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「放出制御製剤におけるキュービック液晶」についての研究の進展

2010年 9月 6日

呉伝斌

呉伝斌:中山大学薬学院薬剤学副院長 教授、
国家薬局方委員会委員、広東省薬物製剤専業委員会主任委員

1963年8月生まれ。1999年、アメリカ・テキサス大学(University of Texas at Austin)卒業、博士学位取得。かつてアメリカAbrika ファーマ社、Johnson & Johnson(ジョンソン)社、Novartis(ノバルティス)グループ、Watsonファーマ社に勤務。
主な研究分野は薬物新型製剤及び薬物放出システム。


韓珂

韓珂(Han ke):薬剤師

1982年10月生まれ。2010年、中山大学薬剤学専攻理学博士。主に放出制御製剤ターゲット製剤の開発及び病院薬学臨床Ⅰ期業務に従事。

要旨:

 キュービック液晶とは一般に、両親媒性分子が水中で自己形成する、独特の構造を持った安定した体系を指しており、2本の互いに通じていない水チャネルと巨大な膜表面積を有し、さまざまな極性の薬物を送達することができ、かつ優れた生体接着性、生体適合性、安定性を具え、薬物キャリアの分野においてかなり大きな優位性を示している。本論文は、近年の我が国における、放出制御型薬物キャリアとしてのキュービック液晶の分野に関する研究の進展について概説と総括を行い、キュービック液晶の放出制御製剤における応用の将来性を展望している。

1. 前書き

 医療薬学の発展と人類の健康モデルの変化にともない、人々は薬物の「安全・有効」に関心を持つと同時に、薬物の「有効・安全」という特色にふさわしい新しい剤形に関心を寄せ、それにより薬物の有害副作用の低減、生体利用率の向上、服用回数の削減といった目的を達成してきた。科学技術の絶え間ない発展にともない、前世紀50年代に登場した放出制御製剤はまさに上記のニーズを満たすことが可能となっている。

 放出制御製剤の研究は外国で始まったが、その開発周期が短く、経済リスクが小さく、技術内容が高く、しかも利益がかなり大きいことから、治療効果と産業効果のウィンウィンを実現することができ、製剤開発における活発な分野となっている。近年、我が国の放出制御製剤の研究開発と生産も長足の進展を遂げており、様々なタイプの放出制御製剤製品を打ち出して臨床に応用することが、国内の医薬製品発展の主流方向となり、必然的趨勢となっている。

 現在、各種の機能性薬物キャリアの出現は、新しい放出制御製剤を開発するための条件を提供している。薬物キャリアは必要に応じて正確に放出を遅らせたり、抑えたりすることができるため、治療効果が十分に上がるという前提の下での薬物投与量の削減によって毒性反応を軽減する、という目的を実現し、多くの薬学研究者の関心を集めてきた。薬物キャリア材料の放出制御製剤分野における応用と研究は、すでに飛躍的発展を遂げているが、その供給源に限りがある、合成が難しい、化学的安定性が劣る、生体適合性が芳しくない等の欠陥があるため、その応用は制限されている。したがって、新しい薬物キャリアの絶え間ない開発がどうしても必要である。

 20世紀70年代、液晶は一つの新興の材料として、研究者の大いなる興味を呼び起こすとともに、電子分野に広く応用された。実際には、液晶の用途はそれよりもはるかに豊富・多様で、臨床における心血管疾患診断、胎盤定位、火傷の度数識別などの方面にも用いることができる[1]。最近では、一部の有機物液晶についての研究及び、いくつかの特殊な液晶構造に対する認識にともない、研究者はますます液晶を活用して生命システムに関連した研究と開発を行うようになっている。液晶は生物学上、細胞膜に似た構造を持ち、また良好な調合・安定特性も具えているため、薬学関係者から広く重視されている[2-5]。なかでも、キュービック液晶はターゲット性、生体親和性、生物分解性などの特徴を有し、すでに薬学、材料科学、微分幾何学、生物学、臨床医学など、多くの学問分野に放射状に広がり、複数の学問分野を包括した思考の「衝突」を作り出し、薬学などの高度科学技術分野、さらには社会全体に対し、極めて大きな推進作用を果たしてきた[6,7]。また、薬物放出制御という研究分野に対するキュービック液晶の絶え間ない浸透と影響は、一つの深遠な技術革命を誘発しており、その理論と技術の発展は、放出制御製剤の改革と革新のために将来の大きな可能性を切り開こうとしている。

 外国のキュービック液晶の研究にはすでに十数年の蓄積があるのに対し、国内における薬物キャリアへの応用についての研究はスタートしたばかりだが、しかし国内の関連研究はすでに素晴らしい進展と喜ばしい成果を上げている。そこで、本論文では、我が国の放出制御製剤におけるキュービック液晶の応用について概説することにする。

2. キュービック液晶

2.1 液晶の概要

図1

図1 液晶(A:层状液晶;B:反相六角液晶;C:立方液晶)

 液晶はサーモトロピック(thermotropic)液晶とリオトロピック(lyotropic)液晶に分けられ、前者は単一成分の純化合物または均一混合物であり、温度変化によって液晶の形成と相転移を起こし、分子形状は多くが板状と棒状である。後者は多くが界面活性剤と溶剤から成り、液晶相は溶剤濃度または組成条件によって転移を起こす[8]。このうち、リオトロピック液晶系は主に2種類あり、1種類は層状複水酸化物、ギブサイトといった無機リオトロピック液晶である。もう1種類は両親媒性分子と溶剤によって形成され、両親媒性分子は薄い水溶液中にしばしば単体及び、界面に吸着された形で存在するが、溶液濃度がその臨界ミセル濃度(CMC)以上に達すると、分子はファンデルワールス力と静電力によって互いに会合し、体系の自由エネルギーを最小化し、分子濃度の増加にともなって、ミセルは球形構造から棒状へ、さらにはヘキサゴナル構造へと転移し、濃度が引き続き増大すると、板状または層状構造となり、分子の炭化水素鎖は乱れた分布から整然とした配列へと転移し、液体から液晶への転移が完了し、また様々な光学的性質の液晶相を呈するようになる[9]。

 現在、薬学分野でいうところの液晶とは、主にリオトロピック液晶、すなわち、一定濃度の両親媒性分子が水中で自己形成した熱力学的に安定な脂質二重層がさらに再構成した、各種の形状と構造を具えた体系――図1に示すような、層状液晶、逆ヘキサゴナル液晶、キュービック液晶を指している。このうち、キュービック液晶は、両親媒性分子が疎水基を内側で、親水基を外側で球状に凝集し、球状ミセルがさらに堆積して様々な立体構造のキューブとなって出来るものであり、他の液晶相と比べると、キュービック液晶は比類のない構造的優位性を具えている。

2.2 キュービック液晶の立体構造の特徴

図2

図2 立方液晶结构

 キュービック液晶は独特の構造を具えており、立方格子を構造単位として、空間において三次元延伸し、双連続性ネットワーク構造を有し、すなわち脂質二重層が捻じれ折れて、三次元、循環排列、最小の表面積という特徴を有する緊密な構造を成しており、「蜂の巣状」に類似している。Larrsonはキュービック液晶双連続相の立体モデルについて初めて報告し、さらにその後、Scrivenが実験・研究を行ってこれを支持した[5]。Larrsonの考えによれば、キュービック液晶には、図2に示すような、(A)Pn3m(双菱形格子CD,Q224)、(B)Ia3d(ヘリカル格子CG,Q230)、(C)Im3m(体心立方格子CP,Q229)という3種類の格子構造がある。また、このネットワーク状のキュービック液晶格子の内部には2本の互いに通じていない、互いに不連続な水チャネル(aqueous channel)があり、うち1本は外部とつながり、もう1本は密閉されているが、その表面は巨大な膜表面積を構成しているため、薬物送達の多様性という特徴を具えており、一つの潜在的な薬物キャリアである。

3. キュービック液晶の薬物キャリアとしての特徴

図3

図3 凝胶型立方液晶

 このような双連続性のネットワーク構造が、優れた温度安定性、巨大な内表面積、ゲルに類似した粘度といったキュービック液晶に独特の長所を賦与しているとの発見が報告されると[10-12]、それがまた薬物活性の保護、薬物放出の制御、ターゲットを絞った薬物送達、薬物分子間に発生する凝集及び化学反応の阻止などといった、いくつかの新しい応用機能についての思考を触発した。さらに、キュービック液晶の水チャネルは、水溶性薬物を送達することができる一方で、脂溶性の薬物はキュービック液晶の脂質二重層膜内に封入しておくことができるため、キュービック液晶は一種の薬物キャリアとすることが可能である。長期にわたる探究の結果、研究者はキュービック液晶を薬物キャリアとして使用することには多くのメリットがあることを発見した。第一に、それは熱力学的に安定な体系で、調製時に外力の作用を必要とせず、常温下で長期保存ができる。第二に、体系中に大量の界面活性物質があるため、難溶性薬物の溶解度を高めることができる[4]。さらに、キュービック液晶は薬物の徐放キャリアとして、その徐放効果が薬物の極性及び分子量の大きさによる制限を受けない[5]。最後に、キュービック液晶は薬物を保護し、薬物の安定性を高め、酸化しやすい不安定な薬物が生体酵素及び免疫系の影響を受けないようにすることができる[6,7,15]。

 また、キュービック液晶は最も早期には脂肪消化の過程で発見され、その後、形質膜といくつかの生体膜においてもその存在が発見された。したがって、キュービック液晶と脂質体は似ており、いずれも生体膜に類似した構造を持っているが、しかし、伝統的な脂質体と比較すると、キュービック液晶には、高い安定性という長所がある。リン脂類脂質の酸化は脂質体の不安定さをもたらす原因の一つである。キュービック液晶内部の膨大な、循環延伸する三次元ネットワーク構造は、比較的高い薬物送達量と安定性を確実に保証することができる。キュービック液晶はナノ粒子として調製すると、無限に希釈することができ、希釈安定性が優れているが[12]、脂質体は希釈するとその漏出確率が増大する。

 以上のことからわかるように、キュービック液晶は薬物キャリアとして様々な優位性を具えており、放出制御型薬物送達システムに広く応用することが可能である。

4. キュービック液晶薬物送達剤形の設計

 キュービック液晶はマクロ的には主に三つの形態―バルクゲル状、液晶粒子分散系(cubosomeともいう)、前駆体として表れるため、研究者はキュービック液晶のそれぞれの形態の構造と性能の特色に基づいて、様々な薬物送達剤形を設計し、多様化した薬物送達方式に適合させてきた。

4.1 ゲル型キュービック液晶

 バルクゲルは一種の光学的に等方性の液晶、すなわち概念上のキュービック液晶であり、粘稠・透明で、外観は図3の通り、固体に類似しており、水と平衡に共存することができる。ただし、ゲルのキュービック液晶は含水量が高く、粘度が大きいため、薬物送達手段のスタイル多様化を制限しているが、キュービック液晶に独特の生体接着性により、経皮薬物送達への使用に適している。

4.2 キュービック液晶ナノ粒子

図4

図4 立方液晶纳米粒

 キュービック液晶ナノ粒子の調整は一般に、まず融解した液晶材料と水、または薬物を含有した水溶液を混合し、しばらく平衡に放置してゲル状キュービック液晶を形成させ、そのあと過量の水を加え、さらに超音波、高圧といった高エネルギーによる均質化処理を数回行い、図4に示すように、ナノまたはマイクロレベルの粒子に分散させる。キュービック液晶ナノ粒子系には通常、ポロキサマー407(F127)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリペプチド等といった安定剤を加える必要がある。うちF127は最もよく用いられる、一種の両親媒性ブロック共重合体で、これを加えると安定したネットワーク構造を構築するのに有利であるが、ただしその用量は考察を経て決定しなければならない。キュービック液晶ナノ粒子は注射、経皮または眼部薬物送達製剤とすることができる。

4.3 キュービック液晶前駆体

 キュービック液晶は粘稠度が高すぎ、平衡化に要する時間が比較的長く、調製と実際の応用には一定の困難が伴うが、液晶系の相転移の特徴に基づき、先に低粘度の液晶系、すなわちキュービック液晶前駆体を調製し、これを一定の条件の下でキュービック液晶に転移させることができれば、調製の利便性と応用の事業化可能性を効果的に高めることができ、キュービック液晶の使用範囲も拡大することができる。

 キュービック液晶前駆体は通常、固体または液体の形で存在し、液体との接触といった外的要因に促されて吸水・膨潤し、キュービック液晶を形成する。Engstroem[13]の発見によれば、層状液晶の含水量はキュービック液晶より低く、同時に粘度もより低く、流動性が優れており、体液と接触すると、粘度のより高い、構造のより緻密なキュービック液晶に転移することができ、一種のキュービック液晶前駆体とすることができる。

 層状液晶のほか、液体型の等方性溶液もキュービック液晶前駆体とすることができる。ChangとBodmeier[14]は三元相図を通じて液晶相の転移特性について考察することにより、低粘度のキュービック液晶前駆体を作り上げ、研究の結果、薬物と有機溶剤がキュービック液晶を低粘度の等方性溶液に転移させ得ること、この溶液は体内に入ると、体液との接触により、吸水してキュービック液晶を形成し、in-situ効果を達成するということを発見した。このうち、等方性溶液の識別と体系の組成は、相図に基づいて決定することが必要だが、この研究は、等方性溶液の薬物送達を使用して、注射に供することの可能な製剤が調製できるということを示している。

5. 我が国の放出制御型薬物送達システムにおけるキュービック液晶の応用

 キュービック液晶の調製プロセスは穏やかで、その優れた生体適合性・接着性及び自己安定的特質から、放出制御型薬物送達システムの分野において大きな潜在能力を有しており、また経口、経皮、注射等の薬物送達方式にも応用することが可能である[15-17]。

5.1 経口薬物送達システム

 経口に用いるキュービック液晶は前駆体の形に調製することにより、胃腸管に入った後、水分を吸ってキュービック液晶を形成し、薬物を放出するようにすることができる。前駆体が層状結晶の形で存在する場合、この液晶相は水分を含んでいるため、成形と貯蔵に不都合である。前駆体が等方性溶液である場合は、体内に入ると、その相転移過程がコントロールしにくくなる可能性があり、薬物放出の再現性がかなり低く、バースト放出が深刻となる。以上の理由から、経口用キュービック液晶を水分を含まない固体前駆体として調製することは、製剤の成形・貯蔵・輸送により適している。

 近年、製薬工業の発展と製薬技術の進歩にともない、徐放性ハードカプセルは伝統的充填技術の上に新たな概念を生み出したが、液体充填カプセルこそは一つの新しいタイプのカプセル製剤として、固体剤形による液体放出方式を「液体・半固体製剤の理想的容器」にしたものである[18,19]。薬物は液体充填カプセル―半固体基質(Semi Solid Matrix, SSM)充填カプセルともいう―を通過するが、薬物と適当な賦形剤が混合すると、充填物に適度な粘度、HLB値またはその他の特性が具わるため、計画した徐放特性が得られる[20]。液体充填ハードカプセルは一つの新しいタイプの剤形として、薬学界及び薬品生産分野においてますます広く関心と承認を得ており、液体充填ハードカプセル剤の処方と生産プロセスに関する研究とその発展により、充填物はすでに脂溶性液体薬物から、単一種類の液体・乳剤及び、非水溶液・懸濁剤や固体分散剤から成る混合液状物を含む、非脂溶性液体薬物へと拡大している[21]。

 筆者らのチームは上記の理念に基づき、キュービック液晶という新タイプの薬物キャリアと液体注入ハードカプセル技術を革新的に結びつけ、処方物質が体温下で溶解し、室温化で固化するという性質を利用して、貯蔵と包装のために有利な条件を提供するとともに、キュービック液晶の大きな粘度など、経口に適した製剤を作る上での障害を克服した。本研究を通じて調製したキュービック液晶前駆体カプセルは、様々な性質の薬物を包容できる、過量の水と安定的に共存できる、徐放効果を提供できるといったキュービック液晶の長所を十分に利用し、薬物の含有量、内容物添加剤の種類とその用量についての考察を通じて処方の最適化を成し遂げ、前駆体カプセルの体温下での溶解、内容物の放出媒体との接触後における速やかなキュービック液晶形成という転移を実現し、脂溶性・水溶性薬物が24時間にわたる徐放効果を上げるようにしたものである。この新タイプの徐放製剤は処方プロセスが簡単で、様々な性質の異なる薬物に適用でき、経口用キュービック液晶のために成形の手立てを提供し、工業化生産実現のために根拠と基本的条件を提供している。

5.2 経皮薬物送達システム

 いくつかの両親媒性分子と分子会合体は、経皮的浸透促進剤として薬物の経皮輸送を促すことができ、また人体の皮膚角層タンパクの中にキュービック液晶に似た双連続型結合を見つけたという報告もあることから[10]、キュービック液晶は経皮薬物送達システムに応用することができ、さらに浸透促進作用を発揮することも可能である。さらに、キュービック液晶独特のin-situ生体接着特性と、潰瘍・感受部位に対する液晶層の一時的保護作用によって、キュービック液晶は他の経皮薬物キャリアよりも優れたものとなっている。

 甘莉ら[22]はデキサメタゾンをモデル薬剤とし、高圧均質化法を採用して眼用ナノキュービック液晶を調製するとともに、その家兎房水内薬物動態について考察を行った。実験により、デキサメタゾン・ナノキュービック液晶眼用製剤のAUC0→240とCmaxは、いずれも市販の溶液剤より著しく高い(P<0.05)ことを発見したが、これはデキサメタゾン・ナノキュービック液晶眼用製剤が房水の薬物濃度を著しく高め、眼部組織における薬物の生体利用率を改善することができるということを示している。

 儲藏[23]は、生体適合性を持つレシチンを界面活性剤、無水アルコールを界面活性助剤、ミリスチン酸イソプロピルを油相として選択採用し、三元相図を利用して四元キュービック液晶の形成領域について考察を行い、そのうえで浸透速度と液晶粘度を指標として、テトラカイン・キュービック液晶の処方スクリーニングを実施。安定性実験とインビトロでの評価結果から、テトラカイン・キュービック液晶経皮製剤は性質が安定し、安全有効で、さらなる研究と開発が可能であることを明らかにした。

図5

図5 立方液晶释放辣椒碱示意图

 このほか、筆者らのチームはキュービック液晶経皮製剤の設計、研究を行い、三元相図を使って、グリセリルモノオレアート―水の二元液晶系に対する浸透促進剤ポリエチレングリコールの影響について研究し、偏光顕微鏡とX線小角散乱技術によってキュービック液晶の領域を証明した。インビトロ放出実験の結果は、この三元キュービック液晶が、図5に示すように、カプサイシンをゆっくり放出できるということを示し、またインビトロ細胞毒性実験により、グリセリルモノオレアートはインビトロ培養のラット皮膚線維芽細胞に対して明らかな毒性を持たず、キュービック液晶経皮薬物送達材料として、皮膚に対する毒性が比較的小さいということが示された。したがって、カプサイシン・グリセリルモノオレアート・キュービック液晶は術後の長時間作用型鎮痛経皮製剤に用いることができ、将来における大きな応用の可能性を有している。

5.3 注射薬物送達システム

 乳剤、脂質体、生体内分解性マイクロスフィア、ミセルは、かつて注射薬物送達システムの研究に用いられていたが、程度の差こそあれ、いずれにも安定性の問題が存在し、しかも脂質体は体内での消失が速いうえ、滅菌及び薬物封入率が低いなどの問題が存在しており、一方、マイクロスフィアは再現性が劣り、製造工程も相対的に複雑である[24]。だが、キュービック液晶という新タイプの薬物キャリアは、上記の問題がかなり解決でき、その多様な剤形選択、独特の性質、優れた組織適合性から、注射薬物送達システムに用いることが可能である。

図6

図6 立方液晶肝动脉栓塞图(A:栓塞前;B:栓塞后)

 筆者らのチームは三元相図を利用して、エチルアルコールのフィタントリオール液晶相に対する影響について考察し、水の含有量が50%を下回っているときは、大領域の等方性溶液が形成され、その粘度は非常に低く、優れた流動性を具えているということを発見した。さらに、示差走査熱量測定、顕微ラマン分光法、X線小角散乱法、レオロジーなどの検査手段により、この等方性溶液は組織液と接触すると、水分を吸って膨潤し、高粘度の生体接着性能を有するフィタントリオール・キュービック液晶に転移することができることが明らかになり、このようなin-situキュービック液晶を一種の血管塞栓材とし、肝癌に応用して治療に介入するという構想を立てた。この研究は正常な家兎の肝動脈塞栓実験を通じて、塞栓材としてのin-situフィタントリオール・キュービック液晶の技術的な事業化可能性、塞栓の有効性と安全性を探るものであった。その結果、in-situ フィタントリオール・キュービック液晶はマイクロカテーテルをスムーズに通過することができ、注入抵抗が小さく、粘着現象がなく、図6に示すように、デジタルサブトラクション血管造影装置の下で肝動脈がうまく塞栓されているのが見られ、しかもキュービック液晶の高い生体接着性により、注射部位に長期間滞留させることができ、異所性塞栓の可能性が減少した。また、病理切片の検査結果は、肝動脈腔内に塞栓材が充填されているのに対し、正常な肝組織と血管には異常がないことを示しており、in-situ フィタントリオール・キュービック液晶が血管塞栓材となり得ることが明らかになった。当チームのこの革新的な研究は、キュービック液晶実験技術の検討、キュービック液晶に独特な性能の開発利用、医薬分野におけるキュービック液晶の発展促進にとり、大きな理論的・実践的価値を有するものである。

6. 展望

 キュービック液晶は登場以来、その優れた生体適合性、接着性、自己安定的性能により、国内外の多くの薬物研究者と製薬企業の大きな関心を集め、またその様々な性質や性能についてもかなり広く、深く知られるようになった。薬物製剤の方面で、キュービック液晶は極めて大きな潜在力を発揮し、広範囲に応用され、例えばゲル基質、生体接着材料、マトリックス材料等として、様々な薬物送達システムに適しており、特に放出制御製剤分野における研究はすでに一定の深さと広さに達している[25]。だが、キュービック液晶に関する大多数の成果はなお研究開発段階にあり、一部の研究は依然として一方的、表面的である。全体的に言えば、今日存在している最大の問題は主に、いかにして産業化するかということと、応用の事業化可能性、有効性等の方面に集中している。また、製品化の可能な科学研究成果は決して多くないため、いかにしてコストを下げ、現有の技術を生産力に転化し、優れた薬効を具えた、中国の消費市場に適した放出制御製品を生産するかということをさらに研究する必要がある。とはいえ、バイオテクノロジーの発展、医薬工学と材料科学の急激な発展にともない、キュービック液晶はより広範囲に、深く掘り下げて研究・応用されていくはずであり、その将来における発展は楽観すべきものであり、非常に大きな市場潜在力を有している。

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