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視覚誘発電位に基づくブレイン・マシン・インタフェース

2010年 8月10日

高小榕

高小榕:清華大学医学院教授

1986年に浙江大学において生物医学工学の学士学位を取得。
1989年に北京協和医科大学において生物医学工学の修士学位を取得。
1992年に清華大学において生物医学工学の博士学位を取得。
主な研究:生物医学信号の処理、医学計器、特にブレイン・マシン・インタフェース。


賓光宇

賓光宇:清華大学神経工学研究所博士研究員

2002年に西安交通大学において電気工学の学士学位を取得。
2006年に同大学において生物医学工学の修士学位を取得。
2010年に清華大学生物医学工学部において博士学位を取得。
主な研究:生物医学信号の分析およびブレイン・マシン・インタフェース。

1. 紹介

 通常の場合、人と外部設備の相互通信は、末梢神経と筋肉を経由して行われる。ブレイン・マシン・インタフェース(Brain-Computer Interface、BCI)は、脳と外部設備が情報交換を行うための新しい通信システムである。この種の通信方式は、従来のように末梢神経や筋肉を経由する必要がない。大脳の信号を分析し、利用者の意思を解析することにより、脳と外部設備を直接的に結ぶことができる[1,2,3]。

図1

図1 BCIシステムのブロックチャート

 図1で示すように代表的なBCIシステムには、情報収集、信号処理、設備制御という三つの構成部分がある。システムの入力装置である情報収集部分は、大脳活動の信号を取得する。信号処理部分において収集した信号の中から特定の活動意思を示す特徴を取り分け、外部設備に対する制御命令に変換する。設備制御部分の役割は、制御命令に基づき外部設備を操作することである。誘発型BCIの場合は、加えて脳波信号を誘発するための刺激装置が必要である。

 近年、脳波に基づくブレイン・マシン・インタフェースが、神経工学、リハビリテーション、脳科学といった分野において注目を集めている。事象関連電位、視覚誘発電位、事象関連同期、事象関連脱同期を含むさまざまな大脳信号がブレイン・マシン・インタフェースの設計に応用されている。BCIモデルの中でも、効率や安定性の面で現在特に注目されているのは、視覚誘発に基づくブレイン・マシン・インタフェース(VEP BCI)である。

図2

図2 VEP BCIのブロックチャート

 図2は代表的なVEP BCIシステムのブロックチャートである。複数のターゲットが視空間中のさまざまな位置に配置されている。これらのターゲット刺激属性は、さまざまな方法で変調され、それらの発生するVEPに可分性が与えられる。利用者が視線や視空間的注意を移動させることにより特定のターゲットを選択すると、注視したターゲットにおいて強いVEPが誘発される。脳波増幅器によって視覚野でEEG信号を収集し分析することによって、注視したターゲットを識別する。VEP BCIにおける主要な問題の一つは、どのように各ターゲットを変調し、各ターゲットが誘発するVEPに可分性を持たせるかである。

 本論文は、刺激変調の方法に着目し、VEP BCIにおける三つの刺激変調方式である時間変調、周波数変調、擬似乱数コード位相変調を解説する。また周波数変調および擬似乱数コード位相変調を応用したVEP BCIを比較する。

2. 方法

2.1刺激と符号化方式

 VEP BCIにおける視覚刺激は、一般的に一定のリフレッシュレートを持つ2種類の状態の刺激装置を採用する。この種の刺激モデルについては、バイナリ文字列によって刺激属性を表すことができる。例えばリフレッシュレートが60Hzで、バイナリ文字列が「10001000….」の場合、15Hzの点滅を表す。この点からすると、視覚誘発電位に基づくブレイン・マシン・インタフェースにおける刺激の設計に関する問題は、単純に言ってバイナリ文字列の設計に関する問題のことである。コード化超音波や無線通信などに代表されるように、工学分野においてバイナリ直交文字列は幅広く応用されている。特に無線通信において直交符号の設計は、中心的な技術となっている。我々は無線通信の多元接続方式を参考として、VEP BCIの刺激文字列を設計することができる。

図3

図3 VEP BCIにおける3種類の刺激文字列

(a) 周波数コードVEP BCI (b)時間コードVEP BCI (c) 擬似乱数コードVEP BCI

 実際に、既存のVEP BCIシステムは、刺激文字列の変調方式によって、大きく分けて次の三つに分類できる。時間変調を応用した視覚誘発電位に基づくBCIシステム(time modulation VEP BCI、t-VEP BCI)、周波数変調を応用した視覚誘発電位に基づくBCIシステム(frequency modulation VEP BCI、f-VEP BCI)、擬似乱数コード位相変調を応用した視覚誘発電位に基づくBCIシステム(pseudorandom code modulation VEP BCI、c-VEP BCI)[4]の3種類である。これら三つのVEP BCIシステムは、それぞれ多元接続方式におけるTDMA、FDMA、CDMAに対応する。

 f-VEP BCIにおいて、異なるターゲットの点滅周波数は一定ではなく、各文字列に独自の周波数帯が存在する。図3(a)で示すf-VEP BCIの代表的な刺激文字列を見ると、各ターゲットの点滅周波数が異なっているのが分かる。f-VEP BCIの刺激周波数は、通常6Hzを上回っており、それによって生成されるVEP類図は、ほぼ正弦曲線である。この種の誘発電位は安定した状態にあるため、定常的視覚誘発電位と呼ばれる。そのためにf-VEP BCIは、一般的に定常的視覚誘発電位に基づくブレイン・マシン・インタフェース(Steady state VEP BCI、SSVEP BCI) [5-8]とも称される。

 t-VEP BCIにおいて、各ターゲットの点滅時間は異なる。各ターゲットが独自の時間枠を有している。図3(b)で示す代表的なt-VEP BCIの刺激文字列から分かるように、任意の時刻に点滅しているターゲットは一つだけである[9-11]。

 c-VEP BCIは、長さが同じである一組のバイナリ擬似乱数文字列によって視覚刺激を変調する[5,12,13]。図3(c)は、代表的なc-VEP BCIの刺激文字列を示している。同図ではバイナリ文字列Mとそのタイムシフト文字列によって視覚刺激を変調している。文字列Mは特殊なバイナリ文字列であり、文字列Mとそのタイムシフト文字列は、ほぼ直交している。それゆえに文字列Mとそのタイムシフト文字列を、各ターゲットの変調に利用できるのである。図4は、代表的なc-VEP BCIの刺激設計を示している。このc-VEP BCIには16のターゲットがあるが、各ターゲットのスクリーン上の配置は、図4(a)で示すとおりである。中央にある4×4の灰色部分が16のターゲットであり、数字は各ターゲットの番号を示している。エッジ効果の影響を抑制するため、これらターゲットの周囲に図で示す方法で1回りの刺激を追加する。各ターゲットに採用する符号化文字列は、一様に63桁のバイナリ文字列Mとする。ただし異なるターゲットの文字列Mの間には、一定のタイムラグが存在する。各ターゲットの刺激時系列は、図4(b)に示すとおりである。刺激時系列の図において、ハイレベルは白枠、ローレベルは黒枠で表す。

図4

図4 c-VEP BCIシステムにおける各ターゲットの分布

(b)刺激時系列図。隣接するターゲットとの間に、4枠のシフトがある。図においてハイレベルは白、ローレベルは黒で表わされる。

2.2識別方法

 3種類のVEP BCIシステムは、識別方法もそれぞれ異なる。t-VEPBCIにおける識別方法には、一般的にタイムドメインを応用した方法が採用される。t-VEP BCIにおけるターゲット識別方法は、2種類に分けることができる。例えば平均化したVEP波形の面積によって識別する方法がある。SSVEP BCIにおける識別は、一般的にFFTを利用して周波数領域で行われる。c-VEP BCIでは、テンプレートマッチングを応用しターゲットを識別する[4]。同システムの訓練段階でテンプレートを取得する。訓練段階において被験者が特定のターゲットを繰り返し選択することによって、同ターゲットにおける誘発電位テンプレートを取得できる。次いでタイムシフトの関係に基づき、同ターゲットから他のターゲットに対応するテンプレートを作成する。まとまった脳波データに対して、データと各テンプレートを関連付ける数値を計算し、関連性が最も強いテンプレートに対応するターゲットを選択する。

3. 性能比較

 我々は12人の被験者に対して、SSVEP BCIとc-VEP BCIの比較実験を行った。実験環境や使用設備は、まったく同じである。図5は、ある被験者におけるc-VEP BCIの誘発電位テンプレート、SSVEPの波形、周波数スペクトル、脳地図を示している。図から分かるように、SSVEPの波形は規則的な正弦曲線である。これに対しc-VEPの波形は、「無秩序」なランダム状態である。SSVEPの周波数スペクトルには狭帯域化特性が見られ、刺激周波数とその調和周波数でのみピーク値が現れる。これに対しc-VEPの周波数スペクトルには広域化特性が見られ、2-30Hzの範囲内で多数のピーク値が現れる。両者の脳地図は、いずれも一次視覚野(Oz付近)で大きな数値が現れる。

 性能の面から見ると、SSVEP BCIにおけるオフライン分析の正確性は0.88±0.059、c-VEP BCIにおけるオフライン分析の正確性は0.95±0.056であり、c-VEP BCIがSSVEP BCIを大きく上回っている。SSVEP BCIとc-VEP BCIにおけるオンライン分析の正確性は、それぞれ0.85±0.071と0.91±0.075である。また両者の情報伝送効率は、それぞれ39.7±7.8bit/minと92.75±14.1bit/minであり、c-VEP BCIがSSVEP BCIを大きく上回っている。

図5

図5 SSVEPとc-VEP BCIにおける誘発電位特性の比較

上段がc-VEP BCI、下段がSSVEP BCIの特性を示している。 (a) 波形(b) 周波数スペクトル(c) 脳地図。

4. 結論

 刺激文字列の変調方式の選択は、VEP BCIにおける主要な問題である。本論文ではVEP BCIにおける3種類の変調方式について解説した。このうち擬似乱数コード位相変調を応用したVEP BCIが、性能の面で最も優れていた。通信分野などにおける知識を参考として、最適な刺激文字列(概完全文字列など)を模索し、視覚刺激を変調することによって、VEP BCIの性能を一層改善することができるであろう。


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