FOXP3+調節性T細胞及び疾患予防治療の分子機序に関する研究の進展
2010年 7月21日
李斌(Li Bin):中国科学院上海パスツール研究所研究員、
分子免疫学テーマグループリーダー、科学研究合作処処長
1976年1月生まれ。安徽省肥西県出身。2001年、北京大学生命科学学院理学博士。2001 ~2009年、ペンシルバニア大学医学部ポストドクター及び高級研究助手、2002~2003年、オックスフォード大学Sir William Dunn病理学研究所訪問学者、2009年、上海パスツール研究所研究員、2010年、中国科学院国外傑出人材招致プロジェクト「100人計画」優秀者選抜、上海市「青年科学技術明けの明星計画(A類)」の資金援助を獲得。
研究業績:FOXP3+調節性T細胞の分子免疫メカニズム研究。FOXP3+タンパク質の翻訳後修飾及びその転写複合体の組立が調節性T細胞の生理機能にとって極めて重要であることを初めて発見し、国際メディアにより、自己免疫疾患を治療する分子の新たなルートの発見として広く報道された。現段階において、エイズ、B型・C型肝炎を含む人類の深刻なウイルス性伝染病におけるFOXP3+調節性T細胞の生理機能、調節機序及びその臨床応用について集中的に研究中。
要旨
CD4+CD25 +FOXP3+調節性T細胞は免疫調節機能を有する一種のT細胞亜群である。Forkhead転写因子ファミリーメンバーFOXP3の発現レベル、状態及びその活性は、調節性T細胞の免疫調節機能を決定づけている。FOXP3の生化学活性、生理機能及びそれがコントロールする細胞の分子機序を深く掘り下げて理解することは、人体内の調節性T細胞の免疫機能を治療的に制御するための新たな戦略と新たな手段を提供するであろう。
1.概要
調節性T細胞の発育及び機能の不全は、さまざまの重大な免疫関連疾患――自己免疫疾患、炎症反応、急性・慢性伝染性疾患、腫瘍免疫耐性、移植拒絶反応、アナフィラキシー性疾患の生理的病変過程と関係がある(1-2)。FOXP3遺伝子の発現するレベル及び持続状態は、天然の調節性T細胞の発育成熟と機能を決定づけている。FOXP3は細胞核中において、多くの転写因子ならびに酵素活性を具えたヒストンアセチル化酵素/脱アセチル化酵素複合体と結合し、転写調節複合体を形成するが、これは自身がT細胞中の細胞因子の転写活性化を抑制する上で、必須のものである。同時に、FOXP3タンパク質の翻訳後修飾、転写複合体の組立とその修飾酵素類の活性は、T細胞表面レセプター及び細胞因子レセプターシグナルの動的調節を受ける(3-4)。本論文は、FOXP3+調節性T細胞の生理機能と作用メカニズム、ならびに重大疾患の予防治療と関連のある最新の研究の進展について、要点を簡単に検討するものである。
2.FOXP3+調節性T細胞の生理機能及び作用メカニズム
2.1 FOXP3+Tregの生理機能
調節性T細胞はCD4+Tの一種の重要な亜群であり、自己抗原に対する寛容を維持し、自己免疫疾患を防止し、慢性炎症を制限し、リンパ球増殖の恒常的バランスを調節する上で非常に重要である。調節性T細胞は自己反応性T細胞を抑制し、自己免疫疾患の発生を防ぐことができるだけでなく、抗原提示細胞及びエフェクターT細胞を含むその他のさまざまな免疫細胞の機能を抑制することができる(5)。体外細胞増殖パターン及び調節性T細胞特異的遺伝子のノックアウトは、FOXP3+Tregの体外及び体内免疫抑制メカニズムを研究するのに、それぞれよく用いられる。FOXP3+Tregがその他の免疫細胞の媒介する免疫反応を抑制するメカニズムはさまざまであり、細胞表面レセプターの媒介する細胞と細胞同士の接触の抑制、抑制性細胞因子といった可溶性分子の分泌、エフェクター細胞とのIL-2の奪い合い等がある。
2.2 FOXP3タンパク複合体による転写調節の分子メカニズム
FOXP3はTreg細胞特異的転写因子であり、Tregの発育と機能に対して重要な調節作用を果たしている、FOXP3が媒介するTregの免疫調節機能は、FOXP3といくつかの転写共調節タンパク質(転写因子、共抑制因子、共活性化因子、ヒストン、染色質リモデリング因子等を含む)と蛋白複合体を形成することによって、遺伝子特異的転写を動的にコントロールすることである(4)。例えば、FOXP3はエクソン2コーディング領域を通じてROR ɣ tと直接作用し合い、ROR ɣ tのIL-17Aプロモーターに対する賦活作用を抑制し、まだ活性化していないT細胞のTreg細胞への発育を促す(6)。そのほか、FOXP3は胸腺T細胞の発育にとって非常に重要な転写因子ファミリーAML 1(acute myeloid leukaemia 1)/Runx1(Runt-related transcription factor 1)、AML 2(Runx 3)、AML 3(Runx 2)との相互作用を通じて、AML 1の誘導するIL-2の発現を抑制することができる。AML 1は相応のプロモーターと結合することによってCD4+T細胞中のIL-2及びINF-ɣの発現を活性化することができるが、ただし、Treg表面分子マーカー、例えばCD25、CTLA-4及びGITRの発現を抑制する(7)。AML/Runxファミリー転写因子の活性は自己免疫疾患の発生と関わっている可能性があるため、FOXP3のAML 1に対する抑制作用はTregの媒介する免疫抑制作用にとって有利である可能性がある。
転写因子NFATとAP-1(Fos-Jun)が形成するNFAT/AP-1/DNA複合体は、T細胞活性化関連遺伝子の発現をコントロールする。NFATとAP-1はIL-2プロモーターと結合し、IL-2の発現を促すことができる。NFATはFxop3とも互いに作用し合う。Fxop3とAP-1はどちらもIL-2プロモーターのARRE2部位に結合することができ、しかもそれらの結合は互いに排斥し合う。Fxop3とAP-1はNFAT及びDNAとの結合を競う。だが、Nターミナルの欠失したFOXP3、すなわちZinc Finger、Leucine-Zipper、Forhead domainしかない欠失変異体は、IL-2を抑制し、TLA-4及びCD25をアップレギュレートする能力を喪失している。FOXP3のNターミナルは一部の共活性化因子と共抑制因子をI12及びCtla‐4遺伝子のプロモーター上へと招き寄せ、両者の転写発現を調節しているのではないかと推測される。NFATはTreg及びTeff細胞中においてそれぞれ、異なる転写因子FOXP3またはAP-1を特異的に招き寄せることにより、2種類の全く異なる生理機能、すなわちT細胞耐性とT細胞活性化をコントロールしている可能性がある(8)。
Eosはジンクフィンガー構造を含有する転写因子で、Ikarosファミリーの一つのメンバーに属している。Panらは、転写共抑制タンパク質CtBP1(C‐terminal binding protein-1)はEosと直接結合できるが、FOXP3とは直接結合することができないということを発見した。EosはCtBP1を招き寄せてFOXP3複合体へと結合させ、それによりFOXP3複合体に転写抑制活性を獲得させる(9)。EosとCtBP1はTreg細胞中においてIL-2プロモーターのメチル化修飾をコントロールすることにより、IL-2の発現を抑制することができる。EosをノックアウトしたTreg細胞は免疫制御機能を喪失している。EosはTreg細胞内でのFOXP3の抑制作用に必須のものと推測される。
興味深いのは、近年、補助的T細胞亜型の分化にとって極めて重要な多くの転写因子も、FOXP3+Treg細胞中において発現し、しかもこれら転写因子の調節性T細胞内における発現が、調節性T細胞がこれらの転写因子について決定した補助的T細胞(T helper、Th)の亜綱の免疫抑制を特異的に決定付けている、ということが発見されたことである。例えば、Th1細胞亜型決定性転写因子T-betの調節性T細胞内における失活によって、TregはTh1に対する免疫抑制を失うことがあるが、ただし、他の免疫補助細胞に対するその免疫調節に影響を及ぼすことはない。同じように、TRF4不全型TregはTh2の機能を抑制することができず、STAT3不全型TregはTh7の機能を抑制することができない(10)。
FOXP3はその他の転写因子と相互に作用し合うことができるだけでなく、さらにロイシンジッパー構造領域を通じてホモポリマーを形成し、またはFOXP1といったFOXPサブファミリーのその他のメンバーとヘテロポリマーを形成することができる。FOXP3ポリマーの状態を維持することは、それがDNAと結合し、さらに転写抑制機能を行使することと関係がある(11)。
FOXP3タンパク質の翻訳後修飾はFOXP3の生理機能にも影響を与える。我々は以前の研究により、ヒト由来Treg細胞中のFOXP3は一つのリジンアセチル化タンパク質であり、しかもFOXP3のプロリン豊富なNターミナルはヒストンアセチル化酵素TIP60(Tat interaction protein、60kDa)を直接招き寄せ、それによりFOXP3の転写抑制活性を媒介することができること、shRNAを用いて内在性TIP60の発現をダウンレギュレートすることは、FOXP3の媒介する転写抑制を弱める可能性があることを発見した。同時に我々はさらに、FOXP3はⅡ型ヒストン脱アセチル化酵素HDAC7及びHDAC9と作用し合って、FOXP3-TIP60-HDAC転写複合物を形成し、翻訳後修飾によりFOXP3の機能を動的にコントロールすることができるということを発見した(12)。Van Loosdregtらは、FOXP3のアセチル化はさらにもう一つのヒストンアセチル化酵素p300及びヒストン脱アセチル化酵素SIRT1のコントロールを受けていることを発見した。P300はFOXP3と互いに作用し合い、しかもFOXP3をアセチル化させることができる。アセチル化はFOXP3をより安定させ、分解されにくくすることができ、それによってFOXP3タンパク質のレベルが増加することで、Treg細胞の正常な機能が増強される(13)。
3.FOXP3+調節性T細胞と重大疾患の予防治療
前世紀70年代にGershonらが調節性T細胞の概念を初めて明らかにして以後、人々はT細胞が生体の外在性抗原に対する免疫反応を増強できるだけでなく、生体の免疫反応の強度も調節できるということを認識した(14)。その後、このような生体の免疫強度を調節することのできるT細胞こそは、転写因子FOXP3を特異的に発現することができるT細胞亜群(FOXP3+Treg)であるということがわかった(15-17)。FOXP3+Tregはまず、それ自体が自己反応性T細胞の活性を抑制する機能を具えていることによって発見されたのであるが(18)、その後の研究が深まるにつれて、我々は徐々にFOXP3+Tregは自己反応性T細胞の活性を抑制できるだけでなく、生体の外在性抗原に対する免疫反応強度(19)、腫瘍の免疫エスケープ(20)、ワクチン効率(21)等を調節する面でも重要な役割を果たしているということを認識するようになった。
3.1 FOXP3+Tregと自己免疫疾患
調節性T細胞FOXP3+Tregは、末梢において自己反応性T細胞の活性を抑制することによって自己免疫耐性を維持する。調節性T細胞と自己反応性T細胞のバランスは、個体の免疫恒常性にとって極めて重要であり、ひとたびこのバランス関係が打ち破られると、X連鎖自己免疫アレルギー調節異常症候群(XLAAD/IPEX)、アレルギー、炎症性腸疾患といったような深刻な自己免疫疾患を引き起こすことになる。IPEX症候群の患者には出生後数年のうちに、それぞれ90%にも達する高い割合でⅠ型糖尿病(TID)合併症が出現し、約70%の割合で甲状腺炎をともなっている。また、実験により、自己抗原は抗原提示細胞を通じて提示され、特にDC細胞の持続的提示は自己反応性T細胞を活性化することができ、それによって臓器特異的自己免疫疾患を引き起こすということも明らかになった(22)。抗原が誘導する自己免疫疾患に比して、FOXP3+Tregの除去はさまざまな臓器に慢性自己免疫疾患を引き起こすことができる。一方、抗原特異的FOXP3+Tregの機能を増強する方法により、自己免疫疾患、アレルギー、炎症性疾患の治療や移植耐性の確立のために、新たな構想と手段を提供することが可能である。FOXP3+Tregの生物学的機能についての研究が深まるにつれ、遠くない将来、さまざまな免疫系疾患に的をしぼった、高度に特異かつ安全確実な免疫療法が開発される見込みが非常に大きい。
3.2 FOXP3+Tregと慢性伝染性疾患
早い時期から研究者は、FOXP3+Treg細胞は免疫エフェクター細胞の媒介する病理反応の強度をコントロールすることができること。しかしながら、生体が外在性病原体の感染を受ける過程で、FOXP3+Tregの慢性感染の病理学的進行過程に対するコントロールは、感染が速やかに除去できない、感染性疾患が長期間治療しても治らない、という事態を招くこともあり、したがって、FOXP3+Tregは感染過程において通常二重の作用を果たし、抗感染症免疫反応を抑制すると同時に、免疫反応が生体にもたらす炎症性損傷を軽減することもできるのだと指摘していた。
FOXP3+Treg細胞が過度な免疫反応に対して行う調節のもう一つの結末は、病原体を宿主の体内により生存しやすくし、ひいては宿主に長期にわたりその病原菌を保有させて慢性疾患へと至らせるというものである。このような慢性疾患の成立もまた、宿主免疫系と感染病原体の間の相互妥協の結果であると考えることができる。宿主と病原体の間のバランスはFOXP3+Tregの調節機能に依存しており、しかもこのような依存は両者いずれにとっても有利である。
だが、いくつかの病原体感染という条件の下で、FOXP3+Treg細胞自身はこのようなバランス状態を打ち壊して、宿主の生体損傷を招くこともできるようであり、宿主‐病原体の免疫バランスに対するFOXP3+Treg細胞の害もまた徐々に重視されてきている。FOXP3+Treg細胞は、宿主の病原体感染に対する免疫反応の多くに、極端な場合にはそのすべてに参加している。FOXP3+Treg細胞は一方では過度な免疫反応がもたらす組織損傷を抑制することができ、これは多数の慢性感染においては宿主にとって有利であるが、他方で、FOXP3+Treg細胞はまた宿主が病原体感染に対して発揮する有効な防御免疫反応を抑制することもあり、宿主が病原体を速やかに除去するのには不利である。生体の抗感染症免疫におけるFOXP3+Treg細胞のコントロールの詳細についての研究は一つの大きなチャレンジだが、しかしそれはさまざまな急性・慢性感染性疾患に対する我々の治療に役立つものであり、それゆえ非常に重要な意義を有している。
3.3 FOXP3+Tregと癌免疫治療
近年の研究が実証しているように、Treg細胞が媒介する免疫抑制は腫瘍免疫エスケープの一つの鍵となるメカニズムであり、腫瘍免疫治療の主な障害でもある(23-24)。腫瘍細胞はTreg細胞の遊走、分化、増幅を自発的に誘導し、それにより腫瘍関連抗原(TAA)特異的免疫反応を抑制することができる(20)。
免疫エフェクター細胞、特にIFN-ɣ を分泌できるCD4+Th1細胞、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)とNK細胞は、腫瘍に対する免疫監視作用を果たすことができる。研究から明らかなように、IL-12の誘導するCD4+T細胞とCD8+T細胞が分泌するIFN-ɣは、発癌物質の発癌性を抑制する上で非常に重要である(25)。腫瘍細胞はTGFβ、IL10、インドールアミン2,3、ジオキシゲナーゼ(IDO)、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)を含む大量の免疫抑制分子、ならびにiTreg細胞の分化を誘導することができるプロスタグランジンPGE-2を分泌することができる(26)。さまざまな腫瘍患者の末梢血中においては、いずれも測定されるTreg細胞の数量が健常者のレベルより高い(20)。Treg細胞の抑制活性を取り除き、または低めることは、腫瘍の除去に役立つ。また、Treg細胞の遊走、分化、機能及びシグナル伝導を変えることは、腫瘍の免疫抑制を打破するうえでも役に立つ。Treg細胞は非常に吸引力のある独立したターゲットとすることができるものの、伝統的な腫瘍治療と免疫治療を結びつける方法によってTreg細胞の活性を抑制すれば、さらに有効かつ安定確実な臨床治療効果を得られるかもしれない(24)。
3.4 FOXP3+Tregと新型ワクチンの研究開発
上で、FOXP3+Tregは病原体の生体免疫反応に対する耐性を強めることができること、特に慢性感染の過程においては、Tregは病原体に対する生体の除去を大きく抑制していることに言及した。そのため、HIV、HCV、結核菌など一類病原体の慢性感染にとって、抗原特異的Treg細胞の免疫抑制作用は治療的ワクチン接種の効用の主要な障害である。
ワクチン接種は生体の特異的原体に対する適応的免疫反応を活性化し、一方、Tregの誘導と賦活はこのような適応的免疫反応の活性化を抑制することがある。そのため、ワクチン接種にあたり、特に宿主が免疫抑制状態にあるか、または弱い免疫原性ワクチン接種の場合には、いっそうTreg細胞の誘導を弱める必要がある。感染及び腫瘍における研究が実証しているように、Trg細胞の活性を抑制した後に、エフェクターT細胞の活性を強めることは、ワクチン効率を高める非常に有効な方法である。ワクチン効率に対するTreg細胞の影響を抑えるために、我々は2つの異なる方向においてTreg細胞に対する機能抑制を実現することができる。一方で、直接Treg細胞自体をターゲットとして、新しい薬物を開発することによりTregの発育、分化、機能を抑制することができる。我々の以前の研究結果から明らかなのは、調節性T細胞の活性は転写因子FOXP3タンパク質のレベルによって決まるだけでなく、さらにFOXP3の翻訳後修飾と転写抑制複合体の組立の影響をも受けるということである(4、12)。したがって、ワクチンの免疫過程においては、特異的薬物を開発してFOXP3転写複合体の活性を抑制することにより、Treg細胞の生理機能を負にコントロールし、ひいてはワクチン効率の増強という目的を達成することができる。もう一方で、我々は特異的薬物を開発してIL10、TGFβ等免疫抑制細胞因子のシグナル伝達経路を遮断し、ひいてはTreg細胞の誘導を抑制することもできる。我々のTreg細胞コントロールメカニズム及び体内の各種免疫細胞の相互作用メカニズムについての研究が深化するのにともない、我々は今後さらに多くの、効果の高い、特異性の優れた免疫負調節抑制剤を開発することにより、感染性疾患に的をしぼったワクチンの免疫効率を増強することができるに違いない。
最後に、DNAワクチンとタンパク抗原を結合する方法によって、体内iTregを直接導き出し、自己免疫疾患の治療に用いる(27-28)のも一つの実行可能な方法である。したがって、ワクチン研究開発過程では、さまざまな疾患類型にとり、Treg機能を正に調節する増強剤であれ、Treg活性を負に調節する抑制剤であれ、どちらもその特異な臨床的利用価値を有している。
4.総括と展望
FOXP3+Tregの研究分野は現在進展が非常に速く、多くの重要な科学的問題が依然として回答を待っている。例えば、細胞レベルにおいて調節性T細胞はいかにしてその他の免疫細胞の活性を調節するのか、分子レベルにおいてFOXP3はどのようなメカニズムを採用して調節性T細胞に免疫抑制活性を獲得させるのかといったことについて、わかっていることは今なお極めて少ない。絶え間なく蓄積される実験結果が示しているように、FOXP3遺伝子の発現するレベル及び持続状態は、天然調節性T細胞の発育成熟と機能にとって極めて重要である(29-30)。また、FOXP3が多重転写因子、ならびに酵素活性を有する転写複合体と結合することは、T細胞中の細胞因子の転写活性化を抑制する上で必須のことであり、しかもFOXP3タンパク質の翻訳後修飾、転写複合体の組立及びその修飾酵素系の活性は、T細胞レセプター及び細胞因子レセプターのシグナルの動的調節を受ける(2-3)。最後に、ヒト由来FOXP3+Tregとマウス由来FOXP3+Tregには、発育、機能、可塑性の多重的な面で非常に大きな相違があり、このことは我々が基礎免疫研究を調節性T細胞に基づく細胞治療のような臨床研究に転化することや、人類特有の重大な伝染性疾患を理解するうえで、新たな研究命題とチャレンジの場を提供している。ヒト由来Treg及び転写因子FOXP3の生化学活性、生理機能及びそれがコントロールしている分子機構を深く掘り下げて研究することは、人体内調節性T細胞の免疫活性の治療的コントロールならびに調節性T細胞に基づく免疫治療にとり、いずれも極めて重要である。
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