第97号
トップ  > 科学技術トピック>  第97号 >  中国、アボガドロ定数測量技術研究で大きく進展

中国、アボガドロ定数測量技術研究で大きく進展

2014年10月28日  単 谷(中国総合研究交流センター フェロー)

 アボガドロ定数は、ミクロとマクロの世界をむすぶ基本的な物理定数である。アボガドロ定数の正確な測定は、国際的な基本単位であるキログラムとモルとの再定義に大きな影響を及ぼすと同時に、計 量基準の問題を原子・分子・量子のレベルから研究し解決する鍵となる。アボガドロ定数の測定は現在、完全格子単結晶シリコンのモル体積とシリコン原子単体の体積比を根拠とし、単 結晶シリコン球の密度を正確に測定し、単結晶シリコンのモル質量と格子定数を用いて行われている。

 中国計量科学研究院が清華大学などの国家重点研究機構と共同で展開する、「第11次5カ年計画」科学技術サポート計画重点プロジェクトの課題「アボガドロ定数測定キー技術研究」はこのほど、国 家質量監督検験検疫総局による検査に合格した。課題チームは4年の研究を経て、新たな固体密度標準器の構築に成功した。同機器のシリコン球直径の測量精度(0.9nm以上)は世界最先端レベルに達している。新 機器の構築と工法プロセスの改良によって、自然単結晶シリコンモル質量測定の誤差は8×10-8という世界最高水準を実現した。研究成果は、中国によるモル計量基準の設定に重要な土台を築き、基 本物理定数研究方面で中国に国際的な発言権を与えるものとなった。

 課題責任者を務める中国計量科学研究院の羅志勇研究員と易洪副研究員によると、同プロジェクトでは世界で初めて、「機械スキャン精密位相変調」原理と「新五幅算法」に 基づくシリコン球直径の精密測定が実現され、システム全体の測定再現性は0.5nmを超え、直径測量の精度は0.9nmを超えた。プロジェクトで設計された多層特殊パイプ配置真空系統は「位相重ね合わせ効果」と「 温度勾配補償効果」の精密温度制御を実現し、真空腔内の温度の長期安定性は1mKを超えた。

 単結晶シリコンモル質量精密測量研究では、課題チームは、五フッ化臭素法による四フッ化ケイ素サンプル調合のための新たな実験装置を構築し、工法プロセスを改良し、調合における完全転化や無分留、分 子レベルでの均等混合、低汚染などを実現した。またシリコンモル質量を正確に測定する新たな判断根拠を提起した。

 課題チームは、五フッ化臭素法による四フッ化ケイ素調合とアルカリ溶解法による四フッ化ケイ素調合の両工法プロセスの研究を通じて、世 界のアボガドロ定数の研究チームが採用しているアルカリ溶解法によるサンプル作成過程に分留効果があることを発見、分留効果の値を正確に測定した。ま たX線結晶密度法と天秤法で測量されるアボガドロ定数の不一致の原因を究明し、アボガドロ定数測量の鍵となる技術で大きなブレークスルーを実現し、質 量の基本単位であるキログラムと物質量の基本単位であるモルの再定義に向けた技術的な土台を提供した。

 中国計量科学研究院が展開するアボガドロ定数測量キーテクノロジー研究は現在、世界のアボガドロ定数研究協力プロジェクトの重要な一部となっている。国 際組織との協力を通じたアボガドロ定数測量技術の研究は、中国の数多くの先端ハイテク測量技術の発展(ナノレベル精密測量技術の研究、物質量の精密測量技術の研究、体積と密度の精密測量技術の研究など)を リードすると同時に、基本物理定数を土台とした中国の計量単位体系を構築・改善し、科学技術面での競争力を高め、ハイレベルの科学研究人材を育成するのに重要な意義を持つ。