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2013年中国生命科学分野の注目人物(その2)

2014年 5月20日 米山春子(中国総合研究交流センターフェロー)

高福 中国科学院院士

ヒト感染H7N9鳥インフルエンザウイルスの受容体結合特性と構造的基礎

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 2013年2月に出現したヒト感染H7N9鳥インフルエンザウイルスは、新型の再集合ウイルスであり、上海と安徽の両地でまず発見された。このウイルスは鳥においては発症しないが、ヒ トに感染すると深刻な呼吸器疾患を引き起こす。中国科学院北京生命科学研究院微生物研究所の高福プロジェクトチームは、H 7N9鳥インフルエンザウイルスのヒト感染における宿主間の伝播メカニズムの研究で飛躍的な成果を上げた。同年9月5日、科学誌『サイエンス』は同プロジェクトチームの「 ヒト感染H7N9鳥インフルエンザウイルスの受容体結合特性と構造的基礎」と題した論文をオンラインで発表した。

H7N9ウイルスに関する一問一答

Q1.H7N9ウイルスがいつ突然変異を起こすかは事前予測できませんが、H7N9鳥インフルエンザウイルスの情報をどのように得て、研 究するようになったのでしょうか。 

A.中国疾病予防制御センターの副室長を務めていますので、症例が報告されてすぐにこれを知りました。帰国後は長年にわたって新型の突発性感染症の宿主間の伝播メカニズムを研究してきましたので、H 7N9ウイルスの症例が発見されるとすぐに、国家インフルエンザセンターの室長、中国疾病予防制御センター・ウイルス病予防制御所の副所長である舒躍竜教授が私に電話をかけてきまして、こ のウイルスの分子メカニズムを研究する必要があるとのお話をいただき、私どものチームがすぐに研究を始めることになりました。


Q2.H7N9鳥インフルエンザウイルスの発見後、国による緊急措置の発動はあったのでしょうか。

A.ありました。疾病の予防と制御をすばやく行うために、国家伝染病連携予防制御体制が敷かれています。伝染病研究のための特別資金が国家から支出され、中 国科学院はインフルエンザ対応のための緊急研究を始動し、中国科学院と中国疾病制御センターは共同研究チームを組織しました。いつまでに成果を出すようにという指示は国からはなく、研 究者側が経験に応じて日程を決め、計画を作成し、夜を徹した研究が開始されました。


Q3.研究の第一線にはどのような人々がいるのですか。

A.全国各地で10以上の研究チームがH7N9ウイルスの攻略に取り組んでいます。北京では、私と舒躍竜のそれぞれの研究チームのほか、秦川(中国医学科学院医学実験動物研究所所長)も 研究に従事しています。浙江には李蘭娟(中国工程院院士、伝染病診断治療国家重点実験室室長)、上海には袁正宏(復旦大学上海医学院医学分子ウイルス学重点実験室室長)、香港には有管軼( 香港大学新型感染症国家重点実験室室長)がいます。どの研究チームもH7N9ウイルスを研究していますが、出発点は異なり、それぞれが重点や強みを持ち、協力して研究を展開しています。


Q4.高福院士の研究チームはほかの研究チームと比べてどのような違いがありますか。

A.私どものチームの研究対象はマクロ生態と分子メカニズムの二つです。後者は国内では私たちしか研究しておらず、構造生物学の技術が運用されています。これは競争相手がいないということではなく、米 国や英国、オランダの研究者も研究していたのですが、私たちは彼らよりも早く成果を出すことができました。

 H7N9鳥インフルエンザウイルスの研究で私どもが行ったのは次の二つです。まずはマクロ生態学によってウイルス源を特定することで、感染経路をさかのぼり、生きた家禽を扱う市場が特定されました。次 には、分子レベルからH7N9鳥インフルエンザウイルスのヒト感染の原因を突き止めることで、これは私たちがずっと取り組んでいる宿主間の伝播メカニズムの研究です。

 私たちのH7N9ウイルスの研究が世界の科学界に認められるには、長い時間がかかりました。まずは科学界のほかの科学者の評議を受けなければならず、自分では十分だと考えていても、ほ かの科学者が不足だと判断すれば、不足点を埋める研究を続けなければなりません。さらには公に認められている科学研究の交流プラットフォーム、例えば『ネイチャー』の ようなトップクラスの科学誌を通さなければならないわけですが、編集者が不足を見い出せばそれを補わなければなりません。科学研究を行う場合、国家が必要とする科学の先端問題を解決しなければならない一方、交 流プラットフォームを通じて研究成果をすばやく発表しなければなりません。もしも競争相手の論文が最初に発表されてしまえば、結果を出したのがそれよりも早くても成果とは認められません。商 標登録や特許出願と同様です。


Q5.今年は2カ月だけで感染者数が昨年の通年の感染者数を上回りました。H7N9ウイルスの病原性が高まっているということでしょうか。

A.鳥インフルエンザウイルスの病原性は普通、鳥に対して使われます。病原性の高い鳥インフルエンザウイルスは、鳥に感染する上、鳥の間での大量の発症を引き起こします。H5N1はその例です。一方、病 原性の低い鳥インフルエンザは、鳥を発症させることはまれで、ウイルスを保有させるだけです。H7N9は低病原性鳥インフルエンザウイルスの一つです。

 これまでの研究では、H7N9ウイルスのヒトへの感染率が高くなったということは報告されていません。感染者数の増加は、ウイルスを保有する生きた鳥に人が接触する確率が増えたためと考えられます。H 7N9ウイルスがいつどのように突然変異するかを事前に予測することはできません。


Q6.H7N9鳥インフルエンザウイルスはどのように根絶できるのでしょうか。

A.人類は確かに、免疫やワクチン接種などでいくつかのウイルスを根絶してきました。人類に大きな被害をもたらした天然痘もその一つです。しかしすべてのウイルスを根絶できるわけではありません。世 界で初めて発見された動物ウイルスの口蹄疫ウイルスがその一つです。変異型の威力が強いため、人類はこれまでこれを根絶できていません。西洋の国々でも口蹄疫を食い止める方法は、感 染した動物を殺処分することだけです。

 H7N9ウイルスも同じく、根絶の難しい変異性の強い動物ウイルスです。これまでに実証された伝播メカニズムは、家禽類からヒトへの経路だけで、H1N1ウイルスのように、本 来の宿主である豚から離れてヒトからヒトに伝播することはありません。理想的には、宿主を消滅させてしまえば、ウイルスが身を隠す場所はなくなりますので、ヒトへの感染の可能性はぐっと低くなります。し かし現実にはこのような措置はなかなか実現できませんので、現在は、生きた家禽を扱う市場を閉鎖したり、市場を休止して消毒したりといった措置が取られています。高 病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1が養鶏場で見つかった場合は、殺処分も行いますが、多くの場合は鶏にワクチンを注射するという方法が取られています。とは言えこれは最良の策ではなく、や はり感染した場合は殺処分が望まれます。

 H7N9鳥インフルエンザウイルスが根絶されるまでは、自己防備の意識を高め、生きた家禽には接触せず、鳥インフルエンザウイルスから距離を取ることが必要です。長期的に言えば、中国でも、生 活習慣を変え、集約的な大規模養鶏業を発展させることを検討すべきです。家禽を集中的に屠殺し、低温度管理のもとで市場に出すのが、最も安全で信頼性の高い方法です。


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