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衛星リモートセンシング技術を利用した人間活動の”監視”

2013年10月 8日

胡斯勒図

胡斯勒図(フスリート:Husi Letu):
東海大学情報技術センター特定研究員(理学博士)

E-mail: 胡斯勒図

略歴

出身:中国•内モンゴル自治区
2002年 内蒙古師範大学大学院人文地理専攻修士課程修了
2010年 千葉大学大学院自然科学研究科地球生命圏科学専攻博士後期課程修了
2011年 日中科学技術交流協会•研究奨励賞
研究テーマ:DMSP/OLS 衛星データを用いた電力消費量と発電所の CO2 排出量の推定。最近は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が推進している次世代地球観測衛星、地球環境変動観測ミッション(GCOM-C)に搭載される多波長光学放射計(SGLI)のデータ解析アルゴリズム開発、氷雲のメカニズム解明に関する研究を行っている。

1. リモートセンシングとは

 リモートセンシングとは人工衛星のように遠く離れたところから対象物に触れずに計測器(センサ)を使って地球表面付近の対象物を観測する技術である。衛星センサは地上や大気(空気成分、雲やエアロゾル粒子)に反射したり、放射したりしている電磁波を宇宙から観測し、地上や大気中対象物の特徴を特定している。

 センサが観測する光などの電磁波には人間の目で見える可視光や人間の目には見えない波長帯の紫外線、赤外線、電波などがある。対象物の種類や形状、状態(含水率や植生の健康状態)などの違いにより、電磁波の散乱または放射特性が異なる。そのため、衛星リモートセンシングを利用すれば、衛星センサが観測した異なる特徴を持つ電磁波の情報から対象物の特徴を判別することができる(図1左)。

 例えば図1右に示すように、ひまわり気象衛星の赤外波長のデータを使えば、可視画像で見えない夜間での地表面(可視画像の左側)の情報と雲の分布を簡単に把握できる。衛星リモートセンシングのこのような利点を生かして、人間が直接現地に行きにくい極域や広大な砂漠地帯、高山地帯などを昼夜を問わず頻繁に計測し、それを利用して地球の環境変動の計測、気象予報、農業生産量の推定、火災や台風による災害モニタリングおよび人間の経済活動の推定などを行っている。

図1

図1 物質の反射と放射パタン(左);気象衛星「ひまわり」の画像(1998年10月12日8時JST)(右)

2. 衛星モニタリングを用いたエネルギー消費量の推定について

 近年の発展途上国における人口の増加と急速な経済発展は、エネルギー消費量を加速度的に増大させている。特に、中国、インド、韓国、マレーシア、インドネシア、タイなどのアジア地域における目覚しい経済発展により、大量のエネルギー消費と二酸化炭素排出を極度に増大させていることは明らかである。

 その中で、発電所が電力を作る時のエネルギー消費は高い割合を占める。発電所は電力を作って各地域に送り、人間活動による夜間の光のエネルギーの源となっているため、夜間の光は電力消費量の主な指標となっている。電力消費量の推定手法の一つとして、米国の気象衛星DMSPのOLSセンサの可視-近赤外(VIS)の夜間の光画像を用いたものがある。DMSP/OLS-VISは夜間の光の分布が観測でき、且つ時間分解能が高く、定期的・継続的にデータを得られる点で地球環境モニタリングの手段の一つとして信頼されている。なおDMSPは約30年間継続して運用され、今後の運用と観測データの提供も保証されている衛星である。筆者は近年、この光画像から雲などによるノイズを除去して、都市域など人間活動による夜間光画像を作成し、光の分布・強度と人間の社会活動の関係、都市の光と電力消費量に関係する研究を行ってきた。

 図2は1999年の東アジアにおける人間活動による夜間光の分布(左)、光の強度(対象地域における光画像の画素値(DN値)の積算)と電力消費量の関係(図2右)を示している。この研究では、日本、中国、インド、韓国を含むアジア10ヶ国において、夜間の光の情報から電力消費量をよく把握できることを裏付けた(参考論文[1-3])。

図2

図2 東アジアにおける人間活動による光の分布、右下の拡大図は上海市周辺の夜間光(左)
光の強度と電力消費量の関係、回帰直線両側の点線は95%信頼区間を示す(右)

 さらに筆者は、日本、インド、中国の各地域のスケールにおいても光の強度と電力消費量の間によい相関関係があることを明らかにした(図3)。また解析の事例として、中国における電力消費量の空間分布特徴を明らかにし、図3の中国における1999年のDMSPによる夜間の光と電力消費量の回帰式を用い、各河川流域における電力消費量を推定した研究が挙げられる。

図3

図3 日本、インド、中国の各地域における光の強度と電力消費量の関係

 電力消費量の空間分布特徴に関しては、標高が0~500mの河川の下流域において都市域が最も集中し、電力消費量が高い。一方、中部、西南部の河川の上流域では都市域が少ないが、その原因としては、このような地域は標高が高く、山地も多く分布し、人間が生活しづらいためと考えられる。また標高が0~500mの河川の下流地域では、長江以北は平原が広がり、長江以南は標高が高い山地が多く分布しているため、都市域は長江以北のほうが多く、電力消費量も高いことが分かった(図4左上)。

 長江流域の定常光の積算DN値と電力消費量は最も高く、総電力消費量の33.77%を占めた。次に黄河流域の定常光が総電力消費量の15.36%を記録し、遼河海河流域のそれは総電力消費量の15.02%であった。また淮河流域の電力消費量は総電力消費量の7.68%を占めた。これらの流域全体の電力消費量の合計は、総電力消費量の71.83%を占めた(図4右)。

図4

図4 中国における河川分布、流域図(左)
夜間の光画像から推定した各河川流域における電力消費量(右)

3. 夜間の衛星データから分かる上海の人口、経済活動と電力消費の様子

 上海と言えば、中国の三大都市の一つで、中国経済をリードしてきた中国最大の商工業都市である。上海に進出している日本企業は非常に多く、日本人定住者は5万人弱にのぼり、2007年にはニューヨークを抜いて海外で日本人が一番多い都市となっている。そのため、上海の人間活動、経済活動、エネルギー消費など様々な情報が人々の関心を集めている。

 近年は衛星観測画像を使ってこれらの情報を把握する研究が行われている。統計データと違い衛星リモートセンシングは対象物の空間分布特徴を短期間で把握することができる。図5(左)に示すように、DMSPの人間活動による夜間光画像から2000〜2010年の間に上海の夜間の光が広がっている特徴を確認することができる。つまり、人間活動が活発になっていると言える。また、人間活動による夜間光は人口、総生産、電力消費量の変動特徴と同じく増加傾向にある(図5右)。このような特徴を生かして、衛星データと相関関係が強い社会、経済指標を推定し、推定誤差を把握した上で、その空間的情報を短い時間で推定する研究が行われている。

図5

図5 上海市におけるDMSP夜間の光の時系列変動;2010〜2010年のDMSP夜間の
光、定住人口、生産総量と電力消費量の変動(上海統計年鑑2010〜2010を引用)

 今回紹介したのは、衛星センサの可視の波長を使って観測した夜間画像の応用事例である。実際の衛星観測データには、紫外線からマイクロ波までの異なる波長、また異なる空間分解能と観測頻度で撮影したデータが多く存在し、そのデータから有意な情報を抽出し、自然災害と人間活動の監視、環境と気候変動の分析など幅広い分野に応用されている。今後衛星リモートセンシング技術が我々の生活により役立ち、もっと身近なものになることを期待している。

参考文献:

  1. Husi Letu., M. Hara., G. Tana., F. Nishio., Saturated light correction method for the DMSP/OLS nighttime satellite imagery, IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 50(2), pp. 389 - 396, 2012.
  2. Husi Letu., M. Hara., H. Yagi., K. Naoki., G. Tana., F. Nishio., S. Okada., Estimating energy consumption from nighttime DMSP/OLS imagery after correcting for saturation effects, International Journal of Remote Sensing. Vol. 31 (16), pp. 4443 - 4458, 2010.
  3. 胡斯勒図, 原政直, 岡田周平, 八木浩, 神武寛典, 直木和弘, 西尾文彦, DMSP/OLS夜間画像における定常光の抽出, 海洋理工学会誌,Vol. 14 (2), pp. 21-28, 2008.

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