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無線センサネットワーク技術の研究の進展及びその地下鉄トンネル内における応用への挑戦

2012年 6月20日

謝 雄耀

謝 雄耀(Xie Xiongyao):同済大学地下建築工程系副主任、
教授、博士課程指導教員

 1972年12月生まれ。2001年、同済大学構造工程専攻修了、工学博士。04年、仏リール科学技術大学LMLラボラトリーでポスドク研究。08年9月~09年9月、米ノースウェスタン大学土木環境エンジニアリング学科訪問学者。主な研究分野は、トンネル及び地下工事のリスク及び防災。現在は中国岩石力学工程学会青年工作委員会秘書長、中国土木工程学会リスク保険専門委員会理事。

 中国の都市鉄道輸送の建設は、急速な発展段階にある。住房和城郷建設部(住宅・都市農村建設部)発表によれば、2011年時点で、北京、上海など25都市で建設されている鉄道は約62路線で、建設規模は世界一であり、運行距離は1,395kmに達している。

 2015年までに、北京、上海、広州など22都市で79本路線が新たに建設され、総投資は1兆元を超え、総運行距離は2,260kmに達し、世界一の規模となる予定である。鉄道の建設と運行に伴い、都市交通の要として、その地下構造の健全性は、都市の正常な運営にとって極めて大切であり、社会の関心はますます高まっている。

 都市鉄道輸送の発展は非常に早いうえ、列車の運行密度が極めて高く、運行条件は過酷で、かつ、構造の連結部及び構造そのものに施工上の欠陥があると、材料の劣化等によって脆弱性が露わになり、構造が一度損壊すると交換は難しく、あるいは不可能であり、悲惨な突発事故が起きる可能性がある。

 このため、都市鉄道輸送の健全性には非常に高い規格が求められており、トンネルについて連続的、長期的かつリアルタイムのモニタリングを実施し、末梢神経のように絶えず感知することで、地下鉄トンネル構造の全体的な健全性を把握する必要があり、これを構造健全性モニタリング技術という。

構造健全性モニタリング技術

 既存の構造健全性モニタリング技術で採用されたのは、有線センサネットワークであり、一連のセンサはケーブルによってデータを送信し、かつ、電力の供給を受ける。ケーブル及びセンサノードの設置はコストが極めて高いだけでなく、設置作業が煩雑で誤りやすく、作業量も大きく、システム拡大の難度が高い上に、モニターシステムの設置及びケーブルの敷設がトンネルの運用に影響を与え、深刻な事故を引き起こすことさえある。

 トンネル交通の地下構造の運用期間における健全性モニタリングの要求に応えるためには、すでに実現している構造性能のスマートセンシングに関する新たな理論を発展させる必要がある。

 無線センサネットワーク(WSN)の無線送信能力によって、ケーブルの使用が節約できるため、設置コスト及び設置作業量を大幅に減らし、設置時間を節約できる。モニタリングエリア内には大量のセンサを設置して大規模ネットワークが構築できるため、設置の柔軟性が高まり、かつ、良好な拡張可能性を実現した。

 スマートセンシングノードは、MEMS(マイクロエレクトロ・メカニカルシステムズメムス技術に基づくもので、サイズが小さく、コストが安く、構造モニタリングのスマート化が促進された。大型土木工事によるインフラ設備に、スマートセンシングノードを設置し、無線センサネットワークを構成してモニタリングを実施する。

 無線センサネットワーク技術は、土木工事の構造モニタリング分野での応用が、研究者の関心事となっているが、応用段階には遠く至っておらず、特に地下鉄トンネルの構造モニタリングにおける応用は始まったばかりである。

 地下鉄トンネルの構造は置かれている環境が複雑で、水分を多く含む柔らかい地層においては、構造特性は土壌と地下水の組み合わせと関係するため、地下鉄の振動・循環荷重の影響により、構造応答及び損傷ポイントの位置は複雑で判断が難しく、経済的かつ効率的なモニタリング方法やトンネル構造性能を全体的にカバーするスマートセンシングが急務となっている。

 しかし、既存のモニタリング手段や方法にこれを求めることは、ほとんど不可能である。一方、スマートセンシングノード技術は、これらの要求を完全に満たすことができるため、都市地下鉄トンネル構造のスマートセンシング理論及び方法の研究は重要な意義を持つ。

超長線状地下構造性能のスマートセンシング

 上海の地下鉄トンネルは、主にシールド工法によって施工されている。地下鉄トンネルは典型的な軟土層にあり、建設後、自重及び上部の覆土による重力作用で不等沈下が極めて発生しやすく、トンネル内で断層を引き起こす。

 上海は地下水位が高く、トンネル構造は全体的に地下水位より下に位置し、ジョイントセグメントの位置と構造本体に存在する初期の欠陥位置及び施工過程で生じた構造の微小な損傷位置は、いずれも深刻な浸水・漏水の脅威に直面している。

 地下鉄トンネル構造は、内部で列車の往復による影響を受け、循環振動の荷重によって、ジョイントセグメントの開口及びセグメント本体にクラックが生じ、トンネル構造の老化を加速する。これら因子の影響は、単独では作用せず、組み合わせとして存在し、不等沈下によって起きた断層や、振動によって生じたジョイント部の開口及びクラックは、いずれも浸水・漏水のルートとなる可能性があり、漏水・浸水の発生を加速する。

 また、地下水の浸入によって、コンクリート構造とジョイントボルトの腐食が生じ、性能が低下するため、振動荷重及び不等沈下に対する抗力が減少することも、ジョイント部の開口、クラック及び断層の発生を加速する。

MEMS技術に基づく地下鉄トンネル構造のスマート損傷識別理論

 地下鉄トンネルは建設後、構造と土壌、地下水は、相互作用があるため、測量情報に基づく損傷探査・識別は、更に複雑で難しくなる。トンネルは超長線状構造であり、構造の縦方向には、顕著な脆弱ポイントや損傷しやすいポイントは存在しないため、破壊が発生する位置は予測が難しい。

 研究者たちが提起しているさまざまな損傷識別理論は、トラス又は簡単な橋梁構造での検証にしか成功していないため、地下鉄トンネル構造については、応用例が少ない。地下鉄トンネル構造及び環境については、既存の損傷識別アルゴリズムを改善することが、MEMS技術に基づく超長線状地下構造性能スマートセンシング理論を構築する上で、挑戦しなければならない課題であり、非常に意義がある仕事でもある。


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