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モノアミン再取り込み阻害薬の抗抑うつ薬作用

2012年 7月10日

張 有志

張 有志(Zhang Youzhi):北京毒物薬物研究所 副研究員

 1971年1月生まれ。2001年、北京中医薬大学中医臨床基礎専攻(博士)。2001~02年、北京中医薬大学で新薬研究開発管理業務に従事。02~04年、北京毒物薬物研究所でポスドク研究。1998年から抗抑うつ等精神薬の新薬研究開発及び作用機序の研究に従事。

共著者 薛瑞


 抑うつ症は、罹患率、再発率、自殺率が高く、患者及び社会に深刻な経済的・精神的負担をもたらす。抑うつ症の発症機序は複雑で、現在でも完全には解明されていない。早期の研究としては、モノアミン伝達物質の欠乏が抑うつ症の発生及び治療と密接に関係するというモノアミン仮説がある。この仮説は提唱後、多くの臨床データにより裏付けられた。多くの課題に直面しているものの、現行の臨床抗抑うつ薬は、いずれもモノアミンを標的に設計されている上、モノアミン再取り込み阻害薬(Monoamine reuptake inhibitor,MRI)はなお、抗抑うつ薬開発の注目点である。

 抗抑うつ薬の薬効学的評価は、主に抑うつ症動物モデルの構築及び行動学的検査に依拠する。理想的な抑うつ動物モデルは次の三つの条件、すなわち、表面的妥当性(face validity)、予測的妥当性(predictive validity)及び構成概念妥当性(construct validity)を満たす必要がある。

 簡単に説明すると、表面的妥当性とはモデル動物の行動表現は抑うつ症患者の症状と相似性があるべきこと、予測的妥当性とはモデル動物及び臨床患者における薬効表現には一致性があるべきこと、そして構成概念妥当性とは動物モデルは抑うつ症の臨床的病因、治療プロセス及び病理学的機序を良好にシミュレート可能であるべきことである。

 抑うつ症の発症機序は複雑なため、上記3点の条件を同時に満たす抑うつ動物モデルは今なお実現できておらず、これも抗抑うつ薬の研究開発を著しく制限している。このため、モノアミン再取り込み阻害薬の評価及びスクリーニングには、正確な評価結果を得るために複数モデルによる評価体系を採用する必要がある。

 よく用いられる抑うつ症動物モデルには主にストレスモデル、薬物誘発性抑うつモデル、脳損傷モデル、行動操作モデル及び遺伝型抑うつ動物モデル等があり、中でもストレスモデルが最もよく使用される。ストレスモデルには主に行動絶望モデル(behavioral despair models)、学習性無力感モデル(learned helpless,LH)、慢性予測不能ストレスモデル(chronic unpredictable stress, CUS)及び慢性軽度ストレスモデル(chronic mild stress, CMS)がある。

 抗抑うつ薬の最初のスクリーニングの際は一般的に行動絶望モデルを選択する。これにはマウス尾懸垂試験(Tail suspension test,TST)、ラット/マウス強制水泳試験(Forced swimming test,FST)が含まれる。行動絶望モデルの特徴は簡単でスピーディである上に臨床的治療効果と良好な一致性があることである。しかし、注意すべきはSSRIs及びSNRIsはFSTでは感受性がなく、再現性に劣る点である。近年、研究者たちはさまざまな方法によりFST中のSSRIs及びSNRIsの感受性の向上を試みている。慢性ストレスモデルは、抗抑うつ薬の薬効評価及び作用機序の検討によく用いられる。

 新薬の評価及びスクリーニング研究においては、陰性対照薬の種類及び用量の選択が非常に重要である。動物モデルにより陰性対照薬の感受性は異なるため、まずさまざまなモデルで陰性対照薬の供与量効果関係研究を行うことを勧める。こうすれば、陰性対照薬の有効用量範囲を決められるだけでなく、MED(最小有効量)又はED50(半数有効量)も確定でき、被験薬物と並行して比較できるため、このことは“me too”又は“me better”薬物評価でより重要となる。この他、ヒトの体内での薬物処理は複雑で、薬物の吸収、分布、代謝、排泄(即ちADME)プロセスが薬理作用に間接的に影響することから、薬効学評価には薬物動態学パラメータを用いて試験をデザインする必要がある。例えば投薬頻度は半減期の消滅を参考にすることができ、血中濃度又は脳内薬物濃度は投薬用量の根拠となり得る。

 上述の通り、モノアミン再取り込み阻害薬はモノアミン伝達物質(5-HT、NE又はDA)の再取り込みを抑制することでシナプス間隙の伝達物質レベルを高め、抗抑うつ薬作用を発揮する。

 本稿では、よく用いられるモノアミン神経伝達物質の選択性消耗剤(表1を参照)及び薬物干渉モデルの調製に関する要点を以下の通り総括する。

  6-ヒドロキシドーパミン(6-hydroxydopamine, 6-OHDA)及び5,6-ジヒドロキシトリプタミン(5,6-dihydroxy tryptamine, 5,6-DHT)は、カテコラミンニューロン及び5-HTニューロンの化学的切断剤に分類され、両者の共通点はいずれも血液脳関門を透過できない点にあるため、脳室注射又は脳内特異核への注射が一般に選択され、投薬方式は相対的に複雑で、現在はニューロン形態学研究に多く用いられている。

 パラクロロフェニルアラニン(parachloro phenylalanine, PCPA)は、トリプトファン水酸化酵素の抑制を通じて5-HTの合成を遮断し、脳内の5-HTレベルを消耗するが、NE及びDAへの影響は小さい。

 α‐メチル‐p‐チロシン(α-methyl-para-tyrosine,α-MPT)はチロシン水酸化酵素抑制剤であり、チロシン水酸化酵素を選択的に抑制でき、カテコラミンの合成を遮断する。レセルピン(reserpine)は小胞再取り込み阻害薬であり、小胞の5-HT、NE、DAに対する再取り込みを遮断することで伝達物質が酵素分解により破壊され、脳内の伝達物質含有量の大幅な減少をもたらす。

表1 モノアミン神経伝達物質の選択的消耗剤
名 称 種 類 投薬方式 作用標的
6-ヒドロキシドーパミン 化学的切断剤 i.c.v. カテコラミンニューロン
5,6-ジヒドロキシトリプタミン 化学的切断剤 i.c.v. 5-HTニューロン
パラクロロフェニルアラニン トリプトファン水酸化酵素抑制剤 i.p. 5-HTの合成
レセルピン 小胞再取り込み阻害薬 i.p., s.c. 5-HT、NE、DAの代謝
α‐メチル‐p‐チロシン チロシン水酸化酵素抑制剤 i.p. NE、DAの合成
i.c.v.,脳室内注射;i.p.,腹腔注射;s.c.,皮下注射.

 新薬は開発周期が長く、投資費用が高く、リスクが大きいため、薬物スクリーニング及び臨床前評価を如何に迅速かつ正確に終わらせるかが非常に重要である。伝統的な新薬発見ルートは主に偶然の発見に依存し、スクリーニングモデルは評価を主としていた。化学研究と受容体を結びつける技術の発展に伴い、指向的合成が主な新薬発見ルートとなり、高密度なスクリーニング技術が動物の体内モデル全体を対象としたスクリーニングという伝統的なモデルに取って代わった。

 本研究グループは長年にわたり抗抑うつ新薬の評価に力を入れ、抗抑うつ薬の薬効学評価、作用標的研究、モノアミン伝達物質の含有量検査及びニューロンの電気活動研究等の評価法を整備し、これに基づきモノアミン再取り込み阻害薬の評価及びスクリーニング体系を確立した(図1を参照)。

図1 モノアミン再取り込み阻害薬のスクリーニング体系

図1

 この体系では体外での高密度スクリーニング及び動物の体内全体を対象とした薬効学的検証を結びつけた評価モデルを採用すると同時に、薬物動態学及び毒理学的データを応用し、開発に将来性のある候補化合物を効率的かつ正確に予測する。候補化合物の臨床前評価では、本体系はさまざまなモデルによる抗抑うつ活性評価や、さまざまなレベルでの標的研究及びモノアミン伝達物質の含有量検査に基づき、モノアミン再取り込み阻害薬の全面的な評価を迅速に行う。遺伝生物学及び神経生物学の発展並びに抑うつ症発症機序の解明につれ、新薬研究開発モデルの転換に従い、この体系も引き続き整備していく。


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