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中国における寄生虫病防除状況及び今後の防除研究の重点

2012年 3月 9日

周 暁農

周 暁農 (Zhou Xiaonong):中国疾病予防コントロールセンター寄生虫病予防コントロール所所長 研究員

1962年3月生まれ。1994年、デンマーク・コペンハーゲン大学卒、生物学専攻、博士号取得。寄生虫病の疫学、ミヤイリガイの生物学の研究に従事。近年は主に媒介伝播寄生虫病に対する気候変動の影響、住血吸虫症防除戦略等の研究に従事。論文150本以上を発表、うち2005年以降、国内外の学術誌に論文60本以上を発表。書籍6冊を出版(うち1冊は英文)。筆頭著者または責任著者としてSCI収録論文を30本以上発表。専門書5冊を主編。衛生部疾病コントロール専門化委員会副主任委員、衛生部住血吸虫症及び寄生虫病防除専門委員会主任委員、中国貝類学会副理事長、上海市寄生虫学会理事長、中華予防医学会寄生虫分科会副主任委員等を担当。WHOの顧みられない熱帯病(NTDs)諮問委員会委員。

 中国は寄生虫病の流行が深刻な発展途上国の一つである。60年余りにわたる懸命の防除により、中国の寄生虫病防除業務はめざましい成果を挙げた。しかし、国土が広く、社会経済の発展が不均一である等の要因により、寄生虫病の流行レベル及び防除状況における地域的格差は大きい。2004年の中国のヒトにおける重要寄生虫病の現状に関する調査結果によれば、ヒトの蠕虫感染率は全国の21.38%であり、うち土壌線虫の感染率が20.07%~56.22%にも達する省(自治区、直轄市)が依然として11省も存在し、一部の省(自治区)では食品由来の寄生虫病が上昇傾向を呈した。中国における土壌線虫の感染者数は約1.29億人で、肝吸虫の感染者数は約1249万人、無鉤条虫の感染者数は約55万人,エキノコックス症の患者は約38万人と推算される。このほか、新疆ウイグル自治区、甘粛省及び四川省の一部地域ではリーシュマニア症の流行が深刻であり、一部の地域では豚由来の有鉤嚢虫症、肺吸虫症、旋毛虫症、トキソプラズマ症等のヒトにおける血清学的陽性率も比較的高い。寄生虫感染率の変化傾向を分析すると、中国におけるヒトへの寄生虫感染及び防除レベルは韓国に比べ40年、日本に比べ60年遅れており、これは現時点で世界第二位の経済体である中国の経済的地位から見てアンバランスである。このため、中国は寄生虫病の防除を一層強化し、人間性を重んじた科学的な防除戦略を講じ、農村や経済の立ち遅れた寄生虫病の流行地域における人民の健康レベルを引き続き向上させ、中国の基本公衆衛生における均質化実現のために奉仕する必要がある。

1. 中国国内における防除状況

 21世紀以降、中国の寄生虫病防除業務は共産党及び政府の重視により、非常に大きな成果を挙げている。中国で公布された寄生虫病防除計画には、「中国マラリア根絶アクションプラン(2010-2020年)」、「全国住血吸虫症予防・コントロール中長期計画綱要(2004-2015年)」、「2006-2015年全国重点寄生虫病防除計画」、「エキノコックス症防除アクションプラン(2010-2015年)」等がある。このうち、「中国マラリア根絶アクションプラン(2010-2020年)」では「2015年までに雲南省の辺境地域以外でマラリアを根絶させ、2020年までに全国でマラリアを根絶させる」ことが目標とされた。住血吸虫症防除業務については2015年までに全国で感染制御の目標を達成することが目標とされた。蠕虫については、全国の感染率を2004年に比べて2010年末には40%以上、2015年末には60%以上減少させ、かつ、土壌線虫症、エキノコックス症、肝吸虫症、無鉤条虫症、有鉤嚢虫症等の重点寄生虫病の局地的流行に対して確実かつ効果的な措置を講じ、重点地域におけるリーシュマニア症の新規発症例の発生を減らすことが目標とされた。

 近年、全国各地で目標達成に向けさまざまなリソースを充分に活用し、科学的な防除戦略を懸命に講じ、かつ、地域に合わせた効果的な防除措施を講じていることから、さまざまな寄生虫病のヒトにおける感染率は著しく減少しており、寄生虫病防除業務は全国的に良好なプロセスにあると言える。世界エイズ・結核・マラリア対策基金による力強い支援のもと、全国的なマラリア防除業務はコントロールから根絶の段階に向かいつつあり、さまざまな措置が有効裡に実施されて約3年経った時点でのマラリア発症率の平均減少率は約46.09%で、多くの地域で史上最低の水準に達した。また、住血吸虫症も、感染源のコントロールを主とする総合的な防除戦略を実施した結果、感染は全国で史上最低の水準に達した。「2010年中国住血吸虫症感染状況通達」(未公表)の統計によれば、2010年における全国の住血吸虫症感染者総数は32万人まで減少し、急性感染者数は初めて50例を下回り、広東省、広西チワン族自治区、福建省、浙江省、上海市等の省(市、自治区)で感染制御の基準に達した。

 中国は重点的な寄生虫病防除目標を掲げると同時に、医薬品による寄生虫駆除知識や寄生虫病防除知識、健康習慣の普及率、衛生的なトイレの普及率、エキノコックス症流行地域における犬の寄生虫駆除実施率、ならびに郷(鎮)・村における医療関係者の専門知識・技能合格率等の面で具体的な防除業務指標を提示した。そしてこのために、中国では2006-2009年、10県以上にまたがる寄生虫病総合防除モデル地域においてモデル事業が実施された。事業の結果によれば、健康教育によってリードする形で防除措置を多数回実施したところ、農村地域の寄生虫感染率を短期間で効果的に減少させることができ、モデル地域におけるヒトの土壌線虫感染率は平均で78.39%、肝吸虫感染率は平均で83.13%減少した。エキノコックス症防除業務は、中央政府による経費移転支給事業という支援のもと、2006年に四川省内のモデル地域10ヶ所を起点に、2011年までに重点流行省(自治区)7省及び新疆生産建設兵団の重点流行県170ヶ所を網羅したことから、全国における流行範囲と程度を基本的に把握でき、かつ、感染源のコントロールを主に、健康教育と中間宿主のコントロール、患者に対する検査・治療とを結びつけた総合的な防除措置を実施することが決定された。

2. 直面する課題

 世界経済の一体化等の社会的要素や、環境・気候変動等の自然的要素の影響、地域間の人口移動の増加により、寄生虫病の伝播に有利に働く条件が生じているうえ、現在の防除技術には未だブレイクスルー的な進展がないことから、中国の寄生虫病防除業務は以下のような新たな課題に直面している。第一に、食品由来の寄生虫病が上昇傾向を維持し、農村から都市へと感染地域が拡大している点である。一部の地域ではヒトの肝吸虫感染率が60%以上にまで達し、豚肉の生食による旋毛虫症の死亡例が毎年発生している。第二に、昆虫媒介寄生虫症が現在なお繰り返し発生している点である。一部の地域ではアウトブレイクも発生し、特に貧困地域で発生しやすくなっている。具体的には、2008年の新疆ウイグル自治区南部におけるリーシュマニア症のアウトブレイクがあり、この時の発症例は主に幼児に集中したため、非常に深刻な疾病負担をもたらした。第三に、希少な新興寄生虫病が現在なお散発的に発生する点であり、これは社会の安全性に重大な影響をもたらす。この種の疾患は主に昆虫媒介寄生虫症及び食品由来の寄生虫病である。具体的には、2006年の北京市における広東住血線虫症のアウトブレイクが人々を震撼させた。第四に、重点寄生虫病防除業務においては十分な技術や情報の支援が不足していることから、科学研究事業において多くの課題に直面している点である。具体的には、マラリアの根絶戦略と技術的措置にはなお不備が存在し、輸入症例やG6PD欠損症例の検査技術等が急務となっている。第五に、寄生虫病の薬剤耐性リスクが現在なお存在するため、薬剤使用における安全性及び薬剤耐性検査技術の研究等を重視し、強化する必要がある点である。例えば、マラリアのモニタリングにおいては、操作が簡便な薬剤耐性検査技術が今なお待たれている。第六に、寄生虫病の防除システム等の能力構築の強化が待たれている点である。一部の疾患では効果的な診断・治療、モニタリング、早期警報手段が欠如している。例えば、西部で流行しているエキノコックス症には、治療効果が高く、副作用の少ない治療薬が存在しない。また、重点寄生虫病防除業務においてはさまざまなリソースを統合する必要がある。政府の主動の下で社会の各方面におけるリソースを動員し、その地の経済建設と融合した、地域に合わせた効果的な寄生虫病の予防・コントロール業務を推進し、最終的には寄生虫病根絶という目標を達成しなければならない。

3. 防除及び科学研究の重点

寄生虫病の根絶という目標の実現には科学技術によるリードが必要であるため、科学研究の強化、特に防除業務と科学研究との間の連携・応用を強化することは、中国の寄生虫病防除業務のスピードアップに対する科学技術的バックアップとなる。現在の寄生虫病防除研究における手薄な部分に基づき、現場の防除業務や実用化研究、防除の鍵となる新技術の研究や開発、モニタリング及び早期警報業務等に基礎研究の成果を転化することを今後の寄生虫病防除研究の重点とする必要がある。

 防除業務においては、段階別に指導し、現地に合った効果的な防除措置を講じなければならない。例えば、流行率の低い地域では根絶を目標に寄生虫病のモニタリングを強化し、流行率の高い地域では寄生虫病の効果的なコントロールと流行水準の低下を目標に、感染源のコントロールを主とした総合的な防除措置を強化する必要がある。寄生虫病の防除に関する措置は、中国における現行の医療改革業務と結びつけ、「基本の確保、現場の強化、枠組みの構築」という総合的な発展路線を確実に実現することで対策の推進と措置の実施を確保する必要がある。また、地域の公衆衛生に対する影響が大きい重点寄生虫病については、現地の経済発展関連事業と結びつけ、健康教育と健康増進を強化し、事業のリソースを基盤に、防除モデル地区業務をリード役として、地域全体の寄生病防除業務を点から面へと推進する必要がある。

 科学研究の面においては、第一に、中国における寄生虫病の防除研究の水準を絶えず向上させ、寄生虫病防除の鍵となる技術の研究を強化することであり、特に革新的研究を強化し、現場での応用研究と防除用製品に対し、一層高いプラットフォームを提供することである。第二に、寄生虫病領域における応用に向けた医学からの転換であり、新たな診療・治療手段の転換と臨床における応用を促進し、従来技術と先進技術の融合を強化することで、応用性のある製品・手段の研究開発を強化することである。第三に、科学研究能力の構築を更に推進し、「決定力のある」専門家集団の構築を強化し、先進技術の現場への応用を推進し、世界の寄生虫病防除と根絶において、中国の研究成果が果たす役割と貢献を高めることである。

4. 終わりに

 発展途上国において寄生虫病というこの昔ながらの疾病を根絶することは、現地の経済発展、教育の普及、貧困の根絶に効果的であり、結果的に現地の社会経済と文化の建設の歩みを推進する。われわれは重要視されて来なかった疾病のみならず、見過ごされてきた集団にも注目し、これら集団の健康問題に効果的で総合的な解決方法を提供し、中国の医療改革業務における基本公衆衛生の均質化という任務の実現を推進しなければならない。また、中国は寄生虫病防除研究においてリーダー的な役割を発揮し、世界の寄生虫病根絶に新たな貢献をする必要がある。


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