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中国の宇宙開発事情(その1)宇宙輸送

辻野 照久(科学技術振興機構研究開発戦略センター 特任フェロー)  2012年11月21日

はじめに

 中国の宇宙開発は、2003年に自力での有人宇宙飛行を成功させたことにより世界中から注目を浴びるようになった。最近の頻繁なロケット打上げやインターネットで中継される有人宇宙活動の様子などから、今や米国とロシアという二大宇宙大国に割って入る勢いであると感じられる。

 科学技術振興機構(JST)において2009年にとりまとめた「中国の宇宙開発の現状」[1]は、同年9月末時点での中国の状況を紹介することを目的としていた。その後2012年10月までの3年間に、中国は実に50回にも及ぶ打上げを行っており、有人宇宙飛行・月探査・通信放送・地球観測・航行測位の各分野で宇宙探査・宇宙利用の技術水準を着々と高めている。

 2012年の世界のロケット打上げ回数(10月末まで)は60回で、そのうちロシアは18回、中国は15回、米国は12回で、中国は2位に食い込んでいる。衛星の数でも、2012年に全世界で打上げられた109機のうち、米国28機(うち12機は超小型衛星)、中国18機、ロシア16機で、中国は2位である。宇宙飛行士は2012年に計12名が出発しており、その国別内訳はロシア5名、米国3名、中国3名、日本1名で、ここでも中国は2位タイとなっている。

 このような中国の宇宙開発の最新状況を断片的ではあるが、2012年末前後で切り取って読者の参考に供したい。宇宙輸送や有人宇宙活動など分野別に順不同で掲載していく予定である。毎回最新情報を反映させるため、全体として見ると時期がばらばらになるが、最終的に2013年3月末時点でアップデートしたいと考えている。

1.宇宙輸送

 2009年にJSTで作成した「中国の宇宙開発の現状」では、中国の宇宙輸送分野に関して、運用中のロケット、新型ロケット、射場、着陸場などの概況を示した。当時はロケットの打上げ数が増加傾向ではあったが、米国やロシアとは大きな差があり、中国がいずれ米ロに追いつき追い越すと予想した人はまだ少なかったと思う。しかし、翌2010年に米国と同じ打上げ回数になり、2011年にはついに年間打上げ数で米国を1機上回った。

2012年も年間打上げ数で米国を上回る見込み

 中国は2012年に年間20回の打上げを計画しており、既に10か月間で15回の打上げを行いすべて成功した。残る2カ月で4~6回の打上げ計画がある。一方米国はまだ12機しか打ち上げていない状況で、残る2カ月で予定は2回しかなく、中国が米国を上回ることは確定的である(図表1-1参照)。中国の強みは、主エンジンやストラップオン・ブースタなど共通部品の多い3種類のロケットを3か所の射場から目的に応じて打ち分けるところにある。

 宇宙産業の雇用人数が20万人規模で目立った増員がない中で、打上げ回数が2倍から3倍に増加したことは、高学歴の技術者の大量採用や生産性向上の努力などの結果であろうと思われる。インターネットの投稿や雑誌の記事などからも、衛星製造や打上げの実務を遂行する担当者が東奔西走している様子がうかがえる。

図表1-1 主要国の最近の打上げ実績
注:この表以外の打上げはイスラエル、イラン、シーロンチ社が行っている。*2012年は10月末まで。出典:各種資料より辻野作成

国 名\年

2008

2009

2010

2011

2012*

ロシア

26

29

31

33

19

米 国

15

25

15

18

12

欧 州

6

7

6

7

7

日 本

1

3

2

3

2

中 国

11

6

15

19

15

インド

3

2

1

3

2

長征5型ロケット実現へ

 次世代打上げロケットも準備が進んでいる。2012年には3種類の次世代ロケットに共通して使われる主エンジン(YF-100)の燃焼試験に成功し、低公害型で世界最強の打上げロケットの実現に向けての技術的課題の一つをクリアした。

図表1-2 長征5・6・7型のミッションと構成
注:*長征5型は第1段エンジンの数、ストラップオン・ブースタの組合せ及び静止軌道投入用エンジンの有無により計6種類の構成があり、長征5Aから長征5Fに細分化される。基本形は長征5D型である。出典 CALTのHP情報[2]より辻野作成

構成\ロケット名

長征5型A-F

長征6型

長征7型

主なミッション

A・B・C

D・E・F

極軌道衛星

有人宇宙船

低軌道衛星

静止衛星

機体直径
(1段・2段)

5m

2.25m

3.35m

第1段主エンジン
(ケロシン/液酸)

A・B・D・E

C・F

YF-100

YF-100×2

YF-100×2

YF-100

ストラップオン・ブースタ

A・D

B・E

C・F

2.25m×4

3.35m×2
2.25m×2

3.35m×4

2.25m×4

第2段エンジン

A・B・C

D・E・F

静止軌道投入用エンジン(液酸/液水)

打上げ能力(トン)

A

B

C

D

E

F

SSO
1.1

LEO
10

18

25

10

10

14

6

 天津市浜海新区に建設された宇宙産業基地では、宇宙船やロケットが製造されている。天津市中心部から50km離れた臨海工業地帯から海南島まで、船で直径5m級の大型ロケットや大型衛星を輸送する。

 有人打上げ用の直径3.35mの長征7型打上げロケット(CZ-7)も海南島から打ち上げられる。このロケットの第1段は長征5型の直径3.35mのストラップオン・ブースタと同一である。これまで長征2F型が打ち上げられていた酒泉射場(甘粛省)は高地にあり乾燥した低温の環境であるが、海南島は高温多湿であるため、その対策を行っている。

 機体の直径が2.25mの長征6型打上げロケット(CZ-6)は、既に主エンジンの燃焼試験に成功し、2013年にも試験打上げのために射場へ搬出されると予想される。このロケットの第1段は長征5型の直径2.25mのストラップオン・ブースタと同一である。

 図表1-3にこれらの新型ロケットのミッション及び構成の概要を示す。

信頼性の高い長征ロケット

 宇宙輸送の信頼性という観点では、中国は世界的な水準である成功率95%以上をずっと確保している。成功率95%とは、言い換えれば20回の打上げ中1回は失敗するということである。中国では最近2回、打上げロケットの不具合による失敗があった。

 2008年の失敗は部分的なもので、再着火に失敗した第2段ロケットの不具合により予定より低い軌道に投入されたインドネシアの衛星は、衛星自身の燃料を使ったために寿命を縮めたものの、静止軌道への到達には成功した。中国ではこれを「部分失敗」とは言わず「基本成功」という表現で完全な「成功」と区別している。

 続いて2011年の長征2C型ロケットの打上げ失敗は、まさに完全な失敗であり、これは1996年以来15年ぶりであった。この間「基本成功」(部分失敗)も含めて102回の打上げが行われている。2011年の失敗以降も25回連続して打上げに成功しており、成功率95%以上を維持している。21世紀に入ってからの各国の打上げ成功数、打上げ失敗数及び打上げ成功率を図表1-3に示す。

 なお、打上げ成功率は打上げ成功数÷(打上げ成功数+打上げ失敗数)×100(%)で計算する。

図表1-3 各国の打上げ成功率(2001年1月から2012年10月末まで)
出典:各種資料より辻野作成

 

米国

欧州

ロシア

日本

中国

インド

打上げ成功数

204

75

289

27

104

20

打上げ失敗数

4

1

15

1

2

4

打上げ成功率

98.1%

98.7%

95.1%

96.4%

98.1%

83.3%

外国衛星の打上げサービス

 国際協力あるいは外国との競争という観点では、中国の打上げロケットによる外国衛星の打上げも着々と実績をあげている。このような商業打上げサービスは中国長城工業集団有限公司(CGWIC)が担当している。CGWICの資料[3]によれば、2011年までに商業打上げ回数は33回行われ、39機の衛星を打ち上げたという(ただし中国企業の衛星も商業打上げに含めている)。2011年には、初めて欧州の通信衛星運営企業ユーテルサット社(Eutelsat)の大型商業衛星の打上げを行った。中国は1990年代には米国製の衛星を多数打ち上げていたが、現在では米国の国際武器取引規則(ITAR)に基づく輸出規制のために米国製の衛星を中国に輸出することが禁じられている。しかし、ITAR規制に抵触しない欧州衛星は、中国の打上げロケットで打上げ可能であり、ユーザーにとってはアリアンロケットよりも低価格で打ち上げられるというメリットがある。また、新興国や開発途上国向けには、中国が製造した衛星を中国の打上げロケットで打ち上げ、顧客国の地上設備の建設や管制要員の研修、さらには衛星開発費の融資や打上げ保険までセットにして売り込むサービスも行っている。2012年には、ベネズエラの小型地球観測衛星VRSS-1「Francisco de Miranda(フランシスコ・ミランダ)」(中国製)の商業打上げを行った。CGWICが最近打ち上げた外国衛星を図表1-4に示す。

図表1-4 中国が打ち上げた最近の外国衛星
注:*第2段エンジンの不具合により所定の軌道投入に失敗したが、衛星は静止化に成功。出典:CGWICの資料2)を基に辻野作成

衛星名

国名

ロケット

打上げ日

備考

Simon Bolivar 1

ベネズエラ

長征3B/E

2008年10月30日

 

PALAPA-D

インドネシア

長征3B

2009年8月31日

基本成功*

Paksat-1R

パキスタン

長征3B/E

2011年8月12日

 

Eutelsat W3C

ユーテルサット

長征3B/E

2011年10月7日

 

NIGCOMSAT-1R

ナイジェリア

長征3B/E

2011年12月20日

 

VRSS-1

ベネズエラ

長征2D

2012年9月29日

 

 今後の外国衛星打上げ計画として、東方紅4型衛星バスを利用した大型通信衛星をボリビア・バングラデシュ・ベラルーシ・ラオス・トルクメニスタン・スリランカなどから受注している。これらの開発途上国では、中国の宇宙技術により宇宙利用レベルが一挙に引き上げられ、国家の経済的発展や国民生活の向上に資することになろう。ここでも経済性やITAR規制のために衛星輸出を伸ばせないでいる米国や、衛星製造技術力が欧米に比べて著しく後れをとっているロシアに比べて、中国の躍進ぶり・堅実さが際立っている。


[1] 「宇宙航空研究開発機構特別資料 世界の宇宙技術力比較と中国の宇宙開発の現状について」(JST中国総合研究センター作成の「中国の科学技術力(ビッグプロジェクト編)」からの抜粋)2010年2月 http://repository.tksc.jaxa.jp/dr/prc/japan/contents/AA0064502000/64502000.pdf

[2]中国運載火箭技術研究院(CALT)のHP:http://www.calt.com/

[3]中国長城工業集団有限公司(CGWIC)のHP「長征ロケット国際商業打上げ記録」http://cn.cgwic.com/LaunchServices/LaunchRecord/Commercial.html


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