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結核病と闘う研究者-趙雁林

中国科技日報     2011年 6月30日

 白髪混じりの趙雁林(40)さんだが、仕事の話になると、途端に顔つきが変わる。中国国家結核病レファレンスラボラトリーで主任(室長)を務める趙さん。研究チームを率いて研究室での科学研究や地方での監督・指導、プロジェクト研究など、幅広い分野で活躍している。多数の仕事を掛け持ちしているため、通常の勤務時間だけでは全く足りず、残業も日常茶飯事。チームの研究員は、趙さんからの業務メールを深夜によく受け取るのだという。趙さんが以前働いていた北京胸部腫瘍結核病医院の元同僚は「趙さんの部屋にはうずたかく積まれた本以外に、古びたソファーベッドがあって、いつも遅くまで仕事をすると、そこに横になり、翌日また早々と仕事を始める」と話す。丸一日の会議が終わり、車が自宅に近づくと、趙さんは少し考え、「子どもにまた会えないことになるが、やはり職場に戻ろう」とそのまま通り過ぎてしまう。職場に戻ると、宿舎でひと息付く間もなく、その足で研究室に直行する。出張中にたまった仕事を取り出して詳しく目を通すと、あっという間に午前2時。気が付いた問題点を列挙してチームの研究員たちにメールを送信しておく。趙さんは、息子の成績よりも中国の結核病データについての方が詳しく、自宅の間取りよりも職場の書類の位置の方がよく把握している。

 趙さんは国家結核病レファレンスラボラトリーのチームを率いて、中国の結核病流行の法則性や結核菌流行株の毒性、薬剤耐性、病原性、遺伝子変異の傾向および薬剤耐性結核のクイック診断など、さまざまな分野で踏み込んだ研究を展開。代表的な流行菌株の全ゲノム配列に関するサンプル研究を行うことにより、結核病分野の基礎研究を深め、ポストゲノミックス(遺伝子情報学)の基礎を築いた。国家結核病レファレンスラボラトリーはこのほかにも、中国衛生部のゲイツ基金会結核病対策プロジェクトの新診断ツールに関するフィジビリティ・スタディ(FS、実現可能性調査)サププロジェクトや中国衛生部と仏フォンダシオン・メリユの結核病対策プロジェクト、第5回グローバル基金薬剤耐性検査測定プロジェクトなど重要な特別研究テーマを担当した。趙さんが率いるチームは常に多種多様で複雑な課題を抱えているが、突発的な緊急事態を前にしてもメンバーの誰一人として弱音を吐く人はおらず、常時スタンバイしている。どんな重大事や緊急任務であろうと、すぐに前線に赴く準備を整えている。2008年の北京五輪の会期中は、菌株バンクの安全確保を担当。四川大地震の発生後は、趙さんが衛生部の第10陣緊急防疫チームと共に被災地を訪れ、震災後の感染症防疫ネットワークのモニタリング作業を受け持った。新型インフルエンザが流行した時期には、北京首都空港の国際便旅客と、周辺の病院数院における感染の疑いがある患者を対象とした検査測定作業を自発的に行った。

 「貧乏病」と呼ばれる結核病。貧しいために治療が受けられず、病気のために貧しさから抜け出せないという悪循環を生む。趙さんは牧場で暮らした数年間、結核病を患ったために深刻な貧困に陥った人々をたくさん目にしてきた。「こうした状況を自分の努力で変えてみせる」と趙さんが心の中で堅く誓ったのはその時だった。そうして、医学を学び、結核病を研究することが趙さんにとって人生最初で最後の目標となった。「周囲の人々を貧困から救い出す」----。これがまさに、趙さんが結核病対策に数十年間携わる中で今も変わらずに持ち続けている初心だ。趙さんは結核病をめぐる中国の現状について、「結核病はすでに感染症のナンバーワン・キラーになっている。中国では多剤耐性結核の患者が年間12万人ずつ増えており、厳しい状況にある」と懸念を示す。感染症の「ナンバーワン・キラー」といえる結核病。効果的な抗結核薬が見つかったため、結核病の流行に一時は歯止めがかかったものの、薬剤耐性結核の発病率の上昇や、結核病とエイズの交差感染を背景に、結核病が近年、勢いを盛り返しつつある。現在、結核病患者が世界で毎年900万人新たに増えており、うち150万人がエイズとの二重感染、50万人が薬剤耐性結核を患っており、200万人が毎年、結核病で命を落としている。薬剤耐性結核の発生および流行は、結核病対策に大きな試練をもたらしている。2007年、国家結核病レファレンスラボラトリーは衛生部が組織する全国結核病薬剤耐性に関するベースライン調査を実施。調査結果によると、中国の肺結核患者のうち、多剤耐性率は8.32%、広範囲薬剤耐性率は0.68%。これに基づく試算によると、中国では多剤耐性結核(MDR-TB)が毎年12万例新たに発生していることになる。

 薬剤耐性および広範囲薬剤耐性結核の治療・管理は難易度が高く、完治率が低いことから、予防対策がとりわけ重要となる。趙さんは「薬剤耐性結核の診断能力を高めることが肝心。スピーディーで、信頼でき、手軽な薬剤耐性結核の新たな診断技術を導入し、結核病の診断に要する時間を短縮する必要がある。それでこそ、感染が確定するまでの間に他人に伝染する可能性を最小限に抑えることができる」と指摘する。


PROFILE

趙雁林

趙雁林(Zhao yanlin):

研究員、国家結核病参比(レファレンス)実験室主任、WHO結核研究所診断グループ常務委員、WHO結核研究所アクショングループ科学委員会委員、中国合格評定国家認可委員会・実験室生物安全・質量管理・能力評価審査員、中国結核防止協会理事、中国結核防止協会基礎委員会主任委員、中華医学会結核病学分会基礎委員会副主任委員、衛生部疾病予防コントロール専門家委員会委員。 2004年、北京市科技新星計画に入選。2010年、北京市新世紀百千万人材プロジェクトに入選。 「第11次五カ年計画」の科学技術重大プロジェクト「エイズウイルス性肝炎などの伝染病」、中国衛生部―ゲイツ基金結核予防プロジェクト実行可能性研究サブプロジェクト、衛生部全国結核薬剤耐性ベースライン調査プロジェクト、遺伝子チップ国家重点サポートプロジェクト863サブ課題など、多くの課題に携わり、論文40篇余りを発表、主な著作は4冊。WHO結核研究所など数多くの国際会議で報告、2006年には全国結核予防業務先進個人に選出。


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