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中国の高校から日本の大学への留学:高校数学の学習単元の整合表の試み(その1)

2014年 8月29日

竹熊尚夫

竹熊 尚夫:九州大学大学院人間環境学研究院教授

略歴

1963年熊本県生まれ九州大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了、博士(教育学)、専門は比較教育学。
主著論文は、「多民族社会における教育の国際化への展望」望田研吾編著『21世紀の教育改革と教育交流』(2010年6月)、「多民族社会の教育研究における民族教育制度の視座-比較教育学的考察-」『九州大学大学院教育学研究紀要』第11号(通巻54集 P45-60, 2009年3月)

1.留学の多様化による高卒学力の診断

 近年、若い優秀人材のグローバルな獲得競争の中で、日本の大学でもグローバル30を嚆矢に、秋入学や海外の高校から日本の学部段階への直接入学などが広く検討されはじめている。大学国際化の推進に相俟って、学部段階への海外学生の受け入れも行われている。国公立大学では、これまで日本語能力試験や日本留学試験での成績は大きな比重を占めず、帰国子女入試や学部段階への外国人留学生入試においても、少人数であったり、相対的な評価であるため、海外の学歴に対する明確な選考判定内容や基準がないままか、基準はあったとしても公表されることは少ない。また、私立大学には日本語別科や独自の交流ルートによる国際化戦略を持つものも多いが、選抜・判定基準は優秀な学生の獲得競争と関わり、部内秘として扱われているのが現状であろう。同じく、国際バカロレア(IB)等の資格は日本の大学入学資格の前提として認定され始めているものの、詳細な科目や評価基準については大学や部局に任されている状況と言える。

 この中で、アジアの、特に中国の大学入学に用いられる「高考」の点数はまだまだ認知されているとは言いがたい。しかしその国際的認知度は高まる一方で、海外進学であろうとも中国国内用「高考」を受けさせ、その成績を学力の判定材料としているという話は良く聞く。日本においても、「高考」については、民間機関や学会もしくは、大学連盟等がその調査を行い、活用に向けた試みが必要とされている。中国ではこの高考によって大学進学先が概ね決定するため、大学別学部別の基準点を示す進学受験雑誌は多種多様に存在しており、これらのデータを活用していくことも可能である。また、中国では各科目について国内課程とIBやアメリカのAP(アドバンスト・プレイスメント)プログラムとの比較対照した文献も出版されている(唐 2012)。

 一方、日本には財団法人日本学生支援機構(JASSO)が実施している「日本留学試験(EJU)」制度があり、海外の現地の教育資格認定以外にも日本語、数学(コース①、コース②)、理科(物理、化学、生物)、総合科目等を渡日前、渡日後に受験することができ、学部入試の判定材料となっているが全国的な評価基準としてその評点や評定が確立されたとは言えない。また、香港以外では中国大陸での受験はできない状態である。一方、海外の高校から日本の大学へ早いうちに学生を確保して、直接入学させる場合はこうした試験はさほど必要とされておらず、様々な学力診断への活用度は依然として高くはない。

 海外資格評価の先進国であるアメリカでは、NAFSA(全米国際教育交流協議会)やAACRAO(米国大学アドミッション・オフィサー協会)が留学元である途上国の教育資格について調査し、アメリカへの留学資格認定、資格証書の発行を行っている。この他、AICE(国際資格評価協会)、CEC(全米外国成績資格評価審議会)等が海外教育資格の評価活動を行っているというが(横田 2012)、多くは民間組織で、資格認証をビジネスとするものであり情報入手は容易でない。また、そもそも、アメリカの教養教育型大学への受入と、日本の大学の専門教育への接続が前提となる受入側のニーズはかなり異なると言えよう。日本の大学の中にも教養学部があるが、高い語学能力や論理的思考力、学習意欲・態度によって、しっかりとした基礎学力が評価されれば、入学後に個々の学生に知識のばらつきがあったとしても、教養教育の幅広い枠の中で、それぞれの適性と意欲にあった学問分野に進んでいくという側面がある。これがアメリカの教養大学で留学生を柔軟に受け入れられる教育システムの基盤であり、大学、大学院教育の積み重ねでもある。

 日本の大学院重点化大学では大学院を重点化するからこそ、という理由で学部での専門教育への重視が進んでおり、初年次教育での教養教育の短期化と専門教育の早期化が進行している。このため、高校での学習状況との強い接続がますます必要とされ、日本国内の高校からでも補習教育、リメディアル教育という新入生のばらつきを埋め合わせる教育が既に各所で行われているところである。同様に、海外からの留学生は国別、地域別、学校別と多様であり、受入においては個々の学生への対応が必要とされており、当該国の教育課程とその内実を把握することは、学生の学力診断そして学生理解にとっても重要になってきている。

2.中国での海外進学準備教育の提供

 中国の送り出し側である高校を見てみると、外国語学校、国際学校、重点学校そして一般の学校出身によって分けられ、また、それが省や沿海部都市か内陸かなどの地域別や朝鮮族等の民族学校によっても外国語としての日本語能力や英語能力にはかなりの差異が生まれる。海外留学を目指す学校は主としてエリート校であり、外国語学校等では特別な課程を持つ学校が多い。沿海都市にある国際学校では香港やアメリカの教科書を輸入し使っており、教科書以外にも多様な補助教材を用いて、資格取得や大学入学資格試験準備を進めているところもある。このように、海外への学部段階での留学を目的とする学校など教育機関は、各国の教育制度外に位置するため、それぞれ特徴を出して、IBやAPプログラムによる留学促進策(小川 2012)や、英国のAレベルといった国際共有資格の取得を目指す国際中等学校、留学派遣を前提とする外国語学校、海外大学入学資格の民間予備教育機関(新東方など)が多数存在する(横田 2012)。これらの学校には「高考」を併願するため国内用の教育課程と海外用の教育課程を併用しているコースもあるが、海外進学に特化した専門コースもあるという。

 しかし、こうした国際学校だけではなく、重点学校や一般の学校においても、海外の優れた教育機会を求めて、あるいは負担の大きい「高考」の受験競争から逃れるために、子どもの海外進学を考えている親は少なくない。こうした高校から来た留学生はどのような勉強をしてきているのか、注目していく必要がある。
その2へつづく)

※主要参考文献は(その2)で掲載


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