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大興安嶺森林地帯の害虫ツガカレハ対策

2012年 5月18日

胡 遠満

胡 遠満(Hu Yuanman):

研究員、博士課程指導教員。中国科学院瀋陽応用生態研究所森林生態林業生態工程センター副主任、景観生態グループ長。国際景観生態学会会員、中国分会副理事長。中国生態学会景観生態専門委員会副主任、中 国地理学会環境リモートセンシング分会常務理事、中国自然資源学会湿地資源専門委員会副主任。1965年生まれ。1987年、北京大学地理学部卒。1997年、中国科学院瀋陽応用生態研究所理学博士。2 003年3~6月と2010年9月~2011年3月に米国で研究。遼寧省「百千万人材工程」の人材に選ばれる。

共著者:陳 宏偉

 ツガカレハは、よく見られる森林害虫の一つであり、主にグイマツ、モンゴリマツ、マンシュウクロマツ、チョウセンゴヨウ、モミなどの針葉樹に害をもたらす。中 国のツガカレハの年間発生面積は約200万~280万ヘクタール、発生周期は約14年であり、1ヘクタール当たりの生長量を年1.38m3、木材生長量を276-368万m3減少させ、中 国の木材生産に大きな損害を与えている。

 中国では主に大興安嶺の森林地帯で大量発生することから、本稿では大興安嶺地区について総合的に論述し、ツガカレハの総合的な駆除と森林の持続可能な経営に理論的な根拠を提供したい。

1.ツガカレハの発生と環境条件との関係

 大興安嶺の森林地帯では、主に標高700メートル以下の山や丘陵地帯で発生する。風が吹かず、南向きで太陽が充分に当たり、土壌が痩せている条件の下で、ツガカレハは猛威を振るいやすい。特 に三方を山に囲まれた谷間のなだらかな斜面の林で、深刻な被害をもたらす。

 現在の研究は、定性的な分析に集中し、定量的な分析報告がほとんどない。今後は、典型的な虫害発生地域を選択し、長期的に定点観測をして、ツガカレハの発生と立地条件・林 分条件との関係を定量的に研究する必要がある。

 ツガカレハの繁殖と発育は、気象条件とも密接な関係がある。地球温暖化の影響を受け、中国東北部のほとんどの地域では、気温が年々上昇し、降雨が徐々に減少している。こうした気象条件が続くと、ツ ガカレハの大量発生につながる。

 大興安嶺地区の自然林では、開発によって過熟林の面積が徐々に減少し、林分密度が低下した。こうしたことも、ツガカレハの成長、発育、繁殖には有利な条件となる。鉄道、道路網、居住区の整備に伴って、ツ ガカレハの伝播と拡散が容易になるためだ。

 人間による過度な伐採によって、原生林の面積が減っている。伐採後は、大規模な人工グイマツ純林が取って代わり、これもツガカレハの成長・発育に有利な環境条件となっている。現在、森 林開発に関する研究は、伐採と道路建設に限られており、計画的な野焼き、森林育成などの間接的な影響はほとんど考慮されていない。人間の活動について多方面にわたって研究する必要がある。

2.ツガカレハの生物学的特性

 大興安嶺地区では、卵、幼虫、サナギ、成虫の四つの時期を経て、2年で一世代となる。幼虫は一般に9齢幼虫(8回脱皮した個体)まであり、1年目は2~4齢で越冬する。3齢が中心で、越 冬幼虫の約70%を占める。

 2年目の春、4月下旬から木に登り始め、グイマツの松かさが開いてから9月下旬に落葉するまでこれが続き、9月下旬に幼虫は、5~7齢で再び木から降りて越冬するが、この時は6齢が中心となる。3 年目の春、4月下旬に再び木に登り、5月下旬から繭を作り、サナギになる。幼虫期は約720日間で、うち活動期は約300日、蛹期は約20日間で、6月中旬に羽化し始める。一方、6月下旬には孵化が始まる。 

3.ツガカレハの駆除・制御

 ツガカレハによる被害面積が小さい場合は、人力と簡単な工具により、直接除去する。ツガカレハが木から降りて越冬する習性を利用して松葉を掃き、集中的な野焼きによって生体密度を低減させることができる。p p p p ツガカレハは多くの場合、樹木の中部・下部に産卵する。中齢・幼齢林では、はしごやカギ竿など簡単な道具を利用して、卵を除去する。

 照明を利用し、成虫をおびき寄せて殺す方法もある。成虫の羽化初期に、電気式殺虫機で殺す方法で、生体密度を効果的に低減できる。

 化学的な駆除・制御は、ツガカレハが広い面積で発生した際に採用される。樹幹に殺虫剤を施した縄などをかける駆除方法や、マイクロカプセル製剤による駆除方法、機械・飛行機による噴霧などである。 

 生物学的駆除は、森林の生態環境への影響が比較的小さく、人や家畜にも安全であるため、比較的広く応用されている駆除方法である。よく利用される微生物学的駆除方法には、真菌、細菌、ウ イルス及び抗生物質を分泌し得る抗菌剤がある。例えば、白きょう病菌(真菌)やバチルス・チューリンゲンシス(細菌)、又はウイルス抽出液(ウイルス)を使ったツガカレハ駆除法がある。

 寄生性の天敵によっても、効果的に駆除できる。寄生性の天敵には、寄生バチ、寄生バエがあり、タマゴコバチ、ヤドリバエなどがよく見られる。捕食性の天敵を利用した駆除方法もあり、主にシジュウカラ、オ ナガなどの鳥類に幼虫を捕食させる。林の中に鳥の巣を設置し、鳥を誘引すると同時に混合林を造成し、天敵が生息する環境をつくれば、長期的にツガカレハの数を制御できる。

 合理的な造林によって、発生を一定程度抑制できるため、混交林を極力造成すべきである。混交林には蜜源植物が多く、天敵昆虫も多いため、ツガカレハ個体群の増加を制御できる。混 交林の造成ではその土地に合った措置を講じ、適地適木の原則に基づき、帯状・塊状等の造成、または二次林との混交により、大規模なグイマツ純林の造成を回避すべきである。

4.ツガカレハの予測・予報

 ツガカレハに関する予測と予報について紹介する。予報は、短期、中期、長期の観測・予報に分類できる。短期予測は、前の成長段階の虫の発生状況から、次の成長段階の虫の発生状況を予測し、中 期予測は一世代前の発生状況から、次の世代の発生状況を予測するもので、予測期間は一般的に1年である。

 長期予測は秋季または春季の発生状况に基づき、当該年または翌年の発生傾向と今後数年間の状況を予測するものである。

 ツガカレハの成長・発育には一定の規則性があることから、一定の期間・地域と適切な自然条件の下でサンプリングして初めて満足な効果が得られる。

 また、ツガカレハは大量発生する害虫であるため、正確な調査と現地の発生のリズムに基づいて、タイムリーに予報を発出し、効果的な措置を講じなければ、短期間に広範囲の被害を受けることになる。

 ツガカレハの発生と成長のリズムを把握し、短期、中期、長期の予測・予報を出すことが、駆除対策の鍵を握る。

 観測・予報方法には、マルコフ連鎖と呼ばれる計算によって予測する方法、リモートセンシング(遠隔探査)、地理情報システム(GIS)などの方法がある。

 リモートセンシング技術は、遠隔測定によって、虫の発生源や虫害増加の兆候を継続的に監視することで、森林病虫害を予報する。

 近年は、GIS技術も応用されている。地理的な位置を手がかりに、病虫害の空間分布、空間相関分析、病虫害の発生動態のシミュレーション、データベース管理などの作業ができるため、病 害虫の研究に新たな道筋と方法を提供している。

 ツガカレハの予測・予報に関する研究は多いとはいえ、ほとんどは単一因子に基づく予測・予報に集中している。気象因子や林分条件、人 間や自然による干渉など多くの因子を結びつけて総合的に予測することでその精度を高め、より正確な情報を提供する必要がある。


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