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中国伝統医薬(中薬)、植物性医薬品の国際的な研究開発

2012年 7月5日

趙 利斌

趙 利斌(Zhao Libin):天津天士力集団公司研究院助理総監

 1973年3月生まれ。2005年、天津大学製薬工程専攻薬学博士。2001年より天津天士力集団有限公司勤務。研究所高級専門員、所長助理等を歴任。

 

共著者:何毅、郭治昕、孫鶴


 生活習慣と生活様式の大きな変化に伴って、人類の疾患は、感染性等の単因子疾患から、代謝及び調節障害を主とする慢性的で複雑な多因子疾患へと転換している。腫瘍、糖尿病、心血管疾患、神経系、心理的障害等の精神疾患の増加等、慢性疾患、老人性疾患、生活習慣病の発生率が増加しているため、関連治療薬が新薬開発の注目点となっている。

 1996~2005年は、感染症や腫瘍、神経系、心血管系、消化器系が新薬開発の前列にあったが、05~08年になると、この順序に変化が表れ、開発・実用化される新薬の多くは、腫瘍、神経系疾患、心血管疾患の薬に転換していった。そのうち内分泌系(糖尿病)の薬は、研究開発が最も急増した分野である。

 西洋医学の考え方を指針とする新薬開発モデルは現在、厳しい挑戦に直面している。この数巡年間、発見・合成された化合物と創薬標的は増え、投資も拡大しているが、薬品開発の効率は低下し続けている。

 60年代は世界で844の新規化合物(NCE)が開発され、年間平均で約84個だった。90年代は世界で400の新薬が実用化されたが、年間平均約40まで減少した。00~06年は、わずか241個しか新薬は実用化されず、年間平均24まで減少した。

 新薬開発が難しくなった理由は、開発にかかる時間が長くなり、経費がまかなえなくなってきたからである。

 60年代、新薬の開発は平均約8年だったが、00年以降は14年にまで延び、平均の開発経費は60年代の1.37億米ドルから。2000年前後には8億米ドルまで増加した。

 世界の薬事法や審査手続が一層複雑になり、創薬資源も枯渇しつつある。従来型の「全スクリーニング」方式の開発が難しくなっており、研究開発過程の失敗率も上がり続けていることが最も直接的な原因である。

 第二に、現代医薬という単一的な、対症療法を主とする治療は、多くの多因子疾患の治療に対して弱点となっている。医学が疾病治療を主とする生物モデルから、予防、治療、健康維持、リハビリテーションが融合した「生物-心理-社会」モデルへ全面的に転換している中で、現代医薬は、新たな要請に応えられず、より多くの挑戦に直面している。

  中国伝統医薬と植物性医薬品は、世界の伝統医薬の重要な構成要素として、多くの国で利用されている。臨床例を見ると、中国伝統医薬と植物性医薬品の特徴である全体的で多標的型の治療は、西洋医薬では手の施しようのない一般的な疾患や老人性疾患、慢性多発疾患等に対し、優位性を持つことが明らかになっている。

 西洋の人々の間で植物性医薬品ブームが再燃し、植物性医薬品への世界的な回帰の時代を迎えている。ファイザーやノバルティスといった世界的な製薬企業も、中国伝統医薬や天然薬の開発に期待している。

 植物性医薬品の利用を奨励し、促進するため、多くの国が植物性医薬品に関する法規制を見直し、審査と実用化に関する規制を緩和してきたが、具体的な法適応については国によって大きな差がある。

 米国の場合、食品医薬品局(FDA)医薬品評価研究センター(CDER)は04年6月に公布した「植物性医薬品産業ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)において、米国で植物性医薬品をOTC医薬品(一般用医薬品)又は新薬の形式で販売することを許可した。

 「ガイドライン」は、植物性医薬品について、合成薬、半合成薬及び高純度薬品とは異なる特性を認めている。すなわち、植物性医薬品は、単体の植物または複数の植物の中にある多成分化学物質をさらに純化する必要はなく、各成分を識別して薬効を研究する必要はないとしている。また、合理的な処方を経た混合中国伝統医薬(中薬)は認められる、としている。

 同時に「ガイドライン」は、植物性医薬品の特性及び研究開発過程の実状に基づき、初期及び拡大臨床研究の申請(Investigation New Drug=IND)について、詳細な説明を加えており、植物性医薬品の一部の臨床前評価研究は、臨床研究と同時か、臨床研究の後になってもよい、としている。

 「ガイドライン」の公布によって、米国における植物性医薬品の研究が進んだ。FDAの統計によれば、90~98年は植物性医薬品のIND申請はわずか64件で、年平均10件未満だった。

 98~2004年はIND申請が139件に達し、年平均20件前後まで増加した。04~07年は211件の申請があり、年平均50件を超えた。

 EUとカナダでは、欧州医薬品庁EMAとカナダ衛生省が2004年に相継いで「伝統植物薬指令」及び「自然健康製品規則」を公布し、植物製品を単独で「伝統植物薬製剤」及び「自然健康製品」として分類することになった。EUとカナダは、植物製品を薬品として販売することを許可した。上記3カ国・地域のルールについては、表1を参照してほしい。

 植物性医薬品に関する新ルールによって、植物性医薬品に対する統一的な規制が実施され、植物性医薬品に関する管理態勢が改善された。EUとカナダでは、販売前の厳しい審査手続を通じて、市場参入条件が引き上げられ、安全性と薬効が基準を満たさない大量の製品が淘汰された。

表1 カナダ、米国、EUの中国伝統医薬(中薬)及び植物性医薬品管理政策の比較
  カナダ 米国 EU
製品分類 天然薬(OTCとして管理) 栄養補助剤又は薬品 伝統薬(OTCとして管理)
製品の範囲 比較的広い:植物性医薬品、ビタミン、ミネラル、ホメオパシー製品等 比較的広い:植物性医薬品、ビタミン、ミネラル、アミノ酸等 狭い:伝統植物性医薬品
販売前審査 栄養補助剤:無
薬品:有
販売申請手続 伝統的申請(50年)、非伝統的申請、専門テーマ申請等 栄養補助剤:申請の必要なし。登録制
薬品:有
伝統申請(30年)、専門テーマ評価(30年以内)
治療効果 有(中医適応症を認める) 栄養補助剤:無
薬品:有
有(現代医学として)
保険適用 自費または商業保険 栄養補助剤:無
薬品:適用可
-
製造・品質管理基準GMP 天然健康製品GMP
/認可薬品GMP
栄養補助剤GMP(推奨) 薬品GMP
登録製品に対する専門的な要求
申請費用 現時点では無

 中国では95年、「中国伝統医薬(中薬)現代化発展戦略」が発表され、2~3種の中国伝統医薬(中薬)の国際市場参入という目標が打ち出された。96年、国家科学技術委員会(現科学技術部)の主導によって、代表的な中国伝統医薬(中薬)のモデル的な製品が選抜され、米FDAへの組織的な申請が実施された。中国伝統医薬製剤(中成薬)は、新薬として先進国市場への参入を果たしていないが、一部の製品は事実上、国際臨床研究段階に入っている。(表2参照)

表2 中国伝統医薬(中薬)製品のFDA臨床研究の進捗状況
出典:企業年報、申銀万国等。注:本表は不完全である。
企業名 薬品名 適応症 FDA臨床段階の進捗状況
康縁薬業 桂枝茯苓
胶囊
活血化瘀 第Ⅱ期終了
同済堂製薬 仙霊骨葆膠嚢 滋補肝腎、接骨続筋 IND申請開始
上海中医薬大学 扶正化瘀片 活血祛瘀、益精養肝 第Ⅱ期
天士力 復方丹参滴丸 活血化瘀、理気止痛 第Ⅱ期終了、第Ⅲ期開始
北大維信生物 血脂康 除湿祛痰、活血化瘀,健脾消食 第Ⅱ期
和記黄埔 HMPL-004 潰瘍性結腸炎
大腸炎
第Ⅱ期
和記黄埔 HMPL-002 頭頸部がん 第Ⅱ期
華頤薬業 威麦寧膠嚢 活血化瘀、清熱解毒、祛邪膚正 第Ⅱ期
浙江康莱特 康莱特注射液 肺がん、肝臓がん、結腸がん、肺転移がん 第Ⅱ期
雲河薬業 龍血歇 活血化瘀、消腫止痛等 第Ⅰ期

 米FDAは、新薬研究に関する規制を厳格化し続け、薬品の研究開発過程はより煩雑になり、時間も経費も高くなっている。こうしたリスクによって、中国伝統医薬(中薬)の国際化の道は、厳しい状況となっている。

 もし、国内外の企業・研究機関との提携を拡大し、より多くの企業と優秀な製品を我々の陣営に加えることができれば、先進的な中国伝統医薬(中薬)を段階的に開発することができるだろう。そうすれば、中国伝統医薬(中薬)製品の研究開発リスクを低減し、中国の医薬産業の国際競争力獲得に結びつくだろう。


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