第59号:海洋開発技術
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海水淡水化と経済の持続的発展におけるその役割

2011年 8月30日

王 世昌

王 世昌(Wang Shichang):
天津大学化工学院教授、博士課程指導教員

1934年11月生まれ。1963年天津大学大学院卒(化学工学専攻)。天津大学学位評定委員会副主任、同大学大学院副院長、同大学海水淡水化・膜技術研究センター主任を歴任。「膜科学と技術」副編集長、中国海洋学会理事、中国海水淡水化学会副理事長および名誉理事、中国脱塩協会副理事長、国際脱塩協会(IDA)理事などを兼務。主に分離工学、海水淡水化、膜・膜分離技術、逆浸透法におけるエネルギー回収技術などを研究。国家自然科学基金の重点プロジェクト、第9次~第11次5ヵ年計画の複数の海水淡水化および膜技術に関する科学技術難関プロジェクトを主導。国家科学技術進歩賞2等、国家教育委員会科学技術進歩賞2等、天津市自然科学賞1等、国家発明展覧会銀賞などを受賞。国家人事部から「国に顕著な貢献をした専門家」として認定。論文200編余り。「海水淡水化工程」編集長。共著に「塔槽」、「現代塔槽」など。

 中国は淡水資源が乏しいだけでなく、分布も均一でない。1人あたりの平均使用可能水量が少ないばかりか、時季的および地域的分布の上でも均衡がとれていない。この10年間、地域経済の急速な成長に加え、数年間連続で降雨が少なく、さらにいくつもの水源で汚染が深刻であることから、水の需給バランスの矛盾が顕著となっている。2000年代初期の統計によれば、中国のミドルクラス以上の都市610ヶ所のうち、程度の差こそあれ、水不足に直面する都市は400ヶ所余りに達しており、中でも人口100万人以上の大都市32ヶ所のうち、長期にわたり水不足に苦しんでいる都市は30ヶ所もある。北京市の1人あたりの平均水資源量は200㎥足らずで全国平均のわずか8分の1であり、世界平均の30分の1しかない。天津市、瀋陽市などの都市や、遼東半島および山東半島が属する環渤海経済圏では人口が密集し、経済が急速に発展していることから、水不足の問題がすでに経済成長を制約する要素となっている。また、浙江省や福建省ならびに広東省沿岸などの南部地域でも、ここ数年、淡水資源の不足や汚染が経済の持続的発展を妨げる深刻な障害となっている。

 世界的な水不足の状況も顕著である。国連の専門家の推定によれば、地球では10~15億人の飲料水が不足しており、さらに多くの地域や国が水不足のために発展スピードや生活の質の低下という問題に直面している。

 水資源の危機を解決するために、人々の考えが広大な海洋に至り、海水の淡水化に思い至るのは自然の成り行きである。国連の1985年のレポートによれば、海水の淡水化はすでに①1950年代の発見段階②1960年代の開発段階③1970年代以降の商用・実用化段階―の3つの成長段階を経ている。このため、海水の淡水化技術は早いうちから世界にとって、特定の条件下では淡水不足の危機を解決するための信頼できる技術となっていた。しかし、これは主に中東地域の砂漠・油田地帯を対象としていた。海水の淡水化技術が真の意味で中東地域の枠から出て、世界のどの地域でも使用でき、かつ、コスト面からも利用可能な技術となるには、長い研究の道のりがまだ必要であろう。

1 海水の淡水化方法およびエネルギー消費

1.1 海水の淡水化方法

 ここで言う海水の淡水化技術には、海水のみならずかん水の淡水化や工業用水の除塩も含まれる。海水の淡水化方法は数十種類あるが、現在、工業で利用されているのは主に以下の数種類である。多段フラッシュ法(MSF)、逆浸透法(ROまたはSWRO)、多重効用蒸発法または多重効用蒸留法(MEまたはMED)および蒸気圧縮法(VC)。これ以外では電気透析法(EDまたはEDR)がある。後者は基本的にかん水の淡水化に用いられる。

1.1.1 逆浸透法(RO, SWRO)

 海水に圧力を加え、淡水を浸透膜に通すことで海水中の無機塩を濾しとどめる淡水化方法であり、膜法とも呼ばれる。海水あるいはかん水、また大型装置、中型装置、小型装置のいずれにも適用でき、海水の淡水化技術ではこの20年で最も急速に発展したものである。中東地域の国々のほか、北米、アジアおよびヨーロッパにおいても、大・中型の装置はすべて逆浸透法を最初の選択としており、現時点では中国でも最優先で選択する方法である。

1.1.2 多段フラッシュ法(MSF)

 加熱した海水を、圧力が段階的に低くなる複数の蒸発室で順次蒸発させ、蒸気を凝縮して淡水を得る。現時点では、多段フラッシュ法が技術的に最も成熟しており、運転の安全性が高く、大型および超大型の淡水化装置に適しており、主に湾岸諸国で採用されている。MSFは常に火力発電所に併設して建設・運転され、ガスタービンの低圧抽気を熱源とする。現時点では、1機あたりの生産水量は日量10 ×104t規模に達している。

1.1.3 多重効用蒸発法(ME)

 加熱した海水を、複数の順次連結した蒸発缶に通して運転する蒸発工程であり、この技術も主に火力発電所と併設して運転されるが、生産水量は一般的に日量約2 ×104tの規模である。2種類の方法があり、そのうちの1つは効用拡散型で、1970~80年代に盛んに採用され、垂直管型(VTE)と呼ばれる。操作温度は一般的に高く、ピーク時温度は100~120℃で、ヨーロッパおよびアジアの一部の火力発電所で使用されている。もう1つは低温多重効用蒸留(LTMED)で、ピーク時温度は約70℃。後者は前者に比べて競争力があり、蒸留法の中で省エネ性能が最も高い方法である。

1.1.4 蒸気圧縮蒸留法(VC)

 蒸発によって生じた蒸気を適度に加圧し温度を上昇させた後、蒸発器の加熱蒸気とし、凝縮して淡水を得る。電力または蒸気で駆動し、省エネ性能の最も高い淡水化方法の一つでもあるが、規模は一般的に小さく、生産水量は多くが日量1千トン級以下である。

 このほか電気透析法(ED)や冷凍法がある。電気透析法(ED)は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を配列し、直流電流を通すことにより、淡水を得る方法で、主にかん水の淡水化に用いられる。冷凍法は自然冷凍と人工冷凍があり、理論上は最も省エネ性能が高い方法であるが、現時点では実用規模に至っていない。

 現在、大規模な海水の淡水化プラントでは主に逆浸透法、多段フラッシュ法および多重効用蒸発法を採用している。しかし、水質およびエネルギー条件の地域差により、淡水化方法の選択では、それぞれで政策の重点が異なる。

1.2 主な淡水化方法のエネルギー要件

 多段フラッシュ法、多重効用蒸発(蒸留)法および蒸気圧縮蒸留法は、いずれも「熱利用法」である。このうち、前者の2方法で共に用いられる消費エネルギーのパラメータは「造水比」であり、「蒸発率」とも呼ばれる。これは、蒸発装置の総蒸発量(生産水量)に対して必要とされる熱量と、加熱のため供給される飽和蒸気の熱量(H)との比として定義され、(r =D•L /H)で表される。式中のDは淡水の生産水量であり、Lは淡水の気化潜熱である。

 一般的には便宜上、蒸気1トンあたりで生産される淡水のトン数を造水比としている。装置の造水比は、実質的には多段フラッシュ法の蒸発室数、または多重効用蒸留法の効用数に「変換」されている。設計上、蒸発室数または効用数が多いほど造水比も高くなり、消費熱量が少なくなる。逆に、造水比が低いほど、消費熱量が高くなる。蒸発室数または効用数が多いほど明らかに設備コストが上昇する。このため、上記の諸パラメータの間にはプロセス改善の問題が横たわっており、一面だけを見て強調することはできない。

 実際の設計においては、中東の産油国が用いる造水比は比較的低く、通常は8であり、これはエネルギー費用が安価なためである。非産油国の造水比は一般的に8~10で設計され、中には少数であるが13のものもある。この原理は、多段フラッシュ法または低温多重効用法のいずれでも同様であるが、両者は消費電力の上では大きな差がある。現時点では、多段フラッシュ法は淡水化の生産水量1トンあたりの消費電力は約3 kWhであるが、低温多重効用法は一般的に1 kWhである。消費電力でいくぶん差があるとはいえ、最終的な総コストの面では、多段フラッシュ法は中東地域では装置の規模が非常に大きく、電力と生産水量との全体面で合理化されているため、淡水化コストは尚も低温多重効用法を下回るとみられる。しかし、規模が小さい場合で両者を単純に比較すると、低温多重効用法が比較的有利である。

 逆浸透法は常温下で実施され、海水の加圧と輸送で必要となる消費電力しか要求されない。1980年以前は、淡水の生産水量1トンあたりの消費電力は8.0 kWhを上回っていたが、ここ20年間の透過量の高い半透膜と高塩系排水・エネルギー回収装置の発達ならびに高圧ポンプの効率化により、逆浸透法本体(取水および排水を含まない)の淡水化における生産水量1トンあたりの消費電力は2.0~3.0 kWhにまで低減され、海外の一部の模範的装置に至っては2.0 kWh以下にまで減少している。現在、わが国で建造されている海水の逆浸透法を用いた大型・中型の淡水化装置の本体の消費電力は、いずれも4.0kWhを下回る。

2 世界の海水淡水化技術の発展状況

 半世紀にわたる発展を経て、世界ではすでに150ヶ国の人口数億人が淡水を飲用・使用しており、先発エリアである中東地域のほか、米国、ヨーロッパ、日本などのいずれの先進国・地域においても、海水淡水化技術は大々的に発展し、実用化されている。

 2009年までに、世界ではすでに海水淡水化装置が14,451基建設され、淡水の総生産能力は5,990×104t/dに達している。このうち3分の2が海水の淡水化に、3分の1がかん水の淡水化に使用されている。一般的に、年間成長率は10%以上であり、2008年の成長率は12.3%であった。

 世界の10大海水淡水化プラントはいずれもサウジアラビアとアラブ首長国連邦にある。世界中で現在建設中の淡水化プラントは244ヶ所あり、生産能力は910×104t/dに達する。現在設計中のRas Azzour海水淡水化プラント(サウジアラビア)の設計生産能力は102.5×104t/dである。

 淡水化の実用は、すでに生活および工業分野に広く及んでいる。現在、世界全体の淡水のうち66.2%が都市行政による給水に、23.5%が工業に、5.5%が発電所に、そして1.7%が農業に用いられ、その他の部分はレジャー産業や軍事部門に使用されている。各種海水淡水化技術の採用状況は図1のとおりである。

図1

图1 各種海水淡水化技術の世界での実用状況

 図1から分かるように、逆浸透法(RO)はすでに61.1%を占め、多段フラッシュ法(MSF)が25.7%でこれに次ぎ、多重効用蒸留法(MED)が8.3%を占める。しかし、これは淡水化技術全体を示したもので、かん水の淡水化も含まれている。海水を原料とするものだけについて言えば、多段フラッシュ法と海水逆浸透法(SWRO)の占める割合はほぼ同等である。これは、逆浸透法はかん水の淡水化と工業用水の除塩に大量に用いられる一方、多段フラッシュ法は海水の淡水化にしか用いられないためであり、しかもほとんどが大規模な装置で中東地域において使用されるためである。同様の理由で、多重効用蒸留法の割合もやや高まる。

表1 世界の10大海水淡水化市場
順位 国名 市場シェア(%)
1 サウジアラビア 16.5
2 米国 14.0
3 アラブ首長国連邦 12.5
4 スペイン 8.9
5 クウェート 4.2
6 中国 4.0
7 日本 2.6
8 カタール 2.4
9 アルジェリア 2.3
10 オーストラリア 2.0

 表1で示すとおり、米国は世界第2位、中国は第6位、日本は第7位である。このうち、米国は主に膜法を採用して沿海地域の汽水やかん水、ならびに西部地域の河川における高濃度の塩分汚染水を大量に処理している。わが国の海水淡水化装置の生産能力は約35 ×104t/dであるが、膜法によるかん水の淡水化及び工業用水の除塩能力は、海水の淡水化能力をはるかに上回る。

3 わが国の海水淡水化産業の発展状況

 2009年末現在、中国の海水淡水化の総生産能力(海水淡水化のみ)は約40×104t/dであり、大連、河北、天津、青島、浙江、福建及び広東などの沿海地域に分布する。建設中の設備の生産能力は約30×104t/dで、設計又は契約段階の設備の生産能力は約10×104t/dである。

 現在、生産された淡水は主に工業に使用され(発電所および石油化学工場。72.2%)、都市行政による給水がこれに次ぐ(25%)。全体的に言えば、中国は逆浸透法(RO、86%)を最も多く採用しており、低温多重効用蒸留法(MED、7.7%)がこれに次ぎ、さらに多段フラッシュ法(MSF、2%)が続く。このうち、渤海沿岸(天津、黄驊、曹妃甸)では低温多重効用蒸留法と多段フラッシュ法のいずれも用いられているが、これは中国では冬季・春季の水温が過度に低く長期間10℃以下にある(0℃近くまで下がることさえある)ことに加え、渤海は汚染が深刻であることから、膜法を採用すると前処理のコストが高くつくためである。膜の透水能力は非常に低く、この点で蒸留法のほうが効果的である。しかし、発電所から排出される温かい海水を膜法の原料水に用いれば、冬季でも水温は10℃前後に達するため、逆浸透法も依然として良好な技術的・経済的効果を有している。

 海水淡水化産業で最も重要なのは設備製造業と淡水化プラントの建造技術であり、この分野における一国の技術レベルと競争力を表す。わが国はこの10数年で製造業の分野でめざましい発展を遂げ、海水半透膜および圧力容器の生産ラインを建造し、中には海外に輸出されたものもある(図2参照)。低圧膜(前処理および工業用水処理用)のメーカーはすでに数社あり、国際的に見ても先進レベルに達している。生産水量が日産1万トン級の蒸留法装置もすでに国内製造が始まっており、日量1千トン級の装置はすでにプラント化して輸出されている。中国の海水淡水化産業は基本的に確立されたと言えるが、大型・中型装置の設計能力や、エネルギーと淡水化のシステム工学、さらには大型装置の製造や開発能力などで依然として大きく遅れており、先進的な技術レベルに追いつくまでの道は長い。

図2

図2 わが国の逆浸透法・海水淡水化装置

 国の計画によれば、中国の海水淡水化産業では、海水淡水化だけに着目すれば、2020年までに生産能力は300 ×104t/dに達する見込みだが、これにかん水の淡水化および工業用水の除塩を加えると、海水淡水化技術による総生産能力は800 ×104~900 ×104t/dに達する可能性があり、これは米国の現在の淡水総生産能力に相当する。

 中国経済は持続的発展においてさまざまな資源不足問題に直面しているが、なかでも最も逼迫しているのは淡水資源である。関係筋の予測では、21世紀半ばまでにわが国は中進国の仲間入りをし、水使用量の節約を前提としても、今後30年余りで必要となる給水量は現在の総給水量の1.5倍となる。現有資源の調整だけでは、これほど大量のニーズに対応できないことは火を見るより明らかだ。

 このため、わが国の中で経済が発達し、人口が集中する東南部の沿海地域で新たな淡水資源を開発することは、上記問題の解決と国の壮大な発展目標の達成に非常に有効である。

 このほか、海水淡水化産業自体が設備製造業や国内外の工事建設・サービス業を包括するうえ、さまざまな分野の発展を牽引する大規模な産業体系であるため、国民経済の発展に占める位置と役割は過小評価できない。このことはすでに米国や日本、ヨーロッパなどの国々が証明している。

4 近年のわが科学研究グループの研究状況

 1970年代以降、天津市は水不足の影響を受け、工業・農業・生活用水のいずれも非常に逼迫している。国と関係当局の支援のもと、天津市膜技術・海水淡水化重点実験室は海水淡水化に関する一連の研究開発を行っている。

4.1 多段フラッシュ型装置

 図3は1970年代に開発した中国初の日量100トン級多段フラッシュ型装置のパイロット機である。これを土台に、1980年代には中国初の工業規模の海水淡水化多段フラッシュ型プラントを建造した(1機あたり3,000t/d)。運転に成功してから長年が経過しており、さまざまな面で性能は良好である(図4)。発電所のボイラに給水して淡水を生産するコストは、地表水を原料とした従来の方法に比べて約25%減少しており、莫大な経済効果を得ている。これはわが国にとってイノベーションであり、海水淡水化産業の発展に重大な影響をもたらすとともに、海水淡水化技術の中国初の工業面での実用は、同技術の発展と新たな淡水資源の開拓のモデルとなった。また、海水淡水化技術と発電所の融合として、事業例を示すものとなった。

図3

図3 パイロット型の日産100トン級多段フラッシュ型海水淡水化装置

図4

図4 発電所用の多段フラッシュ型海水淡水化装置(3000m3/d)

4.2 逆浸透法のエネルギー回収装置

 海水淡水化技術において膜法は急速に発展し、国内外で広く採用されたが、その主な理由は逆浸透法による淡水化のエネルギー消費が大幅に減少したためである。消費水量・電力の急速な減少に主に貢献したのは、高濃度塩水・余剰圧力エネルギー回収装置の発展と実用である。逆浸透法の通常の操作圧力は約6.5 MPaであるが、膜材料から排出される高濃度塩水の圧力も非常に高いため(上記の操作圧力をやや下回る程度)、圧力エネルギーの大きい高圧塩水が減圧バルブを透過して直接排出された場合、システム回収率40%で計算すると、余剰圧力の約60%が浪費されることになる。このため、エネルギー回収装置を利用して塩水の余剰圧力を効率よく利用すると、逆浸透法による海水淡水化システムのエネルギー消費を大幅に減らせることから、コスト圧縮の面で非常に重要である。

 中国が現在保有する逆浸透法エネルギー回収装置は、すべて米国企業2社の製品であり、他の国も基本的に同様である。現在、逆浸透法による海水淡水化システムの鍵となる設備投資では、膜、エネルギー回収装置、高圧ポンプが各約3分の1ずつを占める。

 天津大学は2000年以降、バルブ型の容積移送式エネルギー回収技術および装置の研究開発をいち早くスタートさせ、一連の発明で特許を獲得している。国の科学技術部の「第10次5ヵ年計画」、「第11次5ヵ年計画」および天津市科学技術委員会の資金援助を受け、中国初の知的財産権を持つ、日産100トン級および1000トン級のエネルギー回収装置の開発に成功した。各装置の回収効率は90%および93%である。図5は最近、開発に成功した1000トン級の並列型装置である。

図5 

図5 逆浸透法のエネルギー回収装置(日産1000トン級)

 当該プロジェクトの成功により、エネルギー回収装置が中国の海水淡水化分野において重要なハイテク製品となることが期待され、中国の逆浸透法設備のプラント化能力と技術レベルは向上するだろう。

4.3 海水淡水化の新技術・方法の研究

 海水の淡水化技術はすでに大規模に実用化されているとは言え、新たな淡水化方法やエネルギー技術、環境影響の低減、高濃度塩水の総合利用、コージェネレーションとシステム工学など、いずれの面でもさらに研究を要する課題があり、依然として大きなイノベーションが必要である。近年、われわれは以下の6分野で、国家科学技術部、国家自然科学基金委員会の重点基金および天津市科学技術委員会の資金援助を受けており、重要な研究成果を上げている。①露点蒸発淡水化技術および高濃度不活性ガス条件下の熱伝導研究②透過量の高い海水淡水化蒸留技術と高濃度塩水の利用技術の研究③低温多重効用蒸留装置および工学的設計④膜の新素材および製造技術の研究⑤自然冷凍による淡水化および工学的実用化の研究⑥電気脱塩(EDI)技術の研究。

5 結論

(1)水不足問題が中国経済の持続的発展を制約する要素となっている中、海水の淡水化は経済が発展し、人口が集中している沿海地域の重要な補充水源となる。

(2)過去10年間で、中国の海水淡水化産業は基本的に確立され、今後10年間で日産数百万トン規模の実現を目指す。淡水化技術の製造業も徐々に国際競争の重要な一角となりつつある。

(3)海水淡水化産業を理性的にとらえる。水不足問題の解決において、海水の淡水化は唯一の方法でなく、各条件下で異なる解決方法がある。新たな産業・市場の形成にはニーズ、研究、開発および普及のプロセスが必要であり、急速すぎる実用化や過度の投機は技術と市場の安定的発展にマイナスとなる。