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中国の新型原子力発電炉の開発

永崎 隆雄(日中科学技術交流協会)  2013年 5月16日

1.中国の新型原子炉の開発計画

 中国は、第12次エネルギー5カ年計画(2011~2015年)の原子力エネルギー重点実証プロジェクトと重大科技研究として以下のプロジェクトを挙げている。[*1]

  • ① 自主知的財産権のある先進加圧水型原子力発電炉(重点実証プロジェクト)
  • ② 200MWモジュール式高温ガス冷却原子力発電炉(重点実証プロジェクト)
  • ③ 高速増殖炉(重点実証プロジェクト)
  • ④ モジュール式小型軽水炉(重点実証プロジェクト)
  • ⑤ トリウム溶融塩炉(重大科学研究)

 これらのプロジェクトについて概説したい。

2.自主知的財産権のある先進加圧水型原子力発電炉PWR

① 東芝WH社製改良第3世代PWR AP1000の国産化機 CAP1400[*2]

 WH社から導入し建設中の改良第3世代加圧水型軽水炉(PWR)AP1000(2009年着工2013年12月運転開始)は、安全性や経済性が下記の通り従来の第3世代炉より高く設計されており、東電福島で起きたような炉心溶融事故を防止する優れた性能を持つ。

  • ① 炉心溶融事故確率CDF:3×10-7/炉年=約300万年に1回(第3世代炉10万年に1回)
  • ② 設備利用率:93~95%(第3世代炉87%以上)
  • ③ 全電源喪失時の固有安全システムの採用:重力、流体の自然対流、蒸発拡散などの自然力を利用し、人工動力駆動(非常用ディーゼル発電機)を必要としない安全系を採用し、緊急時の原子炉の自然冷却や炉内燃料の崩壊熱を除去

 このAP1000は中国に知財権がなく、中国独自に自由に海外に輸出できない。

 国家核電技術公司は電気出力規模を125万kWから150万kWに拡大し、経済性を高め、輸出可能な自主知的財産権を持つCAP1400を上海核工程研究設計院で開発中であり、2010年12月31日に概念設計を完成させ、そして2011年12月31日、初歩設計を完成させた。課題はAP1000と比べると燃料集合体数が157体から193体へ、格納容器が内径39.6mから43mに、高さが65.6mから73.6mに大型化されており、炉内燃料の崩壊熱が多くなっており、これを自然除去することが出来るかどうかである。この実証試験を上海核工程研究設計院が実施しており、2013年には山東半島の石島湾に着工し、2017年12月31日には送電網に接続する計画である。

図

② 広東核電の改良第3世代PWR ACPR1000[*3]

 広東核電はフランスから導入した改良第2世代炉CPR1000を基に福島原発事故の教訓を汲み、多重故障状況など極端な状況にも耐えうる改良第3世代原発ACPR1000を開発しており、2013年完成を目指している。

 南アの電力計画2010-2030で、中国製低コスト原子力発電CPR1000の採用が検討されていたが、福島事故で第2世代炉の採用は困難になった。しかし、ACPR1000が開発されれば、採用される可能性がある。

③ 核工業集団の改良第3世代PWR ACP1000[*4][*5][*6]

 核工業集団は、全交流電源喪失時の固有安全性を持つ改良型第3世代炉ACP1000の設計開発をしている。2012年12月には福清5、6号に建設されるACP1000実証炉の基本的安全解析が完了し、世界の原子力発電技術の最先端に並ぶ重要ステップを通過し、“対外輸出(走出去)”の基礎が樹立されたとしている。

 2012年6月「中国エネルギー局とアルゼンチン計画・公共投資・公共サービス省との原子力協力協議で、中国の資金でアルゼンチンの原子力発電所にACP1000技術を採用し、建設し、関連施設を展開する共同研究を実施するとし、また南米全体の原子力市場の共同開発方策を共同で探るとした。アルゼンチン原子力発電会社は正式にACP1000技術の入札予備審査通過証書を発行した。

 また、パキスタンでは既にチャシマ30万kWPWR1、2、3、4号を中国核工業集団(上海核工程研究設計院)から輸入し、1、2号は運転中であり、3、4号は建設中であるが、2010年11月、5号、100万kWの建設を核工業集団と契約し、2013年2月には更なる合意書が締結されている。更に2030年までに8GWの原子力発電所の建設計画があり、中国が輸出する可能性が高い。

 トルコも2012年4月9日、原子力平和利用協力協定を締結し、イグネアーダ(Igneada)原発の建設等で協力するとしており、ACP1000が輸出される可能性がある。

3.200MWモジュール式高温ガス冷却原子力発電炉HTR-PM(High Temperature Gas-Cooled Reactor-Pebble bed Module)[*7][*7#]

 高温ガス炉は、中性子の減速に優れたヘリウムガスを冷却材に用い、ウラン235の濃縮度が8.5%の微濃縮ウランを燃料にし、炉の温度を高温800~1000℃(圧力70気圧)にし、高熱ガスを発生させ、蒸気を暖めて蒸気タービン発電したり、水蒸気を熱分解して水素を製造したり、製鉄やセメント製造、重油の改質、石炭ガス化、海水淡水化などに利用できる炉であり、炉内温度約300℃(圧力157気圧)で運転する軽水炉に比べ熱利用率が35%から42%の高効率になり、また高温のヘリウムガスを用いるガスタービン直接発電が実現すれば、建設費はかなり安価になる。

 また炉心溶融に対して下記の理由により安全性が高い。

  • ① 中性子を吸収する制御棒とボロン球を炉心外周に重力で落下させ原子炉を停止
  • ② 冷却ガス停止による温度上昇は核分裂反応を低下させ、自然停止する
  • ③ 200MW(20万kW)の小型原子炉を併置するモジュール式なので炉内の核分裂生成物量=崩壊熱が少なく、燃料温度上昇が緩慢で、炉心溶融が起こりにくい。
  • ④ 燃料は溶融耐温1600℃の硬い炭化珪素セラミックで覆われた燃料を用いるので、核分裂性物質は出にくい。

 欠点は、燃料が難溶性で再処理が難しいので使用済み燃料はリサイクルしにくい。

 この高温ガス冷却実証炉プラントは、清華大学の実験炉HTR10(出力1万kW、2000年12月臨界)の運転実績に基づき、2006年1月、20万kW級高温ガス冷却炉商業化技術の実証が国家重大科技特定プロジェクトとして国家中長期科学技術発展計画に組み込まれ、2006年12月25日、中国核工業建設集団公司と中国華能集団公司、清華大学が事業主体の華能山東石島湾核電有限公司の株式出資協定を締結し、総投資額30億元(480億円)でプロジェクトを正式に開始させたもので、国産化率は70%以上を目指し、清華大学の自主開発の知的財産権がある。2011年3月に建設開始許可がおりる直前に福島事故が発生し、2012年まで建設が凍結されてきたが、2012年12月21日、建設が開始された。わが国からは炉の石墨材を輸出する計画である。

 この技術は、世界の最前線を歩んでおり、実証プロジェクトが成功したら、小型炉の需要がある発展途上国に輸出することが考えられている。

 世界的には南ア、米ロ、米国アイダホ国立研究所の次世代炉計画、日本の原子力研究開発機構のHTTR、韓国のHTGR計画などがあり、第4世代炉であるガス冷却高速炉や超高温ガス冷却炉VHTR開発へとつながる炉である。

図

4.高速増殖炉[*8]

 自然界のウランは核分裂しやすいウラン235は0.7%しか含まれず、残り99.3%は燃えにくいウラン238である。このウラン238に中性子が当ると核分裂しやすいプルトニウム239になり、新燃料が作られる。核分裂で発生する中性子の数は、低速(熱)中性子がウラン235に当るときは2.07個であるが、高速でプルトニウム239に当る時は約3個と多くなり、余剰の中性子で、燃料を増殖したり、放射性廃棄物を別の非放射性物質に変えたりすることができる。特徴は以下のとおりである。

  • ① ウラン資源の最大有効利用
  • ② 高レベル廃棄物(HLW)地層処分量の減量
  • ③ 400℃の高温で利用するので高効率発電ができること
  • ④ 高温になれば、核分裂が衰える性質があり、冷却停止で反応が自然停止する固有安全性がある。
  • ⑤ 冷却材に液体ナトリウムを使う時は高温でも常圧であるので反応容器の強度が軽水炉のように頑丈でなくてもよく、温度による密度差が水よりも大きく、熱伝達に優れ、自然対流を利用した事故時の冷却性能がよい。
  • ⑥ ナトリウムは化学的活性が有り、漏れた時火災を起こしやすい。

 人口の多い中国は、大量のエネルギーが必要なため、大量のウラン燃料を必要としており、ウラン消費を大幅に低減できる高速増殖炉の開発を行っている。

 中国は、熱出力6.5万kWtの高速炉の実験プラントCEFRを北京の原子能科学研究院に2000年に着工したが、2009年には臨界に達し、2010年6月には送電に成功し、2012年には75%出力運転を達成し、来年2014年4月にはフル出力運転の予定である。

 今回の計画では、2014年に60万kWeの実証炉の概念設計を完成し、2017年には建設を開始し、2023年に運転に入る計画である。また100万kWの商業高速炉は2030年に運転を開始するという計画である。ロシアの出力88万kWの高速商業炉BN800(ベロヤルスク4号建設中2014年運転開始予定)を2013年に2基、中国福建省三明に建設し、2019年から運転を開始する計画が持ち上がったが価格交渉が遅れ、今回の12-5エネルギー計画では、重点実証プロジェクトとして、一昔前のBN600が導入される模様である。この立地場所としては山東省威海等の名前があがっている。

図

5.モジュール式小型軽水炉

 電力需要の規模が小さい地域や発展途上国では、電力需要の増大に伴って小型のモジュール化した原子炉を追加して規模を拡大できる小型モジュール式原子炉が求められており、IAEAは積極的に開発を奨励している。[*9]

 中国核工業集団(核工業動力研究設計院NPIC)も原子力発電所と軍用原子力技術を基に、発電だけでなく、工業用の蒸気供給、海水淡水化、船舶の動力源等の多目的に適う熱出力38万kW、電気出力12万kWの小型モジュール式加圧水型炉ACP100を開発している。

 ACP100は中核集団が自己知的財産権をもち、安全性と経済性が最先進の第3世代原子力発電技術レベルに到達し、小型ではあるが、用途が多く安全性も高く、そして工期が36ヶ月と短く、収益が良い等の特徴がある。第1図参照[*12]

 この産業化のために2011年4月中核新エネルギー有限会社が設立され、第12次5カ年計画の国家エネルギー応用技術研究および実証プロジェクトに取り込まれ、2013年末には建設条件が整う模様である。立地として、福建省莆田県か漳州が有力とされている。完成した暁には発展途上国に輸出されると思われる。

図

6.トリウム溶融塩炉[*13][*14][*15]

 ウランを用いる軽水炉原子力発電は天然に存在するウランに1%以下しか含まれないウラン235を主に利用するので、ウラン資源が不足するリスクがある。天然界にはウラン以外に原子力発電に利用できるトリウム資源(トリウム232)がウランの3~4倍あり、中国は希土類元素を大量に産出し、その鉱石の尾鉱にトリウムが随伴し、大量のトリウム資源国になっている。ただ、トリウム232は通常では燃えず、原子炉で中性子を吸収させて燃えやすいウラン233に変換されることが必要である。

 中国科学院はこのトリウム232のウラン233への核変換『未来先進核変換炉-トリウム溶融塩炉(TMSR)原子力システム』を取り上げ、中国科学院上海応用物理研究所で次の3段階で実施すると発表した。

  • 2011~2015年初歩段階:2MWトリウム溶融塩実験炉の建設とゼロ出力での臨界達成。
  • 2016~2020年発展段階:10MWトリウム溶融塩実験炉の建設と臨界達成。
  • 2020~2030年突破段階:100MW(e)のトリウム溶融塩炉システム実証炉建設と臨界達成。

 2012年5月元科学院副院長で上海応用物理研究所所長の江錦恒氏は、この計画を修正し、米国のオークリッジ国立研究所(ORNL)と協力し、溶融塩炉を次の2つの方式で、2020年までに2MW実験炉を建設し、重要技術を掌握すると変更した。

①溶融塩トリウム燃料炉:

 米国オークリッジ国立研究所(ORNL)において1950年から1956年にかけて溶融塩燃料を循環する熱出力2.5MWの小型炉が研究開発され、1954年には数日間運転され815℃(最高温度は882℃)の高温を達成し、1965年からU-235、U-233、Pu燃料を用い溶融塩実験炉計画(MSRE:Molten-Salt Reactor Experiment)を実施し、1969年末に完了し、溶融塩増殖炉の開発に移行すべく予算要求をしていたが、1976年米国政府の増殖炉開発の一時凍結、財政緊縮政策等により中止された。最近の米国を主導国とする第4世代原子炉システム推進計画の中で、溶融塩炉は研究開発の検討対象原子炉の一つとして選定されている。[*15]

② フッ化物塩冷却高温炉―Fluoride salt-cooled High temperature Reactor FHRs

 トリウム溶融塩燃料を用いる前者の課題は、放射性の溶融塩燃料を高温冶金燃料処理プラントに直結させるので、系全体を汚染させ、また、ウラン233に変わる途中で非常に高いエネルギーのガンマー線を発生するプロトアクチニウムを経過するので、修理補修等が難しくなる点である。

 2005年頃より、オークリッジ国立研究所(ORNL)を中心に溶融塩を冷却材とするだけの方式で問題を解消する溶融塩冷却高温炉方式の開発を進めている。これは固体球状トリウム燃料床(ぺブルベッド)の高温ガス炉をヘリウムガス冷却材からフッ化物溶融塩冷却方式に変え、システムを小型化し、経済性と安全性を向上させる方式で、高温ガス炉の開発者である中国・清華大学と米国の利害が一致して、中国科学院(上海応用物理研究所)とDOEの間で溶融塩冷却高温炉の開発共同計画を進めている。

図
図

参考文献:

*1 国務院 エネルギー発展“12次15ヵ年”計画の通知の印刷配布に関して国発〔2013〕2号 2013年1月1日

*1# World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements 1 Jan 2013 WNA Nuclear Power in China Updated 21 March 2013 WNA 

*2 Overview of LWR in China. Dr. Zheng Mingguang President of SNERDI June 18-20 2012 IAEA in Vienna

*3 中国の第3世代原発技術、2年後に完成 2011年11月1日 人民日報日本語版  

*4 中核集団ACP1000科技示範工程完成里程碑節点 新聞宣伝中心 中国核電工程有限公司:2012-12-18

*5 銭智民 率団赴アルゼンチン、促進ACP1000項目合作 2012年7月3日 中原公司

*6 原子力年鑑 2013 227p アルゼンチン

*7 HTR Development Status in China Prof. Dr. Yuliang Sun Deputy Director, INET/ Tsinghua University Beijing, China 2013-03-05 IAEA TWG-GCR Meeting VIC, Vienna, 5-7 March 2013

*7# 石岛湾核电站或助中国核电“走出去”2013-01-15:第一财经日报

*8 Fast Reactor Development Strategy in China Zhang Donghui CIAE 2013.1.23,France International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles: Safe Technologies and Sustainable Scenarios (FR13)

*9 中国工業報:核電発展跌宕起伏有望重現生機 2013-2-28 中国核工業報

*10 核電部招開小型多用途模块式反応炉技術交流会 核工業集団核電部 2012-7-12

*11 模块化小炉核电:莆田或成首個吃螃蟹城市  新華社 2012年5月28日 

*12 多用途模块式小型反応炉(ACP100)中核集団 パンフレット

*13 戦略的先導科学技術特定プロジェクト“未来先進核分裂変換炉――トリウム溶融塩炉原子力システム”開始 中国科学院 上海応用物理研究所 2011年1月25日

*14 未来先進核変能-TMSR核能系統 江綿恒、徐洪杰 中国上海分院、上海応用物理研究所  

*15 溶融塩炉 (03-04-11-02) アトミカ


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