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四川大地震と地震動ハザード評価の国際展開

2015年 2月20日 

郝憲生

郝 憲生(はお けんせい):
独立行政法人 防災科学技術研究所
社会防災システム研究領域 主幹研究員、
GEM 科学委員会 副委員長

1、地震動ハザード評価とは

図

写真1 仙台で「地震動ハザード評価の連合シンポジウム」を開催した

(詳細はhttp://www.j-shis.bosai.go.jp/intl/cjk/3rd_annual_meeting.html

 世界各地で大地震による壊滅的な被害が多発しており、近年東アジアで発生した7つの地震(1976年唐山地震、1995年兵庫県南部地震、 1999年集集地震、2008年四川地震、2010年玉樹地震、2011年東北地方太平洋沖地震、2013年雅安芦山地震)だけでも30万人以上の方々が亡くなっています。

 ある場所に限定すると大地震の発生する確率は一般的には非常に低いのですが、世界中のどこかで発生する確率は高く、ひとたび大地震が起こるとその破壊力は凄まじく、甚大な被害が発生することが予想されます。その地震が発生する場所(眠ている活断層、活海溝)を洗い出す、ある期間(30,50年間)に、着目地点に影響を及ぼす震度の確率を周知すれば、人々はそれらの自然災害の対策が講じることができます。これが我々の長期ビジョンとしてのねらいとなります。

2、四川大地震の教訓

 内陸地震として最大級規模の中国四川省汶川(Wenchuan)地震(Mw7.9)は、長さ約500kmの龍門山断層帯で発生し、広大な地域に甚大な被害をもたらしました。2000年以上の歴史がある蜀の国(四川)に大地震の記事がなかったことは、地震に対する無認識と無策につながりました。この大地震に伴う震源断層の動きを明らかにするために、我々は数回の現地調査を行いました。最大縦ずれ6mに達する映秀―北川断層(YX-BC)と、2mに達する灌県―安県断層(GX-AX)において、10ヶ所以上の大きな地表断層を確認しましたが、断層の全容には至れませんでした。このため現地調査に加えて、陸域観測技術衛星「だいち」のPALSARデータを用いて、震源断層の形状と断層面上のすべり分布を逆解析で推定しました(図1)。その結果、今回の地震では、YX-BCでは、長さ約290km、GX-AXでは約70kmの領域が破壊し、大震災を引き起こした超大断層の全貌を世界に初めで明らかにしました(詳細はHao et al.,2009)。

写真

図1 汶川大地震に伴う地表地震断層(▲+)と地殻変動(背景の縞模様)、活断層( 白線)

確認された地表地震断層は: YX: 映秀、HS: 後深溝、 BJM: 八角廟、 QP: 清平、 GC: 高川、L: 擂鼓鎮、
BC: 北川および H: 漢旺、 Y: Ying華、 BL: 白鹿と X: 小魚洞である。
なお、本解析で用いたデータは、JAXA が進める防災利用実証実験に基づいて配布されたものであり、
元データの所有権はMETI 及びJAXA にある。詳細はHao et al.,(2009)

 一方、内陸活断層の大地震の再現周期は人類記録の歴史より長い(4000年〜)と言われています。冒頭に述べたような地震動ハザードを確率で評価する科学的な手法が徐々に確立しつつあります。我々は、「地震推進本部」の基に世界に最も複雑な地震動評価モデルを作り、2005年から防災科学技術研究所のJ-SHISのサイトに日本「全国地震動予測地図」を公開しました。さらに防災科研の中期目標のもと、東アジア、アジア、グローバルへの地震動ハザード・リスク評価の国際展開を進めてきました。

3、日中韓における戦略推進事業と東日本大地震の教訓

 2010年に、中国・韓国の研究者とともに地震動ハザード分野における日中韓の戦略的国際科学技術協力推進事業(研究交流型)に応募し、約50組の競争相手の中から選ばれ、「次世代地震動ハザードマップ作成のためのハザード評価手法の高度化に関する研究」を2010年から2014年まで行いました。

 この研究交流を通じて、日中韓の3カ国は、各国における地震動ハザードマップ作成の経験と知識を共有することにより共通の課題を洗い出し、協力して研究を進めることにより各国のハザードマップの高度化を図ることができました。加えて、研究協力を通じて、効率的に地震災害の軽減対策を講じるための共通の情報基盤の構築も期待されます。こうした活動は、東アジア地域での標準的な地震動ハザードマップ作成に向けた第一歩となることが大いに期待されました。

 その時期-2011年に、日本の歴史・記録上になかったM9クラスの東北地方太平洋沖地震が、今まで記録された東北沖地震の震源域によりはるか広い域(500km × 200km)に発生しました。この大地震から、地震動ハザードを過小評価していたこと、認識論の不確定性のことなどを痛感しました。これらの経験を活かし、地震動ハザードを過小評価しないための地震動ハザード評価手法の高度化を進め、三年半をかけて日本全国にハザード評価の再検討、及び地震動ハザード評価の方法論についての研究を進めました。発生確率が低いM9クラスの大地震ももれなく考慮し、さらに1000年、1万年、10万年の長期間の地震動予測地図を計算し、2014年12月に、新たに日本「全国地震動予測地図」を発表しました。

4、日本-台湾-ニュージーランドとの共同研究

 日本側の地震動ハザード評価の研究は、中国・韓国だけに注目されるではなく、台湾の研究者も高い関心を寄せました。

 1999年の台湾集集大地震により、2,400名以上が亡くなったことから、地震動ハザードとリスクに関する研究の重要性は台湾の多くの研究者・専門家に再認識されました。そこで、台湾の研究者が日中韓の研究交流会に積極的に参加するようになり、それと同時に防災科研と台湾のTEM(Taiwan Earthquake Model=日本における地震調査研究推進本部の地震調査委員会に相当)の研究交流が始まり、2012年に台湾桃園、2013年仙台、2014年台北と3回にわたって研究発表会を開催しました。

 2013年に仙台で開催された「国際地震動ハザードとリスク研究の合同交流会」では、日中韓の研究交流会、台湾と日本の研究交流会に加え、ベトナム、イタリア、米国、フランスの科学者ら90人の大集会になりました(冒頭の写真1)。

 これらの活動が同じく島国のニュージーランドのGNSの研究者も高い関心寄せてきました。2011年のクライストチャーチM=6.1地震で約180人が亡くなり、広い地域に液状化が発生したことが記憶にありました。彼らが台北会議に積極的に参加し、さらに2015年本土において「ニュージーランド-日本-台湾の研究発表会」の開催を準備しています。

5、グローバル組織GEMに参画と地震動評価の共同研究

 J-SHISの目的と全く同じ国際的なNPO組織GEM(Global Earthquake Model Foundation)があります。2009年に誕生したGEMは、地震動ハザード・リスク評価手法の開発や、関連する情報基盤の構築を目指した活動を推進しています。現在15の国と地域、損害保険会社などの企業、国際協力機構、世界銀行、国際連合をはじめとする多数の国や機構等が参加しています。GEMは、防災科研の地震動ハザード研究の成果と地域への積極的な活動を評価しています。そして2012年9月にGEMからの要請をうけ、防災科研は運営委員会メンバーとしてGEMに参画しました。

 GEMでは、これに参加する科学者のコンセンサスに基づき、汎用性のある地震動ハザードとリスク評価ツールOpenQuakeを構築しています。そして、世界各地の国と地域において、これを具体化、高度化するためのRegional Program(国際的な地域連携)を展開しています。

 防災科研には、近隣諸国との連携を図りながら、より進んだ評価手法を研究し、アジア地域の特性を活かした評価モデルの提案が期待されています。また、日本において培われた地震動ハザード・リスク評価に関する研究成果は、国際的な組織であるGEMを通じて世界に向け発信されますが、防災科研においても英語サイト(http://www.j-shis.bosai.go.jp/en )を作り、世界に情報を発信していきます。


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