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中国の宇宙科学研究から見た基礎科学の進展(その1)

2014年 7月 7日

松岡勝

松岡 勝:理化学研究所 名誉研究員

略歴

1939生。
1966年名古屋大学理学研究科で理学博士。東京大学助手、助教授を歴任。
1986年より理化学研究所主任研究員 宇宙科学研究所客員教授、埼玉大学客員教授歴任
1999年より理化学研究所名誉研究員、宇宙開発事業団招聘研究員、MAXIの科学プロジェクトマネージャ
2003年より宇宙開発事業団は宇宙航空研究開発事業団に組織変え
2010年より理化学研究所特別顧問(~2013年)
2014年より理化学研究所グローバル研究クラスター研究嘱託

 中国の宇宙開発は有人ミッションや月探査の宇宙工学分野では日本や欧州を凌駕する勢いである。しかし、宇宙観測の最先端の学術的な科学衛星の現状はかなりの遅れを感じる。経 済大国第2位の地位にある中国が工業生産による経済力の伸びと基礎科学の宇宙科学の遅い伸びとの大きな違いはどこにあるのか、これが何時まで続くのかについて考えてみた。

1.はじめに

 2000年代に入って、中国は海外にでて活躍している中国人研究者を主要な大学や研究機関に呼び戻すことを奨励してきた。また、中国はオリンピックだけでなく、大きな国際会議の招致にも熱心である。主 として基礎的な宇宙科学の国際組織であるCOSPAR(国際宇宙空間研究委員会)の総会を2006年に開催し、2012年にはIAU(国際天文学連合)の総会を開催した。ど ちらも最先端の研究が発表されるもので前者は2年毎に、後者は3年毎に世界のどこかで開催される最大級の国際会議である。

 中国は、COSPAR総会においても、またIAU総会でも将来計画のロードマップは壮大で、日本だけでなく、欧米の計画に迫るミッションもみられる。基 礎科学においても規模や大きさで世界を圧倒する計画がある。しかし、現段階では、これらの基礎科学の成果は工業分野に比べて目立つものは少ない。こ こでは宇宙基礎科学分野に限ってその状況を少し具体的に見てみよう。

2.中国の宇宙科学への取り組み

 中国の宇宙科学分野では、2000年の初めころ(1~2)トン級の大型の科学衛星計画が始まり、2003年には硬X線天文衛星の予算を認め、国際的ワークショップを海南島で開いた。ここには、イタリア、イ ギリス、米国、ドイツ、日本(筆者ら3名)などの研究者が参加した。現在、この衛星の各部の製作はほぼ終え最終的な総合試験の段階に入っていて、来年には打ち上げる予定という。こ の科学衛星計画と並んで中国版宇宙ステーションに載せる科学観測装置が国内に公募され審査中と言う。そこでは、微小重力実験や曝露部観測施設が用意されていて、2020年頃から実働するとのことである。

 宇宙科学のもう一つの動向として300~400kgの小型衛星シリーズが提案された。昨年その第一号機に決まった、北 京の国立天文台が提案した軟X線全天監視観測衛星の国際フォーラムが2014年5月上旬に北京で開催された。このフォーラムに出席して受けた印象として、中国が宇宙科学研究に大変期待していることがうかがえた。 

図1

図1 フォーラムの集合写真

前列左から W.Yuan(衛星のPI), J.Wu(NSSC), R.Bonnet(ISSI,ジュネーブ)、
筆者, M.Falanga(ISSI,北京), N.Gehrels(NASA/GSFC), L.Piro(INAP,Italy)らが出席

 宇宙科学研究に関しては、2012年に国際宇宙科学研究所(ISSI)に参加して、2013年北京に分所を置き、多岐にわたる宇宙科学分野の学術的な研究の国際交流に積極的に参加している。I SSIはNPOの組織で、これまで太陽や惑星系分野の交流が盛んであった。中国では、現在進めている天文・宇宙科学のX線観測の他、ガンマ線の観測、ガンマ線バーストの観測、月 の表面探査のためのガンマ線観測などがある。他に、宇宙の最先端の研究であるダークマターの観測を狙う基礎開発も行っている。

 宇宙科学分野では国際感覚をもった優秀な人材が徐々に増えている。しかし、研究拠点は北京の国立天文台、南京の紫金山天文台、上海天文台、北京の精華大学など少数である。そ れぞれの研究室のリーダーは海外の国際的な研究機関に滞在経験をもつトップレベルの研究者であるが、中間層はまだ多くは育っていないようだ。欧 米も我が国もX線や赤外線による宇宙観測ではロケットや気球による観測等で経験を積み、人材を育ててきた。これにはおよそ20年を超える時間がかかっている。

 中国は1990年代頃までは、文化大革命時代の指導者層がいたこともあり、中間層の指導が十分ではなかったようだ。天文・宇 宙の基礎科学を目指す科学衛星計画は2000年代になって北京の高能物理研究所が中心となり始まった。この研究グループは気球観測の経験を積んだ実験家を育てるとともに、N ASAやESAの衛星で取られたアーカイブデータを解析して、欧米の専門誌に優れた科学論文を発表してきた。このデータ解析による優れた研究方法は、日・欧米帰りの指導者とともに中国国内に発展・普及している。こ うして、最初の本格的な科学衛星である硬X線天文衛星のプロジェクトをこの高能物理研究所のグループが担当することになったのは自然の流れであろう。

その2へつづく)


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