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中国における分子篩材料の研究の進展

2015年 5月13日  王体壮(中国科学院過程工程研究所)

概要:中国における近年の分子篩分野の研究の状況と発展傾向を紹介する。研究者や研究成果、知財権保護、研究分野の進展などを説明した上で課題を紹介し、本分野の将来について幾つか提案したい。

 分子篩(ぶんしふるい)は、規則的な孔構造を備えた結晶材料である。比表面積の大きさや細孔の一定性と変更可能性、化学組成の調整可能性、吸着力の高さ、イオン交換性能の大容量、pH値の調整可能性、優れた熱安定性や水熱安定性、高い耐摩耗性や機械強度などの特長から、触媒・分離・イオン交換・吸着などの機能分野は幅広く応用されている。

 触媒分野では、石油精製や石油製品製造、石油化工に応用される以外にも、炭化水素化合物の転化での優れた活性・選択性・安定性でも知られる。例えばメタノールでのオレフィン生成プロセスで触媒として用いられるSAPO-34分子篩は、ほぼ100%近い転化率を誇り、エチレンとプロピレンの選択率は85%以上に達する。優れた性能を持ち幅広く応用できる分子篩材料を、各国は人材や物資を大量に投じて専門的で効率的な研究を進めており、中国も例外ではない。

 GDPの増加や製品の同類化・同質化傾向、環境問題の深刻化、「科学教育による国家振興」「人材強国」「知的財産権国家戦略」といった理念の深化などにより、中国では分子篩材料研究に対する研究費の投入が拡大している。人材と資金の投入により品質が向上しており、生産性は年々高まっている。国家・地方政府・大企業・中小企業・個人が研究開発を一層重視していることは言うまでもなく、分子篩応用技術の研究開発により製品改良の取り組みがなされ、クリーン・低炭素・経済性・環境保護・短工程・原子効率の良さなどの特長のある分子篩の製品プランや技術プランに企業は非常に注目している。

 分子篩材料の研究は、従来のデータ羅列や現象分析、フォローアップ、模倣から、法則の探求や製造工法・製品性能の改善、応用の最適化・普及へと発展しつつある。分子篩製品の小型実験による工法・性能開発、工業化パイロット試験での工法・設備拡大法則の検証、また安定した秩序ある工業生産の全過程における最適化までが一体化された研究開発プラットフォームも一部では形成されつつある。

 分子篩材料の研究開発者数はますます増え、人員は多様化と専門化の傾向を見せている。その中で国立研究機関の大型研究院(所)や大学の研究者が挙げられる。こうした人員は、論文だけでなく、知的財産権や総合技術サービスなどの成果を上げている。一方、大中型企業の付属研究院(所)の工学技術中堅者の多くは分子篩のプラットフォーム化合物やプラットフォーム技術の開発を主な分野とし、実用的な知的財産権や総合的な工法・設備、技術プラン、合格レベルに達した製品などを生み出している。さらに少数ではあるが、小型専門企業の従業員は特定の応用に特化し、具体的で特色ある製品やサービスを開発し、一部の成果は知的財産権の申請も行われている。

 分子篩材料の研究成果では、論文数の年々の増加が顕著である(図1)。論文数は2000年に241本だったが、14年で2030本に増えた。質も高まり、産業への影響力も高まっており、100回以上引用された学術成果もある。

図1

図1:論文年間発表数の移り変わり

①論文検索サイト(http://apps.webofknowledge.com):検索ワードは主題に「zeolit* or molecular sieve*」、 アドレスに「China」
②特許検索サイト(http://epub.cnki.net):検索ワードは概要に「分子篩」または「沸石」

 研究の重点は、新型分子篩材料の合成とキャラクタリゼーションが主流だったのが、合成・キャラクタリゼーション・性能最適化・応用法則を一体とした研究へと移りつつある。論文の質の向上は、従事者の能力の向上の反映である。知財権成果のうち中国特許の獲得数は、2000年の250件から2014年の2760件に増えている。数量の変化だけでなく、知財権の独自性や権利の安定性も増し、権利要求書や説明書、実施例、知財権の創造・運用・保護・管理などからも変化がうかがえる。

 一定規模以上の研究機関は近年、知財権専門研修を毎年開くなど、知財権の質をより重視し始めている。代行会社との協力も増え、自らの知財権に応じた設計を特許エンジニアに依頼する研究員も増えている。大型で専門性の高い研究機関や団体には、特定技術や特定製品に向けた特許プールやデータベースも出現しており、分子篩分野でも新構造や新組成の物質の保護のほか、性能改善や製造工法、生産設備、キャラクタリゼーション法、経路改善、用途改善などのすべてがカバーされるようになっている。

 知財権を通じたイノベーションの実現という国家の提唱に呼応し、研究者の技術開発に対しては、時間的な広がりと分野の広がりを備えた全面的で立体的な保護が行われるようになっている。中国科学院科学技術政策管理科学研究所などの大型研究機関は、プロジェクトの知財権プロセス管理モデルで顕著な研究成果を上げ、知財権の創造・保護・評価・運営・管理の各モデルについて様々な面から研究がなされている。

 専門技術から見ると、中国がここ数年で得た進展には、多種類の新構造の微孔分子篩の合成や、分子篩の二次階層構造の設計、メソポーラス分子篩の合成と機能化の調整、金属有機構造体材料の合成と機能化などが挙げられる。

 吉林大学の徐如人教授(中国科学院院士)のチームは、新構造のリン酸アルミニウムや結晶性リン酸アルミニウム、ゲルマン酸塩微孔結晶体材料を作り出した。武漢理工大学の蘇宝連教授は、半固体結晶転換法によって「マクロ孔-メソ孔-マイクロ孔」の多級細孔の性質を備えたTS-1分子篩を作り、大分子有機物の触媒・酸化プロセスでの優れた触媒性能を記録した。

 分子篩の触媒性能と触媒メカニズムのキャラクタリゼーションでは、中国科学院大連化学物理研究所の李燦研究員(中国科学院院士)チームが、自主開発の紫外線ラマン分光技術を利用し、ヘテロ原子分子篩の触媒活性のキャラクタリゼーションと触媒メカニズムの研究で先駆的な成果を上げた。中国科学院大連化学物理研究所の劉中民副所長のチームは30年余りの努力の末に、SAPO-34分子篩の触媒の合成・変性・成型・性能最適化の技術移転に成功し、触媒作用のメカニズムや触媒の失活・再生メカニズムの分析の上で、メタノールでのオレフィン生成(MTO)の全体技術の工業化を実現した。メタノール転化率は99.97%、オレフィン収率は85.68%に達した。すでに生産設備10基余りで工業化が実現され、生産力は年産1126万トンに達している。

 清華大学の魏飛教授のチームは、ダウナー流動層技術と階層多孔ZSM-5分子篩触媒を利用してMTOプロセスを改良し、ブテンとエチレンの改質プロセスを付け加え、メタノールによるプロピレン生成における生成率を大きく高めた。またコンピューターシミュレーションも分子篩材料の研究に重要な役割を果たし、分子篩研究の各分野をほぼカバーしている。中国科学院山西石炭化学研究所の王建国所長のチームはこの分野で多くの目覚ましい成果を上げている。

 メソポーラス材料も多種類が合成され、構造集積や機能化応用の研究が行われている。復旦大学の趙東元教授のチームは、膜表面に対して細孔方向が垂直なメソポーラス分子篩膜や多種類のマイクロ構造・メソ構造の階層型多孔分子篩を生成し、触媒・光学・電子工学・生物分子吸着の応用でナノ部品や色素増感ナノ結晶太陽電池の製造への応用を実現した。中国科学院上海ケイ酸塩研究所の施剣林研究員のチームは、メソポーラス酸化ケイ素ナノ顆粒の薬物放出制御と治療で優れた研究成果を上げた。

 特殊な構造と機能を持つ金属有機構造体材料(MOF)は、分離・触媒・光電磁などで大きな応用の可能性を秘めている。南京大学の游效曾教授(中国科学院院士)のチームは、新構造機能性MOF材料の一連の合成に成功した。中山大学の陳小明教授(中国科学院院士)は、位相構造計算によって各種の有機配位子の可能性を探究し、ネットワーク構造を構築し、細孔と形状の系統的なコントロールを実現した。中国科学院福建物質結構研究所の洪茂椿所長のチームは、特殊な電気特性を持つ一連のMOF材料を合成した。

 分子篩に関する研究は中国ではまだ始まったばかりだが、その研究方向は、国際研究の全分野をほぼカバーし、独自の研究成果のある分野もある。だが学際的な分野や理論的根拠、研究技術応用などでは更なる強化が求められている。

 新型の位相構造合成ではテンプレート剤がコア要素となり、新構造の設計では機能化有機配位子がカギとなる。海外の多くの進んだ研究チームは、新型テンプレート剤の合成を研究分野の一つとしている。だが中国ではこの分野での取り組みは比較的少なく、多くの場合は商用有機物が使われている。

 MOF生成では、有機配位子とモノマーの一部は合成できるが、無機金属配位子の構造組み立てでのターゲットを絞った設計と合成の実現にはまだ困難がある。分子篩の位相構造設計では、大量の新構造が仮定・推測されているものの、結晶化や結晶体生長、関連メカニズムで認識が足りず、新構造合成はまだ実現できていない。合成された分子篩の種類は200以上あるが、工業への実際の応用は限られ、有機物の触媒転化や分離、吸着、イオン交換などに使われているものは10種余りにすぎない。このため機能化を目指した基礎研究と応用研究の連携強化が肝要となる。

 また国内の大型国立研究機関と大学の分子篩研究の成果は、基本法則を探求する論文が中心で、産業向けの重要な応用技術や国家の工業化に必要な応用技術の研究を強化する必要があり、企業との協力の強化も求められている。研究成果の投入・産出の効率も低く、独自の科学成果と技術の集成はまだ一般化していない。

 今後は、分子篩の新材料の構造と機能の特異性の研究が環境問題やエネルギー問題の解決に貢献することが求められている。


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