第63号:ナノ技術
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形状記憶複合材料及びその空間展開可能構造における応用

2011年12月26日

冷 勁松

冷 勁松 (Leng Jingsong):
ハルビン工業大学航天学院複合材料・構造研究所教授、博士課程指導教員

1968年生まれ。1990年、ハルビン工業大学卒(工業力学専攻、学士号取得)。1996年、ハルビン工業大学博士課程卒(複合材料専攻、博士号取得)。1997-1998年、ハルビン工業大学航天学院複合材料研究所副教授。1998-2004年、シンガポール南洋理工大学、イギリス国防科学研究所、イギリスASTON大学で研究員。長期にわたり、複合材料及び知的材料を構造面から研究。Progress in Materials Science、MRS Bulletin、Applied Physics Letters等のSCI収録の世界的な学術誌で論文50本以上を発表。中国語専門書1冊、英語専門書2冊を出版。国家発明特許10件以上。International Journal of Smart & Nano Materials編集長、Smart Materials & Structures 副編集長,International Journal of Aeronautical and Space Sciences副編集長。現在、アジア・太平洋地域の知的・ナノ材料委員会主席、中国複合材料学会理事・副事務局長、国際学術交流業務委員会主任、中国力学学会対外交流・協力業務委員会委員、中国航空学会国際協力業務委員会委員。2006年に教育部の新世紀優秀人材計画に入選、2007年に長江学者特別招聘教授に入選。2009年12月、国際光工学会フェロー(SPIE Fellow)。2011年8月、国際複合材料執行委員に選出。

共著者:劉 立武,蘭 鑫,劉 彦菊,杜 善義

1 はじめに

 知的材料・構造(Smart/Intelligent Materials and Structures)は新興の学際的な総合科学であり、既存の学問分野から進化した世界的な最先端技術の一つである。知的材料・構造技術ではセンシング、アクチュエーション、制御を一体化し、汎用材料が持つ荷重機能をだけでなく、特殊な感知機能及び応答機能をも構造に備えさせる。なかでも、センシング材料は内的・外的環境の情報感知に、アクチュエータは構造の物理的性質及び構造形状等の改変に用いられ、最終的には構造による自己診断、自己適応または自己修復等、さまざまな機能を実現する。

 知的材料及び構造技術の発展においては、自発的に大変形する材料--形状記憶ポリマー(Shape Memory Polymers, SMPs)が研究の関心事の一つと徐々になってきている。この材料は、一定条件下で100%もの大きな回復・変形を自発的に生じうるため、知的かつ自発的な構造変形研究の分野で応用上大きな潜在力がある。形状記憶ポリマーは励起形式によって熱刺激、電気刺激、光刺激、溶液作動型等のタイプに分類できる。そのうち、熱刺激型形状記憶ポリマーは励起形式がシンプルで、回復可能変量が大きく、応答速度が速い等の長所があるため、最も広くかつ深く研究されている。図1は熱刺激形状記憶ポリマーの熱-機械変形プロセスである。ガラス転移点(Glass Transition Temperature, Tg)以上になると形状記憶ポリマー(開始状態)に外力が印加されて変形が生じ、外力の束縛を維持したままTg以下の一定温度まで低下させた後に外力の束縛を取り払うと、付加した変形能力が長期的に維持され(変形状態)、再びガラス転移点以上まで加熱した際に形状記憶ポリマーは自発的に形状を回復させる(回復状態)。こうして、「記憶開始状態→変形固定状態→回復開始状態」という変形循環が完成される。構成関係の研究の面では、当該材料は変形が比較的大きいため、幾何学的非線形性及び材料非線形性を考慮する必要があり、この点が研究をますます難しくしている。現在の構成関係モデルには、接着・弾性理論に基づくTobushi線形性及び非線形性モデルと相間理論に基づく微視力学モデルがある。Tobushi非線形性モデルでは、変形循環中における形状記憶ポリマーの応力、応力変形及び温度の相互関係を検討した結果、最大応力変形量は20%以上に達したことから、当該理論モデルは実験結果を効果的に裏付けるものとなった。微視力学モデルの研究において、Liuは、形状記憶ポリマーは固定相と可逆相の組み合わせを基盤とすると仮定し、材料の単一方向における引張という非線形性変形条件での形状記憶特性を効果的に研究した。

図1

図1 形状記憶ポリマー材料の熱-機械変形プロセス

 知的材料・構造分野において、形状記憶ポリマーの研究は総体的に成熟している。現時点では、フランス、日本、米国等で形状記憶ポリウレタン(日本三菱重工)、形状記憶エポキシ樹脂(米国CTD社)、形状記憶スチレン(米国CRG社)、形状記憶ポリエステル、形状記憶シアネート樹脂、形状記憶スチレン-ブタジエン共重合体、形状記憶TPI(トランス-1, 4-ポリイソプレン)、ノルボルネン等の熱硬化性・熱可塑性の形状記憶ポリマー材料が相次いで開発されている。また、中国国内では、中国科学院成都分院化学研究所、中国科学院広州化学研究所、ハルビン工業大学、中国科技大学、湘潭大学等でもさまざまな形状記憶ポリマー材料の合成に成功している。世界的には、形状記憶ポリマー及びその複合材料分野の研究機関はすでに60ヶ所を超えている。

2 形状記憶複合材料

 形状記憶ポリマーの主な特徴は、回復可能な点と応力変形が比較的大きい点にあり、一般的に200%に達する。しかし、主な欠点は、材料の弾性、強度等の力学的性質及び熱-力学的性質が劣り、変形回復の出力が小さく、運動安定性及び信頼性に劣り、深刻なクリープ現象及び弛緩現象があることであり、これら欠点が形状記憶ポリマーの応用、特に劣悪条件下で作動する宇宙探査機上での応用に悪影響を及ぼしている。このため、研究者たちは自然に、形状記憶材料を用いてその複合材料を調製することを考えるようになった。形状記憶複合材料はこれら欠点を良好に克服でき、回復可能な応力変形が大きい一方で変形回復出力も比較的大きいうえ、信頼性が高く、低密度で、剛性・強度が高く、低コストという長所がある。

 形状記憶複合材料は、強化相の種類により大きく3つに分類される。すなわち、粒子充填複合材料、短繊維強化複合材料、繊維強化複合材料である。粒子充填による形状記憶複合材料は主に機能性材料として用いられ、例えば内部に電気伝導粒子を充填すれば電気刺激型の形状記憶ポリマーを調製できる。この材料は回復可能な応力変形が大きく、回復力が比較的大きい等の長所があるが、総合的な力学的性質がやや劣るため、大型の構造材料に適さない。力学的性質の研究においては微視力学的手法が多く採用されており、例えば、球形粒子をドープした形状記憶複合材料の変形特性はMori-Tanakaモデルによって研究されている。繊維強化による形状記憶複合材料は主に構造材料として用いられており、総合的な力学的性質が比較的良好で、回復力、構造剛性及び強度が比較的高い等の長所がある。しかし、繊維強化相の有效応力変形は比較的小さいため(一般に<2%)、一般的にはその繊維強化方向を変形の主方向とすることはできないことから、実際の応用では積層板状の繊維強化複合材料が持つ大偏差の湾曲変形を利用して刺激としての目的を満たしている。力学特性の研究においては、大偏差の湾曲変形下における構造展開動力学及び複合材料の折曲変形特性が大いに検討されている。最近、繊維強化による形状記憶複合材料の展開構造における応用研究がますます重視されている。例えば、米国CTD社、米国CRG社、ハルビン工業大学等では炭素繊維により強化されたエポキシ型の形状記憶複合材料を研究している。この複合材料はやや高い弾性係数、抗湾曲強度、抗クリープ、抗弛緩能力を有する。また、短繊維強化による形状記憶複合材料の力学的性質及び変形能力は上記の2つの材料の中間に位置することから、その研究と応用も重視され始めている。

2.1 粒子充填型の形状記憶複合材料

 Gall Kらは、SiCナノ粒子の充填による形状記憶エポキシ複合材料の力学及び熱機械特性を研究した。この材料では0wt%及び20wt%のSiC粒子を加えたところ、最大引張応力変形は11%及び15%で、SiCナノ粒子が材料体系の弾性係数及び回復力を強化することがわかった。形状記憶複合材料は60°C(Tg -10°C)以下で変形する際は、まず回復応力が最大値に達し、それから応力が徐々に減少する。80°C(Tg +10°C)で変形する際は、応力は温度上昇につれ緩やかに低下し、形状記憶材料の回復応力は10~100MPaオーダーとなる。また、Huang WMらはカーボンブラックを充填した形状記憶ポリウレタン複合材料について研究した。この形状記憶複合材料は良好な電気伝導性及び形状記憶性能を有するうえ、形状記憶ポリマーの水刺激効果が初めて発見された。形状記憶ポリマーは水分吸收後にガラス転移点が低下することから、形状記憶ポリマーの水刺激による変形・回復が間接的に実現する。韓国の研究者たちは、カーボンナノチューブを充填した形状記憶ポリウレタン複合材料について研究した結果、この材料はポリウレタン材料に比べて高い弾性係数を有すると同時に良好な電気伝導性を示した。また、一部の研究者はセラミックス粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブを充填した形状記憶ポリマー材料の赤外線照射・加熱条件下における形状記憶効果を研究している。さらに、Fe3O4等の磁性粒子も熱可塑性形状記憶ポリマーに加えられ、その結果、磁気応答性を持つ形状記憶複合材料が得られた。Leng らはさらに、形状記憶ポリマー/ニッケル粉複合材料を調製し、固化プロセスにある複合材料に磁場を印加した結果、ニッケル粉は鎖状の分布を呈することがわかり(図2)、かつ、鎖状に分布するニッケル粉の複合材料に対する力学、熱機械性能の影響をも研究した。走査型電子顕微鏡写真(図2左側)により、Ni粉含有量は5%から鎖状構造が徐々に形成され、Ni粉含有量の増加につれNi鎖密度も増えることがわかった。また、Ni鎖は形状記憶複合材料が50%の引張変形を5回経た後も、完全な鎖状構造(図2右側)を維持できることが分かった。このことは、この材料が大変形構造に応用される基盤となる。温度上昇に伴うNi粉連鎖サンプル(鎖方向に平行)と均一分布サンプルの貯蔵弾性率の変化を図3に示す。図から分かるように、Ni粉含有量を固定したサンプルに対し、Ni粉連鎖サンプル(鎖方向に平行)の貯蔵弾性率は均一分布サンプルの貯蔵弾性率を上回る。このことは、Ni粉の連鎖構造は形状記憶ポリマーの力学的性質に対して、より大きな強化作用があることを証明している。

図2

図2 典型的なNi粉鎖状構造(左側)及び50%の引張応力変形を5回経た後の姿(右側)

図3

図3 Ni粉連鎖サンプル(鎖方向に平行)及び均一分布サンプルの貯蔵弾性率の温度に伴う変化

 鎖状構造のニッケル粉は形状記憶複合材料の電気伝導性を強化できるという結論に基づき、Lengはカーボンブラックを充填した形状記憶複合材料中に、ごく少量のニッケル粉(0.5vol%)を加えることで電気伝導性を一層強化した。図4にNi粉及びカーボンブラック粒子を加えた複合材料の形状回復プロセス及びその温度場分布を示す。3種類のサンプル(a[SMP/CB/Ni(chained),b[SMP/CB/Ni(random)],c[SMP/CB])の電気伝導カーボンブラック含有量はいずれも10%だが、Ni粉含有量及び連鎖状態はそれぞれ異なる。

図4

図4 30V電圧加熱条件下におけるSMP/カーボンブラック/ニッケル粉複合材料の温度分布及び電気刺激プロセス

2.2 短繊維による形状記憶複合材料の強化

 Ni Q Qらは、ガラス短繊維により強化されたポリウレタン形状記憶複合材料を研究した結果、その強化相は材料の弾性係数、強度、抗クリープ・弛緩能力を明らかに向上させることがわかった。Lengは、カーボンブラックナノ粒子と炭素短繊維をポリマーに加え、粒子及び短繊維の相乗作用により電気伝導ネットワークさせる形成することで、材料内部における電気伝導ネットワークの確立を向上させた。電気抵抗と充填相含有量との関係を図5に示す。この結果、ナノスケールの電気伝導粒子による複合材料の電気伝導性はマイクロスケールの電気伝導粒子による複合材料を上回ることが示された。このほか、電気伝導粒子の添加は複合材料のガラス転移点にも比較的大きく影響し、カーボンブラックナノ粒子の添加は明らかに材料の転移温度を低減させることがわかった。

図5

図5 SMP/カーボンブラック/短繊維による形状記憶複合材料の電気抵抗

2.3 繊維による形状記憶複合材料の強化

 繊維強化樹脂を基にした一般的な複合材料については、主に材料の強度、弾性係数等の静的または準静的条件下における力学荷重性能が考慮され、材料の自発的な変形特性は考慮されないため、回復可能な応力変形量は一般的にわずか1%~2%である。このため、樹脂を基にした一般的な複合材料は主に構造荷重材料に用いられ、人工筋肉のように自発的に変形可能な大変形材料には使うことができない。樹脂を基にした一般的な複合材料に比べ、繊維により強化された形状記憶複合材料は一つのイノベーションと言える。例えば、炭素繊維により強化された形状記憶複合材料においては、強化相体積のパーセンテージを適切に調節することによって、材料は比較的良好な形状回復性能(図6参照)を持つことができるだけでなく、良好な電気伝導性をも備えることができる。すなわち電気加熱可能性を有するため、外的熱源による加熱を必要としない。材料の変形を精密に制御すべきいくつかの材料については、特に微小な変形の場合は、電気制御の方が外的加熱制御に比べ便利であるため、電気伝導による形状記憶複合材料には幅広い応用の余地がある。近年、炭素繊維により強化された形状記憶複合材料の自発的変形構造への応用に関する研究は、ますます重視されてきている。例えば、米国CTD社及び米国CRG社は、炭素繊維により強化されたエポキシ形状記憶複合材料を相次いで開発した。この材料は、エポキシ形状記憶ポリマーよりはるかに高い弾性係数と強度を有する。

図6

図6 繊維により強化された形状記憶複合材料の多数回の変形プロセスを経た後の変形回復率の変化

3 繊維により強化された形状記憶複合材料の空間展開可能構造における応用

 宇宙探査機は空間的制限のため、トラス、アンテナ等の大型構造は発射前に折りたたまれている必要があるうえ、軌道飛行に入った後に展開されて作動状態に入る必要がある。近年、形状記憶ポリマーの合成は成熟状態にあり、一部の形状記憶複合材料コンポーネントは原理的なデモンストレーション・検証をすでに終え、初歩的な実用段階に入っている。米国の人工衛星Encounter spacecraftは2006年に発射された際に、形状記憶材料をアンテナ構造の展開にすでに用いていた。過去に発射された米国の知的制御可能な小型衛星(DiNO Sat)と米国RoadRunning衛星のソーラー電池板においても、形状記憶複合材料のヒンジを採用して刺激を与えている。形状記憶複合材料により展開される梁を持つFalconSat-3大気観測衛星も、米国空軍の実験室からの2011年前後の発射が予定されている。米国航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)も、直径10mの空間展開可能なスマート型アンテナを研究している。この形状記憶複合材料は、太陽光または付随する電気エネルギーによる刺激下でアンテナの軌道上の展開を制御できるうえ、アンテナの展開後の形状を保持することができる。この計画は、2010年ごろの検証が計画されていた。また、NASA先端概念研究所も空間ネットワーク上のスマート型の展開可能構造的研究に大々的な資金援助を行っており、今後数年の間に軍事及び商業上の幅広い応用が実現することが期待されている。このほか、形状記憶複合材料は、空間展開可能トラスの製造でも大量に採用されている。

 形状記憶複合材料は展開可能構造の研究に応用されており、力学的課題においては、構造展開の動力学及び複合材料の微視的な折曲変形が主に研究されている。構造展開の動力学の研究の面では、複合材料の力学的性質(ガラス転移点及び熱-力学的性質等)と幾何学的パラメータ(厚さ、湾曲半径、曲面円弧角等)の構造展開性能(展開剛性及び安定性等)との関係を検討する必要がある。形状記憶複合材料の回復性能は基体の形状記憶性能だけで決まるのではなく、繊維と形状記憶樹脂との間の微視的な変形メカニズムと関係する。複合材料が圧力を受けて折曲変形する条件下では,材料の非破壊最大応力変形は5%を上回り、強化繊維の変形極限を大きく上回る。Francisは単一方向の形状記憶複合材料の湾曲変形プロセスにおける繊維の局部的な後折曲変形の挙動を研究した結果、中性面(応力変形ゼロ)の移動距離と繊維折曲波長等の重要パラメータの表現式が得られた。

 具体的な応用として、研究者たちは形状記憶複合材料を利用して、ヒンジ、トラス、アンテナ等の展開可能な空間構造を設計・製造した。このうち、形状記憶複合材料を使ったヒンジの展開プロセスは図7のとおりである。このヒンジは、変形前の段階では約180度湾曲し、20ボルトの電圧加熱刺激により100秒内で全プロセスを展開し、形状回復率は約100%であった。これを基礎に、研究者たちはこのヒンジを太陽電池アレイ・モデルの展開刺激(図8参照)に用いることを試みた。一般的な金属トーションばね式展開ヒンジの自らの減衰は比較的小さく、展開速度はスピーディで、展開終了時の材料体系に対する衝撃は比較的大きかった。しかし、これとは逆に、高分子複合材料自身の減衰が比較的大きかったために、展開性能、特に展開時間という重要パラメータに影響を及ぼした。これにより、形状記憶複合材料の展開構造の展開運動プロセスはやや緩慢になり、体制に大きな衝撃をもたらすことはない。

図7

図7 形状記憶複合材料におけるヒンジの展開プロセス

図8

図8 形状記憶複合材料で作られたヒンジによる太陽電池アレイ・モデルに対する刺激による展開プロセス

 「DSX/PowerSail (Deployable Structures Experiment)計画」では、形状記憶複合材料を展開可能トラスに応用した。この計画では、大面積、軽質かつ高性能な新世代の太陽電池パネルが開発された。この太陽電池パネルが一般的な構造と異なる点は、展開構造が非常にシンプルな点にある。この構造では、縦方向に伸長可能なコイル状の形状記憶複合材料で展開した梁を太陽電池パネルの展開への刺激に用いたところ、太陽電池パネルは両端のコイル状形状記憶複合材料によって展開された梁に沿って展開した(図9参照)。このほか、ハルビン工業大学複合材料・構造研究所も形状記憶複合材料による展開可能トラスを開発した。この構造は、3つの縦方向の半円柱状の形状記憶複合材料製の梁により構成され、2つの形状記憶複合材料製の梁の間隔は120°である。折曲状態では、3つの縦方向の半円柱状の形状記憶複合材料製の梁はS型に折り曲げられて収縮し、形状記憶複合材料製の梁に通電して加熱すると構造変形が回復し、展開が実現される。この構造変形プロセスにおいては、力学的安定性及び刺激性能が主な検討対象であり、主な研究対象には双安定特性及び展開動力学的性能がある。

図9

図9 管状の形状記憶複合材料によるコイル状の梁

 このほか、米国CTD社は棒状の形状記憶複合材料部品により支えられるアンテナ反射板を開発した。このアンテナ反射板の背面の上端、下端にはそれぞれ棒状の形状記憶複合材料でできた円周方向の強化部品が固定・連結されている。形状記憶固体の表面展開により、アンテナ反射面は傘型のひだ状構造に折曲・収縮が可能になり、給電装置と背面の支柱構造は、網状に展開可能な一般的なアンテナと同一である。

4 結論

 本稿では、形状記憶複合材料の研究の現状及び空間展開可能構造における応用について概観した。本稿では粒子、短繊維及び連続繊維により強化された形状記憶複合材料の発展の現状を主に紹介し、繊維により強化された形状記憶複合材料の展開可能構造における応用についても紹介した。これには、主に展開可能ヒンジ、伸縮可能梁及びアンテナ等がある。繊維により強化された形状記憶複合材料には、刺激及び荷重の二種類の機能があり、空間展開可能構造に大量に応用されることが期待される。また、形状記憶ポリマー及びその複合材料はバイオ製薬、多機能性材料及び構造等の分野でも広く応用されるであろう。