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生物誘導によるロボット歩行制御に関する研究の進展

2011年10月20日

陳 啓軍

陳 啓軍(Chen Qijun):同済大学控制科学・工程系教授、
博士課程指導教員、同済大学電子・信息工程学院院長

1966年10月生まれ。1999年、同済大学電気工学系卒、博士号取得。ドイツUniversity of Hagen客員教授(2002)、米国UC Berkeley訪問学者(2008)、スイス・チューリッヒ工科大学訪問学者(2010)。主な研究分野は、知能ロボット及びそのシステム、組み込みシステム、ネットワーク化システム及びその応用等。編著書2冊、発表論文170本以上。上海市科学技術進歩賞の1等賞を1回、2等賞を2回、教育部科学技術進歩賞の1等賞を1回受賞。教育部新世紀優秀人材計画、上海市優秀学術リーダー計画、上海市曙光学者計画、上海市曙光跟蹤計画に入選。国務院政府特殊補助金を取得。現在は、全国専業標準化技術委員会委員、中国自動化学会理事、中国自動化学会集成自動化技術専業委員会副主任兼事務局長、中国自動化学会ロボット協議工作委員会常務委員、中国自動化学会智能自動専業委員会常務委員、中国人工智能学会智能製造専業委員会常務委員,中国人工智能学会智能ロボット専業委員会常務委員、上海市自動化学会理事,上海市自動化学会智能自動化専業委員会主任。

0. 序言

 歩行制御は、サービスロボットの実用に困難をもたらす核心及びキーポイントであり、長きにわたりロボット技術研究の重点及び難点となっている。現在は主に関節運動軌道に基づく設計方法が採用されているが、この開ループ制御方法には、次のように大きな限界がある。すなわち、(1)特定の材質でできた地面にしか適応できず、材質が変わったり地面が不規則である場合に歩行品質に著しい影響を与える。(2)一連の適切なパラメータを最適化するのに長い時間がかかる。一連の歩行モデルをあらかじめ設計し、環境に応じて歩行パラメータを切り換えるという方法が提示されたことがあるが、この方法では一定の改良があるとは言え、未知の環境下でロボットが歩行する上で遭遇するさまざまなモデルに完全に対応することはできないことから、依然として従来型のプログラミング作業機構で、ロボット適応歩行における根本的な問題を解決することはできない。

 歩行問題の解決には新たなメカニズムを模索し、「プランニング+プログラミング」という従来型のモデルを打破する必要がある。自然はヒトと動物に卓越した運動能力を与えている。動物の歩行・走行・遊泳・飛行には規則的な表現形式があり、高い安定性と環境適応性がある。動物の律動挙動は低次の神経中枢による自励挙動であり、脊髄または胸腹部神経節にある中枢パターン発生器(Central Pattern Generator, CPG)で制御されると生物学者たちは考える。CPGはニューロンで構成される振動ネットワークであり、ニューロン間の相互抑制を通じて安定した位相のインターロック関係を生じさせ、かつ、自励振動を通じて躯体関連部位を刺激して律動運動を生じさせることができる。CPG中の各ニューロン間のシナプス結合には可塑性があるため、CPGネットワークは多種の出力方式を表出し、様々な運動モデルを実現するよう動物を抑制する。

 生物界のこれら表現に基づき、ロボット分野の研究者たちは徐々にCPGの概念をロボットの運動制御に導入し始めた。動物の運動制御ネットワークを通じて、主にCPG、高次制御中枢及び反射調節ネットワーク等の生物システムについて工学的シミュレーションを行うことにより、より自然で、調和が取れ、環境適応性のあるロボットの運動を実現できる。CPGは一種の運動制御機構であり、その特徴は以下の通りである。すなわち、(1) 自励的に律動信号を生じることができる。CPGネットワークは、上位からの命令及び外部フィードバックがない状況下でも安定的な律動運動制御信号を自発的に発することができる一方、フィードバック及び上位からの命令はCPGの出力挙動を調節することができる。このため、CPGメカニズムをロボットの歩行制御に用いると、開ループ制御(例:平地での歩行制御)のみならず、フィードバック及び高次制御の下で閉ループ適応制御(例:複雑な環境での歩行制御)を行うことができる。(2) 分散制御。CPGネットワークはネットワークパラメータの調整を通じて、安定的で自然な複数回路の位相関係を同時に生じさせることができる。また、位相インターロックを通じてさまざまな出力モデルを実現できるため、ロボットの方向制御において多様な歩行態勢を実現できる。(3) 動態システムパラメータに基づき機構を調節する。CPG法では「神経システム-本体-環境システム」という動態システムを限定的なパラメータ内に凝縮し、パラメータの調節を通じて所期の出力特徴を得ることができるため、システム全体についてモデリングする必要がなく、複雑な運動学及び逆運動学的計算を回避することができる。

 CPG法のこれら特徴は歩行ロボットの歩行制御に非常によく適合する。CPGに基づく生物誘導による歩行制御方法の提示により、多くのロボットの環境適応的歩行の実現に新たな発想がもたらされた。本稿は、動物の歩行メカニズムをもとにCPGの生物学的研究の進展を紹介することで、一歩踏み込んで制御及び工学的視座からCPGの工学的シミュレーション及び工学的応用を系統立てて概観し、この生物誘導という方法のロボット歩行制御分野における研究の現状と問題を指摘する。

1. CPGの生物学的研究

 最も有名なCPGメカニズムの検証実験は、1911年にBrownが除脳ネコに対して実施した運動メカニズムの検証に遡る。Brownの研究によれば、ネコは脊髄を横切し、かかとの神経を切断した後も、くるぶしの伸筋及び屈筋は依然として交互に伸縮できるため、脊髄は歩行中枢と関係があると認識された。実験により、ネコの脚で発生する運動モデルは、正常なネコが自転車に乗って行う運動モデルに相似することがわかった。さらに重要なのは、車輪の回転速度が上昇し続けている間は、新たな速度に適応するべく、ネコも絶えず歩行姿勢を変換し続けていることである。このことから、脊髄にはある種の運動モデル発生機構が存在するうえ、大脳による制御を失っても、なお律動運動モデルを生じうることがわかる。Brownの実験により中枢制御学説が検証された後、1960~70年代に、多くの研究者はCPG神経電気回路とネットワーク構造の識別に力を注いだ。1966年にSkinによりCPGが動物の律動運動を制御する理論を明確に提示されると、GrillnerらはSkinの観点についてさらに考察したうえ、CPGには若干のニューロン又は小規模神経ネットワークが含まれ、適切な生理条件下で自律振動することを指摘した。現在のところ、多くの高等脊椎動物のCPG構造はなお完全には明らかにされていないが、大量の実験により、多くの無脊椎動物の胸腹部神経節及び脊椎動物の脊髄中にはCPGが存在することが証明されている。

 CPGの存在が証明されると、研究者たちはCPGの特徴に注目し始めた。生物学者はすでに、CPGは一連の介在ニューロンで構成された振動ユニットであり、CPGネットワーク全体は神経振動子と多重の反射フィードバック回路システムの連結により構成された複雑な分散型神経ネットワークであることを証明していた。CPGネットワークは自励的に律動信号を発生できるとは言え、CPGを構成する神経ネットワーク構造とシナプス強度の変化は、脊髄より上位の構造、例えば中脳、脳橋、視床下部の歩行運動野、小脳及び脳幹のある部分に伝達される情報により制御される。また、CPGに対する外部情報による影響については、大量の実験及び文献により立証されている。Delcomynによれば、CPGは高次制御信号及び外部フィードバックのない状況下でも、安定した振動挙動を自律的に発生するが、高次制御信号及び外部フィードバックはCPGを調節し、安定させる作用がある。Masakazuによれば、CPGの振動挙動は外部入力信号と連合でき、出力は入力信号の振幅、周波数及び多数の入力間の位相関係により決定される。Selverstonらによれば、CPGの挙動はネットワークの集合的挙動であり、すなわちCPG中の各振動子には各々の振動周波数があるが、CPGネットワークの挙動は統合性を表現し、同一周波数により振動することができる。Drewは、神経生理学及び生物機械学の面からCPGメカニズムについて概観し、次のように結論づけた。すなわち、(1)動物の体内にはCPGネットワークが存在する。(2)CPGネットワークは多数の相互に連結するユニットから構成され、一つまたは多数のユニットを用いてある種の自由度を制御でき、これによって運動の柔軟性を保証することができる。(3)CPGネットワークは独立的に律動信号を発生できる一方で、動物の高次神経中枢及び環境フィードバック情報によりネットワークの出力を制御することができる。

2. CPGの工学的シミュレーションと特性分析

 制御の観点から見れば、動物の歩行制御ネットワークはフィードフォワードにフィードバックを加えた制御システムと見なすことができる。大脳、小脳、脳幹等の上位中枢による制御命令はフィードフォワード制御作用を果たして運動の開始を制御し、身体の感覚受容器の情報はフィードバック制御信号として調節及び安定化の役割を果たす。工学的観点から見れば、CPG神経電気回路は一連の相互に連結した振動子により構成される分散型システムと見なすことができ、位相連合の実現により律動信号の発生を実現し、振動子間の連結関係を変えることで異なる位相関係を持つ時空配列信号を生じさせ、さまざまな運動モデルを実現できる。この分散制御機構はロボットの歩行制御に非常によく適合するため、工学的シミュレーションCPGによる神経回路及び制御機構のロボットへの応用は科学界で注目を集めるテーマとなり、ロボットの歩行制御に新たな制御方法を提供した。

2.1 CPGの工学モデルの紹介

2.1.1 ニューロンに基づくCPGモデル

 ニューロンモデルの研究は、ニューロンの電気生理学的な動態特徴に対する研究に端を発する。最も有名なモデルはHodgkin及びHuxleyの提示したH-Hモデルである。H-Hモデルには多数のパラメータが含まれ、それぞれのパラメータはすべて、細胞膜に固有の特徴または外部の物理環境と対応する。モデルに含まれるパラメータの変化に応じ、H-Hモデルではさまざまな性質の動態挙動、例えば周期的に連続動作する電位等を表現することができる。多くの研究者はH-Hモデルのこの特性に基づき、非線形動力学システムの理論を利用してH-Hモデルの動態特徴を分析し、さらにはCPGユニットを用いて動物の運動メカニズムを研究した。この種のニューロンモデルの安定性解析、分岐解析及び制御に関する文献も大量に発表され、この後、H-Hモデルを基礎に関連研究を行う研究者が相次いで登場した。FitzHugh及びNagumoは、H-H四要素モデルを二要素に簡略化し、有名なFitzHugh-Nagumoモデルを発表した。

 ドレイン積分器は、モデルがシンプルであり、ニューロンの挙動を基本的に描写できるため、ニューロンのシミュレーションによく利用される。しかし、ドレイン積分器モデルではニューロンの疲労及び自己抑制特徴をシミュレートできないため、多くの研究者はドレイン積分器の微分方程式を改良した後にニューロンをシミュレートする。比較的有名なモデルは日本人研究者のMatsuokaが発表した振動子モデルであり、このモデルはドレイン積分器の微分方程式にニューロンの疲労特性をシミュレートした適応項を加えている。Matsuokaはこのモデルの動態特性及び周波数、モデル生成機構を詳しく分析し、適応項が持続的な振動の発生に大きく作用することを指摘し、この数学モデルはCPGの生物学的特性を比較的良好にシミュレートできることを証明した。MatsuokaモデルはすでにCPGの研究及びロボットの歩行制御に広く応用されている。KimuraらはMatsuokaモデルを改良し、2つのニューロンの相互抑制により構成される振動子を採用した。2つのニューロンはそれぞれ動物の屈筋及び伸筋により制御されるニューロンに相応し、2つのニューロンの出力を相互に減じることで振動子の出力とした。このような出力はプラスマイナスの値を有する。

 ニューロンの振動に基づくCPGモデルの生物学的意義は比較的明確であり、特にMatsuokaモデルはCPGの生物学的特性を非常によく表現する。環境からのフィードバック情報と高次制御情報はこの種のモデルで非常によく連結する。例えば、Matsuokaモデルではフィードバック項及び高次刺激信号を利用してCPGの出力を制御する。この種のモデルの実用上の問題は、パラメータ設計及びネットワークの特徴解析が比較的複雑な点にある。

2.1.2 非線形発振器に基づくモデル

 動物の律動運動の主な特性は周期性にあるため、CPGモデルの主な役割は周期的な振動信号を発信することにある。この特徴に基づき、周期的な振動を発生できる振動子がCPGのシミュレーションに広く用いられる。例えば、位相振動子Kuramotoモデルは、さまざまな同期出力モデルを提示することができる。多数の相互に連結したKuramoto振動素子については、連結強度が比較的小さい場合にシステムは統合性を欠くが、連結強度が比較的大きな値に達すると一定数のKuramoto振動素子に同期現象が現れる。Kuramotoモデルに基づき設計されたCPGネットワークは、主にこの同期特性を利用している。Hopf高調波振動子モデルもCPGモデルによく利用されるが、その主な長所は出力信号の振幅と周波数を容易に制御できる点にある。VDP及びRayleigh振動子は2種類の非常に似た弛緩振動子で、豊富な波形の信号を発生させ、動物の歩行に要求される制御信号により相似させることができるため、研究者たちの注目を集めている。連結後のVDP及びRayleigh振動子はパラメータの調整を通じてさまざまなリミットサイクル形式を実現できるため、CPGユニットモデルに用いるとさまざまなモデル制御を実現できる。

 リミットサイクル特性を有する振動子をCPGユニットとして用いるのは、CPGのシミュレーションで現在よく用いられている方法である。主に全体の特性から考慮して振動子の連結方式を検討し、システムパラメータを調整することでネットワークの出力を動物のCPGネットワークの全体的な出力特性に近づける。その長所は、位相構造の調整により比較的容易にさまざまな出力モデルを実現できる点にあり、設定すべきパラメータが総体的に少なく、モデルも比較的成熟している点にある。しかし、このシミュレーション方式はニューロンに基づいたCPGシミュレーション方式に比べ、生物学的意義及び指導が欠乏するという欠点がある。

2.2 CPG工学モデル特徴分析

 生物のCPG神経電気回路の挙動を工学的にシミュレートすることで、工学的モデルをロボット工学に応用するには、工学的モデルの特性分析が必要なだけでなく、各モデルのパラメータの出力に対する影響の傾向とモデルが安定作動状態を生じる条件を理解する必要があるうえに、CPGネットワーク全体の構築方式を研究する必要がある。ネットワークの構築については、現時点では標準となる方法はない。設計時には、一般に次の点を考慮する必要がある。

  1. ユニットモデル。主にモデリング方式及びユニット数を考慮する。
  2. ネットワークの位相構造。主にCPGの連結方式、位相構造の設計、CPGユニットの出力信号の同期の保証を考慮し、かつ、一定の位相差を維持し、さまざまな歩行態勢モデルを発生させる。
  3. パラメータの影響。モデルのパラメータ及び外部入力信号のパラメータの影響である。システム全体の出力に対するパラメータの影響及びパラメータをいかに設計してシステムを安定作動状態に置くかを検討する。
  4. フィードバック信号のアクセス方式。環境フィードバック情報をどのように連結するかについては、現時点では準拠すべき一定の規則は存在しない。

 CPG法の難点は、以上の各要素が相互に連結するため、それぞれの影響を総合的に考慮しなければならない点にある。ネットワーク全体の微分方程式には非線形かつ強連結・高次元という特徴があり、現時点では理想的な分析方法は存在しない。現在、工学的に採用されている分析方法は主に暗探法、進化的アルゴリズム及びコンピュータ・シミュレーション法である。工学的に応用する際、以上いくつかの方法は必要に応じて組み合わせて応用してよい。例えば、まずはコンピュータ・シミュレーション法でパラメータの大まかな範囲を得て、得られた範囲に基づき今度は進化的アルゴリズムを利用してパラメータを最適化し、その後パラメータを実際に応用する際は制御効果に応じて局部的にパラメータを調整し、最終的にロボットの制御要求を満たす。

3. ロボット歩行制御におけるCPGの採用

 CPG制御の基本概念は、ロボットの関節の位置、力/モーメントまたは速度等の制御信号としてCPG出力信号を利用することにあり、多数のCPGユニットで構成されるCPGネットワークはロボットの多関節協調を制御することができる。CPGネットワークは位相インターロックを経てさまざま種類の安定的かつ自然な位相関係を発生することができ、多くの関節を協調的に運動させることで、さまざまな運動モデルを実現する。また、CPGネットワークは各種センサの信号にアクセスしやすく、環境情報を提供し、制御ストラテジーの環境適応性を向上させる。さらに、このテーマは生物学、神経生理学、認知神経科学、生体工学、ロボット学等の多数の分野にまたがる探究的な研究であり、ロボットの歩行制御に新たな理論と方法を提供すると同時に、生物型ロボットの研究を通じ、翻って動物の運動制御メカニズムを理解することができる。

 CPGの工学的応用は主に1990年代以降に始まった。この分野の主な研究ポイントは基本歩行姿勢の発生、歩行姿勢の転換及び環境適応型歩行制御に集中した。ロボットの関節制御へのCPG法の採用に際し、いかにCPGを使用するかについては、現時点では主に次の2種類の方法がある。一つ目は、CPGを各関節に配分し、各ユニット間が相互に抑制することでCPGネットワークを形成し、抑制加重平均の設計を通じてさまざまな運動モデルを生じることができる。これが比較的よく利用される分散制御方法である。二つ目はCPGをロボットの歩行プロセスで周期性変化を持つ法則や歩行姿勢の変化を反映できる固有値に配分することで、外部刺激がこの変数に直接影響を与え、環境適応型運動モデルを発生する方法である。例えば、CPGでロボットの足裏軌道を制御し、その足裏軌道をもとに関節制御信号を逆運動学により得れば、外部刺激は適時に足裏軌道に反映されるため、環境に適応する関節制御信号を得ることができ、環境適応型歩行の目的を達成できる。

 スイス連邦工科大学ローザンヌ校のIjspeertら研究チームはイモリの運動メカニズムについて研究及びシミュレーションを行い、イモリの生物機械モデル及び神経制御モデルを構築し、水陸両用運動方式を実現できるロボットsalamanderを設計した。CPGに基づき設計した制御システムによりイモリの遊泳、爬行の2種類の運動方式を実現でき、直流入力信号の変更によりsalamanderの運動の速度、方向、歩行姿勢を変更できる。チューリッヒ工科大学はヘビ型ロボットWormBotを開発し、主に分散制御システムを利用して多数の自由度を協調させ、制御した。CPGメカニズムのsalamanderロボット及びヘビ形ロボットにおける応用の成功は、生物誘導メカニズムによる歩行ロボットの歩行制御研究に基礎を築いた。4足歩行ロボットにおけるCPG法の研究成果は非常に顕著で、なかでもKimura研究グループの貢献は非常に大きい。Kimuraらは1994年からCPGの制御ストラテジーに基づき、動物のCPG律動運動制御ネットワークと伸展反射、屈筋反射、姿勢反射等のメカニズムと組み合わせることで4足歩行ロボットの複雑な地形条件下での動態歩行を実現した。制御ネットワークの設計において、CPGネットワークはMatsuokaモデルを採用して構築し、基本律動運動ジェネレータとした。CPGの出力をロボットのモーメントまたは位相制御信号と見なし、かつ、システムに関節角、姿勢角等のフィードバック情報を導入して、CPGとフィードバック・ネットワークとの相互連結を実現し、環境適応型歩行制御を実現した。近年、CPGに基づくヒト型ロボットの研究も多くの研究者に重視されている。Tagaらが構築した「神経-筋肉-骨格」のヒトの2足歩行モデルはヒト型ロボットの研究に大きく貢献した。また、運動の出力は神経制御システム、「筋肉-骨格」システム及び環境の3者間の相互関係の結果、律動運動は一つの総合的なリミットサイクルの形式でシステム全体に伝導されることを指摘した。Tagaのヒトの2足歩行モデルはヒトの2足歩行の制御機構を基本的に表現でき、2足ロボットの発展に基礎を築いた。

 同済大学ロボット・知的システム実験室は近年、生物誘導方法により、ロボットの未知の環境下での適応歩行の問題解決を模索しはじめた。主な研究成果は以下のとおり。すなわち、(1)CPGネットワークを構築し、2足及び4足歩行ロボットの多様なモードにおける歩行制御及び歩行姿勢の間の相互転換を実現した。(2)CPG出力を直接関節制御信号に用いる際に生じる弊害を解決するために、筋肉の記憶効果メカニズムとCPGが相互に融合する制御ストラテジーの導入を提起した。すなわちCPG出力は同期信号としてのみ利用し、実際の制御信号は別のユニットの振動子のオンライン学習により完成させることで、関節の制御精度が低いという問題を完全に解決し、かつ、フィードバックの導入をしやすくした。(3)CPG-ZMP混合に基づく制御方法を研究した。シンプルなCPG制御ではロボットの歩行プロセスにおける重心変化の問題を解決するのは非常に難しい。このため、ZMP方法とCPG方法の長所をよく組合せ、CPGを利用してロボットの重心軌道をプランニングし、かつ、ZMPを利用して制御システムの最適パラメータを最適化することで、最終的にロボットの安定歩行を実現する。(4)CPG及び運動学の混合制御に基づく方法を研究した。関節運動軌道の設計方法とCPG法の長所をよく結合させ、CPGの出力信号を位相変調信号として利用してロボットの脚部運動の立脚相と遊脚相の時間を変調させることで特定の環境、たとえば坂や階段面の歩行等に適応させるという目的を達成する。

4. 生物誘導方法の研究の方向

(1)動物の歩行制御メカニズムの研究

 Ijspeertは論文の中で、生物を模倣した制御メカニズムによる動物の歩行制御研究は生物学の研究成果を基礎としており、同時に生物学の発見を検証する手段とすることもできるため、両者の発展は相互に影響するものであることを指摘している。生物誘導方法によるロボットの歩行制御は多分野から相互に伸展した探究テーマであり、検討すべき未知の分野が多く存在する。また、現在の研究は主に動物の歩行メカニズムの部分的な複製に過ぎず、動物の歩行メカニズムをさらに形象的シミュレートするためには、高次制御中枢及び外部反射回路等を含む歩行制御システム全体をシミュレート・応用して初めて、動物の適応型歩行を複製できる可能性がある。現在、生物誘導方法には完全な理論体系はなく、各モジュールのモデリング方式にも標準的な方法は形成されていない。関連性のある学際分野の発展に伴い、生物メカニズムの誘導による制御方法はさらなる研究が待たれる。

(2)機械電気システムにおける制約及び制限

 シミュレーション実験段階では、ロボット本体の機械及び電気特性による制限が常に軽視されるが、これもシミュレーション実験結果と実際の実験結果の間で誤差が生じる原因の一つである。ロボットの機械本体の運動に対する影響は非常に大きく、制御ネットワークと機械システムの間には非線形連結が存在し、制御システムの特性と機械システムの動態特性は相互に影響しあう。さらには、生物型ロボット本体と有機生物体には本質的な違いが存在する。目下、ロボットの関節はすべて電気機械システムにより制御されるが、生物の関節は電気機械によるものではなく、筋肉の収縮により運動する。このような人工筋肉の研究により、合理的な機械構造を設計することは、生物誘導による制御方法を保証するハード面での基礎となる。この面に対する関心が現時点では比較的薄いことが生物誘導による制御方法の制約となっている。

(3)特定の制御信号を発信する方法

 工学上、CPGの出力信号は一般的に関節の角度またはモーメントを制御するのに用いられる。ある種の応用、例えば、ヘビ型機械の全身爬行は、基本的な正弦波または疑似正弦波出力により要求を満たすことができるかもしれないが、ロボットの歩行のような技巧要求の高い運動については、関節の制御は正弦波信号だけでは完了しない。このため、いかにCPGの発信する特定の制御信号またはCPG位相インターロック情報を通じて、特定の制御信号と互いに連結させるかが非常に重要な一歩であり、さもなければロボット歩行の柔軟性の実現は非常に難しい。

(4)システムの特性分析

 制御ネットワーク、ロボット及び環境を含むシステム全体の動態特性分析は複雑な問題であり、適切な制御信号を発信できるか否かに関係する、解決の待たれる重要な問題である。制御ネットワークの非線形特性及びロボットの複数剛体システムの動態特性の複雑さにより、パラメータを設定してシステムを安定作動状態におくのは比較的困難であり、現時点ではまだ広く認定された工学的解決方法はない。CPG法で解決されるべき重要な問題はパラメータの設定により適切な制御信号を発信することであるため、系統的かつ汎用性のあるパラメータの設定方法についての研究が急務である。

(5)環境情報の融合メカニズム

 CPGは自発的に出力信号を発信できるため、従来型の人工プランニング・設計方法に比べてフィードバックへの依存がやや少ない。このこともCPG法の長所となっている。現在、多くの研究は往々にして動物の歩行メカニズムの部分的シミュレーションに過ぎず、真の生物誘導による制御を実現しようとしている。従来の方法に比べ、生物誘導方法の最大の長所は環境適応性であるため、われわれは歩行メカニズムに適用する制御ネットワークに基づくシミュレーションに関心を寄せるべきである。CPG制御をベースに、動物の高次制御モジュールと環境との融合情報及びロボット本体の情報のフィードバックモジュールを追加して初めて、歩行メカニズムの複製を真に実現できる。現時点では、各モジュールのモデリング及び融合方式には規範となるルールは存在しない。

5. 結論

 制御の複製は、ロボット生体工学研究の重要な一面である。本稿はCPGに基づく生物誘導制御方法に注目し、CPGの生物学的メカニズム及び工学的シミュレーション、ならびにロボット歩行制御における応用の現状を系統立てて紹介したうえで、問題と研究の方向性を指摘した。動物のCPG歩行メカニズムは、ロボットの歩行制御に新たな理論と方法を提供し、ロボットの運動性能及び環境適応性を向上する一方、この研究には学際的で統合的な特徴があるため、CPGメカニズムに基づいたロボット歩行制御方法の研究は、翻って他の学問分野の発展についても促進作用をもたらす。


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