第98号
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海洋調査船「科学号」がブラックスモーカーらしきものを発見

2014年11月28日  米山春子(中国総合研究交流センター フェロー)

 2014年4月17日、中国の最先端海洋調査船「科学号」は、南西諸島の周辺海域で海洋総合観測を実施していたところ、搭載していた無人探査機(ROV)がブラックスモーカーらしきものを発見した。さ らに、いくつもの海底火山の噴火口付近には、エビやカニダマシなどの群れが棲息していた。

 ブラックスモーカーとは、海底から突き出している熱水噴出孔から噴出される熱水のことを言い、その周辺には光合成を必要としない生物の群れが存在する。同船の初回の航行での調査任務は、こ の海底のブラックスモーカーを探索することであった。

 中国科学院海洋研究所所長であり、WPOS特別首席研究員の孫松は、科学技術日報の記者に以下のように述べた。

 「ブラックスモーカーとは熱水噴出孔から噴き出される熱水のことで、摂氏25度未満の地中からの湧出水である冷泉とは相対するものである。これらは地殻変動が海底に起きたことにより生じたもので、大 洋中央海嶺の地溝帯、海底断裂層、海底火山付近など、海嶺や火山フロントに沿うように密集し分布している。すべての生物が太陽の光のもとに光合成を行い、生 命を維持する生態系を作り上げているという常識からすると、深海底の太陽光の入ってこない、しかも高温の噴出孔のまわりに生物の群れが存在すること自体、非常に不思議なことである。」

 これまでの説によると、ブラックスモーカー周辺の通常の温度は300℃前後だが、大西洋の大洋中央海嶺地溝帯付近ではその熱水の温度は最高で400℃にも達する。海底で蒸気がもうもうと立ち込め、吹 き上がる熱水があたかも煙突から煙が立ち上るかのように見えることからブラックスモーカーと呼ばれ、その煙突が林立する様は重工業地帯を連想させる。そして、その「煙突」を 囲むようにして多くの生物が棲息している。煙突から吹き出す煙の色はさまざまで、黒や白、また夕暮れの靄のような灰色に近いものもある。

 「今回のブラックスモーカーの探索は、地球生命の起源を探ることでもあった。高温、高圧下で、しかも光も酸素も存在しない海底の熱水噴出孔周辺に、硫 化水素やメタンなどの還元物質に依存し独自の生態系を形成する生物種が棲息することは、人類のこれまでの常識を打ち破るものであった。そして、生命の誕生には諸説あるが、海 底熱水噴出域が初期生命の誕生や進化の場と考える研究者は多く、我々の研究スタッフが今回採取したサンプルを分析することで、この謎が解明できるかもしれない。」

 孫研究員はこのように述べ、さらに続けた。

 「熱水噴出孔の周辺に形成される生態系は、わずかの距離で隣り合う場所でも異なることが確認されている。このことは、熱水に含まれる化合物の今後の研究に役立つはずである。そして、そ の化合物をもとに有機物をつくる微生物は環境により特殊な機能を持つとされ、微生物の持つ遺伝子もまた、種により異なる。これは新たな研究のヒントにもなり得るだろう。遺 伝子プール及び医学分野での研究が促進されることが期待される。」

 「現在、人類により解明されている海洋は5%にも満たず、残り95%の未知なる世界はそのほとんどが深海と遠海である。」

 孫所長は、西太平洋海域は海洋システム工学の分野においては重要なエリアであり、この海域の気候の変化や地殻変動などによって生じた地質構造を研究することは、中国の防災や減災、海 洋資源の開発等に大きく貢献すると述べた。