第86号
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中国のエネルギー発展状況と政策

2013年11月29日

白 泉

白 泉(ばい ちゅえん)氏:
中国国家発展改革委員会エネルギー研究所
エネルギー効率センター副センター長、研究員

 中国エネルギー研究会省エネ及びエネルギー管理専門委員会委員、中国低炭素計測技術委員会委員、国際生態発展連盟常務理事、第4回中央国家機関青連委員兼任。主な研究:エネルギー経済、エ ネルギー科学技術戦略

略歴

1997年 清華大学熱エネルギー工程学部卒業、熱エネルギータービン専
2002年 清華大学熱エネルギー工程学部工学博士学位取得
2001年 3月~12月、(独)Siegen総合大学 客員教授
2002年 国家発展改革委員会エネルギー研究所入所
2005年 同研究所副研究員、研究員
2007年 現職
2013年 8月、名古屋大学経済学部客員教授

 主な著書に、『エネルギー節約の経済学』、『中国"十一五"省エネ進展報告』、『中国"十一五"省エネ目標~対策と実施~』、『我が国のエネルギー技術レベルを向上させる戦略的構想』、『 国外GDPエネルギー消費の変化と示唆』など多数。

一、中国のエネルギー発展の基本状況

 2012年、中国の一次エネルギー生産総量は33.2億トン(標準炭換算)に達し、世界トップとなった。このうち原炭生産は36.5億トン、原油生産は2億トンに達し、製油の生産量は2.7億トンであった。また天然ガスの生産量は急速に伸び、1072億m3に達した。発電容量は11.4億kW、年間発電量は4.96兆kWhにのぼった。エネルギーの総合運輸システムは比較的整備され、国家石油貯蔵施設はほぼ完成し、エネルギー緊急対応能力は不断に増強されている。

 中国は、新エネルギーと再生可能エネルギーの発展を重視しており、クリーンエネルギーの発展の規模と速度は世界のトップレベルにある。2012年、全国の水力発電容量は世界最大の2.5億kWに達した。送電網に組み込まれた風力発電の発電容量も6083万kWを超え、世界最大となった。太陽光発電の成長も著しく、送電網に連結された発電容量は328万kWとなり、また太陽熱温水器の集熱面積は2億㎡を超え、この分野では世界最大を誇る。原子力発電の発電容量は1257万kWで、建設中の原子力発電ユニットは20基以上あり、発電容量は約3000万kWに達し、建設規模は世界トップとなっている。一方、非化石エネルギーが一次エネルギー消費に占める割合は11.3%に達し、二酸化炭素の排出削減量は毎年8億トン相当以上にのぼっている。

 エネルギーの需要の側では、中国はエネルギー節約の推進に努めている。2006年から2012年まで、中国は、エネルギー消費の年平均6.3%の増加によって国民経済の年平均10.4%の成長を支え、単位GDP当たりのエネルギー消費は累計で23.5%縮小し、8.4億トン(標準炭換算)のエネルギー節約を実現した。ボイラーの改造や電気機械、建物、照明などの一連の省エネ改造事業を実施し、旧型の小型の火力発電ユニットの使用を停止し、主要な高エネルギー消費製品の総合エネルギー消費は世界の先端レベルとの格差を縮小し続け、新たに進められている非鉄金属・建材・石油化学などの重化学工業プロジェクトのエネルギー利用効率は、世界の最高水準にほとんど達している。2012年、全国の火力発電による電気供給のエネルギー消費量は2006年に比べて41g標准炭/kWh減少し、減少幅は11.2%に達した。

 世界最大のエネルギー需要国である中国は、ほぼ自らの力によってエネルギーをまかない、エネルギー自給率は90%前後を一貫して維持し、世界のエネルギー安全の維持に貢献している。

二、中国のエネルギー発展が直面する主な試練

 今後十数年にわたって、中国は依然として、工業化と都市化の急速な発展段階をたどり、中国のエネルギー発展はいくつもの厳しい試練に直面することとなる。

 第一に、資源量の制約という問題が際立っている。中国の1人当たりのエネルギー資源保有量は世界で比較的低い水準にあり、石炭・石油・天然ガスの1人当たりの保有量は世界平均水準のそれぞれわずか67%、5.4%、7.5%にすぎない。中国の1人当たりのエネルギー消費水準はまだ比較的低く、先進国の平均水準の3分の1にとどまっている。今後、経済社会の発展と国民の生活水準の向上に伴い、中国のエネルギー消費はさらに大幅に増加していくものと見られ、資源量の制約という問題はますます際立っていくこととなる。

 第二に、エネルギー利用効率が依然として低い。中国の単位GDP当たりのエネルギー消費は先進国をはるかに上回っており、一部の新興工業国家をも上回る水準にある。産業構造が合理的でないこと、とりわけエネルギー消費の高い工業の比率が高いことが、エネルギー消費に対する経済発展の依存を大きく高める要因となっている。経済構造以外でも、技術の省エネや管理の省エネなどの面でも大きく改善する余地が残されている。

 第三に、環境問題の圧力が高まり続けている。化石エネルギー、とりわけ石炭の大規模な開発利用は、生態や環境に深刻な影響を与えている。大量の耕地が占用・破壊され、水資源の汚染も深刻で、二酸化炭素や二酸化硫黄、窒素酸化物、有害重金属の排出量が大きく、オゾンや粒子状物質(PM2.5)などの汚染問題も悪化している。今後長期にわたって、化石エネルギーは中国のエネルギー構造において依然として中心的地位を占め、生態環境の保護や気候変動への対応の圧力はますます増大していくと考えられ、環境型エネルギーへの転換を急ぐ必要がある。

 第四に、エネルギーの安全性が厳しい情勢を迎える。近年、中国のエネルギー対外依存度は急速に上昇し、とりわけ石油の対外依存度は21世紀はじめの約32%から現在の約58%へと急上昇している。また石油の海上輸送の安全性や国際石油・天然ガスパイプラインの安全運用などの問題も無視することはできない。国際エネルギー市場における価格の変動は、国内のエネルギー供給保障の難度を高めている。エネルギー貯蔵の規模が比較的小さく、緊急対応能力が比較的弱く、エネルギーの安全性は厳しい情勢にさらされている。

三、中国の将来のエネルギー発展の主要な方向と最新動向

 中国は世界最大の発展途上国であり、経済の発展や国民生活の改善、小康(ややゆとりのある)社会の全面的建設という巨大な任務に直面している。エネルギー資源の長期的で安定的な持続可能利用を維持することは、中国にとっての重要な戦略的任務の一つである。中国のエネルギー発展の目標は、科学技術によって支えられた、資源消費量が低く、環境汚染が少なく、経済利益が良好で、安全が保障された発展の道を歩み、省エネ発展とクリーン発展、安全発展を全面的に実現することである。

 中国のエネルギー政策の基本内容は、「省エネ優先、国内への立脚、多元的発展、環境保護、科学技術の革新、改革の深化、国際協力、国民生活の改善」というエネルギー発展方針を堅持し、エネルギーの生産と利用の方式の変革を進め、安全・安定・経済的でクリーンな近代エネルギー産業システムを構築し、エネルギーの持続可能な発展によって経済社会の持続可能な発展を支えることである。

 ―省エネ優先。エネルギー消費の総量と強度(GDP一単位当たりの生産に必要なエネルギーの量)との二重のコントロールを実施し、省エネ型生産消費システムの建設、経済発展方式と生活消費モデルの転換の促進、省エネ型国家・社会の構築に努める。

 ―国内への立脚。国内の資源の優勢と発展の土台に立脚し、エネルギー供給能力を増強し、エネルギー貯蔵緊急対応システムを整備し、対外依存度を合理的に抑制し、エネルギーの安全保障水準を高める。

 ―多元的発展。クリーンで低炭素な化石エネルギーと非化石エネルギーとの割合を高め、石炭の効率的な利用を推進し、エネルギーの代替を積極的に進め、エネルギーの生産と消費の構造の改善を加速する。

 ―環境保護。グリーンと低炭素という発展理念を樹立し、エネルギー資源の開発利用と生態環境の保護のバランスをとり、保護をしながら開発を進め、開発をしながら生態環境を保護し、エコ文明の要求に適合したエネルギー発展モデルを積極的に育成する。

 ―科学技術イノベーション。基礎科学の研究と先端技術の研究を強化し、エネルギー分野の科学技術イノベーション能力を増強する。重点エネルギープロジェクトを通じて、重要な核心技術と中軸となる設備の自主革新を推進し、革新型人才の育成を加速する。

 ―改革の深化。市場メカニズムの役割を十分に発揮させ、各面を統一的に配慮し、問題をその原因とともに解決し、重点分野とカギとなる部分の改革推進を加速し、エネルギーの持続可能な発展促進に有利な体制・メカニズムを構築する。

 ―国際協力。国内と国外の双方の局面を統一的に見据え、エネルギーの国際協力の範囲やルート、方式の拡大に努め、エネルギー分野での海外への進出と海外からの導入の水準を高め、国際エネルギーの新秩序の形成を推進し、相互に利益のある協力を実現する。

 ―国民生活の改善。都市・農村間と地域間のエネルギー発展を調整し、エネルギーのインフラと基本的公共サービス能力の建設を強化し、エネルギー分野での貧困状態を早急に解決し、庶民のエネルギー利用水準の向上に努める。

 中国では2012年末、中国共産党第18期全国代表大会が開催されたが、この中では、エネルギー・資源・環境分野における「エコ文明建設」という新理念が打ち出された。大会報告でも「エコ文明建設」に独立の章が設けられ、会議ではエコ文明建設を『中国共産党党章』へと入れることも決定された。これらは、中国の新指導部が資源環境問題を大きく重視することを示すものである。

 ここで言う「エコ文明」とは、人と自然とが調和的に共存する工業文明時代の高度な段階を指す。第18期党代表大会報告では、「自然を尊重し、自然に従い、自然を保護するエコ文明理念を樹立し、エコ文明建設に特別な地位を与え、これを経済建設や政治建設、文化建設、社会建設の各方面と全プロセスへと融合させなければならない」という方針が打ち出され、中国の上層部指導者の発展の観念における新たな認識が示された。

 党大会報告では、将来のエネルギー事業に対しても新たな要求が掲げられた。「資源の節約・集約利用を進め、資源利用方式の根本的な転換を促し、全プロセスの節約管理を強化し、エネルギー消費の強度を大幅に引き下げ、利用の効率と効果を高めなければならない。エネルギーの生産と消費の革命を推進し、エネルギー消費の総量を抑え、エネルギーの節約と消費削減を強化し、省エネ・低炭素産業と新エネルギー、再生可能エネルギーの発展を支援し、国家のエネルギーの安全性を確保していく必要がある」。このうち「エネルギーの生産と消費の革命を推進」という部分は、数年前に打ち出された「エネルギーの生産と消費の変革を推進」という表現をさらに強めたもので、さらに高い要求と難しい任務とを投げかけるものとなっている。社会の各方面では今後しばらく、「エネルギーの生産と消費の革命」の理論的な要素と主要目標、重点任務を研究し、エネルギーの生産と消費の革命のできるだけ早い実現に取り組んでいくこととなる。