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原子力の安全発展に関する考察(その2)

王毅(中国科学院科技政策・管理科学研究所)  2015年 1月 9日 

その1よりつづき)

三、中国の原子力発電の急速発展が直面する試練とリスク

 エネルギーの安全性と工業化・都市化発展の角度から見ると、中国の原子力発電の発展は、エネルギー多元化の重要な手段の一つであり、必要な措置と言える。上述のような原因から、世界の原子力発電産業は不振に陥っている。そのため、急速に発展するアジアの国々、とりわけ中国は、原子炉メーカー各社が争奪をはかる最大の潜在市場となっている。先進国の原子炉メーカーは、急速に成長するアジアの国・地域の潜在的な電力市場(中国、台湾、インド、韓国など)から活力を受け取ることを期待している。世界金融危機の下、危機対応能力があり急速な回復が見込める中国とその巨大な原子力発電計画は、これらの企業の最大の“獲物”となっている。もちろん、中国の原子力発電の研究開発能力と海外技術の消化吸収・国産化の能力の高まりに従い、中国国内の原子力発電企業もさらに大きなシェアを得ようとはかっている。

 このような状況下で、我々は、原子力発電を大きく発展させると同時に、そこに存在する問題も直視し、合理的な解決方法を見つけなければならないことをはっきりと認識しておかなければならない。我々は、世界各国の原子力発電の発展の経験と発展動向の中から啓示を得て、とりわけ原子力発電の外国での失敗例から教訓を学び取る必要がある。歴史の経験は必ず吸収し、失敗の教訓にはとりわけ注意を払い、電力需要の予測や炉型・技術路線の選択、核廃棄物の処理方法、市民の参加などに目を向ける必要がある。詳細で立ち入った調査研究を通じて、異なる観点と意見を取り入れ、十分で科学的な検証を行って初めて、我々は正確な判断を下し、科学的な解決プランを作ることができる。

 現在の原子力発電長期計画によると、中国の原子力発電戦略は、「100万kW級の先進加圧水型原子炉技術路線の発展を堅持し、“熱中性子炉―高速中性子炉―核融合炉”の三段階での発展を進める」「閉鎖系核燃料サイクルの技術路線を堅持する」との方針が掲げられている。だが諸外国と同様、中国の原子力発電の大規模な発展にも無視できない多くのリスクが存在している。

 原子力発電の発展は経済・政治・科学技術など多くの要素の影響を受けることから、中国は、原子力発電発展計画の改定と詳細な実施プランの制定のプロセスで、以下の様なリスクの要素を考慮する必要がある[14]。第一に、目まぐるしく変化する国際金融危機は、中国の産業構造とエネルギー需要に多大な影響を生んでいる。第二に、ウラン資源の安全供給とその価格の問題については、ウラン資源の輸出国が石油と比べて集中度が高いことから、ウラン資源の安全供給とその価格は石油にも増して厳しい局面に直面する可能性がある。第三は、経済コストの問題であり、巨大な投資建設のコストと比較的長い建設周期、不断に拡大する予算、日増しに蓄積する核廃棄物とその高額の処理コストなどはいずれも、将来の原子力発電の競争力にとっての変数となる。第四は、技術問題とそのコストの高まりの影響であり、これには、第3世代(AP1000など)や“第2世代プラス”など多くの炉型の併存・標準化・国産化の処理、第3世代原発技術の商業化プロセスにおける問題の解決、高速増殖炉やその他の先進炉型の研究開発路線と商業化のモデル化、核廃棄物処理の技術路線の選択と検証などが含まれる。第五に、プロジェクトの厳格な審査・認可、建設・稼働・廃炉の専門的な運営管理と安全管理の確保。第六に、市民との意見交換や交流の問題。これらはいずれも、時間をかけて取り組まなければならない課題となる。

 総体的に言って、中国が原子力発電を大規模に発展させようとすれば、経済的なリスクや管理面でのリスク、資源リスク、環境安全リスクに直面することは避けられない[15]。我々は、原子力発電を大規模に発展させることに先立って、十分な準備をしなければならない。そうして初めて、原子力発電の大規模発展による各種の問題やリスクを避けることができる。このため、人才や技術、運営管理などの多くの面での積み重ねが不足し、多くの面での安全リスクが存在している状況においては、中国は、原発開発計画をもう一度見直し、発展のロードマップと空間的な配置をさらに明確化し、関連政策と監督管理体制を整備し、適切な速度と規模での成長を維持し、原子力発電の発展が計画と指導の下で順序良く展開されるようにし、これに対して適宜評価と調整を加える必要がある。

四、原子力安全発展のための政策提案

 規模の急速な拡張を背景として原子力の安全な発展の実現を保証するためには、上記で示したような原子力の安全性にかかわる多くの問題を解決しなければならない。我々はこのため、以下の政策を提案する。

1.『原子力法』と関連安全規範の制定を加速する

 中国の原子力発電は急速な発展期に入っているものの、原子力関連の法律は依然として打ち出されていない。中国のエネルギーの安全性を確保し、中国の原子力事業と原子力発電産業の健全で秩序ある発展を促進し、原子力の安全を確保するためには、『原子能(原子力)法』または『核安全法』を立法のプロセスへとできるだけ早く進め、中国の原子力事業にかかわる各項の内容に統一的な調整を加え、完備された管理体制と独立した強力な監督管理の仕組みを構築し、各方面の受益者の参加を促し、個別の利益集団が国家の利益を代替することを避けなければならない。同時に、安全管理規範を修正・制定し、関連評価規定を整備し、『放射性汚染防止法』を改訂し、中国の原子力発電安全管理と核廃棄物処理能力の時代に合った改正を進め、各種の安全リスクが現れる可能性を減少させる必要がある。

2.原子力安全管理体制の改革、統一的な原子力監督管理機構の構築

 発展の期間が短いことから、中国の原子力安全管理体制の整備は不十分で、管理責任の不在(核廃棄物の地層処分など)や権威不足、人員不足、技術手段不足などの問題がある。上述の関連法律・法規の制定・改善に加えて、原子力安全の管理体制をさらに整備し、統一的で権威のある監督管理部門を構築し、各関連機構の職責を明確化し、その監督管理能力を高めなければならない。同時に、原子力発電技術の複雑性と特殊性に基づき、現在の国際金融危機対応と経済刺激計画の下においても、原子力発電所の新設にあたっては厳格な検証と審査を実施し、建設中または稼働中の原発に対しては監督管理を強化し、とりわけ各種の核燃料に対する監督管理は強化しなければならない。また核廃棄物処理は原子力発電所の運用10年以降に重みを増してくることから、完備された核廃棄物処理国家特定項目計画と行動プランを今から制定し、核廃棄物処理の技術路線と総合プランを明確化し、各種の緊急マニュアルなどを制定しておく必要がある。

3.長期的なエネルギー発展戦略の枠組みの下、原子力発電発展計画と実施プランを調整・改善する

 原子力発電の中長期計画の調整は、国家の長期的なエネルギー発展戦略の下で実施し、原子力発電の適切な位置付けを正確に判断し、実現可能な目標を制定する必要がある。このほか、原子力発電発展の中長期計画だけでは十分ではなく、具体的な実施細則とプランを十分な聞き取りと討論の上で制定し、各種の保障措置を実施しなければならない。実施細則は、状況の変化に応じて、中国の国防ニーズや経済状況、エネルギー発展動向、技術革新、エネルギー安全、環境保護、気候変動対応などの多くの要素をさらに総合的に考慮し、存在する問題に対して詳細な解決法や技術路線、緊急計画を制定する必要がある。

 4.原子力発電技術発展のロードマップを明確化し、主流技術と使用済み核燃料処理方式の検証を十分に行う

 原子力発電中長期計画の配置に基づき、原子力発電技術発展のロードマップをさらに明確化し、技術の導入と消化の後の研究開発・設計・製造・モデル化を順序良く展開し、標準化生産をできるだけ早く実現しなければならない。原子力発電の推進が一旦弱まっている状況を機に先進的な技術を直接採用するべきだと提言する研究者もいるが、第3世代原発技術は世界でまだ建設の前例がなく、コストなどの面での不確定性が存在するため、現状においては、比較的安定した方法を採用し、世界の同業専門家を招いて独立した評価と検証を行う必要がある。第3世代の原子力発電技術の自主化・国産化を進める前に、“第2世代プラス”の原子力発電技術の標準化・規範化を急ぎ、政治的要素が影響する可能性を減少させなければならない。また、使用済み核燃料の循環利用と安全な地層処分技術を研究開発する必要がある。そのうえで国外の経験と教訓を汲み取り、新型高速増殖炉を含む第4世代原子力発電系統とその他の新型原子炉の十分な検証と研究開発を進めなければならない。

 中国はすでに、原子力発電所の使用済み核燃料に対して後処理を行い、閉鎖系の核燃料サイクルを採用することを決定しており、使用済み核燃料後処理の長期的な研究を実施してきた。使用済み核燃料後処理のパイロットプラントはすでに建設段階にある。だが現在の状況から見ると、こうしたやり方は、経済的な代価が高い上に、高レベル放射能廃棄物の処理問題を最終的に解決する方法とはなっていない。使用済み核燃料の処理路線については再度見直し、少なくとも世界ですでに実証された経験を汲み取り、核燃料を一度利用した後は適切な場所を選んで長期保存を行うなどの代替案を考慮する必要がある。

5.原子力発電の専門運営管理方式を採用する

 原子力技術と原子力安全は特殊性を備えていることから、原子力発電所建設とその運営管理には高度な専門性が必要となる。中国の原子力発電は急速な発展を遂げていることから、多くの種類の炉型にかかわる安全管理には、専門的な管理経験と大量の専門人材が必要となる。中国の原子力発電所の一部には、所有企業と運営管理企業が同一企業に属し、経験と人材が不足している発電所もあり、こうした管理方式では原子力の安全は確保できない。そのため、関連規定を制定し、原子力発電所の建設と運営管理を担当する企業には厳格な認可基準を定め、原発の所有企業と運営管理企業との分離を期限付きで実施し、資源の統合と専門水準の向上をはかることが望まれる。国内外の専門的な原子力発電運営企業(特にグローバル企業)を招いて中国の原発の運営管理に参加させ、協力や交流を通じて中国の原発運営管理水準を高めることなどが考えられる。

6.情報公開と市民参加のメカニズムを改善し、市民との交流・コミュニケーションを強化する

 国外の経験が示すように、効果的で整った市民参加制度を構築することは、原子力発電の発展にとってのカギとなる。これには、原子力発電の知識の普及と宣伝、監督管理機構の信頼度の向上、原発関連の政策決定への市民参加プロセスの制定、原発事故の緊急マニュアルと危機処理への市民参加の仕組みなどが含まれる。

 中国の国家核安全局は2011年、『環境保護部(国家核安全局)核・放射能安全監督管理情報公開方案(試行)』と『原子力発電所の核・放射能安全情報公開の強化に関する通知』の2つの文書を発表したが、これらはまだ市民への一般公開には至っていない。このため、関連するプロセスをできるだけ早く制定し、情報公開を段取りよく加速し、関連情報の普及とも結びつけ、市民参加を推進し、原子力発電に対する市民の認知度と受容度を不断に高めていく必要がある。

(おわり)


[14]IEA. World Energy Outlook 2011. France: OECD/IEA. 2011

[15]NEA/IEA. Projected Costs of Generating Electricity: Update 1998. France: OECD.1998


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