第97号
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中国通信設備製造業のイノベーション能力評価(その2)

2014年11月04日  陳芳 穆栄平(中国科学院科技政策与管理科学研究所)

その1よりつづき)

三、中国の通信設備製造業におけるイノベーションの実力

1、中国の通信設備製造業の革新に対する経費投入の実効性

 中国の通信設備製造業の研究開発に対する経費投入は大きく強化されている。2006年から2010年までに、中国の通信設備製造業R&D経費内部支出が主要業務収入に占める割合は2.04%から3.36%に高まった。このうち、通信端末設備製造業の増幅は最大で、0.97ポイントにのぼった。移動通信・端末設備製造業がこれに続き、0.46ポイントだった。表4に示す通りである。同時期、中国の通信設備製造業主要業務収入は年平均9.0%で成長した。中国の通信設備製造業が全体の規模を拡大すると同時に、産業革新への投入を非常に重視していたことがわかる。

表4:中国の通信設備製造業のイノベーションに対する経費投入の状況(2006-2010年)
指標 産業分類 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
R&D人員が従業員に
占める割合(%)
通信設備製造業 11.05 11.79 12.93 11.31 11.25
通信伝送設備製造 10.60 8.43 6.17 8.16 7.99
通信交換設備製造 41.03 49.22 47.35 32.37 34.39
通信端末設備製造 3.71 2.28 2.31 3.16 3.76
移動通信・端末設備製造 2.42 2.69 2.62 3.54 3.36
経費内部支出が
主要業務收入に
占める割合(%)
通信設備製造業 2.04 2.18 2.70 3.05 3.36
通信伝送設備製造 5.13 3.77 2.22 3.25 2.12
通信交換設備製造 7.57 6.57 7.36 6.75 7.45
通信端末設備製造 0.90 0.65 0.81 1.61 1.87
移動通信・端末設備製造 0.50 0.70 0.91 0.94 0.95
消化吸収経費支出の技術導入経費支出に対する比率(%) 通信設備製造業 5 3 2 2 3
通信伝送設備製造 26 14 13 15 7
通信交換設備製造 1 1 - - 16
通信端末設備製造 8 10 1 1 8
移動通信・端末設備製造 5 3 2 2 2

 “十一五”期間、中国の通信設備製造業は、新製品の開発能力をさらに重視し、とりわけ通信端末設備製造業ではこれが際立った。2006年から2010年まで、中国の通信設備製造業の新製品開発経費の年平均成長率は9.7%で、このうち通信端末設備製造業は平均成長率18.6%と急速な伸びを示した。新製品開発経費が主要業務収入に占める割合はまず、2.14%から2009年の3.57%まで増加を続けたが、2010年には2.20%と再び縮小した。このうち通信端末設備製造業だけは、1.22%から2.57%へと際立った拡大を維持した。

 注目すべき点は、中国の通信伝送設備製造業が規模を拡張した一方、技術革新への資金投入は同程度の成長を実現できなかったということである。2006年から2010年まで、中国の通信伝送設備製造業主要業務収入の年平均成長率は34.0%に達したが、R&D人員が従業員に占める割合は10.60%から7.99%に縮小し、R&D経費内部支出が主要業務収入に占める割合は5.13%から2.12%に縮小し、新製品開発経費が主要業務収入に占める割合は5.39%から2.55%に縮小した。このほか、通信交換設備製造業のR&D人員が従業員に占める割合とR&D経費内部支出が主要業務収入に占める割合はやや縮小したものの、通信設備製造業全体のレベルを依然として大きく上回っている。表4に示す通りである。

 中国の通信設備製造業のうち革新投入効率が最も高いのは通信交換設備製造である。2010年、中国の通信交換設備製造のR&D人員が従業員に占める割合とR&D経費内部支出が主要業務収入に占める割合、技術消化吸収経費支出の技術導入経費支出に対する比率はそれぞれ34.39%、7.45%、16%で、通信設備製造業全体のR&D人員が従業員に占める割合(11.25%)、R&D経費内部支出が主要業務収入に占める割合(3.36%)、技術消化吸収経費支出の技術導入経費支出に対する比率(3%)をそれぞれ大きく上回った。表4に示す通りである。

 中国の通信設備製造リーディング企業の研究開発投入は大きく強化されており、著名なグローバル企業との差は着実に縮まっている。2010年、中国の中興社のR&D経費内部支出が販売純収入に占める割合は11.3%となり、2007年から2.1ポイント上昇した。同年、シスコ社とノキア社のR&D経費内部支出が販売純収入に占める割合はそれぞれ13.2%と11.6%で、2007年からの増幅はそれぞれ0.3ポイントと1.3ポイントだった [7]

2、中国の通信設備製造業におけるイノベーション創出の実力

 中国の通信設備製造業の発明特許創造効率は急速に向上している。2006年から2010年までに、中国の通信設備製造業の企業1社当たりの有効発明特許数は6件から59件に増加し、年平均成長率は76.6%に達した。このうち、通信交換設備製造業の企業1社当たりの有効発明特許数は最大の増加数と最速の成長率を示し、2006年の44件から2010年の753件に増加し、年平均成長率は103.1%に及んだ。表5に示す通りである。

 中国の通信設備製造業の技術革新効率は下降傾向を示している。2006年から2010年までに、中国の通信設備製造業のR&D人員1万人当たりの特許出願数とR&D経費内部支出1億元当たりの特許出願数はそれぞれ565件と29件の減少となった。減少幅が大きかったのは通信端末設備製造業で、R&D人員1万人当たりの特許出願数とR&D経費内部支出1億元当たりの特許出願数はそれぞれ2277件と252件の減少となった。このほか、通信交換設備製造業の技術革新効率も減少傾向を示した。表5に示す通りである。

 中国の通信伝送設備製造の革新産出効率は比較的低い水準にとどまっている。2010年、中国の通信伝送設備製造業の企業1社当たりの有効発明特許数は9件で、通信交換設備制造業(753件)の1.3%だった。同年、中国の通信伝送設備製造業のR&D人員1万人当たりの特許出願数とR&D経費内部支出1億元当たりの特許出願数はそれぞれ908件と53件で、最多の通信端末設備製造業(2448件、99件)の37.1%と53.0%にとどまった。表5に示す通りである。

表5:中国の通信設備製造業におけるイノベーション創出の状況(2006-2010年)
指標 産業分類 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
企業社当たりの
有効発明特許数
(件社)
通信設備製造業 6 11 28 39 59
通信伝送設備製造 3 6 4 2 9
通信交換設備製造 44 101 266 423 753
通信端末設備製造 2 1 1 3 8
移動通信・端末設備製造 1 1 4 4 7
人員当たりの
特許出願数(件万人)
通信設備製造業 2279 2182 1738 2206 1714
通信伝送設備製造 785 1278 1725 1049 908
通信交換設備製造 2416 2499 1777 2535 1691
通信端末設備製造 4726 771 1247 1493 2448
移動通信・端末設備製造 1027 1024 1557 1443 2061
経費内部支出当たりの特許出願数(件億元) 通信設備製造業 84 104 80 79 55
通信伝送設備製造 31 56 93 45 53
通信交換設備製造 92 132 91 90 51
通信端末設備製造 351 48 71 57 99
移動通信・端末設備製造 25 31 39 51 72

 注目すべきなのは、中国の通信設備製造のリーディング企業の技術革新効率がすでに、世界の著名なグローバル企業の水準を超えていることである。R&D経費支出1億ドル当たりのPCT特許出願数指標を見ると、2010年、中国の中興社と華為社はそれぞれ157件と64件に達した。これに対してノキア社は約10件にとどまり、中国のリーディング企業の水準を大きく下回っている[8]

3、中国の通信設備製造業におけるイノベーションによる成果の実態

 中国の通信設備製造業の革新効果水準は大幅に向上している。2006年と比べると、2010年の通信設備製造業の利潤総額が主要業務収入に占める割合は2.3ポイント高まり、7.3%に達した。このうち通信交換設備・通信端末設備製造業はそれぞれ6.7ポイントと4.5ポイントの拡大となり、増幅が大きかった。2006年から2010年までに、中国の通信設備製造業の新製品販売収入が主要業務収入に占める割合は27.6%から47.1%に拡大し、増幅は19.6ポイントだった。このうち移動通信・端末設備製造業と通信端末設備製造業の増幅が比較的大きく、それぞれ26.7ポイントと20.0ポイントに達した。表6に示す通りである。注目すべきなのは、中国の通信設備製造業の1人当たりの工業総生産額は低下を続けているということである。低下幅は移動通信・端末設備製造業でとりわけ大きい。

 革新効率と革新効果が最も高いのは通信交換設備製造業である。2010年、中国の通信交換設備製造業の1人当たりの工業総生産額と利潤総額が主要業務収入に占める割合はそれぞれ137.7万元/人と11.9%で、通信端末設備製造業のそれぞれ約2.8倍と2.9倍に達した。同年、新製品販売収入が主要業務収入に占める割合は48.6%に達し、移動通信・端末設備製造業の水準は下回ったものの、通信伝送設備製造業の水準は大きく上回った。表6に示す通りである。

表6:中国の通信設備製造業におけるイノベーションによる成果の状況(2006-2010年)
指標 産業分類 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
一人あたりの
工業総生産額
(万元人)
通信設備製造業 145.3 112.7 106.5 102.8 100.1
通信伝送設備製造 43.7 48.4 53.1 58.2 62.3
通信交換設備製造 137.3 126.8 131.2 130.1 137.7
通信端末設備製造 55.5 56.0 53.6 52.5 49.6
移動通信・端末設備製造 202.2 129.5 117.8 108.9 101.8
利潤総額
主要業務収入
(%)
通信設備製造業 4.9 3.6 3.6 6.4 7.3
通信伝送設備製造 6.5 3.6 7.4 7.0 8.3
通信交換設備製造 5.2 5.0 4.1 10.7 11.9
通信端末設備製造 2.7 4.3 2.8 3.2 7.2
移動通信・端末設備製造 5.1 3.1 3.1 4.1 4.1
新製品販売収入
主要業務収入
(%)
通信設備製造業 27.6 40.8 41.4 53.0 47.1
通信伝送設備製造 24.6 27.0 32.6 29.8 20.6
通信交換設備製造 44.8 38.9 38.4 64.7 48.6
通信端末設備製造 14.9 7.5 29.2 34.6 34.9
移動通信・端末設備製造 24.3 45.5 44.6 50.3 51.0

その3へつづく)


※本稿は中国科学院編『2012高技術発展報告』(科学出版社,2012年),第四章 高技術産業創新能力与国際競争力評価 陳芳,穆栄平「中国通信設備制造業創新能力評価」を日本語訳・再編集したものである。


[7] European Union. 2008. The 2008 EU Industrial R&D Investment Scoreboard;European Union. 2011. The 2011 EU Industrial R&D Investment Scoreboard

[8] European Union. 2011. The 2011 EU Industrial R&D Investment Scoreboard.