第98号
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中国沿岸地域の土地利用のリモートセンシング(遠隔探査)分類システム研究

2014年12月18日

侯西勇

侯西勇(HOU Xi-Yong):中国科学院煙台海岸域研究所研究員

1975年5月生まれ。2005年6月、中国科学院地理科学・資源研究所 地図学・地理情報学システム専攻 博士課程修了。2005年8月~2007年6月、中国科学院地理科学・資源研究所 中国生態系統研究ネットワーク(CERN)にてポスドクとして研究に従事。2011年3月~9月、米国デューク大学にて訪問学者として空間分析を行う。 現在、主に沿岸地域の土地利用、土地被覆の変化、海岸線変化のモニタリング、沿岸地域における生態系の脆弱性評価、沿岸域総合管理などの研究の傍ら、大学院生の指導を行っている。


張宏梁:食品安全質量検測学報 編輯部主任

はじめに

 土地利用研究において土地利用の分類は、地質調査や土地の評価をするために重要で基本的な問題である。

 科学的かつ合理的な土地利用分類システムは、その地域の土地の構造的な特徴を理解するのに役立つだけでなく、土地観測技術を開発することにもつながると考えられている。リモートセンシング(遠隔探査)による成分情報から、地表の物体は複雑な要因から形成されていると考えられるが、従来の土地分類システムでは土地の利用に有効な詳細画像を得ることができない。このため、近年では土地利用分類システムのためのリモートセンシングデータベースが注目されている。

 沿岸地域は、陸、海、空気が総合的に作用する地域であり、沿岸の土地利用は重要な研究課題である。しかし、中国では全国的に見ても土地利用分類システムにおける沿岸地域の情報が少なく、内陸地域に偏重している。これは沿岸土地資源の調査、開発において、および継続的に沿岸地域を管理し、計画的に土地を利用することにおいても不利である。

 したがって本稿では、近年の国内外の沿岸地域の土地利用リモートセンシング分類の研究事例を整理・分類し、精度の高い図面を用いることにより、中国に適した沿岸土地利用分類システムの確立に努めたい。

1 中国の沿岸土地利用分類システムの事例

1.1 土地利用の分類

 呉伝鈞らは1980年代から中国の沿岸土地利用の研究調査を実施し、土地資源を10の一級類型、42の二級類型および35の三級類型に分類した。そのうち、一級類型は耕作地、果樹園、森林、牧草地、水域と湿地、都市部、鉱工業用地、交通用地、特殊用地とその他の用地に分けている。

 劉紀遠らは地球観測衛星「ランドサット」の観測装置・セマティックマッパー(TM)の観測データと中国・ブラジル地球資源衛星「CBERS-1」の画像データを用い、1990年代には中国全土の縮尺10万分の1レベルの土地利用データベースを作成した。その中には、農地、森林、草原、水域、都市の鉱工業地と居住地、未開発地の6つの一級類型と二級類型が含まれている。侯西勇と徐新良は、このデータベースに基づき中国沿岸地域の近年の土地利用の特徴を研究し、内陸地域に比べ、沿岸地域は永久凍土と砂漠の2つの二級類型が欠けていると指摘した。

 黄河デルタは国際的に重要な意味を持つ河口デルタ湿地であり、また、土地利用変化研究のホットスポットの一つでもある。

 葉慶華らは、土地利用の歴史資料およびランドサットTMの観測データから黄河デルタの多時相の土地利用データを得た。主に海域、農地、果樹園と森林、草原、住宅地や鉱工業用地、交通用地、土地、水域(砂浜も含む)、未開発地あるいは開発困難な地、アルカリ土壌の土地などが含まれている。

 王玉らは、ランドサットTMの観測データに基づいて江蘇省沿岸地域の縮尺10万分の1レベルの土地利用データベースを作成した。その中には、農地、森林、草原、ダムや貯水池、干潟、都市部、農村居住地とその他の建設用地が含まれている。

 劉艶芬らはランドサット7号の観測装置Enhanced Thematic Mapper Plus(ETM+)の観測データを利用して、連雲港市沿岸地域を海水、砂浜、内陸水域、沿岸の塩湿地、農地、果樹園、森林、都市建設用地、工業用倉庫用地と港用地に分類した。

 閆淑君らはランドサットTMとフランス、ベルギー、スウェーデンが共同開発したリモートセンシング衛星「SPOT 5」の観測データを利用して、閩江入り江の琅岐島の土地利用データを得た。それを農地、建設用地、未開発地の3つの一級類型と、耕作地、果樹園、森林、住宅地、交通用地、水利施設用地、未開発地の7つの二級類型及び26の三級類型に分類した。

 孫暁宇らは珠江河口の縮尺10万分の1レベルの土地利用データを作成し、農地、森林、草原、水域、建設用地と未開発地の6つの一級類型、さらに17の二級類型に分類した。

 呂志強らはランドサットTMおよびETM+の観測データを利用し、珠江河口の沿岸地域を農地、果樹園、森林、水域、池、建設用地の6種類に分類した。

 また、高義らはSPOT 5の観測データを利用して、広東省海島の沿岸地域の土地利用データを作成した。農地、森林、建設用地、草原、漁業養殖用地、水域、未開発地、熱帯林の8つの類型に分類した。

1.2 湿地分類

 沿岸湿地は、陸と海の相互作用と人類の生活、活動の影響もあり広く開発された。沿岸地域の重要な土地被覆例である。中国は沿岸湿地資源が豊富であるが、現在の研究では沿岸湿地の区分方法は様々である。

 趙玉霊らは中国東部の重要な経済区湿地を近海および沿岸湿地、河川湿地、湖沼湿地、草原湿地、人口湿地の5つの一級類型および浅瀬水域、岩石性海岸、干潟の泥浜、潮間帯、生物のいる浜、河口およびデルタ湿地、永久的河川、季節的または断続的河川、氾濫原、永久的淡水湖、季節的淡水湖、永久的塩湖、季節的塩湖、草原湿地、その他の湿地、人口養殖場と塩場、ダムの17の二級類型に分類した。

 李玉鳳らは浙江省塩城市の沿岸湿地を、草原、ヨモギ沼沢地、ヨシ沼沢地、養殖地、水田、小川、川、干潟、住宅地の9つに分類し、王斌らは、浙江省の沿岸湿地を近海と沿岸湿地、浅瀬、岩石性海岸、潮間帯、干潟の泥浜、潮間帯塩性湿地、熱帯林の沼地、海岸近くの淡水湖、河口水域、デルタ湿地の10の類型に分類している。

 多くの研究では、沿岸湿地を自然湿地と湿地の2つの一級類型に分類しているが、二級類型の分類方法においてはそれぞれに差異がみられる。例えば、温慶可は渤海沿岸湿地を河流水面、湖水面、干潟、砂浜、ヨモギ沼沢地、ヨシ沼沢地、ダムと池、塩場、水田の9つ二級類型に分類しているのに対し、張華らは遼寧省の沿岸地域湿地を干潟、砂浜、潟、沼地、川、淡水湖、ダム、水田、塩田、水産養殖場の10の二級類型に分類している。さらに、魏蘭らは福州市沿岸湿地を砂浜、干潟、河川、浅瀬、湿地草原、ダム、水産養殖場、水田の8つの二級類型に分類しており、高義らは、珠江河口の沿岸湿地を干潟、河口、浅瀬、熱帯林、湖、河川、ダム、水産養殖場、水田、池の10の二級類型に分類している。

 全体的にみると、中国においては1980年代に全国の沿岸地域の土地利用現状調査を行った後、リモートセンシング技術の進化により沿岸地域の土地利用変化に関する研究は徐々に増えたが、多くの研究は中小の地域に限られている。また、同時に経済社会の南北の著しい格差が土地利用の地域性に顕著に現れているのも特徴的である。したがって、沿岸地域の土地利用分類システム研究には普遍性に欠けるところがあり、この点が全国的な沿岸地域の土地利用のリモートセンシング分類と土地利用変化の研究における大きな課題となっている。

2 中国の沿岸土地利用分類システムの最適化案

2.1 中国沿岸地域の特徴

 中国沿岸地域はユーラシア大陸の東部、太平洋の西部に位置し、典型的な東アジアモンスーン気候帯にある。この地域の沿岸の土地利用方法は、その特性および変化の過程から、自然環境と資源の特性に密接に関係していることがわかる。

 気象類型、気候帯、土壌類型、植生類型、地形類型などに、南北では顕著な違いがある。また、沿岸地域の環境条件(特に標高、また斜面の地形やその他の要因)によっても土地の利用方法に地域差が生じている。低山丘陵地域においては農地と森林が主となっており、都市や農村工業用地、草原や水域は二次的であり、果樹園や交通用地も比較的少ない。農地は主に標高300メートル以下の地域に分布しており、南部の水田は谷などにある。また、畑はゆるやかな斜面(勾配15°未満)に位置している。

 丘陵など地形の障壁が水温に影響して、山東半島、遼東半島と海南島の東部では降水量が明らかに西部より多く、それゆえ、塩田は主に丘陵地帯の西側の海岸平野に分布している。

 海岸平野は主に農地として利用され、河口デルタ平野では都市と農村工業用地の割合も高くなっている。河北、天津市沿岸、江蘇省射陽県の揚子江河口および珠江デルタの低地では、主に水田が中心となっているが、一部の低地は池に改造され主に養殖に利用されている。

2.2 土地利用分類の原則

 土地利用分類システムでは、大カテゴリーからサブカテゴリーへと階層構造を分けている。全国的に見ると、大カテゴリーである一級類型は細分化し過ぎず中国の沿岸土地利用の最も基本的な特徴を反映できるように、かつ既存の沿岸土地利用分類に紐付けられるように分類した方がよい。それに対して、サブカテゴリーの二級類型は、沿岸地域に特有な土地利用類型を十分に反映できる必要がある。

 中国沿岸地域の埋め立て地は、土地利用変化の重要な特徴である。したがって、土地利用分類においては埋め立て地を十分に考慮し、時間的・空間的変化の特徴などに関する研究ニーズに対応することが必要である。

 また、長期的な土地利用変化の研究ニーズを満たすために、ランドサットTMおよびETM+の過去の観測データ、環境減災衛星(HJ)のCCDデータ、ランドサット8号の観測データを重視し、30m解像度のマルチスペクトル画像の識別性と操作性を認識した上で利用することが必要である。

 シンプルで実用的であることを原則とし、一定の尺度のもと、分類システムのすべてのカテゴリーのニーズを満たし曖昧さを避けること、またそれぞれの類型に明確に帰属できるように努めることも必要である。

2.3 土地利用分類システムの利用と解釈

 上記の原則に基づいて、劉紀遠が作成した中国の内陸地域の縮尺10万分の1レベルの土地分類システムを参考に、沿岸地域の土地分類システムの最適化案を提案したい。その中には、農地、森林、草原、建設用地、内陸水域、沿岸湿地、人工の塩水湿地、未開発地の8つの一級類型が含まれる。また、ランドサットTMの画像データ(4-3-2バンドの組み合わせ)に基づき、多くの現地調査を行った結果、さらに24の二級類型に分類した。リモートセンシングによる土地分類の標識は以下の通りである。

水田:河川、貯水池や湖の付近に分布。灌漑水路は形状がはっきりしており境界が明確である。多くは帯状に分布している。明るい赤色、朱色または暗赤色、色飽和で表示される。テクスチャは均質かつ滑らかで繊細である。

乾燥地:多くの場合、平野となだらかな谷に分布し、明確な境界を持っている。多くは赤色あるいは黒みがかった赤色で表示され、他の土地分類との色調の差は明らかである。小さな斑点は細長い道路があることの特徴といえる。

森林地帯:朱色、暗赤色あるいは黒みがかった赤色で表示される。山の谷間に影を持ち、立体感がある。テクスチャは粗く、形状はほとんどが不規則である。しかし、沿岸防風林の形状は規則的であり、フレーク状または縞状に分布する。色調は均一である。

間伐地帯:朱色で表示され、薄い灰色あるいは濃い灰色が合間に分布し、暗い色調である。形状は不規則で、境界は明確でない。フレーク状に分布し、テクスチャが粗い。

低木林:分布面積は均一でなく、多くは中低山や平野に分布している。暗赤色、薄い灰色または灰色で表示される。形状は不規則で、テクスチャが粗い。

その他の森林:分布面積は均一でなく、多くは中低山、丘陵あるいは平原に分布している。朱色、薄い赤色、灰色と緑黄色で表示される。形状は不規則であり、境界が明確でない。内部のテクスチャが粗い。

高被覆草原:分布面積は均一ではない。赤色、暗赤色で表示される。形状は不規則であり、境界が明確でない。

中被覆草原:分布面積は均一ではない。薄い赤色で表示され、形状は不規則で、テクスチャが粗い。

低被覆草原:薄い赤色、薄い赤みがかった緑色または黄緑色で表示される。形状は不規則で、境界が明確でない。テクスチャが粗い。

都市部:主に紺青色、藍色がかった灰色、間に濃い灰白色が混ざっている。大面積にわたるフレーク径分布を持ち、形状は不規則である。テクスチャが粗い。

農村住宅地:道路、河川沿岸に位置し、周囲に森林、農地が分布している。灰色または薄い灰白色で表示され、内部の色調は不均一である。境界が明確であり、形状は不規則である。

独立した鉱工業および交通用地:灰色、明るい白色あるいは青色で表示される。境界線は明確で、フレーク径分布を持つが、形状は不規則である。テクスチャが粗い。

運河:藍色、群青色あるいは黒色で表示される。境界が明確であり、湾曲帯状あるいは一部直線状に分布している。幾何学的なイメージで形状は不規則、テクスチャは繊細である。

湖:形状は不規則で、境界が明確でない。藍色あるいは群青色で表示される。底部分のテクスチャは繊細で、湖の水深が異なるため、内部の色調が不均一である。

貯留池:形状は規則的で、明確な輪郭を持つ。群青色、藍色あるいは青白色で表示される。内部の色調が均一である。

砂地:川、湖や貯水池の周辺に分布する。灰色または薄い灰色で表示され、他の土地分類との色調の差は明らかである。境界が明確で形状は不規則であり、テクスチャが粗い。

砂浜:海岸線に沿って分布し、海との境界が明確である。細長い帯状であり、灰色や灰白色で表示され、色調は層状である。

河口水域:河が海に流れ込む水域。形状は不規則だが、一定の幅を有する。藍色あるいは群青色で表示され、周囲の海水とは明確な違いがある。

デルタ河口湿地:川の河口に位置する。薄い灰色あるいは灰色で表示され、海の方へ向かって薄い色に変化している。湿地植生に覆われた部分は赤色で表示される。多くは扇形をしている。映像上は細長い渓流の跡が常に確認できる。

沿岸ラグーン:海岸線付近に位置し、藍色あるいは青白色で表示される。境界が明確で、形状は不規則である。テクスチャは均一である。

浅瀬:藍色で表示され、識別しやすい。単相でマッピングされるため、専門的な解釈が必要なく、多くは背景要素として処理される。

塩田:海岸線に沿って分布する。境界が明確で、形状は規則的である。藍黒色で表示され、藍白色の領域は塩結晶の堆積する地域である。内部は縞模様でテクスチャは鮮明である。多くは排水溝で海とつながっている。

養殖地:海や川付近に位置し、海岸線に沿って分布する。藍色あるいは藍黒色で表示される。形状は規則的であり、明確な境界がある。内部ははっきりとした縞模様で、細長い長方形をしており整然とした配列で分布する。

未利用地:多くの場合、建設用地の周辺及び内部に分布し、海岸線付近に位置する。明るい白色、黄白色あるいは白褐色で表示される。形状は不規則で、多くはフレーク状で分布する。テクスチャが粗い。

4 結論

 中国の沿岸地域の多様性が顕著であるにも拘らず、国家規模の沿岸地域の土地利用分類と変化の研究は著しく不足しているのが現実である。本稿はランドサットTMおよびETM+、HJ-CCDやランドサット8号などの30m解像度の衛星画像と中国沿岸地域の土地利用リモートセンシング分類システムに基づいて探求している。

 また本稿は、8つの一級類型と24の二級類型を採用することによって、簡潔に全国の沿岸地域の土地資源情報を解説し、沿岸湿地の細分化にも役立っている。同分類システムおよびランドサットTMの過去の観測データを使用する場合、中国沿岸地域の20世紀初頭のリモートセンシングマッピングの研究からも、この分類システムには強い実効性があると考えられる。全国規模の沿岸地域の土地資源のリモートセンシング調査、土地利用管理と計画、沿岸の統合的管理などの参考として提供したい。