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情報科学技術の長期的傾向及びわが国の戦略的方向性

2011年10月25日

李国傑

李国傑(Li Guojie):
中国科学院計算技術研究所所長、研究員、中国工程院院士

1943年5月生まれ。1968年、北京大学卒業。1981年、中国科学院工学修士。1985年、米国パデュー大学博士号取得。1987年に帰国し、中国科学院計算技術研究所に就職、1989年に研究員に就任。1990年、国家智能コンピュータ研究開発センター主任。1999年12月、中国科学院計算技術研究所所長。主にコンピュータシステム構造、並列アルゴリズム、人工知能、コンピュータネットワーク等の研究に従事。発表論文100本以上、英文専門書を4冊共著。論文集「創新求実録」を出版。曙光1号並列コンピュータ、曙光1000大規模並列マシン、曙光2000/曙光3000スーパーサーバーの開発を主宰。曙光4000スーパーサーバー、曙光5000A高效能コンピュータの開発を主導。このうち、曙光1000は1996年の中国科学院科学技術進歩特別賞と1997年の国家科学技術進歩一等賞を獲得。中国科学院計算技術研究所が開発に成功した高性能なLoongson汎用CPUの開発を主導。現在曙光公司董事長、中国コンピュータ学会理事長、国家情報化専門家コンサルティング委員会の情報技術・新興産業専門委員会副主任、英文学術誌「Journal of Computer Science and Technology」編集長、中国科学院学位委員会副主席、中国科学技術大学コンピュータ学院院長等を兼務。

1 情報科学技術に対する認識の変化

 半世紀余りにわたる研究と実践を経て、情報科学技術に対する科学技術界の認識に大きな変化が生まれた。新しい認識には以下の点がある。

1.1 情報科学技術の内包重視から外延重視への転換

 コンピュータ科学は現代の科学体系の重要な基盤の一つである。この数十年で情報技術は急速に発展し、広く普及している。今では、情報は最も活発な生産要素及び戦略的資源となっており、情報技術は人類の生産方式、認識様式及び社会生活様式に強い影響を与え、情報技術とその実用レベルは一つの国の総合的な競争力を測る重要な指標となっている。情報科学技術は典型的な汎用技術であり、数学、物理学、化学、天文学、地学、生物学と平行する学問分野であるだけでなく、多くの学問と関連性を持つとともにほとんどすべての学問をバックアップしており、もはや情報収集、保存、処理を主とする単独の学問にとどまらず、社会、健康、エネルギー、材料等の他の分野と緊密な関係を持つに至っている。21世纪の情報分野はまるでエネルギー分野のように、その外延には多くの学問分野がある。

 21世纪の情報技術の新たな発展の方向性には、次の点がある。すなわち、エンジニアリングによる規模の効率を引き続き拡大するとともに、情報技術の多様性、開放性及び個性化をより重視し、情報技術の恩恵がさらに一般に行きわたるようにすること。情報技術の市場競争力と経済効率を重視するとともに、生態系と環境への影響をさらに重視し、限りある自然資源と無限の知的資源の共有、共存と持続的利用を模索すること。周辺社会に対する認識とその改善を重視するとともに、医学と人類の健康に関係する情報科学技術をより重視すること。生産力を決定づける要素として技術を重視するとともに、特にナノテクノロジー、生命科学及び認識科学等との学際的研究において、情報科学による研究的模索をより重視すること。そして、科学と技術の緊密な融合を引き続き重視するとともに、情報技術と人文・芸術分野との融合、さらには情報技術の倫理道徳面での研究と情報技術の社会的影響面における法的管理・監督をより重視することである。

1.2 「狭義の道具論」から「計算的思考」への転換

 長い間、コンピュータと情報ネットワークはハイテクな道具と見なされ、情報科学技術も専門性の非常に高い道具を研究する学問としてその立場を確立してきたが、このような社会認識はネガティブな「狭義の道具論」を導きがちである。情報科学技術の普及により、社会全体に「計算的思考」(Computational Thinking)が広まった。これは一種のユビキタス的な思考で、各人の基本技能である。計算的思考ではすべてのことは計算可能であると考え、物理界に始まり人類社会、果ては知的活動まですべてはシミュレーションでき、すべては計算のある種の形式として認識できることを強調する。米国カーネギーメロン大学の周以真(Jeannette M. Wing)教授によれば、計算的思考とは概念的思考でありルーティン的思考ではなく、ヒトの思考でありコンピュータの思考ではなく、数学とエンジニアリングが相補的に融合した思考であって純数学的思考ではなく、すべての人を対象とした思考法であり、コンピュータ科学者だけの思考にとどまらない。

1.3 「ヒトと機械の共生」から3次元モデルに基づく新たな情報世界観への転換

 現在使われている情報システムの多くは依然として40年余り前に提起された「人と機械の共生」という思想に基づいているが、今日の情報社会は1人1台で構成され、分業体制が明確な「人と機械の共生」システムとはすでにかけ離れ、複数の人が複数の機械を扱い、複数のモノにより構成される動態的・開放的なネットワーク社会となっている。すなわち、物的世界、情報の世界、人類社会により3次元的な世界が構成されており、これが新たな情報世界観を形成している。

 この劇的な変化が情報科学に本質的な変化をもたらした。情報科学は人・機械・モノで構成される社会の情報処理プロセスを研究する必要がある。われわれは次の基本的な問題に答えなければならない。WWW(World Wide Web)はコンピュータシステムと見なすことができるか。WWWの計算可能性とは何か。「モノのインターネット」(モノのインターネット。中国版ユビキタスネットワークのこと)とマッチするコンピュータの命令セットとは何か。人・機械・モノ社会において「計算」はいかに定義されるべきか。それはチューリングマシンに過ぎないのか、等の問題がある。人・機械・モノの3次元的世界における計算問題を研究するには、従来の計算科学に基づく集中的仮説や当初仮説の確定、機械による仮説の再現、精密な結果に基づく仮説のいずれにもブレイクスルーが必要であり、チューリングマシンモデルで突破できなかった概念を変える必要がある。

 現在、主流となっているコンピュータ科学の教科書によれば、チューリングマシンでできないことは将来のコンピュータにもできない。実際、チューリングマシンモデルは計算を入力から出力に至るまでの関数と見なし、終わりのない計算には意味がないと考える。しかし、ネットワーク環境においては、計算そのもの(プロセス)は、外界と絶えずインタラクションを取る中で指定された計算ミッションを完了させる。この種のインタラクティブな並列計算に対しては、従来の「関数」に基づく計算理論では太刀打ちできない。実際の並列システムの設計と分析に対し、堅実な理論的基盤をいかに提供していくかが今後数十年間、コンピュータ科学が直面する大きな試練となっている。アルゴリズムの研究の重点は、単一アルゴリズムの設計・分析から複数のアルゴリズムによるインタラクション及びシナジー効果に移るだろう。

1.4 情報科学技術の重点的研究分野の転換

 長い間、情報科学技術研究の主な目標は情報機器とシステム性能の向上にあった。ムーアの法則の示した研究方向は主に半導体チップの集積度を引き上げることによりクロック周波数と性能を高めることにあった。現在、CMOSデバイスのクロック周波数の向上には消費電力の制約があり、メーカーがノルマ以上の利益を追求するため、ユーザーに絶えずバージョンアップ製品を購入させるような状況には変化が訪れるだろう。今後、情報技術の発展で主に注力すべき方向は電力消費、コスト及び体積(専有面積)の低減と使いやすさ、効率及び性能の向上である(図1参照)。すなわち、図1の左下から右上の方向に向かうことになろう。

図1

図1 情報科学技術の研究方向の変化

2 大きなブレイクスルーに直面する情報科学技術

2.1 情報科学技術が直面する新たな革命

 これまでの数十年間、情報技術は長らく情報科学の先頭を走ってきた。旧ソ連の経済学者コンドラチェフが主張した経済の長期波動理論に基づけば、21世紀前半に情報科学はブレイクスルー的な発展を見せ、後半には科学のブレイクスルーに基づく新たな情報技術革命が起きるものとわれわれは予測する(図2参照)。

図2

図2 20~21世纪の情報科学及び技術の発展傾向

 中国科学院情報領域戦略研究グループが1年余りの戦略的研究を経て得た基本的な判断は次のとおり。

  1. 情報技術は、半世紀間にわたる急速な発展の後、量の拡大と改良だけが主となるような機械や電力技術に代表される従来型の産業技術とは異なり、新たな情報科学革命に直面することになるだろう。21世紀全体を通じて、情報科学と技術はバイオテクノロジー、ナノテクノロジー、認知科学等の技術と融合して活力を発揮し続け、国民経済の発展を下支えまたは牽引し続け、人々の生活様式を変えるだろう。
  2. 集積回路、高機能コンピュータ、インターネットまたはメモリのいずれも、2020年ごろに既存技術の延長線だけでは越えがたい障害(情報技術の壁)にぶつかるだろう。このことは、重大な科学的問題の発見と原理的なブレイクスルーの可能性をはらんでいる。いわゆる情報技術の壁とは、並列化と拡張可能性における困難、情報処理における高い電力消費、そして複雑な情報システムの安全性に対しては信頼性が低いことにある。

 2020年ごろにはムーアの法則はもはや効力を失うだろう。集積回路は現在まさに「ポスト・ムーア時代」に突入し始めているため、われわれも「Beyond CMOS」からより多くの新しい活路を見いださなければならない。コンピュータも徐々に「ポスト・PC」時代に突入し始めているため、端末装置も「高価で大型で全体を網羅するもの」から「安価で小型で個別化」に向けて転換し、電力消費の低減が主な目標となるだろう。2020年以降は、スーパーコンピュータの「千倍の法則」がもはや効力を失い、既存技術を基盤に改良が加えられるだけとなるため、2030年までにZettaflops級(1021 flops)のコンピュータを造り出すことはできないだろう。「ポストIP」時代への突入は発展において避けられないプロセスであり、TCP/IPプロトコルの限界を真の意味で突破するには15~20年の時間が必要となろう。

 情報技術は次の3つの面で革命的なブレイクスルーが必要となる。一つ目には拡張性であり、億オーダー、さらには百億オーダー、千億オーダーの並列性にまで拡張でき数十億のユーザーに恩恵が及ぶこと。二つ目には低電力消費性であり、エネルギー効率値(performance-to-power ratio)を数オーダー引き上げる必要がある。そして三つ目には信頼性・安全性であり、自動検知、自動診断、自動修復が可能な信頼性の高いシステム(図3参照)の開発に力を入れなければならない。

図3

図3 情報分野で重点的に突破すべき3つの方向性

2.2 10~15年間の戦略的チャンス

 上記の分析に基づき、情報分野の科学技術者は2020年までに「情報技術の壁」を攻略する中核的技術を積極的に模索し、情報システムの拡張性、低電力消費、安全性及び使い勝手のよさなどの難題を重点的に解決する必要があるとわれわれは考える。2020年以降にどのような技術が新たな主流となるかは徐々に明らかになるだろう。2020年~2035年は情報技術にとって天地が入れ替わるほどの大変革期となり、2035年~2050年には科学的発展観に見合う新たな情報ネットワークシステムが徐々に形成されるだろう。

 このような結論はわれわれに重要な啓示をもたらす。すなわち、歴史がわれわれに与えたまたとないチャンスは、今からたった10~15年しかない。この15年を逃すと、わが国では21世紀前半までの情報産業大国化の実現は難しくなり、近代化の道筋にも不利な影響をもたらすだろう。

3 U社会とネットワーク科学技術の発展

3.1 「どこでも、誰でも恩恵が受けられる情報ネットワークシステム」の構築

 わが国の2010年~2050年までの情報科学技術発展の全体目標は、情報技術の飛躍的変化というチャンスをつかみ、自主イノベーションと持続可能な発展能力を向上させ、国全体の情報社会化を実現すること、ならびに殆どの中国人が情報ユーザーとなり、情報を中国経済と社会の発展における最も重要な資源とし、社会全体の情報化レベルを海外の先進国に近づけることである。

 情報社会の発展は大きくe社会とu社会の2つの段階に分けられる。e社会は情報社会の低次段階であり、u社会は高次段階である。2020年までに、わが国は情報社会の実現に向けて確固たる基盤を固める必要があり、これをe社会と言う。2020年以降の目標はu社会への移行である。Uには3つの意味がある。一つ目はUniversal、すなわち全国民に普及し、恩恵を与えることであり、二つ目はUser-Oriented及びUser-Centric、すなわちユーザー志向またはユーザー中心という考え方で、三つ目はUbiquitous、すなわちどこでもネットワーク通信及びサービスを受けられることである。

 これからの数十年間、わが国の情報科学技術の発展における全体目標とミッションは「どこでも、誰でも恩恵が受けられる情報ネットワークシステム」の構築にあり、その略称はU-INSシステム(Universal, User-oriented, Ubiquitous Information Network Systems)である。U-INSシステムには次の6つの内容がある。すなわち、(1)革命的な情報機器及びシステムを持つこと、(2)一般民衆向けで、すべての人に恩恵を与えるネットワークシステムであること、(3)安全で信頼性が高く、個別化したネットワークサービス技術であること、(4)産業のレベルアップとデジタル知識産業の発展の下支え、(5)ネットワーク科学及び新たな情報科学、(6)国と社会情報ネットワークの安全システムである。以上の体系は、21世紀前半にわが国が全面的に情報社会化する上で重要な戦略的需要を示すもので、情報分野で重点的に発展させるべき科学技術をも含んでいる。わが国は今後40年間、すべての人に恩恵を与え、ユーザーを中心とし、いつでもどこでもサービスが受けられる情報ネットワークシステムに強く注目し、積極的に発展させる。

3.2 21世纪におけるネットワーク科学技術の变革

 20世紀のシステム理論、情報理論及びサイバネティックスの発展を受け継ぎ、21世紀には新たなネットワーク理論(Net Theory)が打ち出された。この理論はネットワーク全体を一つの複雑かつ巨大なシステムと見なしてその法則を見出すことで、ネットワークの発展と普及に計り知れない影響をもたらすだろう。インターネットを設計した人物は歴史上に存在するわけではなく、Internetは自ら進化して出現(emerge)したものである。今後、ネットワークは必ずやネットワークに対する深い理解の上に構築される必要がある。そのためには、ネットワークのプロトコル層を理解する必要があるだけでなく、ネットワークの動力学的挙動や制御性、安全性、ロバスト性及び進化の法則も理解する必要がある。

 現時点で、ネットワーク分野での引用率が最も高い論文6本のうち4本はScience、Nature及びReviews of Modern Physics誌に掲載されており、いずれもネットワーク分野の学術誌ではない。有名なScale Free ModelはInternetの実際の状況にまったく適合しない。真のネットワーク科学を発展させるには、Network Science Community 及び Network Research Communityで互いに交流するしかネットワークに対する正確な認識を得る方法はない。ネットワーク科学は人・機械・モノという3次元的世界におけるネットワーク共生の法則を研究し、モデルと計算理論を表現する新興分野であり、経済、社会などの情報科学と関連性のある分野が直面する科学的問題をカバーする。ネットワーク科学は、ネットワーク情報理論の新たな概念及び新たな理論体系の発展を打ち出すだろう。

 FIND(Future Internet Design)計画はアメリカ国立科学財団(NSF)ネットワーク技術及びシステム研究計画(NeTS Research Program)における長期研究に関する新たな提案である。FINDは15年後の世界のネットワークの需要はいかなるものかを検討するために学術界を招請し、ネットワークの現状という制限を離れて普遍的な心理で未来を構想することを求め、主に次の5つの問題に注力することとした。

  • ネットワークにパケット交換を採用し続けることの是非
  • エンドツーエンド原理の変更の是非(エンドツーエンド原理の提唱者、Clark 教授は2009年の第1回FINDワーキングミーティングで、E2E原理をtrust-to-trust原理に改めることを提案した。すなわち、適応するインテリ機能は必ずしも端末にではなく、任務を全うできることが充分に信頼できる装置におけばよいとする考え方である。)
  • ルーターとパケット転送を分けることの是非
  • 輻輳制御と資源管理の問題
  • ユーザー識別とルーターの問題

 これらの内容はインターネットの根本原則に関係する。FINDプロジェクトの研究内容はわれわれに深い啓発を与える。すなわち、情報分野の科学研究は現行プラットフォームの補修にとどまらずに果敢に挑戦し、革命的な技術によるモデルチェンジを検討しなければならない。

 FINDの設計は他のエンジニアリングデザインと異なり、具体的なターゲットのある人工物の設計と違って環境の設計であり、われわれの希望を引き出すようなネットワーク製品及びサービスである必要がある。このため、われわれはまだ予測されていない、今後変化する新たな理論に順応する必要がある。

3.3 ユビキタスなセンサネットワークと「モノのインターネット」

 センサネットワークはデジタル世界と物的世界の架け橋であり、物的世界における情報収集と処理を主に実現するものをサイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System, CPS)または「モノのインターネット」という。これはデジタル世界と物的世界の相互ネットワークシステムであり、主な機能は監視と制御である。センサネットワークとサイバーフィジカルシステム研究の重なり合う部分は大きいが重点は異なる。前者の重点はセンシングとネットワークにあり、後者は計算と制御に重きをおき、いずれも将来のユビキタスネットワークにおける重要な要素である。センサネットワークとモノのインターネットは典型的な学際研究分野であり、通信、工学、マイクロマシン、化学、生物学など様々な分野と関係する。

 東京大学の坂村健教授が語るように、携帯電話を自然界の魚類(約3万種)に例え、PCを魚類より高等な各種生物(約2万種)に例えるなら、モノのインターネットの端末(RFIDラベルが貼られている各種製品を含む)は自然界の昆虫(約100万種)に例えられる。モノのインターネットの端末:携帯電話:PCの比率は100:3:2である。モノのインターネットの普及はインターネットに接続する端末の数を100倍にまで増やす。しかし、指摘すべきは携帯電話網やPC網ほどの巨大かつ統一的なモノのインターネットは今後も登場することはなく、各種の応用的なモノのインターネットは規模のあまり大きくないネットワークに過ぎず、各種センサまたはRFIDはNiche Marketに過ぎないだろうが、すべてを合計すると規模は巨大になる。このため、モノのインターネットの発展には、携帯電話やPCを発展させた際と異なる考え方が必要である。

 大量の組み込み装置やセンサが情報システムに導入されるにつれ、ユーザー端末における各センサの設置台数は数万個もの多きに達した。これら組み込み装置やセンサが発信する大量の情報を保存し、検索し、照合し、取りまとめ、分析することは、21世紀の情報分野における新たな挑戦となろう。わが国はセンサ、電波方式認識(RFID)、センサネットワークの応用などの面で海外の先進レベルと大きな差があるため、センサネットワークとモノのインターネットの中核技術で早期にブレイクスルーを果たし、技術標準においてさらなる発言権を勝ち取らなければならない。

3.4 クラウドコンピューティングの登場の歴史的必然性

 情報技術分野はマクロ的には長周期の現象を示しており、すなわち15~20年ごとに計算モデルの主流が集中と分散の間で交代する現象が現れる。この種の現象は三国演義の「合して久しければ必ず分かれ、分かれて久しければ必ず合す」にちなんで「三国の法則」と呼ばれる。現在、相当程度分散している情報センターの状態は、前世紀初頭に米国で電気産業がはじまったころの状態と酷似し、情報ネットワークは電力ネットワークと同様に、分散-集中-分散という螺旋式の変遷プロセスを経なければならないようだ。 

 クラウドコンピューティングは「三国の法則」と呼ばれるマクロ法則と合致する、一定の必然性のあるネットワークコンピューティングの新たな段階である。集中と分散の双方を含み、主なモデルは集中的公共サービスである。将来的には「集中→分散」への転換の可能性もある。なかには「クラウドコンピューティングはソフトウェアのメインフレームである」と言う専門家もいる。クラウドコンピューティングもまた、情報社会に向けてわが国が必ず通るべき段階の一つである。クラウドコンピューティングはユーザーの要求とソフトウェアのサービスへの転換という発展の方向性に適合するもので、情報システム集合の趨勢を体現している。

 クラウドコンピューティングが「ホット」になった理由は次の三つである。一つ目はインターネットの普及である。例えば、ブロードバンドの保証という面で見れば、帯域がより広くなったばかりでなく24時間切断されない接続が保証された点にある。二つ目はメモリコストの急速な低下であり、三つ目は、インターネットが人々の伝統的な思考習慣を変化させたことである。例えば、人々はネット上の有料購読サービスに徐々に慣れてきている。しかし、クラウドコンピューティングが「ホット」になった真の牽引役はニーズである。ユーザーはサーバーやメモリを購入する必要がないばかりかデータセンターを構築する必要もなく、使用量に基づき費用を支払えばよいだけで、使いたいだけ使えると言うこれらの長所は、ユーザーにとって相当な魅力であることは疑いようがない。分散処理技術と仮想化技術の進歩はクラウドコンピューティングの重要な推進力であり、特にVMwareに代表される仮想化技術のサプライヤーたちの強力な後押しでx86プラットフォームの仮想化技術は徐々に成熟して普及し、データセンターの統合を時間や労力のかからないものとしたこともクラウドコンピューティング・プラットフォームの構築に良い条件となった。

 クラウドコンピューティングは今や最もホットな話題となっており、その鍵は資源の集中と仮想化技術にあることは重視しなければならない。クラウドコンピューティングは国の情報インフラにかかわる基本的な安全問題であり軽視してはならない。自主的にコントロール可能なクラウドコンピューティング・センターを構築する必要がある。ネットワーク情報技術の長期的発展目標は真の意味でユーザーを中心にすえることにあり、サービスプロバイダを中心におくことではないはずだ。形を変えたClient-Server構造や仮想のMainframe構造は理想的な構造とはならないだろう。情報はエネルギーとは異なり無限に共有しても量が減らないことを根本性質とするため、理想的な情報サービスモデルは電力とは異なるかもしれない。このため、われわれは情報の本質に見合う法則と、真の意味でユーザーを中心にすえたネットワーク体系を模索する必要がある。

4 わが国の情報分野の戦略的方向性である飛躍的発展

4.1 人々の戦略的方向性により決定づけられるハイテクの進歩

 より全面的な視点から技術革新を認識すれば、技術の進歩は人々の戦略的方向性によりかなりの程度決定づけられることがわかるだろう。技術が真の意味で成就するために唯一有効な方法とは、システム全体の技術基盤を変更することである。これは人の側の問題で技術的問題ではなく、人間でなければ解決できない。これは間違いなく大きなチャレンジであり、科学技術の形式及びその効果を根本的に振り返ることで、より民主的・平等・人道的で、より創造性を持って社会と調和する現実的な路線を構築することが求められている。新技術の広まりは自発的な市場行動ではなく、人々の戦略的方向性により決まる。技術は問題点でも解決の道筋でもなく、真の問題は政治、道徳と文化にある。技術革新の主な原動力は経済と社会発展からくるニーズであり、現実から離れたいわゆる新技術は往々にしてバブルとなる。

4.2 国力にふさわしい貢献

 オランダGroningen大学の有名な経済学の教授A. Maddisonは次のように予測する。すなわち、国際的に流行している購買力平価説(PPP)に基づき計算すると、中国の経済規模は2015年には米国を上回ってその107%となり、2030年には米国比138%となり世界のGDPの23%を占める。

 中国科学院の穆栄平研究員の提唱する工業化とGDPの関係(表1参照)によれば、わが国の先進地域はすでに技術創造を主とする段階に突入している。実際、EIC(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)が「エコノミスト」誌に掲載したIT産業競争力ランキングでわが国は明らかな進歩を見せており、2009年は39位であった。しかし、R&D環境とITインフラの得点は依然として低かった。今後は、情報分野で国力にふさわしい革新的な貢献を勝ち取るために努力し、科学技術ナショナルチームは「天地が入れ替わるほどの」研究成果を上げるよう尽力する必要がある。

表1 工業化レベルとGDPとの関係
工業化レベル 第一段階 第二段階 第三段階
経済指標:1人あたりGDP <300米ドル 300-4750米ドル >4750米ドル
技術指標:GERD/GDP <1% 1-2% >2%
技術革新の段階 主に技術使用 主に技術改良 主に技術革新

4.3 下支え役と牽引役の「双方」から固めることの必要性

 中国の2006年~2020年までの科学技術発展計画綱要で掲げられた2つの最重要目標とは、経済に対する科学技術の貢献率を60%まで引き上げ、技術の海外依存度を30%まで引き下げることである。すなわち、科学技術の貢献率を毎年少なくとも1~2%引き上げ、海外依存度を毎年少なくとも1%引き下げる必要がある。これは中国の科学技術発展大綱で定められたものだが、国務院発展研究センターの統計によれば、わが国の2002-2006年の第二次産業に対する科学技術の進歩による貢献率は1990年代の37.8%から10%まで下がった(投資貢献率が82%を占めた)。国際的な金融危機に対応するべく、近年、国はインフラ建設に対する投資を強化しているため、全要素貢献率(すなわち科学技術の貢献率)向上の難しさはさらに拡大している。

 国の中長期的な科学技術発展計画大綱では科学技術の発展に関する方針を16文字で定めている。すなわち「自主創新、重点跨越、支撐発展、引領未来」(自主革新し、飛躍に重点をおき、発展を下支えし、未来を牽引する)である。しかし、実際には多くの研究者は発展の下支えのみを重視し、飛躍的発展や将来性への牽引役を軽視しがちである。今後10年間はこの傾向を正して下支えと牽引の「双方」から固めていく必要がある。

 改革開放から30年来の情報科学技術の発展の歴史を振り返ると、科学技術界は追随・模倣という思考様式から脱却しておらず、自主的にコントロールできる基礎的な情報技術のプラットフォームをこの30年間確立していない。われわれは技術革新のさまざまなモデルを統一的に計画し、技術革新のレベルを高め続けなければならない。

4.4 真なる自主革新、科学発展への道

 今後10年間は中国の情報企業が遅れを取り戻す良い時期である。チップ、コンピュータ、ネットワークから情報サービスシステムに至るまで、今後10年で中国は新たな道を切り開き、自主的な情報技術体制を確立するだけの実力がある。中国のネットワークサービス体制は中国独自の問題をターゲットとする必要がある。現在、われわれが直面する最大の問題は情報化と工業化の融合であり、経済構造の転換とレベルアップである。

 開放を原則に自主的にコントロール可能な情報技術の基礎プラットフォームを構築することは「ユートピア」的な空想であると多くの人は考えるが、実現できるか否かの鍵は技術ではなく、政治家の決意と牽引役の熱意や根気による。科学技術の競争はすでに白熱しているため、われわれは可能な限り自らの研究環境を改善し、科学技術への投資を可能な限り拡大する必要がある。中国特有の自主革新の魂は、刻苦奮闘する努力の精神と強者に打ち勝つ革命意識にあり、これが鍵となるだろう。

5 結論

 21世紀前半の情報科学技術は新たな革命を迎えるだろうが、わが国の科学技術界に与えられた貴重なチャンスの期間はあと10~15年しかない。今後15年の間に、わが国の情報分野の研究者は思想をより解放して考え方を変え、「情報技術の壁」を攻略する決意を固め、中核技術をつかんで飛躍的な発展を実現し、経済と科学技術の発展における未来の高地を奪取し、わが国の経済をイノベーションに牽引された内需主導の成長軌道に乗せる必要がある。


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