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マルチモダリティ対応の次世代高精度医用画像技術に関する研究

2010年10月 6日

鄭海栄

鄭海栄(Zheng Hairong):
中国科学院深セン先進技術研究院医工所副所長、
Paul C. Lauterbur生物医学成像研究センター主任

2000年、ハルピン工業大学卒業。2006年5月、コロラド大学博士号取得。2006年~2007年、カリフォルニア大学デービス校バイオメディカルスクールProject Scientist。深セン市第一回「双百計画」入選、中国科学院青年連合会委員。2010年、深セン市国家級ハイレベル人材認定。中国科学院-国家外国専家局の高精度マルチモダリティ対応医用画像イノベーションチーム(2009)および広東省第一回科学研究誘致イノベーションチームの中心メンバー(2010)。深セン生物医用画像キーテクノロジープロジェクト実験室主任、広東省バイオメディカル装備科技イノベーションプラットフォーム主任。主な研究分野は、超音波分子画像‐投薬‐治療の一体化およびマルチモダリティに対応した医用画像。国際的な学術専門誌と会議において80以上の論文を発表、18件の特許を出願、米国心臓病学会議(AHA)優秀博士研究賞等を受賞。最近3年間は、プロジェクトの責任者として、国家973計画前期事業と重大事業における個別の課題、国家自然科学基金の計器重点事業と国際協力重大事業、中国科学院知識イノベーションプロジェクト等、国、広東省、深セン市および企業における10事業以上を担当。現在、IEEE生物医学工程学会(EMBS)技術標準委員会、健康信息技術委員会委員、IEEE-EMBS会報Associate Editor、Ultrasound in Medicine and Biology国際顧問編集委員会委員、IEEE Shenzhen Chapter主席。また、APL、UMB、IEEE-UFFC等、10の国際的な学術専門誌の査読者。

 高精度医用画像技術の発展は、重大疾患の早期診断と治療においては、特に重要である。従来の臨床画像診断技術(超音波、CT、MRI等)は、主に器官とマクロ組織の観察に基づくものであり、分解能と精度に限りがあるため、疾患(腫瘍等)を診断したときには、病巣が既にかなり長期にわたって成長しており、このために疾患に対する後続治療の難度が高まり、医療費の更なる上昇が生じている。早期に病変を発見することができれば、治癒率が高まるばかりか、医療費を抑えることもできる。

 情報化時代の到来に伴って、情報科学の成長に大きく後押しされ、身体の健康状態に関する情報はマクロのレベルから分子と細胞のレベルへと発展し、分子レベルやミクロレベルでの細胞活動の研究が行われ、重大疾患に関する正確な早期診断と治療の実現を目指して努力が続けられている。例えば、高分解能による分子イメージングは、非侵襲性、即時性、特異性と画像の精密性(分子レベル)等の特徴があり、非侵襲的な画像を介して、生体内の生理学的・病理学的プロセスに関わる分子に対して定性的観察や定量的観察を行って、生理学的・病理学的プロセスのメカニズムを詳細に解明するものであり、疾患の発生に対する診断を早期に下すことができる。

 中国科学院深セン先進技術研究院において、筆者を中心としたPaul C. Lauterbur生物医学成像研究センターとその研究員は、次世代の「画像‐投薬‐治療の一体化」を目指した医療用超音波、高精度マイクロCT、多機能MRI技術等を含めて、マルチモダリティ対応の高精度医用画像技術に関する研究に取り組み、バイオメディカル画像技術、システムおよび設備の研究開発、医療器機の研究開発とバイオメディカルへの応用推進に努めている。

 臨床医療用超音波は、非電離放射線であるという特徴、軟組織に対する識別が比較的容易であるという優位性、機器操作の簡易性によって、将来性の高い代替不可能な高度診断技術となっており、現在、臨床における様々な疾患を診断する上で最初に選択される方法となっている。1990年以降、コンピュータ、IT、電子技術、圧電材料等、ハイテクの飛躍的な発展および臨床診断と治療のニーズに伴って、超音波画像の品質と分解能は益々向上し、超音波診断の範囲と情報量も拡大している。また、新型超音波造影剤の使用により、超音波技術の発展は新たな段階へと進んでいる。「超音波画像‐投薬‐治療の一体化」は、超音波技術が臨床医学の中でも最先端の将来性の高い診断方法として、疾患を早期に発見する鋭敏な「プローブ」および標的薬の有効な「薬物キャリア」として超音波造影剤を使用するものであり、科学的な構想の段階から動物実験の段階へと着実に進んでおり、最終的には臨床で応用される見通しである。今後、この技術が成功裏に臨床応用されれば、全世界の癌や心臓と脳の血管疾患を抱える患者への極めて大きな福音になるであろう。Paul C. Lauterbur生物医学成像研究センターにおいて、筆者のチームは、「超音波画像、投薬、治療の一体化」という学問的理論に従うと共に、この理論に基づき、超音波弾性イメージング技術、多元的超音波カラーフローイメージ技術、超音波標的分子画像およびドラッグデリバリー技術等、超音波の新技術に関する様々な研究に取り組んでいる。

 超音波弾性画像は、組織硬度の差異に対する識別能力が高いという長所があり、周囲の組織とは異なる非正常組織として成長した病理変化を客観的に数値化して比較し、生物組織(乳房、肝臓、腎臓、筋肉、眼、膵臓等)の弾性に基づいて病変の診断情報を提供することができる。肝硬変を例とした場合、中国はB型肝炎ウィルスの流行国であり、これに伴う肝硬変と肝癌患者は、毎年百万人以上に達している。このため、筆者のチームは、肝線維化の早期検査に使用する瞬時弾性イメージングシステムを開発しているが、肝硬変に対する非侵襲的検査のマーケットでは、これは概ね50億元から70億元の市場価値があると見積もられている。

図1

図1肝硬変超音波非侵襲的検査装置

(a)モデル装置図、(b)(c)プローブは発振器と超音波変換器によってカップリングされ、同時に超音波と低周波振動によるせん断波を発生させる、(d)健康な志願者の弾性係数試験の結果

 多元的な超音波カラーフローイメージ技術は、エコー粒子画像速度計測技術(Ultrasonic Particle Image Velocimetry, EchoPIV)とも呼ばれ、超音波造影剤と高フレームレートを利用してフローフィールドの超音波画像を採集すると共に、超音波画像に対してリアルタイムで後処理を行ってフローフィールドの二次元や三次元の血流の動力学的情報(血流速度、せん断率、せん断応力等)を取得する技術である。都市化が加速し、人口の高齢化が急激に進むにつれて、心血管疾患は、世界的にも社会公共衛生上の大きな問題となることが予想され、予防は日増しに難しくなっているが、人体の血流の動力学的情報を正確に測定することは、心臓や脳の血管疾患の早期発見に寄与するものであり、早期治療が実現し、治療効果が向上した上、治療コストは大幅に削減される。

図2

図2 エコー粒子画像速度計測EPIVシステムの原理図

EchoPIVシステムは、主に超音波システム、フローフィールド、造影剤微小気泡、画像処理アルゴリズムにより構成される

 超音波分子画像技術は、ここ十数年に提唱された新しい医用超音波画像方法であり、主に標的型微小気泡超音波造影剤をイメージングの「プローブ」とし、体内の組織器官における顕微鏡的病変に対して分子レベルの測定とイメージングを行うものである。超音波標的分子画像には、スピーディ、無毒、優れた感度、信頼性の高い測定レベル、普及し易い装置および安価な費用等の特長があり、患者群の広範囲にわたる早期スクリーニングに活用され、癌および心臓や脳の血管等の重大疾患に対する早期検査と治療の分野において、幅広く応用される可能性を有している。現在、国内外で利用されている標的型超音波微小気泡を造影剤とした分子画像は、腫瘍、炎症、血栓性病変の標的イメージング、腫瘍新生血管の検査、細網内皮系組織およびリンパ系撮影法の研究に採用され始めている。

図3

図3 超音波分子画像の模式図

 筆者のチームは、高感度の検出実現に影響を与える微小気泡のサイズの均一性、微小気泡の特異な非線形信号、並びに標的型微小気泡の吸着効率という三つのポイントとなるファクターに沿って、研究方法の刷新に努め、画像に最高の超音波プローブ信号を提供している。微小気泡の製造に関しては、マイクロ流体チップのフローフォーカシングを活用し、均一な超音波造影剤を製造することによって、直径約6μmの均一サイズの微小気泡を成功裏に製造し、体外細胞での標的吸着実験に使用している。

図4

図4(a)マイクロ流体チップにより製造された微小気泡の模式図
(b)マイクロ流体チップにより製造された微小気泡の実物図
(c)均一サイズの微小気泡の電子顕微鏡写真
(d)乳腺の癌細胞に吸着した標的型微小気泡
(e)標的型微小気泡が吸着した血管ファントム

 コンピュータ断層撮影(CT)の分野において、筆者の研究チームは、一年以上にわたる努力の末、高解像度のマイクロCT(Micro-CT)装置の研究開発に成功すると共に、この新しい先進のマイクロ画像装置を昆虫と小動物の体内における詳細な構造形態の表示用として使用し、素早く且つ非侵襲的に生物の進化、行動、年齢と成長、繁殖開始年齢または疾患の発生や拡大の進度等の情報を採取する効果的なツールとしてマイクロCTを活用している。このほか、マイクロCTに関するハードウェアとソフトウェアの性能の模索と改良を通して、関連する知的財産権を取得し、マイクロCTの細部から全体までの自主開発を一歩一歩実現し、中国国内における高精細度で且つスピーディなCT画像装置の研究製造と開発の基礎を構築すると共に、当該技術を小動物の疾患モデルや動物の化石に関する研究に採用している。

図5

図5(1)高解像度マイクロCTシステムによる写真
(2~5)小型昆虫の高解像度画像写真

 核磁気共鳴画像法(MRI)は最も重要な医用画像技術となっており、人体組織に対する極めて高い分解能、任意の方向で撮影された画像、軟組織の高いコントラスト、画像パラメータの豊富さという長所を有すると共に、全く害がないため、疾患に対して早期診断を下すことができる。SN比の増加、時間と空間の分解能を向上させることは、核磁気共鳴画像法の発展における一貫したテーマであり、同時に、分子と機能的核磁気共鳴画像法へと発展している。最近、Paul C. Lauterbur生物医学成像研究センターは、超高磁場(3T)MRIシステムの導入に成功し、高磁場 MRI技術、核磁気共鳴による治療、核磁気共鳴の機能的画像、マルチモダリティ対応の画像技術等の発展に着手している。

写真6

 Paul C. Lauterbur生物医学成像研究センターは、ノーベル賞受賞者であり、核磁気共鳴画像法技術の父と呼ばれるPaul C. Lauterburから名付けられた中国科学院深セン先進技術研究院生物医学・健康工程研究所のコアとなっている研究センターの一つである。Paul C. Lauterbur生物医学成像研究センターは、バイオメディカルの画像技術、システムと設備の研究開発、医療器機の研究開発とバイオメディカルの応用の推進に尽力している。本稿は、多機能超音波と高精度CT画像の分野における筆者の取り組みを簡単に紹介したものである。

 2007年8月15日、Paul C. Lauterbur生物医学成像研究センターが正式に設立され、中国における医用画像技術の発展を支援するため、ラウターバー教授は中国における研究機関に自らの名前を使用することに賛同すると共に、受賞したノーベル賞のメダルと賞状を当院に寄贈され、ラウターバー婦人がセンターの除幕式に出席された。


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