中国の核燃料サイクルレビュー
永崎 隆雄(日中科学技術交流協会) 2013年 5月13日
1.国防核物質生産事業の民用転用(軍転民)
中国の核燃料工業は国防核兵器開発(1956年第3機械工業部担当)で作られた核物質生産工業を源にし、平和利用の原子力発電燃料事業に転用(軍転民)された。こ の間の組織名は1958年第2機械工業部に改名し、1982年に核工業部に改名している [*1] 。1987年時点の中国の核工業状況は下記のとおり、通常のウラン燃料サイクル以外にも、核 融合の重水とリチウムーリチウム系の核物質サイクルを持っている。(下図 [*2] )
核燃料工業施設は、軍事上の核物質生産施設防衛の観点から立地は、台湾やロシアから離れた内陸部に分散配置されている。わ が国では経済性や効率上から核燃料施設が青森県六ヶ所村に集中設置されている点が異なる。
2.核燃料サイクルの現状
中国の核工業は、政府核工業部(省)が実施していたが、政府行政機能改革で核工業総公司に改革されたが、更に1998年から実施された行政と国有企業の改革で行政部門などが分離され、4 0万人の従業員は15万人にスリム化され、現在の中国核工業集団公司に引き継がれた。
核工業集団は、従来の核燃料製造工業以外にも大収益事業である原子力発電事業を持つ大型原子力システム企業になった。
現在、中国の核燃料工業は、国産を原則として製造している。
製造規模は下表のとおりである。(日本 [*3] )
GNF-J:グローバル・ニュークリア・フュ-エル・ジャパン / MNF:三菱原子燃料(株)/ NFI:原子燃料工業
(1)ウラン資源開発
中国核工業集団地質総局(現在は地質鉱産事業部)は中国の潜在ウラン資源量が170万tUと言ってきているが、確認埋蔵量は2011年10.9万tUであり、生産量は年間1,500tUある [*4] 。
2012年11月には内モンゴルで石炭鉱床が発見され、付随してウラン鉱床も発見された。
又、中国は希土類鉱物の随伴物としてトリウム資源も持っている。
しかし、中国のウラン生産量は自国の需要量年間約6000tU(2013年 [*5] )を賄うだけ国内に資源が発見されていないので、カナダ、豪州、フランス、カザフスタン、ウ ズベキスタン、モンゴル、ニジェール、ナミビア、ナイジェリア、ヨルダンなど10カ国、開 発権保有鉱山10か所以上で開発輸入契約を結んでいる。主要契約は以下のとおりである。
- 広東核電-カザトムプロム社、ウラン資源開発、核燃料生産、天然ウラ長期取引等取決め調印。合弁企業設立(2008年10月)
- 広東核電と中国政府投資ファンドがフランスAREVA社のウラン採掘企業、UraMin社株49%を取得(2008年10月)、生産量の半分超を中国側が引取
- 核工業集団、ウェスタン・プロスペクターグループ(モンゴルウラン開発権益保有)投資、モンゴルのウラン開発権獲得(2009年初)
- 中国-カザフスタンSemizbayウラン有限責任合弁会社創立(2009年4月)
- 中広鈾業発展有限公司、豪州エナジー・メタルズ社株買収を承認2009年10月
河北鉱業公司のRaisama LTD株式購入を豪州政府承認 - ニジェールAzelikウラン鉱山(核工業集団投資参入)生産(2010年)
- エナジー・メタルズ(EM)社広東核電へ初ウラン出荷(2012年9月)
(2)採鉱製錬
中国のウラン製錬施設は、全国で2カ所 湖南省衡陽と江西省撫州に有り、年間能力 2200トンU/年である。
衡陽ウラン製錬所は1964年に運転を開始し、ウラン鉱石処理能力が360~20万t(品位0.1%U鉱石で3600~200tU)/年で、高純度の二酸化ウランUO2を生産でき、全従業員は4200人( 生産1200人、技術者700人他)いた。現在会社は中核集団二七二U業有限公司と改名されている。また撫州工場も中核撫州金安U業有限公司と改名されている。 [*6]
(3)転換・再転換・成型加工
高純度二酸化ウランUO2は内モンゴルの包頭(中核北方核燃料元件有限公司 [*11] )に輸送される。ここでは、ウラン化工(転換)ライン、金属カルシウム生産ライン、核燃料成型加工ラインがあり、送 られたUO2はウラン化工ラインで四フッ化ウランを経て六フッ化ウランに転換されてから濃縮工場に送られると推定される。濃縮工場で濃縮された六フッ化ウランUF6は再び、ここに送り返され、二 酸化ウランUO2に再転換され、燃料集合体に成型加工されると考えられる。
◆ウラン転換ライン
- ① UO2+4HF⇒UF4
- ② UF4+F2⇒UF6 濃縮工場へ
◆濃縮ウラン再転換ライン
- ④ UF6+2H2O⇒UO2F2+4HF、UO2F2+H2⇒UO2+2HF 成型加工へ
- ⑤ UF6+H2⇒UF4+2HF UF4+2Ca⇒U+2CaF2 金属燃料
◆金属カルシウム(とフッ素ガス製造)ライン
- CaF2 ⇒・溶融塩電解⇒Ca+F2
◆燃料成型加工ライン
- ① 重水炉(CNADU)燃料集合体200tU/年 (天然UO2)
- ② AP1000(PWR)燃料集合体400tU/年 2014年より供給
- ③ HTR-PM高温ガス炉用球状燃料
- ④ 各種実験炉、研究炉、エンジニアリング炉用の燃料体
等が年間1000tU規模で製造される。
また、四川省宜賓(中核建中核燃料元件有限公司*10)にも成型加工工場があり、3種類のPWR燃料(国産PWR、フランスPWR、ロシアVVER)を400tU/年規模で製造している。
(4)濃縮
濃縮工場は蘭州(中核蘭州ウラン濃縮有限公司*7)と陕西省漢中(中核陕西濃縮公司 [*8] )にある。
中国はロシアから遠心機を購入し、蘭州濃縮工場と陕西省漢中濃縮工場に設置し、ウラン濃縮を行っている。蘭州工場は年間1500tSWU規模で、漢中工場は500tSWU規模と推定される。
また、自国(中核(天津)機械有限公司)で遠心機を国産化し、蘭州濃縮工場で試験をしていたが、2013年2月に米露英独蘭日ブラジルに次ぎ、濃縮工業化試験に成功した [*9] 。中 国はアジアの濃縮需要も賄うことを目指して、濃縮ウランを生産している。
(5)再処理
甘粛省酒泉(西北核燃料集合事業所 )に核兵器用の軍用再処理工場と商業用のパイロット再処理工場(中核瑞能科技有限公司 [*11] )がある。
1)軍事用再処理工場(1970年操業開始)
能力は300-400kg Pu/yrと報告されている。兵器級Puの製造は商業用の1/20位の照射で、使用済み燃料中Pu濃度は約0.1~0.05%と推定される。再 処理能力は300~800tU/年(約400kgPu)と推定される。処理方法は3段の改良PUREX法である。このプラントは現在どのようになったか不明である。
2)商業再処理パイロットプラント(2011年1月全工程試験開始)
わが国の東海再処理工場と同規模の0.1tU/日のパイロットプラントを試験中である。プロセスは東海工場と同じPUREX法を採用している。燃料棒せん断工程は0.4tU/日、溶解工程、溶 媒抽出工程はプルトニウム抽出系0.4tU/日(4kgPu/日)である。
主要建物は合計39,000m2である(総長153.4m、最大幅45.35m、最高34.64m、最深13.5m、建設面積:2万m2)。隣接して規模550Mtの使用済み燃料貯蔵プール( 建物面積6,950m2)を持つ。
更に、2020年頃には年間800tHMの六ヶ所再処理工場と同規模の商業工場をフランスより導入し、運転する計画で、2013年4月25日、中仏首脳(習近平主席-オランド大統領)が 再処理工場建設契約前の仕様を取り決めた同意書にサインした [*12] 。
(6)放射性廃棄物の処分場
原子力発電の結果、排出される放射性廃棄物は、「放射性汚染防止法」に基づき処理されている。中国「放射性汚染防止法」では中・低レベル放射性廃棄物は「国が定める区域において浅地層処分するとされ、高 レベル放射性廃棄物及びアルファ放射性固体廃棄物は『集中的に深地層処分する 』とされている。国(環境保護部)と各事業者の共同責任事業であり、地方政府は支援支持を行わなければならない。
低レベル廃棄物処分場が、再処理工場付近の西北と大亜湾発電所隣接地の北龍にある。
高レベル廃棄物の地層処分は再処理工場付近の甘粛省北山地域にサイトを絞り込み、わが国やIAEAの支援を得て、ボーリング調査を実施してきたが、2 012年公布の中長期原子力安全計画で立地選定研究と地下(現位置)研究所の2020年までの完成が重点任務に上げられている。中国では立地が決まればそこが実処分場になる。わ が国では既に幌延などに地下研究所を持つが、実処分場サイトは別に選定しなければならない。
参考文献:
*1 中国核工業領導(所管)機関と領導人(指導者)年表 核工業集団ホームページ
*2 当代中国的核工業 1987年 核工業出版社
*3 核燃料サイクルを巡る現状について 内閣府原子力政策担当室 平成23年2月21日
*4 URANIUM 2008、URANIUM2011(REDBOOK)IAEA
*5 World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements 1 April 2013 WNA
*6 核工業集団 ホームページ http://www.cnnc.com.cn/
*7 中核蘭州U濃縮有限公司 百度 http://baike.baidu.com/view/6500913.htm
*8 中核陕西U濃縮公司 百度 http://baike.baidu.com/view/6572851.htm
*9 我国研制铀浓缩离心机成功实现工业化应用 核工業集団公司 ホームページ
http://www.cnnc.com.cn/tabid/283/InfoID/71887/frtid/446/Default.aspx
*10 中核(天津)機 械有限公司
http://cnnc.chinahr.com/pages/cnncsocial/jobs03.asp?did=152711000043
*11 中核瑞能科技有限公司 核工業集団ホームページ http://www.cnnc.com.cn/
*12 AREVA SIGNS A SERIES OF STRATEGIC AGREEMENTS WITH ITS CHINESE PARTNERS PRESS RELEASE April 25, 2013 AREVA ホームページ