結合した非ヒストン蛋白であり、DNA複製、遺伝子転写、DNA組み換えに関与する。グランザイムAはその基質であるHMG2を加水分解し(切断位置はLys65)、そのDNA結合とDNAの湾曲促進機能[6]を破壊している。分解したSETはそのヌクレオソーム組み立て機能を破壊し、それによりクロマチンの正常な組み立て機能が破壊されて、DNAが露出し、リボザイムとDNAの結合によるDNA分解が促される。
私たちは研究により、pp32はグランザイムAと作用するSET複合体に存在しており、グランザイムAの作用基質ではないことを発見した。研究では、pp32はヒストン蛋白H3のリン酸化とアセチル化を抑制できることが実証された。ヒストン蛋白のリン酸化とアセチル化は遺伝子転写に不可欠である。私たちは、T細胞活性化モデルを確立してpp32の機能を研究し、RNAi技術を採用してpp32の発現を遮断し、IL-2の生成とT細胞の増殖を促進した。するとH3には低度のリン酸化とアセチル化が現れた。pp32高発現プラスミドを用いてT細胞のトランスフェクションをすると、pp32の高発現によりIL-2の生成とT細胞の増殖が抑制され、同時にH3には低度のリン酸化とアセチル化が現れた。pp32はヒストン蛋白H3のアセチル化とリン酸化の調節を通じて、遺伝子転写を抑制して細胞の生長を抑えている[7]。pp32はグランザイムAとBが誘導する非カスパーゼ依存性・カスパーゼ依存性の細胞のアポトーシスにおいて、重要な役割を果たす可能性がある。
二)グランザイムAがDNA一本鎖切断を引き起こすメカニズム
DNA分解は細胞アポトーシスの特徴であり、多くのヌクレアーゼにより媒介される。グランザイムBは直接又は活性化カスパーゼの加水溶解ICADがDNA二重鎖リアーゼCADを放出することにより、DNA二重鎖の切断を起こし、この過程は非常に緩慢である。私たちは、グランザイムAとBはともに細胞を処理してDNAの二重鎖切断を迅速に引き起こせることを発見した。またグランザイムAを加水分解したSET複合体ヌクレアーゼには非常に強い活性が現れ、グランザイムAの処理を経ていないSET複合体ヌクレアーゼの活性は弱いことが発見されており、SET複合体中にはDNA一本鎖分解リアーゼとその阻害剤が含まれることが示される[8]。私たちは、腫瘍転移抑制遺伝子NM23H1がSET複合体に存在し、また一本鎖DNAを切断するヌクレアーゼ活性を備えておりDNA一本鎖の分解を起こすこと、SETがその阻害剤であることを発見した。グランザイムAがSETを分解するとDNAポリメラーゼNM23H1を放出してすばやく細胞核に入り、DNA一本鎖分解を誘発する。グランザイムAが引き起こすクレマチンDNAの一本鎖分解はDNA損傷のはじめの段階で、その後グランザイムBがDNAの二本鎖分解を引き起こす。
鑑定によるとApelはこの複合体中にあり、グランザイムAの作用基質である。ApelはDNA塩基切除修復のための重要な律速酵素である。グランザイムAはApelを分解し、そのDNA結合と活性修復を破壊し、さらにその抗酸化作用を破壊した[9]。まずRNA干渉技術(RNAi)を採用し、Apelの発現を阻止して、グランザイムAが媒介するアポトーシスを加速した。真核担体の高発現Ape1を使用するとグランザイムAのアポトーシス誘導に抵抗できる。グランザイムAはApe1のDNA修復機能を破壊し、DNAの損傷が速やかに修復されないようにして、細胞をアポトーシスに追い込んだ。
四、グランザイムK
グランザイムKとグランザイムAは同一染色体の同一遺伝子クラスターに位置し、どちらもトリプターゼ活性を備える。マウスのCTLとLAK細胞ではグランザイムKの発現量はグランザイムAよりはるかに少ないが、ラットのNK(RNK-16)細胞中のグランザイムK発現量はグランザイムAより多いという研究もある。グランザイムKは約28kDあり、非糖鎖結合トリプターゼである。グランザイムAとグランザイムKの結晶構造は同じではない。グランザイムKの結晶構造分析により、そのチモーゲンは異常に緻密な構造をしており、活性化状態のセリンプロテアーゼ補体因子Dに似ていることが分かっている。グランザイムA遺伝子ノックアウトマウスのCTL細胞には、なお20%の残留トリプターゼ活性がある。トリプターゼ活性はCTL細胞の殺傷作用に不可欠であることから、グランザイムKはCTL/NK細胞が媒介する殺傷において重要な役割を果たす可能性がある。
一)グランザイムK媒介による非カスパーゼ依存性の細胞死
私たちはまずはじめに酵素活性をもつグランザイムKを発現させ、研究によりグランザイムKがターゲット細胞の急速な死滅を媒介することを発見した。グランザイムAと似て、フォスファジチルセリン外反、染色体凝集、核形態変化、一本鎖断裂が、グランザイムK媒介によるターゲット細胞死滅の主な特徴である[10]。グランザイムKの媒介によるターゲット細胞の死滅はカスパーゼの活性化に依存せず、カスパーゼ阻害剤のZVADはグランザイムKの媒介によるターゲット細胞の死滅を遮断することはできない。このほか、グランザイムKはまた細胞内のカスパーゼ3を活性化することもできない。さらにグランザイムKはSET蛋白複合体を攻撃することができ、グランザイムKは細胞内のSETを加水分解する。SETはヌクレオソームの構成蛋白であると同時にDNAポリメラーゼNM23H1の阻害剤でもある。グランザイムKはSETを切断してそのヌクレオソーム構成機能とNM23H1に対する阻害作用を破壊した。グランザイムKはターゲット細胞に入った後にDNAポリメラーゼNM23H1の阻害剤であるSETを加水分解し、DNAポリメラーゼNM23H1を活性化させて核内に放出し、染色体DNAの一本鎖断裂を引き起こした。このほかグランザイムKは、SET複合体中のグランザイムAのうち他の2つの基質、すなわちDNA結合蛋白であるHMG2とDNA塩基切除修復酵素のApe1を切断することができる。私たちの研究では、グランザイムKにはAとの相互補完作用があり、グランザイムAの機能を部分的に補ってCTL/NKにフェイルセーフメカニズムを持たせていることが分かった。
二)グランザイムKのミトコンドリア攻撃
ミトコンドリア経路は細胞アポトーシスの過程で重要な役割を果たす。私たちの研究では、グランザイムKはターゲット細胞ミトコンドリアの膨張、膨大、クレステ消失等の形態特徴上の変化を引き起こすことが分かっている。私たちは、グランザイムKがターゲット細胞の酸化還元電位の下降を誘導し、それによってミトコンドリアに消極化を発現させることを発見した[11]。グランザイムKは、Bidを加水分解して活性化したtBidに変えることにより、ミトコンドリアに作用してシトクロムCやEndoG等のアポトーシス促進蛋白の放出を引き起こさせる。シトクロムCの放出はカスパーゼの活性化を引き起こしておらず、これはグランザイムKによる細胞死誘導の特徴である。私たちの最近の研究では、グランザイムFはミトコンドリアを攻撃してシトクロムCの放出を引き起こすが、カスパーゼの活性化にはいたらず、非カスパーゼ依存性の細胞死(ネクロトーシス)を起こし、これがグランザイムが引き起こす第3の死滅形態であることが分かっている[12]。
私たちはさらに、Ape1が酸化還元作用によってROSの発生を抑えることができることを発見した。細胞内のApe1蛋白含有量は細胞の抗酸化機能と関連がある。グランザイムKが引き起こす細胞内ROSレベルの上昇は、Ape1の無反応により促進され、過剰発現により抑えられる[13]。Ape1はグランザイムKの生理基質であり、グランザイムKはApe1切断を通じてその酸化還元機能を破壊し、ROSを発生させてミトコンドリアの破壊を加速した。
三)グランザイムKが作用するその他の経路
p53は、重要な腫瘍抑制因子として、細胞のゲノム安定性維持、細胞周期抑制、細胞分化、血管新生、細胞アポトーシスなど、細胞内で多くの重要な生理活動に関与し、このためp53は細胞の守護神とも言われている。細胞内のp53の状態と含有量は、外部に対する細胞の反応に直接影響を与えることができる。悪性細胞がCTL/NK細胞による免疫殺傷を逃れると最終的には腫瘍を形成する。これらの腫瘍細胞では約50%のp53遺伝子が失われている、又は機能欠陥がある。このことは、p53は腫瘍細胞による免疫細胞の殺傷回避と関係があるという可能性をある程度示すものである。私たちは研究によりp53遺伝子をノックアウトしたターゲット細胞と比べたとき、自然状態の細胞はグランザイムKとNK細胞が媒介する細胞アポトーシスに対してより一層敏感だということを発見している[14]。そしてp53ノックアウト細胞にp53を再度入れるとその敏感さは再び回復する。更なる研究により、グランザイムKはターゲット細胞に入った後にp53を切断し、アポトーシス促進機能をもつ3つの活性部分を発生できることが分かっている。これらの機能部分にはアポトーシス促進作用があり、p53の単分子作用を拡大させて、最終的には細胞を不可逆的に死滅に向かわせる。
五、グランザイムB
グランザイムBはグランザイムAと同様に、活性化されたCTL細胞に多く発現し、現在最も広く研究されているグランザイムである。グランザイムBはアスパラギン酸プロテアーゼであり、カスパーゼと同じようにアスパラギン酸残基カルボキシ末端の特異切断活性を備えている。グランザイムBは、エンドサイトーシス小胞から放出された後、急速にターゲット細胞に入り、細胞質と細胞核内の生理基質に作用して、染色体濃縮、細胞膜空胞化、細胞収縮、DNA二本鎖断裂、アポトーシス小体形成等、細胞アポトーシスの典型的な特徴を引き起こす。
一)グランザイムB媒介によるカスパーゼ依存のターゲット細胞アポトーシス
グランザイムBにはカスパーゼ活性があり、カスパーゼの一部の基質を切断してカスパーゼを直接活性化し、カスパーゼのカスケード増幅作用を引き起こし、カスパーゼ依存のターゲット細胞アポトーシスを媒介することができる。グランザイムBが活性化したカスパーゼ3は、CADの阻害剤であるICADを切断し、CADのDNAポリメラーゼ活性を放出することができる。CAD酵素は細胞核に入ってクレマチンのDNAを切断し、典型的なDNA二本鎖断裂を起こす。グランザイムBもICADを直接切断でき、それによってCADを活性化しターゲット細胞核のDNA損傷を引き起こす。これによりグランザイムBは、カスパーゼ依存性のDNA二本鎖断裂を特徴とする典型的な細胞アポトーシスを引き起こす。
二)グランザイムBによるミトコンドリア経路での細胞アポトーシス
ミトコンドリアは細胞アポトーシスの過程で重要な役割を果たす。ミトコンドリアの電子伝達系とエネルギー代謝メカニズムの損壊、活性酸素フリーラジカル(ROS)の生成、アポトーシス促進蛋白シトクロムC、AIF等の放出はすべて細胞をアポトーシスへと仕向けることができる。グランザイムBは細胞質中にある蛋白Bidを直接切断し、発生したtBidはミトコンドリアの外膜にあるアポトーシス促進蛋白のBax、Bak等と相互に作用して、ミトコンドリア膜の完全性を破壊する。それによってシトクロムCを細胞質に放出させ、APAF-1とプロカスパーゼ9と結合してアポトソームを形成する。さらにカスパーゼ9の活性化を引き起こし、カスパーゼファミリーを連続的に活性化する。このプロセスは、ミトコンドリア上の抗アポトーシスファミリーの一員であるBcl-2により抑制される。
六、グランザイムM
グランザイムMは希少グランザイムであり、キモトリプシン様セリンプロテアーゼを備える。他のグランザイムとのアミノ酸同族性は43%に満たず、独特の遺伝子定位、酵素活性、特定の発現プロフィールをもつ。グランザイムBとは異なり、グランザイムMは活性化したCD4+又はCD8+Tリンパ細胞中には発現せず、パーフォリンと同様に高い結合性でNK細胞に発現する。グランザイムMの特異な酵素活性と特定の発現プロフィールは、それがNK細胞の媒介する病原体排除において重要な役割を果たすことを示している。
一)グランザイムM媒介によるカスパーゼ依存のターゲット細胞アポトーシス
私たちの実験室では純化したヒト化グランザイムMを発現し、これを腫瘍細胞に導入してその殺傷作用を研究するとともに、作用メカニズムを解明している。私たちは、グランザイムMが引き起こす細胞殺傷はカスパーゼ活性化に依存しており、グランザイムMはプロカスパーゼ3を直接切断し、カスパーゼ3を活性化することができることを発見した。カスパーゼの広域スペクトラム阻害剤であるZVADは、グランザイムMが引き起こすターゲット細胞アポトーシスを遮断することができる[15]。私たちはグランザイムM処理を行われた細胞のゲノムDNAについて分析し、グランザイムMがターゲット細胞のDNA二本鎖断裂を引き起こしており、これがグランザイムBと似ていることを発見した。ICADはグランザイムMの作用基質であり、グランザイムMはICADを切断し、CADのDNAポリメラーゼ活性を放出して、細胞核に入りクレマチンのDNAを切断した。そのほかに、グランザイムMはまた細胞のDNA修復にとって重要な蛋白質であるPARPを破壊することができ、DNAの修復メカニズムを破壊した。
二)グランザイムMが引き起こすミトコンドリア損傷
私たちは、グランザイムMがミトコンドリアの膨張とクレステ構造の喪失、ミトコンドリアの経膜電位低下、細胞内ROS含有量の急激な上昇を引き起こすことができることを発見した[16]。グランザイムMは、ターゲット細胞に入った後にミトコンドリアに直接作用して、短時間内にミトコンドリアの膨張、膜電位の下降を引き起こすことができ、これによって活性酸素(ROS)の発生とシトクロムCの放出を起こし、細胞のアポトーシスを加速する。
三)グランザイムMによる基質特異性構造基礎の識別
グランザイムにはいずれも基質特異性があり、それぞれの特異性を識別するための生理基質にはすべて構造基礎がある。ヒトのグランザイム5種類のうちグランザイムA、B、突然変異により不活性化したグランザイムK前駆体の3種類についてはすでに構造解析がされており、これらの酵素が作用する構造基礎が明らかになっている[17]。グランザイムMの機能と構造の関係を説明するため、私たちは高度な活性をもつグランザイムMを発現させ、グランザイムMの結晶を得て、識別率が高いその結晶構造を解析した。グランザイムMはそれ以外のセリンプロテアーゼと構造が似ており、4個のaらせんと13個のbシートからなる上下2個の樽状の構造領域をもち、中間のくびれ部分には酵素触媒3連体Asp86- His41-Ser182が含まれる[18]。これを基礎として、構造分析に基づきテトラペプチド阻害剤(Ac-KVPL-CMK)を設計した。この阻害剤はグランザイムMの活性を特異的に阻害でき、それ以外のグランザイムの活性に影響を与えない。構造に基づいて設計された有効な阻害剤は、そのほかのグランザイム阻害剤の調製に根拠を提供できる。阻害剤の獲得により、動物体内である種のグランザイムの活性を特異的に阻害する機能の研究に有効な手段が提供される。
七、グランザイムH
HaddadらがヒトグランザイムB遺伝子を分離した際に、グランザイムB遺伝子の付近にそれと関連する遺伝子座を発見した。発見されたのは新しい機能遺伝子であり、グランザイムHと命名された。グランザイムHはキモトリプシンに似たキマーゼである。グランザイムHはNK細胞中で結合性の高い発現を見せるが、活性化していないCD4+とCD8+T細胞中での発現は低い。このことは、グランザイムHがNK細胞の媒介による病原体排除において重要な役割を果たすことを意味している。
Jenne実験室では、細菌パーフォリン蛋白とPFPを使用して、遺伝子組み換えをした封入体再生のグランザイムHを腫瘍細胞に導入して、グランザイムHが腫瘍細胞にカスパーゼに依存しないアポトーシスを起こせることを発見した。しかしこのアポトーシスの力学的速度はグランザイムBより遅く、しかもICAD、Bid等のアポトーシス促進蛋白の切断を引き起こさない。グランザイムHはターゲット細胞のクレマチン凝集と核崩壊を引き起こし、ミトコンドリア損傷と細胞内ROS上昇を起こした[19]。こうした現象は私たちの実験結果と完全に同じではなく、私たちはピチア酵母が発現するグランザイムHを使用してターゲット細胞に導入した後、ターゲット細胞にカスパーゼに依存する細胞アポトーシスが発生したことを発見した。グランザイムHは細胞内のカスパーゼを活性化し、それが誘導したアポトーシスはカスパーゼ阻害剤ZVADにより抑制された[20]。しかもグランザイムHはICADを直接切断してDNAポリメラーゼCADを放出し、DNAの二本鎖断裂を引き起こすことができる。グランザイムHはさらにBidを切断してアポトーシス促進蛋白tBidを発生させ、ミトコンドリアの膨張、経膜電位低下、シトクロムCの放出を引き起こす。グランザイムHが細胞死を引き起こすメカニズムについては今後もさらに研究が必要である。
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