森林地上部バイオマスのリモートセンシング予測に関する研究の状況
2012年 5月9日
曽 源(Zeng Yuan):
中国科学院リモートセンシング応用研究所 副研究員
1979年生まれ。2008年、オランダ・ワーニンゲン大学リモートセンシング専攻で博士号を取得。主に、リモートセンシングによる植生の定量モニタリング、リモートセンシング物理モデルによる逆解析、生態環境におけるリモートセンシングの応用などを研究。中国科学院の戦略的先導「炭素」サブテーマ、同科学院の重要な「三北防護林モニタリング」プロジェクト、科学技術部の973計画の研究テーマ「地域的生態パラメータのモニタリング」、国務院三峡プロジェクト弁公室の「三峡プロジェクトの生態・環境におけるリモートセンシングによる動態モニタリング」プロジェクトと中国科学院青年人材などの研究プロジェクトを主宰または参画。オランダISPRS国際リモートセンシング会議で最優秀論文賞を受賞。スイス連邦政府からSSSTC Program(Sino-Swiss Science and Technology Cooperation)による研究補助を受ける。
共著者:婁 雪婷、呉 炳方
森林の分布面積は広く、陸上生物圏と大気圏間の炭素循環プロセスで重要な役割を果たしている。
森林バイオマスは陸上生態系バイオマスの約90%を占め、森林生態系全体のエネルギーの基盤と栄養物質の源であり、陸上生物圏とその他の地表プロセスに大きな影響を与えている。
森林バイオマスは、その起源によって根、幹、枝、葉のバイオマスに分けられる。このうち、幹、枝、葉のバイオマスを総称して森林地上部バイオマスと言う。森林地上部バイオマスは寿命が長く、体積が大きいうえに、炭素保管庫に長期的かつ大きな影響を及ぼすため、森林の炭素循環を研究し、森林の炭素収支を評価する基盤であり、地球全体の気候変動を研究するうえで重要な意義を持つ。
本稿では既存の地表実測法を総括し、それを基礎にリモートセンシング技術に基づく森林地上部バイオマスの推計方法を検討する。さまざまな方法の適応性と不確実性について考察したうえで、総合的なモデル手法を示したい。
1.森林地上部バイオマス抽出方法の概論
森林地上部バイオマスの抽出に関する研究は、1960年代以降は一時、統計モデルによる研究が主流となった。その後、国際生物学事業計画(IBP)と人間と生物圏計画(MAB計画)の実施に伴い、リモートセンシングによるモニタリング技術が森林地上部バイオマス研究の新たな手段となった。
研究エリア内の単位面積当たりの林木重量の測定を主とし、主に皆伐実測法、無作為抽出法、木質バイオマス平均法、バイオマス拡大係数(BEF)法、相対生長モデル法とガス交換法の6種類がある。各方法の原理、長所、短所、適用性は表1のとおり。
抽出方法 | 原理と説明 | 長所 | 短所 | 適用性 |
皆伐実測法 | サンプル区域内の林木をすべて伐採し、器官ごとに分けて重量を量り、かつ、乾燥させて乾燥重量比を導く | 測定精度が高い | 作業量が莫大。林分にマイナス影響を及ぼす | 他の測定方法の精度を検証 |
無作為抽出法 | バイオマス=無作為抽出した木質サンプルの重量×サンプル地域の単位面積当たり株数 | 作業量が少ないため、実行可能性が高い | 精度保証の仕様がない | 自然林、複層林 |
木質バイオマス平均法 | バイオマス=∑径階数(サンプル木質重量×株数) | 層化抽出理論に基づき、森林バイオマスの測定精度を保証 | サンプル区域内であらかじめ各樹木のサイズ計測が必要 | すべての区域 |
バイオマス拡大係数(BEF)法 | バイオマス=(林分バイオマス/林分木材材積)×蓄積量 | 人工林に対しては、林分バイオマス/林分木材材積の平均値が安定しており、かつ、導きやすい | 自然林、複層林には適さない | 人工林、単層林 |
相対生長モデル法 | 単木の幹径、樹高、樹冠幅等の樹木測定因子を実測することで単木の木質バイオマスとの回帰関係を構築し、単木の木質バイオマスを計算する。各木質バイオマスを累加すればサンプル区域の総バイオマスが得られる | 推算された樹幹バイオマスは皆伐法と比べ、誤差は5%を上回らない | モデル形式が多岐にわたり、植生タイプの影響を受けやすい | すべての区域 |
ガス交換法 | 赤外線ガス分析計と他の微気象学的手法を用い、森林群落の光合成と呼吸作用によるCO2交換量を測定することで森林バイオマスを計算する | 測樹学的方法では反映され得ない短期の森林生産力を導く | 測定設備が高価。単点計測しかできない | 小さいスケールでの科学研究 |
しかし、従来の地表実測法では一般に点データしか得られないうえに、労力が大きく、コストが高いため、バイオマスの空間分布と変化の研究には向かない。
更に実用上、林業用測定機器には誤差があることや、空間分布上、サンプル区域に代表性が足りない等の問題により、区域スケールでの森林地上部バイオマスは研究の難度が高まっている。それでも、従来の地表実測法で得られたデータをバイオマスのリモートセンシング抽出モデルにおける入力パラメータとして検証することは、今もなお重要である。近年、従来型の地表実測法をリモートセンシング技術や空間定位技術と絶えず結びつけることで、リモートセンシングによる森林地上部バイオマスのモニタリングの基盤が築かれてきた。
リモートセンシングは、日々成熟を見せる対地上観測技術として、迅速かつ定量的に区域スケールの森林地上部バイオマスを得られるだけでなく、その変化に対して広範囲かつ多面的なスケールによるデータを提供することができ、更には地表パラメータに対するリアルタイム・モニタリングを実現できることから、森林バイオマスの時空構成と変化傾向の分析と評価に適している。リモートセンシングには現在、主に統計モデル、物理モデルと総合モデルの三つの方法がある。
統計モデルは、実験エリア内のサンプル区域におけるバイオマスとリモートセンシング画像上の植生の物理パラメータ、反射スペクトル特性又はさまざまなレーダーチャネルのデータとの間の相関関係について回帰分析を行い、ピクチャエレメントに基づきバイオマスを計算する方法である。
統計モデルを応用する明らかな長所は、植生バイオマスをマクロ的かつ連続的にモニタリングできる点にある。しかし、その限界性も無視できない。第1に、大気、リモートセンサによる較正、太陽の幾何学的な照射、土壌の湿度、輝度、色はそれぞれのエリアで時々刻々と変化しており、統計関係の適用性も往々にして不安定であるため、応用エリアごとに適切なデータ源とその波長域との組み合わせを選択する必要がある。第2に、樹木の生長は温度や光の照射、水分等の因子により制限されるため、季節ごとの樹幹、樹枝、樹冠バイオマス間の統計関係にも変化が生じる可能性がある。
バイオマスとは、生態系により蓄積された活性有機物の総量である。一方、植生の純1次生産力(NPP)とは、一定期間内に独立栄養生物が産生した純有機物重量を指し、枯死・脱落による損失量と草食性動物に食べられた消耗量を含む総和である(通常、草食性動物に食べられた消耗量は無視して計上しない)。このため、ある一定時点以前の長期間のシークエンスNPPを累計し、枯死・脱落により損失したバイオマスを差し引けば森林地上部バイオマスを得ることができる。
森林生態系の安定した情况下では、林分バイオマスは周期性変動を示す。しかし、リモートセンシングによるピクチャエレメントのスケール下では、如何に複雑なモデルを構築しても、このような法則を充分に体現し難い。このため、生態的意義を持ち、かつ、リモートセンシングデータと結合し得る推算モデルを選択することがリモートセンシングによる森林地上部バイオマス推算の研究課題となっている。
2.リモートセンシングによるバイオマス抽出の不確実性に関する分析
現在、マルチスペクトルによるリモートセンシングデータは、すでに森林植生バイオマスの推算に広く利用されているが、ハイパースペクトルによるリモートセンシングデータとSARデータはさまざまな長所により、この研究分野における応用が徐々に拡大している。大量の新しいリモートセンシングデータ源は、バイオマスの抽出により多くの情報をもたらすだけでなく、多くの不確実性ももたらしている。
ハイパースペクトルによるリモートセンシングデータは、植生の精密な各種生物的・物理的パラメータを入手すると同時に、大気の放射伝達、機器の構造と性能、植生のスペクトル角度効果等の面でいくらかの誤差を生む。このため、ハイパースペクトルによる安定的な植生指数の構築に関しては、更なる研究が待たれる。
3.今後の展望
森林バイオマスは、生態系生産力を評価する重要な指標の一つであり、森林生態系の物質循環を研究するうえで重要な基盤である。
しかし、森林は構造が複雑で、バイオマスの蓄積過程も多様な要素の影響を受けるため、研究者たちは森林地上部バイオマスのさまざまな予測方法を構築している。従来型の地表実測法は原理がシンプルで実践しやすく、予測結果の精度も高いが労働強度が大きく、コストも高い。
一方、リモートセンシング技術にはマクロ的、総合的、迅速、動態観察、正確と言う長所があり、森林バイオマスの研究に先進的な技術手段を提供し、研究範囲や精度、リアルタイム性を向上させた。リモートセンシングに基づくモニタリング法は主に統計モデル法、物理モデル法、総合モデル法の三つのタイプに分類される。総合モデルでは生態系の法則をガイドに、リモートセンシングデータを入力できるだけでなく、顕著な生態学的意義を有する。
森林は人類に対し生態系サービス機能を提供し、人類の生活と密接な関係にある。森林地上部バイオマスの予測精度を向上させるための研究には、次の面で更なる研究が待たれる。
(1)標準化した観測システムと観測方法の構築。より豊富で高品質な基礎観測データの蓄積。
(2)光学リモートセンシング、ハイパースペクトルリモートセンシングとマイクロ波リモートセンシング等は植生の観測面でそれぞれ長所があるため、研究エリアと研究対象の特徴に応じ、さまざまなリモートセンシングデータの優位性を発揮することは、バイオマスの推算精度向上に資するだろう。
(3)森林生態系の研究には、種群、群落、景観、生態系等のスケール効率を考慮する必要がある。広範囲・大スケールでの森林バイオマス推算は非常に複雑で、森林生態学研究の課題の一つである。海外の研究者が提起する機序・モデルは、植生のタイプ、モデルのパラメータ等の違いから、中国では適用できない。このため、中国の地域的特徴を基礎に、豊富かつ信頼できる観測データを利用し、機序に基づく森林バイオマスモデルを構築することが今後の研究における関心事となろう。