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糖尿病患者の脂質調整治療と心血管の保護

2012年 4月 17日

胡 大一

胡 大一(Hu Dayi):国際欧亜科学院院士、中華医学会心血管疾患分科会主任委員、心血管疾患研究所所長、北京大学人民医院心臓センター主任、教授、主任医師

1946年7月生まれ。1970年、北京医学院(現在の北京大学医学部)医療系卒業、学士号取得(医療専攻)。1990年~1993年、北京医科大学第一付属医院心臓内科にて主任医師、教授。1993年~2000年、首都医科大学付属北京朝陽医院にて主任医師、教授、博士課程指導教員。現在、首都医科大学心血管疾患研究所所長、北京大学心血管疾患研究所所長、北京大学人民医院心臓センター主任、博士課程指導教員、復旦大学公共衛生学院臨床流行病学研究センター主任。受賞及び称号歴は、「高周波カテーテルアブレーション(RFCA)による頻脈性不整脈の治療及び急性心筋梗塞による死亡への直接経皮介入治療」で国家科学技術2等賞、著書「健康は気持ちから」で国家科学技術進歩2等賞を2回、2 010年には第4回両岸四地(大陸、香港、マカオ、台湾)の2010年度「華人タバコ害予防・制御貢献賞」、「中華医学会優秀医学普及従事者」。著書「国民健康携帯号」は「中華医学会優秀医学普及作品」に指定。現 在、中国全国を対象に心血管疾患の予防及び学際総合研究を積極的に推進。

 糖尿病は、ヒトの健康を著しく害する非感染性慢性疾患として世界で広く流行しており、アジアでは中国とインドの2か国で発生率が高い。1996年における中国の統計データによれば、25~64歳の糖尿病発生率は3.21%であった。中国では糖尿病はすでに重要な公衆衛生問題となっており、ターゲット的な予防・治療戦略とその実施が急務となっている。

1 軽視できない糖尿病患者の血中脂質異常

 糖尿病は心血管疾患(cardiovascular disease,CVD)と密接な関係があり、CVDの発症リスクが明らかに上昇する。糖尿病患者のCVD死亡率は健康なヒトの2~3倍で、世界では毎年380万人が糖尿病で死亡し、うち約80%がCVDで死亡している。研究の結果、単純性糖尿病患者が10年以内に心筋梗塞又は冠動脈疾患により死亡するリスクは陳旧性心筋梗塞患者に相当するが、糖尿病患者における急性心筋梗塞の短期あるいは長期予後は非糖尿病患者に比べ劣る。中国心血管疾患レポート2007によれば、中国の糖尿病患者における虚血性脳卒中の発症リスクは非糖尿病患者に比べ明らかに高い( 92.1%対71.3%)。糖尿病は下肢動脈硬化症の主なリスク因子でもある。このため、米国のナショナルコレステロール教育プログラム(NCEP)成人治療委員会がまとめたガイドライン(ATP Ⅲ)及び2007年公布の「中国成人の血中脂質異常予防ガイドライン」のいずれも糖尿病を冠動脈性心疾患の同等の疾患と見做し、糖尿病患者に対する積極的な脂質調整治療を強調している。

 糖尿病、血中脂質代謝の異常、高血圧、喫煙、肥満はCVDの5大リスク因子であり、CVD発症及び死亡の主因でもあるが、2 型糖尿病の血中脂質代謝異常患者にはこのうち2つの重要なリスク因子が集中している。血中脂質異常は糖尿病患者において大血管に病変が生じる主なリスク因子の一つである。UKPDSの研究結果によれば、糖尿病患者に致死的及び非致死的心筋梗塞が生じるリスク因子のうち、第一位及び第二位はそれぞれLDLコレステロール(LDL-C)レベルの増加及びHDLコレステロール(HDL-C)レベルの低下であり、これに拡張期血圧の増加と喫煙が続く。糖尿病による心血管リスク抑制アクション(ACCORD)研究によれば、厳しい血糖コントロールも2型糖尿病患者の大血管疾患併発の予防において有意な効果を示していない。大慶市の調査データによれば、中性脂肪(TG)≥220 mg/dlのヒトの糖尿病発生率はTG≤62 mg/dlのヒトの2.3倍である。このため、糖尿病患者の血中脂質異常への介入は冠動脈性心疾患の予防・治療に重要な意味を持つ。

 心血管医による糖尿病の処理は2つの大きな問題に直面している。第1には冠動脈性心疾患患者には普遍的に2型糖尿病又は明確に診断できない糖代謝異常があり、これら糖代謝異常は往々にして見過ごされる点であり、第2には糖尿病に急性冠動脈症候群又は慢性冠動脈性心疾患を併発する患者に対する介入治療は、効果が思わしくない点である。

 米国糖尿病学会(American Diabetes Association,ADA)が2型糖尿病の典型的な血中脂質値の特徴について行った描写によれば、T Gを豊富に含む脂質タンパクレベルが上昇するとHDL-Cレベルは低下し、LDL-Cレベルは正常又はやや上昇する。低比重リポタンパク(LDL)の比重が増えると粒子は小さくなる(小粒子低比重リポタンパク,s LDL)。中華医学会糖尿病分会が編纂した2007年版の「中国2型糖尿病の予防・治療ガイダンス」によれば、2型糖尿病患者によく見られる血中脂質異常はTGレベルの上昇及びHDL-Cレベルの低下である。こ のため、糖尿病患者の異常血中脂質に関する各パラメータを全面的に調整することは、冠動脈性心疾患の予防・治療に重要な意義を持つ。

2 脂質の調整・治療による糖尿病患者の心血管疾患リスクの低減

 血中脂質異常は糖尿病患者によく見られる合併症であり、CVDの主なリスク因子である。臨床試験によれば、脂質の調整・治療により糖尿病患者における心血管疾患発祥のリスクを有意に低減できる。

 「英国医師会雑誌」(BMJ)掲載のメタ分析によれば、血中脂肪の低下によって(大部分でスタチンを応用)糖尿病及び非糖尿病患者の心血管疾患リスクを大幅に低減できる。また、1 次予防であると2次予防であるとを問わず、糖尿病患者の受益が最も大きい。スカンジナビアにおけるシンバスタチン生存率研究(4S)の糖尿病サブグループによれば、糖尿病患者がスタチンを服用した後の冠動脈性心疾患リスクは55%(P=0.002)、全死亡率は43%(P=0.087)低下する。イギリスにおける心臓の保護に関する研究(Heart Protection Study, HPS)によれば、シンバスタチンによる治療で心血管疾患のリスクが27%(P<0.0001)低下することにより、糖尿病患者の血中脂質異常(第一の目標はLDL-Cの低減)に対する積極的な干渉によってCVDの発症を遅らせ、又は予防できることが証明されている。アトルバスタチンと糖尿病の協調研究(CARDS)ではさまざまな心血管リスク因子を伴う2型糖尿病患者2838例を対象とした結果、アトルバスタチン10 mgによって主なエンドポイントは37%、すべての心血管疾患は32%、全死亡者数は27%、脳卒中は48%減少したことから、スタチン治療は糖尿病患者におけるCVDの一次予防に有効であることが証明された。

 中国における冠動脈性心疾患二次予防研究(CCSPS)においては、心筋梗塞による脂肪患者4870例を対象とし、うち591例を糖尿病患者として平均4年間にわたりフォローアップした。その結果、糖尿病患者は長期にわたり通常用量の血脂康カプセルで治療を受ければ大血管疾患の併発リスクを低減でき、冠動脈疾患はプラセボ群に比べ50.8%(P<0.001)、冠動脈性心疾患による死亡は44.1%( P=0.025)、全死亡率は44.1%(P=0.009)減少した。この大規模臨床研究の結果により、中国の糖尿病患者で冠動脈性心疾患を併発した症例では、血脂康カプセルを使った全面的な脂質調整によって大血管疾患の併発を効果的に減らすことができ、ベネフィットが多いことが分かった。

 現時点では、糖尿病患者の冠動脈性心疾患の予防における最初の選択は依然としてスタチン系薬剤である。この種の医薬品はエンドポイントを減少し、大血管疾患の予後に対する効果がフィブラート系薬剤に比べはるかに顕著である。フェノフィブラートによる介入及び糖尿病疾患低減研究(FIELD)でもこの点は説明されている。スタチン系薬剤を使うか使わないかの判断においては、設定されたLDL-Cの閾値を遵守するべきである。そして、さらに重要なのは心血管リスク因子に対する全面的評価である。

3 2型糖尿病患者の脂質調整戦略―全面的脂質調整

 中国内外における脂質調整治療のガイダンスはいずれも脂質を減らして「基準に到達」させる必要があり、又はLDL-Cレベルを投薬前に比べて30%~40%減らす必要があることを強調している。脂質調整治療の最初の目標はLDL-Cレベルの低下であるが、LDL-Cレベルの低減幅は脂質調整治療による利益の大きさを果たして反映しているのだろうか。

 2008年、ADA及び米国心臓学会(American College of Cardiology,ACC)は、糖尿病に確定診断を受けたCVDを併発している患者、並びにCVDの臨床症状はないものの1つ又は複数のリスク因子を持つ患者をCVDハイリスク患者と見なすことを推奨し、LDL-C目標値は<70 mg/dlであるべきとした。また、糖尿病にかかっておらず、若しくはCVDの臨床症状はないものの、2つ若しくはより多くのリスク因子を持つ患者、又は糖尿病を発生しているものの他のリスク因子のない患者をCVDハイリスク群と見なすことを推奨し、L DL-C目標値は<100 mg/dlであるべきとした。LDL-Cの基準値達成と同時に非HDL-C(アテローム性動脈硬化を導くすべてのリポタンパクを含む)レベルの制御にも注意する必要があり、すなわち、ハ イリスク群の非HDL-Cは<130 mg/dl、超ハイリスク群の非HDL-Cは<100 mg/dlに制御する必要がある。

 CCSPS研究(血脂康カプセル1.2 g/dを投与)では、糖尿病サブグループのLDL-Cは16.9%減少し(108 mg/dlまで減少)、糖尿病患者は脂質調整治療後、冠動脈疾患が50.8%減少した(P<0.001)。このため、R3i(残余リスクによる問題の減少を目指す)国際運営委員会委員は、現在の標準的治療にはLDL-Cの基準達成や血圧・血糖制御の強化が含まれるとは言え、大血管疾患及び微小血管症の合併症の残余リスクは依然として大多数の患者に存在すると考えた。LDL-Cの低下にだけ注目しても、低 HDL-C及び高TG間に相関する血管の残余リスクは解決できず、臨床上、心血管症例の低下率不足という問題が依然として存在する。糖尿病患者の血中脂質異常の全面的な調節がますます注目されるようになってきている。

 学術誌「diabetes care」に掲載されたある研究では、冠動脈造影を実施した患者750例の血中脂質指標及び冠動脈狭窄や変質等の主な血管疾患を観察し、2~3年のフォローアップの結果、H DL相関因子と2型糖尿病患者の冠動脈狭窄又は血管疾患との相関性はLDL相関因子よりも密接であった。sLDLは通常のLDLに比べて強いアテローム性動脈硬化作用があり、冠動脈性心疾患リスクを4倍、心筋梗塞による死亡リスクを6倍以上強化させる。4S、虚血性心疾患に対するプラバスタチン長期介入試験(LIPID)、腎臓病患者に対する心血管造影研究(CARE)及び西スコットランドにおける冠動脈性心疾患予防研究(WOSCOPS)のいずれも、スタチン介入で冠動脈疾患を減少させられるが、ベネフィットの程度はHDLレベルによることを示しており、H DLが正常又はやや高い時のベネフィットが最も顕著であった。スタチンを単独で使用した研究によれば、これら治療は心血管疾患リスクを20%~40%減らすが、60%~80%の残余リスクがなお存在する。高比重リポタンパクによる動脈硬化症治療の研究(HATS)及び家族性のアテローム性動脈硬化に対する治療研究(FATS)によれば、スタチンの使用によるLDL-C低下を基礎に、ナイアシンを用いてHDL-Cを高めることで心血管疾患リスクを一層低減することができる。

 LDL-C及びHDL-Cがますます注目される中で、TGも軽視できない因子である。プラバスタチン/アトルバスタチンによる治療効果の評価及び抗炎治療研究(PROVE IT-TIMI 22)において、高用量のスタチン類薬品はLDL-Cを<70 mg/dlまで低減させるものの、TG≥200 mg/dl(2.3 mmol/L)の患者の死亡、心筋梗塞による死亡、急性冠動脈症候群のリスクはTG<200 mg/dlの患者に比べて50%上昇することから、TGは大血管疾患における残余リスクの重要因子であることがさらに証明された。

 今年発表されたACCORD研究のサブグループ分析結果によれば、TG≥204 mg/dl、HDL-C≤34 mg/dlの2型糖尿病患者に対しては、プラセボを併用した際と比べ、シンバスタチンにフェノフィブラート併用治療した方が主な心血管疾患リスクを31%と有意に引き下げた。

 糖尿病患者の脂質調整治療については、特に深刻な血中脂質異常を除き、一般的にはスタチン治療を最初の選択とすべきである。そして必要に応じ、特に混合型血中脂質異常が存在する場合は、生活様式の変化を通じても効果が思わしくない際に薬を併用することは安全ではあるが、最初の投与量は少なくし、かつ、密接なモニタリングとフォローアップを行うべきである。スタチン系薬剤(血脂康カプセルを含む)を フィブラート系薬剤と併用する際は、ゲムフィブロジルではなく、フェノフィブラートを最初の選択とするべきであり、フォローアップ中は肝臓酵素のモニタリング以外に、患者に筋無力症や筋肉痛等の症状を確認し、明 らかな異常がある場合には即座に評価し、処置を行う必要がある。軽・中度混合型血中脂質異常(総コレステロール及びTGが同時に上昇するケース)に対しても、血脂康カプセルを最初の選択肢として単剤治療を行っても良い。血脂康カプセルには天然由来のスタチン及びさまざまな成分が含まれており、TG低減作用は通常用量のスタチン系薬剤より強い上に、s LDL含有量を減らすことができ、糖尿病患者のインシュリン感度を高め、糖尿病患者に多くのベネフィットをもたらす。

 糖尿病は冠動脈性心疾患等の危険因子であり、糖尿病患者は心血管疾患を発症しやすい。血中脂質の異常は糖尿病に大血管疾患の併発リスクを高めるため、心臓内科及び内分泌科医師のいずれも積極的に対応する必要がある。冠動脈性心疾患に糖尿病を併発する患者の血中脂質異常に全面的に介入することにより、患者の心血管予後を顕著に改善することができることから、脂質代謝異常の治療状况を糖尿病患者の予後評価の重要指標とするべきである。中国で実施されたCCSPS研究からは、一般用量の血脂康カプセルによる脂質全体の調整により、中国における糖尿病患者の大血管疾患合併症の発生を効果的に低減できたことから、そのベネフィットは有意であることがわかった。


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