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C型肝炎ワクチン開発の免疫学的な挑戦とチャンス(その2)

2015年 6月 9日

高 見:北京大学 基礎医学院病原生物学科

許 強:北京大学 基礎医学院病原生物学科

範雪営:北京大学 基礎医学院病原生物学科

沈 弢:北京大学 基礎医学院病原生物学科、感染病研究センター

黄暁峰:『細胞与分子免疫学雑誌』編集部 主任、教授

その1よりつづき)

3 HCVワクチン開発の進展

 HCVの高い変異性と宿主の免疫反応能力の弱さという問題を解決するため、HCVワクチンの開発の計画には改良が重ねられ、各種のHCVワクチンはそれぞれある程度のブレークスルーを実現している。またワクチンの免疫原性を増強するため、アジュバントもHCVワクチンの開発に応用され始めている。

3.1 組み換えタンパク質ワクチン

 HCVワクチン設計の伝統的な方法は、HCVの組み換え膜タンパク質とコアタンパク質をワクチンの標的抗原とし、個体を誘導して交差反応性を持つ中和抗体とT細胞の応答を産出するというものである。

3.1.1 膜タンパク質ワクチン

 HBVワクチンは、精製または組み換えの加えられたHBV表面抗原を通じて個体の中和抗体の産出を誘導できる。これにインスピレーションを受けた研究者は、組み換えHCV膜タンパク質El/E2タンパク質異種二量体を用いて第一世代HCVワクチンを生産した。7匹のチンパンジーの体内にこれを注射すると、そのうち5匹は同じHCV株の攻撃に有効に抵抗することができた。だが作用を発揮させるためには、免疫を強化して抗体価を最高に到達させる必要があった。もう一種のEl/E2タンパク質異種二量体を免疫原としたワクチンは、第1相臨床試験の結果によると、受験者の体内に比較的強い抗体反応が現れた[20]

3.1.2 コアタンパク質ワクチン

 HCVのコアタンパク質であるNS3とNS5は、T細胞の主要な作用標的であり、HCVワクチンの設計にしばしば応用される。諾華公司は、酵母菌の産生するHCVコアタンパク質を標的抗原とし、免疫刺激複合体マトリックス(immunostimulating complex matrix,IMX)をアジュバントとしたHCVワクチンを開発し、30人の健常者に対して第Ⅰ相臨床試験を行った。結果は、そのうち29人の受験者がコアタンパク質抗体を産出したが、体内に特異性CD8+T細胞応答が誘導された受験者は2人にとどまった[21]。一方、HCVNS3-コア融合タンパクを発現する加熱殺菌した出芽酵母全細胞を免疫原とし、アジュバントIMXを加えて設計したワクチン候補「GI-5005a」は、チンパンジー5匹の体内に注射したところ、肝臓と末梢血中でT細胞の応答を誘導できることがわかったが、再感染したHCVを除去することはできなかった[22]

3.2 合成ペプチドワクチン

 合成ペプチドワクチンにおいては、T細胞エピトープによって組成されたペプチド断片を体内に注射し、抗原提示細胞を通じてT細胞に提示し、T細胞の応答を誘導する。もしもペプチド配列がCD8とCD4のエピトープを含んでいれば、比較的強い特異性細胞障害性Tリンパ細胞(cytotoxic T lymphocyte,CTL)反応を誘導する。だが合成ペプチドワクチンは、ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen,HLA)の特異性を持ち、T細胞の一部の表現型しかターゲットにせず、免疫原性も弱い。HCVの治療にすでに応用されているものの、その誘導する免疫応答の強さは理想的な効果に達しているとは言えない。IC41は、T細胞エピトープを含むHCV合成ペプチドの5断片からなり、ポリ-L-アルギニンをアジュバントとして用いている。研究によると、このワクチンを慢性HCV感染患者の体内に接種すると、T細胞応答の強度は変化しないものの、ウイルス負荷は大きく減少した[23]

3.3 DNAタンパク質ワクチン

 核酸ワクチンは、弱毒生ワクチン・不活化ワクチン、サブユニットワクチン、組み換えベクター生ワクチンに続くワクチン革命と言われる。一般の核酸ワクチンはDNAワクチンである。DNAワクチンの発現配列は高い免疫原性を持ち、一般的には電気穿孔法で抗原コード遺伝子を含む真核発現プラスミドを個体に導入した後、体細胞の摂取・転写・翻訳を経て、天然立体配座に近い抗原を発現できる[24]。現在、HCV NS3/4aとコア-E1/E2をコーディングするプラスミドをHCVの治療性ワクチンとすることで一定の治療効果が上げられているが、予防性ワクチンとしての研究結果はまだ出ていない。このほかDNAワクチンの安全性も注目に値する問題となっている。例えば外来DNAを個体の細胞に導入し、宿主細胞の遺伝子に組み込むと、がん原遺伝子の活性化またはがん抑制遺伝子の抑制によって腫瘍の形成を引き起こす。

3.4 ウイルスベクターワクチン

 T細胞は、HCV感染の抵抗にカギとなる作用を果たす。そのためアデノウイルス(adenovirus,Ad)や牛痘ウイルス、改変ワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara,MVA)、鳥ポックスウイルスなどのウイルスベクターを通じて産出されたHCVの各種構造タンパクと非構造タンパクを抗原としてT細胞の応答を誘導することができる。そのうちアデノウイルスベクターは、CD8+T細胞応答と、Th1型細胞反応を主としたCD4+T細胞応答を誘導することができ、HCVワクチン開発で最も将来性の高いベクターとみなされている[25]。HCV非構造タンパク質(non-structural protein, NS)区と、血清型の異なるAdベクターを含むワクチンをアカゲザルの体内に入れると、高効率で広範なHCV特異性T細胞応答を誘導することができる。T細胞応答の誘導を目標とした候補ワクチンは、チンパンジーアデノウイルス3(chimpanzeeadenovirus 3,ChAd3)とヒトアデノウイルスAd6という血清型の異なる2種類のアデノウイルスをベクターとし、HCVの非構造タンパク質NS3-NS5B区をアデノウイルスベクターに挿入したものである。この2種類のベクターは体内の血清陽性率が比較的低く、T細胞を誘導してIL-1とIFN-γ、腫瘤壊死因子α(tumor necrosis factor α,TNF-α)を産出し、その作用は少なくとも1年持続する[26]。そのほかMVAも、安全性と免疫原性が高いため、高効率で広範囲のT細胞反応を誘導することができ、魅力的なウイルスベクターとみなされている[27]。ウイルスベクターMVAとAd3Ch3の融合ベクターAd3Ch3-MVAはHCVワクチンの設計に用いられている。このワクチンは、約300人の薬物静脈注射者の参加した臨床試験で安全性と有効性が確かめられ、まもなく第Ⅱ相臨床試験に入ることになっている[28]

3.5 HCVウイルス様粒子ワクチン

 HCVの構造タンパク質を発現するウイルス様粒子(virus-like particles,VLP)を通じて、個体の抗体とT細胞応答の産出を誘導することは、HCVワクチン開発のもう一つの策略となっている。VLPは交差反応性を持つことから、MHC-Ⅰ型とMHC-Ⅱ型の免疫反応を誘導でき、HCVの高度の遺伝多様性によってもたらされる問題を解決できる。さらにVLPの粒子の性質は、樹状細胞の成熟を刺激し、抗原の加工と提示を促進し、免疫反応を増強することもできる。現在、VLPのほかのウイルスに基づくワクチンはすでに開発が成功しているが[29]、VLPのHCVに基づくワクチンはまだ臨床試験段階に入っていない。

3.6 アジュバント

 アジュバントは、非特異的に抗原と結合または混合でき、抗原の免疫原性を増強し、自身は免疫原性のない物質である。組み換えHCVタンパク質ワクチンとペプチドワクチンの免疫原性が低いことから、人々はワクチンにアジュバントを加え、ワクチンの免疫原性を増強するのに使っている。ワクチン開発の大きな進歩と言える。アジュバントは、抗原との非特異的な結合また混合を通じて、比較的強い体液性免疫反応とCD8+T細胞応答を誘導することができる[30]。新型の生物学的アジュバントは、Toll様受容体7(Toll-like receptor 7,TLR7)やTLR8など特定の免疫反応経路を標的とし、有効な免疫反応を誘導する[31]。人々はさらに、特異性免疫細胞のサイトカインアジュバントを活性化することを発見した。これらのサイトカインは、動物の体内において比較的強い特異的免疫応答を誘導することができた[32]

4 まとめと展望

 治療方法の絶え間ない改良はHCVのもたらす社会・経済的負担を軽減しているものの、有効なワクチンの開発に成功しなければ、HCV感染のもたらす問題を根本から解決することはできない。HCVワクチンの設計のカギは、効率的・広範囲・持続的な免疫反応の産出を個体に誘導し、ウイルスを除去することにある。だが第3相臨床試験の段階に入ったHCVワクチンはまだ一つもない。理想的なワクチンをできるだけ早く開発するため、我々はまず、HCVの早期感染段階におけるウイルスと宿主の分子・細胞・免疫レベルの相互作用を明らかにする必要がある。次に、ワクチン開発に適した細胞培養モデルと動物モデルが必要となる。最後に、多価ワクチンや最適化ベクターなどの技術によってワクチンの有効性を高める。HCVワクチンの開発戦略の改良によって、この世界的な難題が最終的に解決されることを信じている。

(おわり)


[20]Frey SE, Houghton M, Coates S,et al. Safety and immunogenicity of HCV E1E2 vaccine adjuvanted with MF59 administered to healthy adults[J]. Vaccine, 2010, 28(38): 6367-6373.

[21]Drane D, Maraskovsky E,Gibson R, et al. Priming of CD4+ and CD8+ T cell responses using a HCV core ISCOMATRIX vaccine: a phase I study in healthy volunteers[J]. Hum Vaccin, 2009, 5(3): 151-157.

[22]Habersetzer F, Baumert TF, Stoll-Keller F. GI-5005, a yeast vector vaccine expressing an NS3-core fusion protein for chronic HCV infection[J]. Curr Opin Mol Ther, 2009, 11(4): 456-462.

[23]Klade CS1, Schuller E, Boehm T, et al. Sustained viral load reduction in treatment-naive HCV genotype 1 infected patients after therapeutic peptide vaccination[J].Vaccine, 2012, 30(19):2943-2950.

[24]Chiarella P, Fazio VM, Signori E. Application of electroporation in DNA vaccination protocols[J]. Curr Gene Ther, 2010, 10(4): 281-286.

[25]Rollier CS, Reyes-Sandoval A, Cottingham MG,et al. Viral vectors as vaccine platforms: deployment in sight[J]. Curr Opin Immunol, 2011, 23(3): 377-382.

[26]Barnes E, Folgori A, Capone S,et al. Novel adenovirus-based vaccines induce broad and sustained T cell responses to HCV in man [J/OL]. Sci Transl Med, 2012, 4(115): 115ra111.

[27]Barouch DH, Liu J, Li H, et al. Vaccine protection against acquisition of neutralization-resistant SIV challenges in rhesus monkeys[J]. Nature, 2012, 482(7383): 89-93.

[28]Wigal SB, Childress AC, Belden HW, et al. NWP06, an extended-release oral suspension of methylphenidate, improved attention-deficit/hyperactivity disorder symptoms compared with placebo in a laboratory classroom study[J]. J Child Adolesc Psychopharmacol, 2013, 23(1): 3-10.

[29]Bellier B, Klatzmann D. Virus-like particle-based vaccines against hepatitis C virus infection[J]. Expert Rev Vaccines, 2013, 12(2):143-154.

[30]Filì L, Cardilicchia E, Maggi E,et al.Perspectives in vaccine adjuvants for allergen-specific immunotherapy[J]. Immunol Lett, 2014, 161(2): 207-210.

[31]Vasilakos JP, Tomai MA. The use of Toll-like receptor 7/8 agonists as vaccine adjuvants [J]. Expert Rev Vaccines, 2013,12(7):809-819.

[32]鄧蘇宏, 劉君傑, 胡四海. 「サイトカインアジュバントの核酸ワクチンの免疫効果に対する影響と作用メカニズム」[J].『細胞・分子免疫学雑誌』, 2013, 29(9):1004-1007


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