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宇宙から見つめる古代中国(その2)

2013年 9月30日

惠多谷雅弘

惠多谷雅弘(えたやまさひろ):
東海大学情報技術センター事務長

略歴

1976年東海大学工学部光学工学科卒。2006年同大学院工学研究科光工学専攻博士課程後期了。博士(工学)。専門は画像情報処理。1976年より宇宙考古学、地球環境調査、古文化財の調査・復 元に関する研究を中心に活動している。2003年~2004年度文部科学省科学技術学術審議会専門委員。2006年The IEEE Geoscience and Remote Sensing Society Interactive Session Prize paper Award受賞。現在、東海大学情報技術センター事務長。日本写真測量学会、日本リモートセンシング学会、日 本オリエント学会各会員。

その1よりつづき

3.宇宙からの古代中国研究

3.1 シルクロード学研究

 シルクロードは広大であり、砂漠や草原、山脈や湖沼、河川などに沿って中国からヨーロッパまでを結んでいる。そうした地球規模的な地域を対象とした衛星データ活用例として、「シルクロード・サテライト・マップ(図2:シルクロード学研究センター・東海大学情報技術センター、1996)」の作成がある。同図の完成は、海洋観測衛星NOAAの画像データをベースに地上調査や文献資料を照合させながら、東アジアから中央アジアを横断しヨーロッパへと続く古代交通路、そこに集中する古代都市や遺跡、周辺の地形、自然環境等を宇宙からのマクロ的視点で捉えることで、それまで個々の遺跡や地域規模でしか見ることができなかったシルクロードの全体像を明らかにし、シルクロード学研究の基礎データとして重要な役割を果たした。

図2

図2.シルクロード・サテライト・マップのベース画像に使用されたNOAA-GACデータ

 さらに関連プロジェクトとして実施された中国・青海省におけるシルクロード研究(図3:シルクロード学研究センター、2002)、および四川省における南方シルクロード(南伝仏教の道)の研究(シルクロード学研究センター、2005)では、Terra MODIS、Landsat-7号ETM+、CORONA、QuickBirdなどの多衛星データとスペースシャトル搭載レーダが計測した数値地形モデルSRTM/DEM(Shuttle Radar Topography Mission/Digital Elevation Model)などのデータがシルクロード沿いに分布する遺跡の立地環境調査の予備検討資料や現地における地図の代用として活用された。

図3

図3.シルクロード(青海ルート)の遺跡環境調査

3.2 湖沼の環境変動調査

 中国の湖沼の多くはその面積を縮小させつつあるが、長江中流域に位置する洞庭湖周辺では湖の縮小に起因する洪水発生が増加している。近年における洞庭湖の変動を時系列のLandsat画像で比較すると、特に東洞庭湖や南洞庭湖において湖水面積の縮小が著しいことが分かる(図4)。これに対して湖周辺の旧石器時代(~B.C.1600年頃)から東周時代(B.C.711~同249年頃)における時代ごとの遺跡分布と地形の関係からは、当時の人々の生活拠点が時代の推移とともに洞庭平原一帯の比較的平坦な地域から縁辺の丘陵地へと移動していく様子がうかがえ、その原因として当時の洞庭湖が拡大傾向にあったことが推定される(図5)。

図4

図4.Landsat画像で見た近年における洞庭湖の変動

図5

図5.洞庭湖周辺の遺跡分布と標高の関係

遺跡分布資料:湖南省文物考古研究所・向桃初氏等の協力による

 このように、考古学的な調査資料を近年の衛星データと組み合わせながら長期的視点で理解することで、洞庭湖がかつては拡大傾向にあったが、その後の環境変動等で湖の縮小化が始まり、今日の状況に至っていることが分かってくる。

3.3 東アジア海研究

 2007年8月に実施した日中韓合同調査"東アジア海文明の歴史と環境(日本学術振興会アジア研究拠点事業)"では、海で繋がる東アジアの文明多様性に着眼した研究の枠組みのなかで、衛星リモートセンシングの可能性が検討された。

 調査対象とした地域は、中国山東省北部に位置し、古来の海上交通の要衝として知られる蓬莱である。そこでは、QuickBird、CORONA、Landsat/ETM+、SRTM/DEMなどの多衛星データを古地図などの歴史的資料と組み合わせながら、蓬莱(登州府城)を中心とした古代都市の歴史的変遷や関連遺構の実態調査が行われ、その一成果として、1962年と2006年に観測された時系列衛星データから、少なくとも1962年頃までは周長約5.2km、城内面積約1.6km2に至る登州府城の城壁が存在したが(図6)、その後の開発等でほとんどが取り壊されてしまったことが明らかとなった。一方、2006年撮影のQuickBird画像上からは、城壁の一部とみられる構築物が城壁跡地で判読されたことから、グランド・トゥルース(Ground truth:リモートセンシングの地上検証)を行った結果、清代県志に記されている上水門は今も残存していることが確認された(図7)。

図6

図6.CORONA画像から作成した登州府城周辺の3次元景観図

(1962年5月30日撮影、画像処理:東海大学情報技術センター©TRIC)

図7

図7.グランド・トゥルースで残存が確認された登州府城の上水門

(東海大・学習院大共同研究、2007年8月)

3.4 秦始皇帝陵の立地研究

 秦始皇帝陵は、現在の西安市の東北東約30kmの驪山北麓に位置する。これまでの調査で、墳丘を囲む内外城を中心として陪葬墓、陪葬坑、陵邑などで構成されることが分かっており、それらは漢代の墓葬施設(陵園空間)の起源をなすものとされている。一方、陵園南方に扇状にそびえ立つ驪山(1,302m)は、『史記』秦始皇本紀では酈山、『漢書』では驪山、秦代の出土資料では麗山と標記されており、始皇帝陵の立地研究において驪山との関係を切り離して考えることはできない。

 こうした背景をもとに、QuickBird、SRTM/DEM、ASTER G-DEMなどの衛星データによって始皇帝陵一帯を様々な視点で鳥瞰可能な3次元映像を作成し、超高精細4K画像表示技術によって驪山との位置関係を調査した(図8)。映像をもとにした内外城と驪山のグランド・トゥルースも実施され(図9)、その結果、陵園の中心的存在と考えられる墳丘頂部を通る南北方向の中軸線が僅かに東偏し、南方約3km地点に位置する驪山北面の村落「鄭家庄」に隣接する一峰(Z地点と呼ぶ:海抜1,059m)を指向していることが確認された。

図8

図8.超高精細4K画像表示モジュールを用いた始皇帝陵の立地環境調査

(東海大・学習院大共同研究、2009年~)

図9

図9.驪山のグランド・トゥルース

(2012年3月)

 以上のことから、始皇帝陵の墳丘建造場所選定においてZ地点がランドマークとして使われた可能性が推定される。始皇帝陵建造のランドマークに関しては、『類偏長安志』において、俗呼当陵南嶺尖峯作望峯、言築陵望此為準(俗に陵の南に当たる嶺の尖峯を望峯とし、陵を築くときに此を望んで基準としたと言われている)との記述があるが、Z地点の関係は明らかではない。

4.おわりに

 以上のように、衛星リモートセンシングのデータは考古学・歴史学の資料や地形情報等を通して解析することで、遺跡や古環境の理解に有効な情報を提供可能であることが分かってきた。本稿では中国を対象とした宇宙考古学の研究事例を取り上げたが、世界には様々な文化や歴史があり、遺跡の立地や形状も多種多様である。考古学領域において、こうした宇宙からの情報技術をさらに活用していくためには、地域ごとの環境を長期的視点で理解した上で、調査事例を積み重ねながら地域に適した手法を開発することが重要と考えられる。(おわり)


参考文献:

  1. 鶴間和幸、惠多谷雅弘監修、宇宙と地下からのメッセージ~秦始皇帝陵とその自然環境、学習院大学東洋文化研究所叢書、株式会社D-CODE、2013.
  2. 惠多谷雅弘,下田陽久,長谷川奏,吉村作治,エルサイードアッバスザグルール,QuickBird画像による古代エジプトの港湾施設Site No.49の発見について,写真測量とリモートセンシング,49(4),pp.269-273,2010.
  3. 坂井正人,門間政亮,高精度人工衛星画像にもとづく地上絵研究,山形大学大学院社会文化システム研究科紀要,第4号,pp.107-138,2007.
  4. 惠多谷雅弘,下田陽久,松岡龍治,坂田俊文,長谷川奏,吉村作治,JERS-1/SARによって検出された古代エジプト遺跡Site No.29に関する一考察,日本リモートセンシング学会誌,Vol.25,No.5,pp.459-472,2005.
  5. シルクロード学研究24-四川省における南方シルクロード(南伝仏教の道)の研究,シルクロード学研究センター,2005.
  6. 相馬秀廣,内陸中央アジアの環境変化-トルファン盆地のカレーズを中心として-,人文地理,54-1,pp.78-82,2002.
  7. シルクロード学研究14-中国・青海省におけるシルクロードの研究,シルクロード学研究センター,2002.
  8. 惠多谷雅弘,須藤昇,松前義昭,坂田俊文,衛星SARによるエジプト・南サッカラ地区の遺跡検出について,写真測量とリモートセンシング, 37(2),pp.23-28,1998.
  9. 坂田俊文,地球を観測する-衛星からの画像情報,pp.33-34,日本放送出版協会,1988.
  10. 坂田俊文,惠多谷雅弘,吉村作治,近藤二郎,長谷川奏,坪井清足,衛星によるピラミッド探査と古代エジプトの遺跡発見について,写真測量とリモートセンシング,Vol.36,No.6,pp.41-53,1997.
  11. シルクロード学研究1-宇宙考古学研究,シルクロード学研究センター,1995.
  12. A REPORT ON THE JOINT INVESTIGATION UNDER THE MONGOLIAN AND JAPANESE-GURVAN GOL HISTORIC RELIC PROBE PROJECT Initial Year(1990), Mongolian Academy of Sciences and The Yomiuri Shinbun, Japan,1991.

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