第103号
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「APECブルー」の舞台裏

2015年 4月23日 金 振(中国総合研究交流センター フェロー)

 2014年11月3日から23日にかけて北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は、内外の大方の予想に反し、連日、青空に恵まれた。後に「APECブルー」と 呼ばれるようになったこの青空は、中国政府が発動した大気汚染対策緊急措置の賜物ともいえる。

 2015年1月16日、北京市環境保護局はAPEC会議期間中の大気汚染調査結果を発表した。それによると、会期中の北京市PM2.5の濃度は43μg/m3に下がり、対 策を講じなかった場合の69.5μg/m3より36.8%も改善され、北京市に限定した汚染物質の平均削減率は50%に達したという(図1)。

図1

図1 APEC会期中における汚染物質の削減率

出典:北京市環境保護局「 本市发布APEC会议空气质量保障措施效果评估结果」に基づき、C RCCの金が作成

 会期中、北京市が導入した主な緊急対策は自動車、道路、建築など5つの分野に跨る。特に自動車分野に関しては、土砂や危険化学物質の運送車両、環境基準未達成車両の北京市内での走行を一切禁止したり、あ るいは北京市登録車を対象に車両番号に基づき(奇数、偶数)自動車の走行を制限したりするなど、思い切った対策が導入された(表1)。北京市環境保護局は、分野ごとの削減貢献度について、第 一位は自動車利用の制限措置(39.5%)、第二位は土木工事の作業停止措置(19.9%)とされている(図2)。

表1

表1 会期中に北京市が導入した大気汚染対策

出典:北京市環境保護局「 本市发布APEC会议空气质量保障措施效果评估结果」に基づき、C RCCの金が作成

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図2 北京市緊急対策の大気質改善貢献率

出典:北京市環境保護局「 本市发布APEC会议空气质量保障措施效果评估结果」基づき、C RCCの金が作成

 今回の緊急措置の適用範囲には、北京市のみならず、天津市、河北省、内モンゴル自治区、山西省、山東省など6地域も含まれ、自動車走行制限などの対策が広域において講じられた(図3)。P M2.5の濃度改善における地域別貢献率にでは、北京市が74.7%、その他地域が25.3%だった。言い換えると「APECブルー」は、北京市を含む7地域におけるおよそ2.7億人の市民、3 000万台前後の自動車のドライバー、1万社以上の中・大規模企業経営者と従業員の協力なしでは、実現できなかったといっても過言ではない(図3)。

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図3 緊急対策措置が社会に与えた影響

 中国政府が「APECブルー」を実現するために発動した緊急措置に対し「人権侵害である」と指摘する法学者もいる。また、「天候までコントロールできるほど」、中 国政府の力は恐ろしいものであると嘆く声もある。いずれにせよ、多くの人は、今回の結果を通じ、大気汚染対策に対する中国政府の積極的な姿勢を見出すことができたともいえよう。

 中国政府の大気汚染対策へ本気度について疑問を抱く専門家も少なくない。しかし、筆者は、問題はいろいろあるものの、中国政府の大気汚染対策への取り組みは十分評価すべきだと主張したい。

 2013年の深刻な大気汚染を契機に、中国では国民レベルの環境意識の革命が起きている。この意識変化は、中国政府が2013年から導入したさまざまな大気汚染対策からも読み取ることができる。現 代中国は、環境政策を軸に、産業、エネルギーなどの社会経済分野において大きな変革が起きている。これらの内容については、筆者連載の「中国の大気汚染防止の法制度および関連政策」を参照されたい。