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次世代ナノ電子デバイスの研究開発シナリオ~新デバイス材料としての機能性酸化物の適用を例にとって~

2011年 3月15日

秋永広幸

秋永広幸(あきながひろゆき):独立行政法人 産業技術総合研究所 ナノ電子デバイス研究センター副研究センター長

1964年6月生まれ。1992年筑波大学大学院博士課程工学研究科物質工学専攻修了工学博士。専門はナノエレクトロニクス。現在、先端機器共用施設を活用したオープンイノベーションモデルを開発中。

1.はじめに

 微細化に伴うMOSFET (Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)の高性能化とその微細化限界を克服するための研究開発は、次世代半導体エレクトロニクス分野における中心課題となっている。それでは、シリコン(Si)とその酸化物であるSiO2によって支えられてきた半導体エレクトロニクスの研究開発において、トランジスタのゲート長が20 nm より小さくなった世代においても持続的な発展を堅持できるであろうか?多くの方々が、NOというシナリオを描き、次世代ナノ電子デバイスに対しては、全く新しい材料の導入と実装が図られるようになってきた。HfAlONやHfO2等、いわゆるhigh-k材料はその典型例であろう。このような酸化物においては、SiO2と同様、定比化合物であることによって、絶縁性、高誘電性等の特性が発揮されることとなる[1]。

 さらに、最近になって、上記とは全く正反対の考え方を新規酸化物適用の場に導入することで、次世代ナノ電子デバイス研究開発を推進しようとする試みがなされるようになった。即ち、酸化物に積極的に欠陥を導入し、その欠陥の空間分布をナノメートル領域で制御するという技術である。本寄稿では、この新しい技術とその考え方についてご紹介する。より具体的には、以下の2つの話題をご提供する。(1) 高速・低消費電力の不揮発性ランダムアクセスメモリReRAM (Resistance Random Access Memory)、(2) Redox トランジスタ。これらの新デバイスは、金属/酸化物ヘテロ界面を単位構造に持っており、その界面近傍の酸素欠損量が電界あるいは電流誘起で増減することにより動作する。

2.高速・低消費電力の不揮発性ランダムアクセスメモリReRAM [2]

 現在のところ、半導体エレクトロニクスの分野で最も重要なメモリは、DRAM (Dynamic RAM)、SRAM (Static RAM)とフラッシュメモリの3つと言うことが出来るであろう。前2者は集積化と高速化が進んでおり、パソコンを例にあげればCPU(Central Processing Unit: 中央処理装置)に近いところで用いられている。DRAMとSRAMの書換回数は実用上無限であると考えられているが、電源が供給されていないとデータを保持できない、即ち揮発性のメモリであるという欠点を持っている。一方、フラッシュメモリはUSBメモリとして用いられていることからもわかるように不揮発性のメモリであるが、素子単体の動作速度を比較するとDRAMと比べて3桁以上も遅い。最近では、フラッシュメモリの超高密度化、多値化が進み、SSD(Solid State Drive)としてHDD(Hard Disk Drive)の置換えも進んでいるが、動作速度が遅いことに加え、書換回数が数千回程度にまで落ちてきており、様々な回路上の工夫が必要となっている。そして、この3者すべてにおいて、微細化、即ち大容量化を目指した研究開発の速度が鈍化している。このような事情により、次世代ナノ電子デバイスとして様々な新規メモリが提案され、研究開発が活発に行われている。ReRAMはそれら新規メモリの1つであり、超大容量、高速動作、低消費電力を同時に満たす最も有望な不揮発性メモリとして注目を集めている。

 ReRAMは、NiOなど遷移金属酸化物にて観察される抵抗スイッチ効果をその動作起源としている。抵抗スイッチ効果そのものは1960年代に報告されており、その学術的研究の歴史は古い一方、この効果を実際の集積化メモリに応用しようとする試みは2002年になるまでなされていなかった。さて、ReRAMは、金属電極で酸化物層を挟んだいわゆるMIM(Metal Insulator Metal)構造からなっている。典型的な動作モデルとして、両電極層間に金属フィラメントが析出することによって抵抗が減少し、そのフィラメントが遮断されることによって高抵抗化がなされるとする「フィラメントモデル」、あるいは、金属/酸化物界面の電子状態変化によってショットキー障壁高さが増減することで抵抗変化が起きるとする「界面モデル」があった。さらには、SrTiO3や(Pr,Ca)MnO3などペロブスカイト系酸化物をはじめ、様々な材料でこの抵抗スイッチ効果が観察されたこともあって、動作原理に関する議論は収束せず、ReRAM実用化研究開発の最大のボトルネックは動作起源の解明であると評価された時代もあった。しかしながら、2008年以降、実デバイスによる原理実証や界面電子状態の評価技術が高度化したことにより、このReRAMの動作起源が明確になった。さらに、HfO2, TiO2, Ta2O5などhigh-k材料としてナノエレクトロニクスにおける技術開発が進んでいる材料系でもReRAM動作が報告され、CMOSプロセスとの整合性が極めて高く、同時にビットコスト競争力にも優れているという特徴を持っていることが示された。

 図1は、ReRAM動作を説明したものである。図1(a)においては、基礎研究開発レベルで用いられる1ミクロン程度の素子サイズを想定している。通常、酸素ガスを導入してスパッタ法などにて成膜した直後の酸化物は高抵抗状態にあり、よって、MIM構造の電極間抵抗も高抵抗状態にある。この状態において、ある一定レベルの電圧を印加すると、ソフトブレークダウンが起きて、酸化物層に欠陥が誘起されると同時に、金属的伝導を示す導電パスが形成される。これがフォーミングと呼ばれる初期化プロセスである。ここで、ReRAMの高速・低消費電力な安定動作を狙うためには、”金属電極の酸化物”がMIM構造の酸化物と酸素イオンの授受をすることが出来るように界面構造を設計する必要がある。図1においては、電極の金属元素の方が、酸化物層の金属よりも酸化ポテンシャルが低い、即ち酸化しやすいものを選択した場合に相当している。低抵抗化したMIM構造に電流を流すことにより、元々、酸化のしやすい金属電極側の酸化物超薄膜においては、陽極酸化プロセスによって定比化、すなわち高抵抗化が起き、結果としてMIM構造全体が高抵抗状態になる(Resetと呼ばれる)。その後は、この界面におけるフィラメントの蛇口を電圧印加で開け(この低抵抗化をSetと呼んでいる)、陽極酸化によって閉めることにより、メモリのON/OFFが実現されることになる。これが、「フィラメントモデル」と呼ばれるものである。一方、このフィラメントのサイズは、Setプロセスにおける電流値によって制御出来ることも明らかになっている。例えば、1本のフィラメントサイズを10nm程度に小さくすることが出来る。その場合、フィラメントの中においては、図1(b)に示すように、まさに界面全体で酸化還元反応が起き、その結果として金属/酸化物界面を横切る方向での電気抵抗が増減することになる。即ち、「界面モデル」である。少なくともHfO2, TiO2, Ta2O5などの2元系酸化物からなるReRAMにおいて、このUnified モデルは素子設計指針を与えるものになっており、ReRAMの実用化研究開発を一気に加速する原動力となった。フィラメントサイズを10nm以下にすることが出来るという事実は、この半導体メモリが微細化トレンドにおける20nm世代においても十分に”使える”メモリであることを端的に示している。微細化速度が鈍化している各種メモリを置換える新メモリとして注目を集める所以である。

図1

図1

3.Redox トランジスタ [3]

 前節で述べた以外のReRAMの特徴として、巨大なON/OFF比があげられる。これはメモリ実用化において、ON/OFF状態の信頼性確保(書換回数、熱耐性などを含む)に有利であるのみならず、Set/Reset電流を制御することによって、ReRAMに多値情報を保存できることも示している。そして、この特性を、さらに3端子素子にて制御しようとする試みがなされるようになってきた。即ち、TiO2等の機能性酸化物をチャネル層とし、チャネル層にゲート電圧を印加することによって、そのチャネル層の電気伝導を不揮発に変化させる試みである。図2には現在試作中の3端子素子断面構造を示した。ReRAMにおいては金属/酸化物界面でなされていた酸素イオンの授受を、チャネル層にゲート電圧を印加することで制御する素子である。ナノ電子デバイスに、電界(電流)で制御する広義の酸化還元反応を適用していることから、この新しい3端子素子をReFET (Redox Field Effect Transistor : 酸化還元型電界効果トランジスタ)と呼んでいる。我々は、すでにPt / TiO2 / Pt MIM構造において電界印加により酸化物層における酸素欠損分布を変え、その結果として、2つの金属/酸化物界面の特性をオーミック特性⇔整流特性間で不揮発に変えられることを実証した[3]。この効果をFETにおけるチャネル層に適用することにより、不揮発性動作、即ち、ある状態を設定した後には新たな電力供給を必要としない超低消費電力トランジスタの実現が期待される。

図2

図2

4.おわりに

 本稿では、酸素イオン(あるいは酸素欠陥)を、電界印加あるいは電流によって生成・消滅させることにより、次世代ナノ電子デバイスが実現できることを示した。固体化学的な表現を使えば、機能性酸化物という新しい材料が半導体デバイスに適用されることを介して、電界・電流誘起の酸化還元反応が半導体テクノロジーに導入されたということも出来るであろう。ナノ電子デバイスの未来シナリオを完全に描くことは困難ではあるが、新材料導入を一歩一歩着実に進めることにより、私たちが求める姿を具体的に得ることが出来るに違いない。

参考文献:

  1. International Technology Roadmap for Semiconductors, 2009 Edition (http://www.itrs.net/).
  2. Akinaga and Shima, Proceedings of the IEEE, 98 (12), 2237-2251 (2010).
  3. Shima et al., Appl. Phys. Lett. 94 (8), 082905 (2009).

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