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海底希土類元素研究の進展状況

2014年11月28日

呉紹渊

呉紹渊:中国海洋大学環境学院

略歴

1984年9月生まれ、中国海洋大学海洋環境学院博士課程在籍。2010年9月には、華東師範大学の河口や沿岸の国家重点実験室卒業、海洋化学修士を取得。
2013年7月に、アメリカオレゴン大学のロー・スクール(School of Law,University of Oregon)法律修士学位を取得。
現在では、主に海洋資源、国際海洋法と海洋化学、生態学の研究を行っている。
国家自然科学基金プロジェクト及び国家863プロジェクトなど多くの関連研究プロジェクトに参加している。


張宏梁:食品安全質量検測学報 編輯部主任

はじめに

 希土類は、高度な技術や先端的な技術が求められるハイテク産業開発において、機能性素材の原料として必要不可欠な金属資源であり、国の戦略的な面からも重要な価値を持つ。

 希土類元素は、陸上では世界のさまざまな国、地域に存在するが、偏在性が高いことを考えると、今後は海洋底が当該資源の探査や開発の新たな区域になると思われる。

 本稿は、近年の関連する研究開発の成果と進捗状況を検証し、今後の研究の見通しを示唆したいと考える。

1. 海底希土類元素研究の意義と価値

 アメリカ地質研究所(United States Geological Survey, USGS)が2013年に公表した最新データによると、希土類元素の世界埋蔵量はおよそ1.1億トン、そ れに対し中国の埋蔵量は5500万トンと、全体の48.34%を占めている。

 しかし、半世紀にわたり採掘に注力した結果、中国の希土類元素の埋蔵量と保障年限は下がり続け、主な鉱区の資源減少に加え、在来の鉱山資源も枯渇していった。加えて、中国の鉱山企業の多くは、資 源を循環利用することの意識が欠如していたため、限りある資源を効率的に利用、再生産することが十分に行われておらず、その結果、希土類元素の採掘と利用の過程において大量の浪費をもたらした。

 近年では、環境保護と限りある資源の計画的な採掘を行うため、中国政府は希土類を対象とした資源保護政策に転換し、かつ希土類元素の採掘に制限を加え輸出枠の大幅削減方針も打ち出した。そのため、2 011年の国際希土類市場の価格が一時高騰し、供給量は不足する事態となった。

 現在、希土類元素は材料化学、生物医学、ナノテクノロジー、情報技術、航空宇宙、環境対策、次世代自動車、風力発電などのハイテク分野において欠かせない資源であり、今後、応 用用途はさらに広がるであろう。

 国の基盤を維持するためには、資源を確保し、安定的に供給することが必須であり、欧米の鉱山企業は希土類の探鉱、開発に努力を重ねた結果、顕著な成果を挙げている。そのことにより、国 際的な希土類市場の構造に根本的な変化が生じ、中国の希土類産業界は厳しい挑戦を強いられている。

 2013年のアメリカ地質調査所(USGS)の統計によると、世界に占める中国の希土類年間生産量は、2011年の95.0%から2012年は86.8%へと減少した。そうした中、希 土類元素の海底開発は次第に世界中の注目の的となり、高い関心を集めるようになった。

 日本政府は、希土類の対中依存度を引き下げようと「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を策定し、2018年までの中長期計画の中で、海底熱水鉱床の探査と試掘を加速させるものと思われる。

 2011年、日本の加藤泰浩教授らのグループは、著名な学術誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に、ハワイを含む太平洋中央部の約880万平方キロメートルの海底、及 び東南部に位置するタヒチ島付近の約240万平方キロメートルの海底に、高濃度の希土類元素を含む泥が堆積していることを発表した。

 その埋蔵量は陸上の1,000倍とも言われ、加藤教授らは、太平洋海底の泥中に存在する希土類の埋蔵量は1000億トンに達するだろうと予測する。

 さらに2013年、同教授らはインド洋東部の深海底で、希土類を豊富に含む泥を発見したと発表した。こうしたことから、陸上では一部の国に偏在する希土類元素が、海 底には広く分布する可能性が出てきたのである。

 80年代より、中国では地球科学の研究に熱心に取り組んでおり、南シナ海海底堆積物中の希土類についても同様に研究が進んでいる。併せて、海底の堆積物や氷河、年輪などの分析から、陸 上や海洋の過去の気候変動を研究する分野においても一定の成果を挙げている。

 近年では、科学技術の進歩に伴い、国家プロジェクトの立上げや国際協力も進み、国際協力による国際深海掘削計画(IODP)が展開されるなど、南シナ海海底堆積物の希土類調査は、そ の規模も範囲も拡大し新たな段階を迎えている。

2. 中国周辺海域における海底堆積物の研究状況

 近年では、深海探査技術の発展とともに、国家の勢いも増し、国際協力の基盤も整い、中国周辺海域における海底堆積物の希土類元素の研究領域は拡大しつつある。それに伴い、関 連するデータや資料もその充実度を増し完備されつつある。そしてこれらの研究により、堆積物中の希土類元素の起源とその分布状況は海域ごとに差異があることがわかっている。

 中国周辺海域における表層堆積物中の希土類の研究は、1960年代に遡る。以降、中国科学院南海海洋研究所が、中国周辺の海域について調査研究を続けている。

 深海探査技術が日増しに成熟するにつれ、新たな海底堆積物のサンプル採取も可能となり、データや知見も随時更新され完備されつつある。

 例えば、中国とドイツとの共同調査による1994年のSonne 95航海(S017940)、1999年のODPl84航海(1144)、さ らに中国とフランスとの共同調査による2005年のMarco-Polo航海(MD05-2905/6)では、南シナ海北部に位置する大陸斜面の進化中の堆積物について調査を実施している。

 また、付淑清らは、海洋開発研究プロジェクトによる航海において、永暑礁にて86GCコラムサンプルを採取し、希土類元素の含有量を測定、地球科学的な観点から地球の構造や歴史について分析を行った。& amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>

 呉夢霜らは、南海北部の深海区域の堆積物中の希土類の研究から、地質時代の区分でいう中新世から漸新世にかけて、大きくその構造が変化していることを突き止めた。

 しかしながら、現在、南シナ海海底の堆積物中の希土類の研究海域は、珠江口盆地流域、伶仃洋、鶯歌海など南海北部に集中しており、さらに広い規模で、より体系的な海洋地質調査を実施し、持 続可能な開発を行う必要があると思われる。

3. 各海域の堆積物中の希土類の比較研究

 中国の渤海、黄海、東シナ海と南シナ海の堆積物には、希土類元素の含有量が高く、平均質量比は156μg/ gとされ、地殻希土類元素の典型的な特長が見られる。つまり、中軽希土類の含有量が、重 希土類よりも明らかに高いのである。また南シナ海の希土類元素存在度パターンの特長としては、大きな負のCe(セリウム)異常を示しているが、負のEu(ユウロビウム)異常は小さいのである。

 馬栄林らの研究から、海南島の南、渡江沿岸河口域の希土類元素の質量比は45.99~225.80μg/gで、その平均値は124.94μg/gであることがわかっている。堆積物中の希土類は低いが、粘 土中の中軽希土類元素は2μmと高く豊富であった。

 また顔彬らの研究では、広東省沿岸の10地点の海湾を調査したところ、希土類の質量比は251.77~133.58μg/gの間にあり、その堆積物は主に陸地から流れてきたとしている。それは、南 シナ海の北部湾の表層堆積物中の希土類は細かく含有量は高いが、今回の調査では粗く、含有量が低いという特長が見られたからである。

 現在の研究データからは、南シナ海と他の海域との堆積物中の希土類を比較すると、その豊富さと含有量において典型的な相違があることがわかっている。

4.展望

 総じて言うならば、中国周辺海域における現在の希土類元素資源の研究領域については、次の分野でなお強化すべき点がある。

(1)中国周辺海域は広大な領域であり、既存の研究成果やデータはまだ不十分であり、正確には希土類資源の分布状態や含有量などを把握できていない。したがって、今後とも海洋調査を通じ、海 底全容の研究を続ける必要がある。

(2)海洋環境条件の違いによる希土類鉱床の形成枠組みと希土類が蓄積されている位置の予測、及び識別のための研究、特に多金属結節/クラストの研究を強化する必要がある。

(3)現在の研究手法、手段は画一的で、過度にトロール調査のような伝統的な手法に依存しているため、今後は無人潜水機の研究開発に注力し、全海域の即時観測と現場分析を可能にする必要がある。

(4)現在の資金調達メカニズムから、国家や企業、個人の海洋ハイテク分野、特に希土類元素開発への投資、資金調達へと移行、強化することにより、今後の実験的、商 業的な希土類資源海底資源の利用のための技術的な基礎を築く。

(5)海底資源開発と生態系保護の研究を強化し、今後の資源の持続可能な開発に必要な理論的基礎及び技術的支援を提供する。


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