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2013年中国生命科学分野の注目人物(その1)

2014年 5月20日 米山春子(中国総合研究交流センターフェロー)

施一公 中国科学院院士

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 米プリンストン大学分子生物学部の終身教授に史上最年少で選出された施一公教授は2008年、中国に帰国し、常勤職に就いた。2011年、施教授ともう一人の留学帰国者が中国科学院の院士に落選し、大 きな社会的反響を呼んだ。施教授は、米芸術科学アカデミーと科学アカデミーの会員に選ばれている。米科学アカデミー会員選出は、中 国科学院上海マイクロシステム情報技術研究所の李愛珍研究員や中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の周忠和研究員などに続く快挙だった。

 2013年9月13日、スウェーデン王立科学アカデミーは、清華大学の施教授に2014年度のグレゴリーアミノフ賞を授与することを発表した。施 教授がX線結晶学を用いてアポトーシス研究の分野で果たした貢献をたたえ、賞金10万クローナ(約155万円)を授与する。授賞式は2014年3月31日、スウェーデン王立科学アカデミーの年会で行われた。同 賞の中国人科学者の受賞は設立35年で初めて。

 施一公教授の研究チームが発表した「プレセニリンファミリーアスパラギン酸膜貫通プロテアーゼの構造」は大きな注目を集め、科学誌『Nature』は1月3日、「Structural biology: Membrane enzyme cuts a fine figure」のタイトルで、この研究成果とその意義を詳しく紹介した。

 この驚くべき研究成果によると、細胞膜の内部は疎水性環境となっているのにもかかわらず、一部のプロテアーゼは水分子を利用して膜内でほかのタンパク質を消化できる。こうした酵素は、生 物学と疾病発生プロセスで幅広い作用を持っている。現在すでに発見されているものは3種類に分けられる。亜鉛含有S2Pプロテアーゼ(zinc-containing site-2 proteases)と 菱形セリンプロテアーゼに加え、同研究中のプレセニリンファミリーのアスパラギン酸プロテアーゼである。

 2006年と2007年、二つの研究チームがそれぞれ前者二つの原子レベルの結晶構造を解析し(そのうちS2Pの構造は施一公研究チームが解析)、こ うした膜貫通プロテアーゼの作用の仕組みに対する理解を促進したが、プレセニリンの構造は不明のままだった。この最新研究は、プレセニリンの構造を初めて解明し、今 後の研究や薬物の開発に基礎的な枠組みを提供するものとなる。

 現在、プレセニリンには二つの種類が確かめられている。一つは、単一ポリペプチドとして作用するもので、シグナルペプチドペプチダーゼなど。もう一つは、ほかのタンパクの活性化を必要とするもので、酵 素複合体γセクレターゼを構成することができる。4種の異なるタンパクから構成され、多くの単一膜貫通タンパク(単一膜貫通領域を含む)を切り取ることができる。Notch受容体やβアミロイド前駆体タンパク質( APP)がある。こうした切断はタンパク質や放出されるポリペプチドを調整することができる。機能性γセクレターゼは、Notchシグナルの経路で不可欠な部品であり、プ レセニリンをつかさどる遺伝子に突然変異が起こると、APP熱分解によって産出されるβアミロイドタンパク質を変えることにより、若年性アルツハイマー病の起因となる。

 電子顕微鏡を使えば、γセクレターゼの構造を低解像度では解析できるが、原子レベルで結晶構造を解析するのには様々な困難がある。この研究は、単体のプレセニリンの解析が可能であることを示すもので、酵 素複合体の全体の構造を解明するのに重要な一歩となった。さらにこの論文は、膜タンパク質の結晶体と構造をいかに解析するかにモデルを提供するものともなる。

 研究員は、細菌を通じてタンパク質を過剰発現させ、これを純化・濃縮し、一種のプレセニリンを取得した。様々な生体中のいくつかのタンパク質を試した後、研 究員は研究の焦点を古細菌Methanoculleus marisnigriのプロテアーゼmmPSHに集中させた。大量のタンパク質工学の研究を行い、5つの変異体を構築してmmPSHの可溶性を高め、プ ロテアーゼ機能を研究し、質の高い結晶構造を作り出し、測定に使った。

 研究員は最終的に、このようなタンパク質が9個の膜貫通ヘリックスからなることを発見した。膜貫通ヘリックス1-6はN末端ドメイン(NTD)、7-9はC末端ドメイン(CTD)を形成している。二 つの触媒残基アスパラギン酸(D162とD220)はそれぞれ膜貫通ヘリックス6と7に位置し、膜の中に内包されている。研究員はさらに、序列の高度な安定性に基づき、コ ンピューターのホモロジーモデリングを利用し、人起源のプレセニリンの立体構造を構築した。

 この構造がもたらした驚きの一つは、mmPSHプロテアーゼが膜貫通エリアに穴を一つ持っていることであり、水分子の進入と触媒、切断反応の経路の一つである可能性もある。もう一つは、こ れらのタンパク質が四量体を形成していることである。もっともこの構造がどのような意義を持つかはまだ定かでない。


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