第103号
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わらの蒸気爆発によるバイオベースマテリアルのクリーン生産

2015年 5月13日  陳洪章、隋文傑、王寧

陳洪章:中国科学院過程工程研究所教授
生化学工学国家重点実験室 副室長、バイオマス工学研究センター センター長

略歴

国家「973」プロジェクト首席科学者を兼務。主な研究テーマはバイオリファイナリー工学。リグノセルロースの成分分離でブレークスルーを実現し、高付加価値リグノセルロースの技術移転の土台を築いた。リグノセルロースなどのバイオマス資源の技術移転に関する研究に長期にわたって従事し、現代のバイオテクノロジーと産業エコロジーの発展の成果を取り入れ、バイオマス資源の高付加価値化という科学問題と基盤工学の課題に取り組んでいる。

 材料は、人類のあらゆる生産と生活水準向上の物質的な土台となる。化石資源の枯渇の進行に伴い、化学工業材料の発展は重大な資源の危機に直面し、また石油化工材料の非生分解性は、人類が生存する環境を深刻に汚染している。資源と環境の二重の圧力を前にして、人類は、化石資源を代替する再生可能資源を見つけることを強く迫られている。バイオマス資源は、農産品や農業廃棄物、木材とその廃棄物、動物性廃棄物などの再生可能な有機物質を指す。バイオマス資源に基づくバイオベースマテリアルは、目下の研究の焦点となっている。

 バイオベースマテリアルは、バイオマス資源を由来とする。バイオマスとは、光合成の作用によって直接的・間接的に形成された各種の有機体を指し、あらゆる動物と植物、微生物を含む。バイオベースマテリアルは、材料の機能的特性と生態環境との協調性を重んじるもので、人類の持続可能な発展にもかかわり、新材料として注目を集めている。新材料産業は、中国の戦略的新興産業の一部である。豊富な農林バイオマス資源を活用し、環境に優しく循環利用の可能なバイオベースマテリアルを開発し、プラスチックや鋼材、セメントなどの材料をできるだけ代替することは、世界の新材料産業発展の重要な方向となっている。

 筆者の研究チームは、バイオベースマテリアルの分野で30年余りの研究と開発に携わり、バイオベースマテリアルの応用分野を建材・家具・内装・包装・紡織などへと拡大し、バイオベースマテリアルの普及・応用に大きく貢献してきた。

1、わらの蒸気爆発による集成材ボードの製造

 中国の人工板生産は年平均20%の速度で成長している。2010年末までに、生産量は1億5360万立方メートルに達した。このうち合板は7100万立方メートル、繊維板は4300万立方メートル、カンナ屑板は1300万立方メートル、ブロックボードとその他の人工板は2000万余り立方メートルだった。中国の人工板の年間生産量と消費量、輸出入量はいずれも長年にわたり世界最大を誇っている。

 人造板材は、すぐれた力学的特性と機械加工性能を誇り、幅広い用途を持っている。普通型人造板材は、展覧会用の臨時パネルや仕切り板などとして用いられる。家具型集成材は家具や装飾に使われ、家具やカップボード、装飾用部品、ブロックボード製品などに用いられる。荷重型集成材は小型の構造部品や荷重のかかる製品に使われ、室内の床板やバラック、室内の一般建築部品などに用いられる。森林資源が不足する中国では、人造板材は木材の最良の代替品であり、中国の板材産業には巨大な市場がある。

 長期にわたって、集成板工業は、木材または木質材料を主要な原料としてきた。これには、①原木と薪炭材(燃料用材)、②木材加工の余剰材(工場のカンナ屑や鋸屑、ヤスリ屑、木芯、板皮、原木や板材の端材やベニヤ屑、廃材など)、③山林伐採の余剰物(枝やこずえ、切り屑など)④栽培過程で出た幼樹や枝などの余剰物――などが含まれる。中国の森林資源は少なく、分布も均等ではないため、過度に利用して造林しなければ、森林資源は深刻に破壊されてしまう。豊富で安価なわらを利用して経済的で環境に優しく多機能な板材を生産することは、今後の発展傾向と考えられる。中国の集成材の生産には多くの問題が存在している。これには、①生産過程において環境保護が重視されておらず、粉塵や騒音、汚水などのコントロールが要求水準を満たしていない、②製品の質が安定しておらず、エネルギー消費が多い、③ホルムアルデヒドの放出量が高く、人体の健康に影響を及ぼす――などがある。

 筆者の研究グループはわらの蒸気爆発過程における理化学的性質の変化法則の研究を通じて、わらを用いたエコ板材の製造に適合した蒸気爆発の方法を開発した。筆者はさらに、わらの蒸気爆発の後処理方法、わらの蒸気爆発の圧縮成型に対する補助薬剤と使用量の違いの影響、圧縮成型の工法も研究した。この工法は、わらの蒸気爆発の過程で発生する接着作用の利用を可能とし、フェノールホルムアルデヒド樹脂や尿素樹脂などの利用を避け、環境汚染を減らすことができる。生産プロセスでは配合のプロセスを簡素化し、設備投資を抑制し、生産コストを60%引き下げることができ、ストローボードの低コストかつクリーンな生産が実現された。生産される無接着板材は、環境保護とユーザー側の要求を満たすものとなった。筆者は、わらという豊富な資源の大規模な産業化という要求をターゲットとして、蒸気爆発技術を材料の性能を高める主要な手段とし、わらの変性と熱硬化再構成の一体化研究を行い、独自の知的財産権を持つ技術を発明した。

2、リグニンを利用したフェノールホルムアルデヒド樹脂接着剤とリグニンベースのフェノールホルムアルデヒド樹脂保温板

 市場に流通している接着剤には現在、フェノールホルムアルデヒド樹脂接着剤とメラミン接着剤、尿素樹脂接着剤の3種がある。市場価格はこの順に高いが、フェノールホルムアルデヒド樹脂接着剤は、耐水性能や耐熱性能でほかの2種を大きく上回っており、代替できない接着剤となっている。フェノールホルムアルデヒド樹脂接着剤は主に、人造板やウッドベースパネル、建築用型枠、家具化粧板、屋外の園芸用板材などの分野で用いられている。水溶性の熱可塑性フェノールホルムアルデヒド樹脂が主に使われ、固形分は40%から60%に達する。フェノールホルムアルデヒド樹脂接着剤の全国年間消費量は10万トン余りに達する。

 建築業と建築技術の急速な発展や、高層建築や超高層建築の普及、さらに各種電器設備の幅広い応用に伴い、防音・耐熱・難燃の軽量建材の需要は急激に高まっている。耐熱性や難燃性のすぐれたフェノールホルムアルデヒド発泡剤はこれらの応用分野の第一候補となり、フェノールホルムアルデヒド発泡剤の生産技術の改良と開発は大きく促されている。フェノールホルムアルデヒド発泡剤には次のようなメリットがある。①フロン類ではなく、炭化水素化合物の低沸点発泡剤を用いることで、オゾン層を破壊することなく、環境保護に有利となる、②「保温材料の王」と呼ばれるように断熱性が高く、熱電動率はわずか0.020 W/(m•K)にとどまる、③フェノールホルムアルデヒド発泡剤の燃焼指数は難燃B1級に達する、④耐熱性が高く、炭素含有量が高い。

 フェノールホルムアルデヒド樹脂の伝統的な生産経路は、「石油→ベンゼン→フェノール→フェノールホルムアルデヒド樹脂」である。中国は石油資源が不足しており、対外依存度は50%以上に達している。そのため製品価格は高く、競争力を欠き、使用範囲が小さい。また石油は再生が不可能で、「調査→採掘→貯蔵・輸送→分解→精密加工」の全過程でエネルギーを消費し、大量のCO2の排出につながっている。さらに伝統的なフェノールホルムアルデヒド樹脂は指標をいかに制御しようとも、遊離フェノールと遊離ホルムアルデヒドを放出するため、人々の健康に危害を及ぼす。

 リグニンは、自然界で唯一再生可能な芳香族高分子化合物であり、安定的で持続的な有機物質資源と言える。ベンゼンやフェノールと類似した構造を持ち、フェノールホルムアルデヒド樹脂生産でのフェノール代替に力強い理論的根拠を与えるものとなる。現在の工業リグニンはパルプ製造業を主な源としており、産出されたリグニンは純度が低く、活性度も低く、フェノールホルムアルデヒド樹脂生産のためのフェノールを代替するのは難しい。筆者は、わらのバイオリファイナリーを実施し、蒸気爆発・水洗・塩基抽出の方法によって、パルピングで産出されたアルカリリグニンとは異なる蒸気爆発リグニンを産出した。リファイナリープロセスを通じて産出された蒸気爆発リグニンは純度が高く、活性度も高く、活性化を経ることなくフェノールを直接代替することができる。リグニンの代替率は50%に達する。生産されたフェノールホルムアルデヒド樹脂は、国家標準の要求を完全に満たし、ホルムアルデヒドとフェノールの放出量は国家標準をはるかに下回る。

3、バイオベースポリエーテルグリコール発泡材保温板

 ポリウレタンは、一元または多元の有機イソシアネートとポリヒドロキシ基を含むポリオール(ポリエーテルグリコールとポリエステルポリオールを含む)を主要な原料とし、重付加によって形成される。ポリウレタンは、ポリエチレンとポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレンに次ぐ第5のプラスチックとされ、優れた防水・非通気・保温・加工・力学的性能を持っている。硬質ポリウレタンは、非常に優れた断熱保温材料であり、軽量や低熱伝導率、高耐熱性、高耐久性、ほかの材料と接着しやすく、燃焼で液滴を出さないなどの特質を持ち、家電や建築、冷蔵などの産業に幅広く用いられる。

 欧米日などの先進国では、ポリウレタンの消費量の50%近くは建築分野で使われている。建築の省エネでは、ポリウレタンが75%、ポリスチレンが5%、グラスウールが20%使われている。中国の建築では現在、保温措置が取られているものはわずか5%しかない。そのうちポリウレタンの使用は10%で、80%はポリスチレンが占め、残りの10%はグラスウールなどの材料が使われている。国家の建築省エネの65%到達という基準が実現されれば、建築保温市場に占めるポリウレタンの割合を50%前後に拡大できるとし、今後古い家屋の改造や新築の建造物の省エネが進むことも考え合わせれば、ポリエーテルグリコールの需要は爆発的に増加すると考えられる。

 ポリエーテルグリコールは、ポリウレタン製品の主要な原料である。中国のポリエーテルグリコールの消費量は2010年、116万トンに達した。そのうち硬質発泡ポリエーテルグリコールは半分近くを占める。ポリウレタン硬質発泡材の建築の省エネ面での普及・応用と関連消費分野の発展に伴い、硬質発泡ポリエーテルグリコールは今後も高い成長率を維持するものと見られる。現在生産されているポリエーテルグリコールの多くは、石油の下流製品であるグリセリンをイニシエーターとエポキシドとして(一般的にはエチレンオキシドと酸化プロピレンが用いられる)、エチレンオキシドと酸化プロピレンの添加方式・添加量比・添加順序などの条件を変えることによって、各種の汎用的なポリエーテルグリコールが作られる。

 リグノセルロースは、セルロースとヘミセルロース、リグニンの3大成分からなる。セルロースとヘミセルロース、リグニンはいずれもポリヒドロキシ基構造を持ち、液化を通じて、バイオベースのポリエーテルグリコールを製造することができる。バイオベースポリオールは、高コストの原油と天然ガスを原料として生産された合成ポリオールを代替することができる。筆者は、わらのバイオリファイナリーの過程で産出された短繊維を液化し、液化剤・触媒・液化条件などの変数の研究を通じて、短繊維のポリエーテルグリコールを得た。さらにバイオベースのポリエーテルグリコールを使ってポリウレタン硬質発泡材を合成する方法を開発し、バイオベースのポリウレタン保温材料の製造に成功し、その指標は、国家標準を完全に満たすものとなった。

4、純リグニン木材プラスチック新材料

 熱可塑性を持つ木材プラスチック複合材料(WPC)は、木繊維または植物繊維を用いて補充・補強し、ホットプレスによる複合や溶解による押し出しなどの異なる加工方式で産出される変性熱可塑性材料である。木材・プラスチック材料は、材料の各成分の長所を発揮するもので、強度が低さや変異性の大きさ、有機材料の弾性モジュールの低さなどの木材の使用の限界を克服することができる。廃棄された木材やプラスチックを十分に利用すれば、環境汚染も減らすこともできる。木材プラスチック材料は、一定の力学的強度を持ち、防塩・防腐・防カビなどの性能はプラスチックと似ている。こうした特質によって、木材プラスチック材料は、建築や内装などで幅広く応用され、床板やフェンス材、住宅の内装材、家屋の屋根板、仕切り板、建築用テンプレートなどに使われている。

 木材プラスチック材料の生産過程では現在、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどが原料の50%を占めている。これらの原料はいずれも石油由来で、コストが高く、製品のコストも高くなり、木材プラスチック材料の応用は限られている。残りの50%の原料は木粉だが、中国の森林資源は乏しく、同様に資源としての限界があると同時に、原料粉砕のエネルギー消費が高いという弱点がある。

 筆者は、わらのバイオリファイナリーの研究過程で、蒸気爆発されたわらの酵素分解残渣の性能を研究し、蒸気爆発されたわらの酵素分解残渣の主要な成分はリグニンであり、蒸気爆発の高温・高圧の作用によってリグニンの活性が高められたことを突き止めた。リグニンは粘着作用を持っており、少量の補助剤を加えることで可塑化が可能であることから、粒を作ってから形を整え、純リグニンのホットプレス板材の製造に成功した。純リグニンホットプレス材料は、プラスチックの使用を抑え、製品の指標は国家標準を完全に満たすものとなった。

 石炭や石油などの再生不可能な資源がますます枯渇し、化石エネルギーの大量の使用による温室効果や環境汚染が進む中、バイオベース製品は、石油化工製品を一定程度代替していく見込みだ。バイオベース製品はすでに、世界の科学技術分野の前線となり、その発展こそが人類が実現しうる持続可能な発展のための唯一の道となっている。