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海浜地形変化と海岸浸食のメカニズム~Progresses on Study of Nearshore Processes and Coastal Erosion Mechanisms~

2011年 8月16日

陳 子燊

陳 子燊(Chen Zishen):
中山大学水資源と環境学科教授、博士指導教授

1952年10月生まれ。1988年中山大学地球と環境科学学院修士課程修了、修士。1999年、アメリカハワイ大学訪問学者。2000年、フロリダアメリカ地質調査局海岸地質と地区海洋研究センター訪問学者。現在、教育部大学港口航路と海岸工事専門教育指導分委員会委員、『海洋通報』編集委員、中国海洋と湖沼学会理事、広東省海洋と湖沼学会常務理事、国家海洋局第三海洋研究所客員研究員。主要な研究領域は河口海岸地形動力学、河口海岸の水環境、極限水文気象事件の分布と予測。国家自然科学基金プロジェクト(海洋科学領域)4件と広東省自然科学基金プロジェクト3件の代表。現在は国家重点基金プロジェクトと広東水利革新プロジェクトそれぞれ1件を担当。発表論文数は100本以上。1998年、国家海洋局海洋科学技術進歩3等賞。2008年、水利部珠江水利委員会科学技術進歩1等賞。

1 はじめに

 海岸地帯の環境保護、資源開発・利用は人口増加、陸地資源の枯渇、環境汚染、経済の持続可能な発展などの問題を解決する上で、優先すべき戦略的選択である。しかし、ここ数十年、地球の気候変動、河川、海岸の変化など複数の要素が複雑に絡み合い、世界各地の砂質海岸が浸食されているため、海岸地帯の経済と社会の持続可能な発展が脅かされている。21世紀に入り、地球の気候変動の異常が日増しに顕在化する中、海面の上昇や、規模・頻度の拡大が予想される高潮により、海岸の浸食がさらに進行するとみられ、海岸線の後退およびその推移が広く注目されている。UNEP(国連環境計画)本部が1991年に発表した『環境現状』は「地球温暖化は海面の上昇を加速し、(中略)深刻な社会的・経済的な被害を招き、島と沿海地区に悪影響を与える」と指摘している。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)も、海岸浸食が臨海地域の経済・社会の持続可能な発展にもたらす脅威を重く見ており、「海岸地区と小島群(CSI)の環境と発展」プロジェクトを特設して、海岸浸食と海岸変遷の観測、データ分析、資源評価などの研究を資金援助している。現在、海岸浸食のメカニズムとその変化は、海岸地帯の陸海相互作用に関する研究の重要な項目となっている。

 海岸地帯の陸海相互作用、特に海岸侵食のメカニズムを研究するには、海浜地形変化を明らかにする必要がある。20世紀80年代以降、欧米諸国の学者は海浜地形変化の研究に力を入れており、多くの成果を出している。1989年4月と1998年9月に、欧米諸国から同分野で最も著名な研究者、技術者ら数十人がFloridaのSt. Petersburgに集まり、シンポジウムを開催。海浜地形変化の研究概況と問題を議論し、向こう10年間の研究課題を明確にした。そこではハイ・テクノロジーと精度の高いデータに基づいた研究が主流であり、大規模な研究プロジェクトが多数展開された。例えば、米国で実施された海岸浸食研究には、機械搭載のレーザーライダー(LIDAR)が導入され、1997-98El Nino期間の全米の海岸浸食データが収集された。米ノースカロライナ州のDuckにある現場研究施設(Field Research Facility、略称FRF)は、水陸両用車(CRAB)を用いて30年間にわたり海浜地形変化を観測・研究している。多くの研究成果を収め、米国の海岸帯の管理に役立つ貴重なデータ資料や重要な理論的根拠を提供した。似たような状況は、オランダのJARKUSで数十年間にわたり行われている地形断面の観測にもみられる。1997年10月から2001年3月まで海岸の泥砂の動きとそのメカニズムの解明を目的に行われたプロジェクトCOAST 3Dには英国、オランダ、フランス、スペイン、ベルギーのヨーロッパ5カ国が参加した。ここから現場観測に対する関心の高さがうかがえる。

 砂質海岸の浸食は、中国の沿海地区においても広く発生している海洋災害の一つである。2003年に国家海洋局によって実施された「重点海岸における海岸浸食観測プロジェクト」の観測結果によると、海岸浸食が海岸の道路、施設、耕地、防護林、海水浴場、漁港、ひいては居住区に深刻な損害と脅威をもたらしている。丘陵台地の岩岬からなる大小さまざまな湾は華南ないし中国の砂質海岸の重要な種類であるが、現在はひどく浸食されている現状にあり、しかも悪化傾向にある。関連データを体系的に収集し、データ分析能力を向上させることは、海岸浸食の変化に関する研究を展開し、海岸地帯における防災対策・管理システムを構築する上での前提条件となっている。

2 砂質海岸地形変化の尺度と近岸地形の動力学的特徴

2.1 砂質海岸地形変化の尺度

 砂質海岸の近代的な地形変化の尺度は異なっている。本論文でいう「小尺度地形変化」とは、期間尺度が数時間から数日までであり、空間尺度は百メートル以内の地形変化のことである。「小尺度地形変化」は、高潮などの極端な状況に起きるものである。一方、「中尺度地形変化」はバーム(beach berm)、rhythmic barsなどの形としている。「大尺度地形変化」の時間尺度は数年間から数十年間の間に発生し、空間尺度は一般的に数キロメートルから数十キロメートル以上の岸線において発生している。これから数年、数十年後の海岸地形変化を予測するには、多くの課題が残っている。「Bruun法則」による予測は、普遍的に採用できる法則ではない。異なる「尺度」の海岸地形変化の本質は、海岸地形・形態と近岸地形の動力学的要素の間の非線型関係による安定性の問題であり、次の三つの問題に分けて解説できる。

(1)外部環境

 外部環境とは、海岸・海洋の環境条件およびその時間・空間の変化をいう。天気、気候、天文などの外部影響要素は近岸地形の動力学的要素の基本となっている。海岸の時間と空間変遷の度合いと頻度は次の3つの原因とつながっていると考えられる。

a. 海岸線の最初の状態

 その地域の地質的特徴、岸線の形態、近岸海底の地形特徴など地形の状態

b. 海岸内部にある沈泥と砂の量
c. 波、流れ、潮、風など、海岸の外部からのエネルギーの強さ、頻度などの要素

(2)海岸システムの内部

 水流の動力と海岸形態との相互作用によって形成された、異なるタイプの地形とその組み合せである。上述した2つの要素は互いに因果関係にあり、環境により常に変化している。

(3)海岸システムは長期の変化を経て、新しい海岸環境に適応した動力学的環境と地形環境の形成に向かう。

 海岸の時空変遷に対する研究によると、近海海域の波浪と波の流れは、決定的な役割を果たしており、中大陸棚(middle continental shelf 中陸棚)海域の海底において、極端な嵐の影響で異常な沈泥と砂の動きが発生する。海岸沈泥の堆積の角度から、上述した時空の尺度を次のように分類することができる。

(1)短期動力効果のプロセス

 あらしと波に対する海岸の反応、つまり砕波帯と波打ち帯のプロセスである。

(2)中期動力効果のプロセス

 年周変化、つまり海岸、砕波帯、近岸帯の間の沈泥の流動である。

(3)長期にわたる大尺度の動力効果のプロセス

 温暖化など地球規模の変化が海岸の沈泥と海岸環境の長期変化に対する影響である。

2.2 海岸地形の動力学的特徴

 海岸地帯変化の研究対象、範囲、内容などにより、近岸地形の動力には確定性とランダム性との特徴がある。海岸の環境における地形動力には次の特徴がある。

(1)主要なエネルギーは入射波の周波帯からきており、砕波帯と非砕波帯の影響で発生した沈泥の振動と流れである。

(2)次の変動は目立つ

① 垂直海岸の定常波、前進波、沿岸方向のエッジ波
② 周期は25秒から250秒の長周期重力波
③ 周期が入射波の2倍であるサブハーモニックなどが含まれている。

(3)沿岸流、補償流など、入射波エネルギーの減衰により形成された環流システムである。

(4)潮流、風場などの非海浜流(海浜流:wave-induced current)の要素が加わる。

 全体からみると、近岸地形の動力プロセスは非常に複雑なシステムであり、複雑な砂浜、砕波帯などの要素が複雑に絡み合って、多尺度の海岸変遷と海岸浸食が発生している。

3 砂質海岸浸食の動力プロセスとメカニズム研究

 海岸侵食のメカニズムに関する先行研究は次のようにまとめることができる。

3.1 長周期重力波と海岸浸食

 長周期重力波(infragravity waves)とは、通常の風波の周波より低く、周波数は0.04~0.004Hzの間にある低周波である。今までの研究によると、長周期重力波は沿岸波浪の重要なエネルギー源となっている。海水が深ければ深いほど、そのエネルギーの量は小さい。高エネルギーの暴風波が発生する時、低周波が決定的な影響を発揮し、砕波帯において長周期重力波のエネルギーが大幅に減衰することはない。大量の沈泥と砂の流動は長周期重力波帯に発生し、海岸浸食などを引き起こす主な原因となっている。

 長周期重力波が多くの研究者に注目されているもう一つの理由は、砂浜砕波帯の周期性特徴の定量的考察のためである。たとえば、三日月形など異なる形態の砂堤の形成と変化を考察する際には、長周期重力波が多く採用されている。その他、長周期重力波の形成メカニズムに関する研究では、近岸地帯の変形などを考察しており、近岸の地形動力プロセス研究の重要な項目となっている。関連文献には、海浜地形変化と長周期重力波の形成メカニズムについての研究と論述は多くある。

3.2 沿岸循環、Wavesetup効果、海岸浸食

 砕波帯における波浪の伝播実験により、風成海流の要素など、沿岸循環システムが複雑系であることが証明された。特に重要なのは、この沿岸循環の環流は単なる入射波による安定的な平均流ではなく、近岸波、流れ、地形の間の相互影響により、駆動力と地形変化の間に相互の因果関係が存在していることである。

 現場観測を分析すると、砕波帯による沿岸の流れは一般的には不安定である。この不安定性とは、横波(shear waves)によるものである。1分から10分間の周期性があり、Root-mean-square velocityは数十センチメートル/秒に達する場合もある。暴風波の発生時において横波(shear waves)の不安定性により、沿岸の垂直方向に強渦流が発生し、Wavesetup効果により逆流(undertow) と離岸流 (rip currents)が発生し、暴風波の発生時の海岸浸食の原因の一つとなっている。

3.3 砕波帯地形の動力状態と浸食方式

 WrightとShortなどの研究者がオーストラリアの砂質海岸地形の動力プロセスを体系的に研究し、砂浜-砕波帯地形の動力状態を次の6つに分類している。高度消散型、高度反射型、中間状態(沿岸砂堤の凹溝状態、周期性砂堤・砂浜、横方向の砂堤と離岸流、low-tide platformとの4つの状態)である。6種類の砂浜状態の間には、砕波尺度のパラメーター

 により異なる状態の間の変換が考察され、三つの浸食方式が発見された。Sunamuraは地形変遷を八つの段階に分けて研究しており、それぞれの段階における砕波帯動力指数

 との関連を考察している。このような研究手法は、海岸浸食研究に極めて大きく貢献している。

 Ranasingheなどの学者はオーストラリアにある中型海岸砂浜の状態を撮影し、その映像を分析している。90%の映像の分類はWrightなどによる分類と一致していることが分かった。浸食によりLBT(longshore bar trough)などの砂浜状態が形成され、暴風波の発生後において、LTT(low tide terrace)地形に変貌したことが分かった。今まで砕波帯地形の動力状態と浸食方式の実証研究が多く行われている。

3.4 沿岸流、砂の移動、海岸の長期変化

 この分野の研究のほとんどは、海岸の動力学の原理を採用している。近岸の水中地形、岸線の形態、建築物による波浪の屈折・回折効果に基づき、海岸長期変化の数理モデルを作っている。岸線変化の数値とデータに基づき、海岸波動力の自然効果と建築物など人工的な影響の下の海岸線の長期変化傾向を予測している。実用価値のある岸線変遷モデルの多くは、線型モデルであるが、まだいくつかの問題が残っている。

a. 線型モデルは平衡海浜断面モデル理論に基づいており、アメリカ東海岸とメキシコ湾の特徴に基づきDean平衡海浜断面モデルにまとめられたが、これは中国の比較的に閉鎖的な波浪環境に適用できるかどうかはまだ明らかにされていない。そのため、異なる海岸環境条件に適応できる平衡海浜断面モデルが必要となっている。

b. 水流の動力に対する地形の影響は反映されていない。地形の長期的変化を考察するには大きな誤差が生じてしまう。岸線の変遷の期間的尺度は通常10年以内としている。

3.5 海岸浸食の究極平衡形態の規則

 砂質海岸のほとんどは、波浪と水流の影響で非対称なアーチ形の海湾の形である。20世紀50年代から、多くの研究者はその平面外形に基づき異なる命名をしている。たとえば、「ζ形海湾」、「半分ハート形海湾」、「対数螺旋線海湾」、「鋸歯形海湾」、「アーチ形海湾」、「袋形海湾」など多数ある。Yassoは観測データに基づき対数螺旋モデルをはじめて発表している。その後、研究者は大量の観測データの分析と実験を通じて、海岸浸食の究極平衡形態を予測するための複数の公式を発表している。典型的なモデルの例は、放物線形モデル、楕円形モデル、形態要素モデルなどである。平衡形態の規則は、海岸の長期変遷・浸食の予測、防災・護岸工事、自然に近い平衡海岸形態作りなどの面において多く採用されている。海岸の平面平衡形態の規則は、砂質海岸の浸食と安定を明らかにするための重要課題となっている。

 海岸の平面平衡形態モデルから、海岸の平面平衡規則に関する研究の新しい可能性が見て取れる。理論面において海岸研究に新しい研究方法を提示してくれると同時に、実用面においても有意義である。数理モデルに基づいた経験的な公式には、メカニズムの分析が不十分である。放物線形モデル、楕円形モデル、形態要素モデルなどは岸線の形と一致させて分析されているが、岸線の形態とこれらの関数との関係性について十分分析されていない。実際には、岬間岸線変化は複雑な非線型動力システムであり、海湾の平衡形態は単なる数理的関数で解説できるものではない。現在の岸線平面平衡形態モデルは、海湾の安定性を判断するにはまだ明らかにされていない問題が残っている。問題の一つは、主波向の確定である。ほとんどの天然海湾において、入射波の方向は様々であり、特に季節風環流の影響を受けている華南の海岸地帯において季節の影響を受けるが、今までのモデルにおいては入射波の方向の確定は明らかにされていない。もうひとつの問題は、「岬角」の定義は明確ではなく、位置確定は困難である。現在のモデルにおけるこれらの欠点を考慮し、「岬角」を新たに定義する研究者もいる。モデルの指数と主波向の確定方法を明確にし、華南の代表的な海湾をサンプルにし、「岸線平衡形態神経ネットモデル」が打ち出された。模擬海湾と海南島場海湾との対照研究を通じて、「神経ネットモデル」が放物線モデルより理想的なモデルであることが明らかにされた。

4 終わりに

 現在、地形の動力学的方法は、各国において海浜地形変化研究の主な研究手法となっている。本論文は、海岸環境の多尺度変遷の角度から、砂質海岸の浸食の地形動力学メカニズムにおける五つの研究成果を紹介した。

 地球温暖化による海面の上昇、海洋事件、海岸浸食などの問題に直面し、砂質海岸の変化に対する研究にはまだ課題が多く残っている。中国においては、海浜地形変化、長周期重力波、沿岸循環、Wavesetup効果、砕波帯地形の動力状態と浸食方式に関する研究はまだ少ない。海岸の長期変化と海岸浸食の究極平衡形態についての研究はまだ不十分である。代表的な海岸をサンプルにし、長期にわたる観測プロジェクトを実施し、立体的な方法と新技術を導入し、波、流れ、潮、風などの海岸の動力学的要素を観測しなければならない。継続的な観測を通じて、当地区における地形、岸線形態、沈泥の特徴との関連性を把握する必要がある。高精度のデータ収集・管理システムを導入し、当地区の海岸環境問題に対して動力学、ランダム手法、統計などの研究方法を総合的に採用し、海岸浸食の分析と予測を行わなければならない。


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