第69号:鉄道
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都市鉄道輸送の安全基準

2012年 6月5日

丁烈雲

丁 烈雲(Ding Lieyun):

 東北大学学長(中国遼寧省瀋陽市)、華中科技大学BIM工程センター主任、教授。同済大学博士(マネジメントサイエンス・エンジニアリング)。
1955年12月生まれ。武漢工業大、武漢城建学院、華中科技大、華中師範大、東北大に勤務。武漢城建学院副院長、同院長、華中科技大副学長、華中師範大学校務委員会主任を歴任。2011年1月、東 北大学長に就任。教育部科技委委員・管理学部副主任、中国建築学会工程管理研究分会理事長、中国金属学会副理事長、「土木工程与管理学報」編集委員会主任などを務める。主な研究対象は、建設工程管理情報化、リ スクと安全管理。

 中国の都市鉄道輸送は、すでに高度成長期に入っているが、建設の難度が高く、施工環境が複雑なうえ、安全管理・制御上の悪条件や投資不足のため、建設工事において時折、事故が発生している。中 国は安全基準を徐々に構築し、鉄道輸送の安全性を一定程度保障しているが、系統的な整備は不十分であり、緊急に整備が必要な一部の安全基準は欠けており、一部の基準は古くて時代に合わず、使い勝手に問題があり、適 切な改正や廃止が実施されていないため、建設や運行上、必要な技術革新の要請にこたえられていない。「第11次5ヵ年計画」の国家科学技術支援計画事業である「新型都市鉄道輸送技術」では、安 全基準体系を構築することにより、都市鉄道業界の規範的な発展促進が明示されている。

1.都市鉄道輸送の安全基準体系構築上の原則

 安全基準は、中国の現行の設計、建設、運行の水準、および国内外の関連技術水準の向上に基づいて決定しなければいけない。安全基準体系を構築するうえで、以下の原則を十分考慮する必要がある。

(1)調和の原則

 安全基準は、中国の現行の安全に関する法律、基準に合致させるとともに、安全基準と法律および政策の不一致を回避し、同時に、市場経済の要請と国外の基準の進展動向との整合性を図らなければいけない。 

(2)使い勝手と先進性の原則

 安全基準は、一定期間における経済発展水準と都市鉄道輸送の設計、施工、運行技術水準と合致させなければならず、基準実施の際は、経済的な可能性と技術的な使い勝手を十分考慮し、かつ、基 準の制定過程においては、一定の先進性を考慮し、新技術の発展と普及に適応させなければならない。

(3)分野別指導の原則

 安全基準は、分野別の指導が必要である。まず技術、管理、行為の三つの大分類について枠組みを構築し、次に、三つの大分類に基づき、さまざまな専門分野や実施段階について、相応の基準を制定する。そ れによって、安全基準における分野別の指導と使い勝手を強化する。

(4) 段階的推進・重点強調の原則

 安全基準の構築は、絶えず改善が必要な発展過程であるため、安全基準は系統的な枠組みの基礎の上に、作業の重要性と緊急性に基づいて、短期、中期、長期の段階に分け、系 統的に整備された基準を徐々に構築することで、安全基準の管理業務を常に新しい段階に向けて推進する必要がある。

2.安全基準のレベル

 中国の現行の建設基準の形式に基づけば、都市鉄道輸送の安全基準は以下の三つのレベルに分類できる。第一レベルは基礎基準、第二段階は汎用基準、第三段階は専用基準である。

(1)基礎基準

 基礎基準は、都市鉄道輸送の各専門領域を指導する基本の共通基準である。当レベルの基準には、関連専門用語、記号、コード、ユニット、製図方法、ファイル形式、分類、マ ークなどに関する規定と建設に関連する基礎基準が含まれる。基礎基準には、各分野における基礎基準が含まれ、安全基準の基礎も含まれる。

 制定済みの基礎基準には「都市公共交通マーク・地下鉄マーク」(GB/T 5845.5-1986)、「地下鉄旅客輸送サービスマーク」(GB/T 18574-2001)、「都市交通分類基準」( CJJ/T 114-2007)、「都市公共交通工程専門用語基準」(CJJ/T 119-2008)、「地下鉄限界基準」(CJJ 96-2003)及び制定中の国家基準「都市鉄道輸送工程基本専門用語基準」が ある。このうち1986年に公布・施行された「都市公共交通マーク・地下鉄道マーク」は現在も利用されているが、古すぎるため、早急な改正が必要である。

(2)汎用基準

 汎用基準は、標準化に関する共通基準である。安全技術汎用基準、安全管理汎用基準、安全行為汎用基準の三つに分類される。

 安全汎用基準は現在、徐々に改善されている。安全技術汎用基準には「都市鉄道輸送技術規範」(GB50490-2009)及び制定中の国家基準「都市鉄道輸送安全技術危険防止汎用規範」などがあり、安 全管理汎用基準には公布済みの国家基準「都市鉄道輸送建設プロジェクト管理規範」(GB 50722-2011)があるが、安全行為汎用基準は制定が待たれている。

 中国は、まず都市鉄道輸送安全技術基準、安全管理基準、安全行為基準の三分野の汎用基準を整備しなければならない。これらの基準は全体として、建設、運行上、要求される技術及び管理方法を規定する。都 市鉄道輸送の各システムの安全に関するルールの集大成であり、建設工事の品質、安全及び人々の生命、財産、健康に直接関わるため、強制的な基準とすべきである。

(3)専用基準

 専用基準は、三つの汎用基準の下、各段階、各専門領域に対する独立した基準によって構成される。専用基準は内容によって、強制的な基準、あるいは推奨基準とすることができる。

 安全専用基準は、汎用基準の補充、延長であり、適用範囲は小さいが、対象が非常にはっきりしている。

①技術に関する基準

 安全に特化した内容について、独立した安全技術規範を制定することができる。典型例としては、土木工事専用技術基準の「地下鉄設計規範」(GB50157-2003)、「地下鉄工事施工及び検収規範」( GB50299-1999〈2003年版〉)、「都市鉄道輸送建設測量規範」(GB50308-2008)などがあり、いずれも多くの安全条項を含む。「施工現場臨時電力使用安全技術規範」( JGJ462005)は、独立した安全技術規範である。中国の現行の技術基準は内容が一部古くなっているため、基準を更新し、新技術、新素材、新工程を反映するべきである。

②安全管理に関する基準

 安全管理に関する専用基準について、中国は近年、評価基準制定を重視している。例えば、「地下鉄運行安全評価基準」(GB/T50483-2007)、「都市鉄道輸送安全事前評価細則」( AQ8004-2007)、「都市鉄道輸送安全検収評価細則」(AQ8005-2007)並びに制定中の国家基準「地下鉄建設工事施工安全評価基準」などがあり、安全評価のシステムが徐々に整備されている。 

 リスク管理基準も、例えば「地下鉄及び地下工事リスク管理ガイドライン」や、制定中の国家基準「都市鉄道輸送地下工事リスク管理規範」がある。しかし、一部の評価基準は不完全で、リ スク管理に関する細かい規定が不十分であり、専門的な緊急対応要領の管理基準が欠落している。

③安全行為に関する基準

 中国の安全行為基準には欠陥があるため、相応の規範を制定して各関係者の責任の範囲を明確にし、安全を確保するため、具体的な規定を置く必要がある。工事関係機関は一定の内部規定があるが、実 効性には限界があるため、国家基準として、関係者の安全責任体系や、安全検査、特に作業員の安全訓練と安全確保について、ルール化を図り、実効性を高めなければいけない。また、「安全責任体系基準」、「 人員安全訓練基準」、「安全操作行為基準」、「人員安全検査評価基準」、「人員安全保障基準」などの基準も制定する必要がある。