第106号
トップ  > 科学技術トピック>  第106号 >  中国国際移民の最新動向

中国国際移民の最新動向

2015年 7月 1日(中国総合研究交流センター編集部)

image

 今年3月、中国国家民政部(民政省)傘下のシンクタンク、「中国与全球化智庫(Center For China and Globalization、CCG)」は、『中国国際移民報告(2015)』を発表し、地球規模の移民動向を俯瞰しつつ、中国国民の国際移民状況や外国人の中国への移民動向などについてまとめた。報告書は、移民先国家として中国が世界の注目を集めている点についても触れ、海外人材の受け入れ体制の強化を訴えた。また、報告書は、中国の中華系移民(華僑)が「一帯一路」(シルクロード経済ベルト、21世紀海上シルクロード)戦略において、今後、大きな役割を果たすと結論付けた。

解説:金振(中国総合研究交流センター フェロー)

1. 国際移民は集中する傾向があり、アジア人は国際移民最大のグループで、経済危機が国際移民の流動を刺激

(1)国際移民は相対的に集中する傾向を呈する

 CCGが編纂、社会科学院社会科学文献出版社出版の青書「中国国際移民報告書(2015)」が国連国際移民関連統計データを引用して示すところによると、2013年、世界の2億3,200万人が海外に移民し、この数字は1990年、2000年、2010年ではそれぞれ1億5,500万人、1億7,800万人、2億1,400万人と増加している。2億3,200万人の移民人口のうち、先進国への移民総数は1億3,600万人で、全体の58.6%を占めた。一方、発展途上国への移民総数は9,600万人で41.1%となった。また、2億3,200万人の移民人口の74%が20歳から64歳の生産年齢にあり、このうち1億1,900万人の移民(全体の約51.3%)が次の10カ国に住んでいる。それぞれアメリカ(4,578万5千人)、ロシア(1104万8千人)、ドイツ(984万5千人)、サウジアラビア(906万人)、アラブ首長国連邦(782万7千人)、イギリス(782万4千人)、フランス(743万9千人)、カナダ(728万4千人)、オーストラリア(646万9千人)、スペイン(646万7千人)である。

(2)アジア人が国際移民最大のグループに

 アジア人は国際移民最大のグループで、計3,800万人のアジア人が移民しており、このうち、1,900万人がヨーロッパへ、1,600万人が北アメリカへ、300万人がオセアニアへ移民している。中南米やカリブ海地域で生まれた海外移民が国際移民の2番目に大きなグループを構成し、その多くが北アメリカで暮らし、約2,600万人いる。

(3)ヨーロッパとアジアは主要な国際移民目的地

 ヨーロッパとアジアの移民人口は世界の移民人口の3分の2を占める。ヨーロッパは世界で最も移民の多い地域で、7,200万人の移民が暮らし、アジアには7,100万人の移民が暮らす。

 2000年~2013年の13年間に、アジアの移民人口は2000万人に増加した。その主な理由としてはアジア西部の石油生産国と東南アジア新興エコノミー(マレーシア、シンガポール、タイなど)の外国人労働者への需要拡大が挙げられる。

(4)経済危機が国際移民流動を刺激

 2008年に発生した経済危機の移民流動に対する影響は非常に大きく、2010年以降、移民人口は年平均600万人増加し、2000年~2010年の年平均より240万人増加した。これは経済危機下における移民の国際間流動速度をある程度反映しているといえる。

 ヨーロッパ諸国をみると、経済的打撃を受けた国、例えばギリシャ、アイルランド、スペインなどは大規模な人口が移民となり、2010年~2012年の間にそれぞれ6万372人、9万4,586人、22万2,938人が国を離れた。一方、経済状況が良好なドイツやイギリスといった国々は外来移民を引きつけ、それぞれ74万1,450人、64万3,808人の移民が移り住んだ。

2. 中国の出国者が世界最大の観光客送り出し国に

 「中国国際移民報告書(2015)」によると、金融危機以降、中国の出国観光客数は毎年二桁以上の増加率を維持しており、その逆に、入国観光客数は横ばい、あるいは減少傾向が見られる。2013年、中国のアウトバウンド観光客数はのべ1億人に近づき、世界最大の観光客送り出し国となった。また、中国の国外観光消費額は1020億ドルに達し、アメリカとドイツを超えて世界一に躍り出た。一方、同年のインバウンド観光客数はのべ1億2,900万人で、観光外貨収入は480億ドルとなり、観光サービス貿易赤字は540億ドルに達した。専門家の予測によると、2014年の中国アウトバウンド観光客数は1億1,500万人に達する見込みで、前年同期比17.5%増となる。また、国外観光消費額は1,550億ドルとさらに拡大し、前年同期比20.8%増、観光サービス貿易赤字も1000億ドル超に拡大する見込みで、中国は世界最大の観光サービス貿易赤字国となることが予測される。

 中国人アウトバウンド観光客の増加に伴い、北アメリカやヨーロッパといった地域はいずれもビザ緩和策を講じ、中国人観光客の誘致に励んでいる。アメリカの公式データによると、2013年、計180万人の中国国民がアメリカに渡り、その多くが観光か留学目的で、アメリカ経済に211億ドルの貢献をもたらした。同時に、10万9千人の雇用を創出し、2021年までにこの数値は毎年850億ドルにまで膨れ上がるとしている。そのため、2014年11月のAPEC期間中、米中双方は互いの国民に対し有効期限が最長で10年のビジネス、観光ビザを発給することで合意し、これにより訪米中国人観光客はさらに増加を続けると見込まれる。

 2013年、カナダは27万件を超える訪問ビザを中国人観光客に発給した。2014年2月にカナダは普通ビザを十年有効の数次ビザに変更したことで、今後カナダを訪れる中国人観光客の数も持続的に増加する見込みだ。

 欧州委員会関係者によると、2013年のシェンゲン圏訪問のビザ申請は1,720万件に上り、2009年の1020万件から約68%増加した。このうち、中国からの申請数は約150万件で、シェンゲン圏第三の観光客送り出し国となった。2014年9月時点で、イギリス政府発給の観光類ビザ数は190万件に増加し、昨年同期比1%増となった。観光ビザの最大増加国は中国(3万6,342件増、昨年同期比13%増)であった。2013年、フランス・パリの外国人観光客数は過去最高の2930万人となり、このうち、アジア人は全体の19.5%を占めた。中でもイル=ド=フランス地域圏が受け入れた中国人観光客の増加は最も多い。2013年の同地域の中国人観光客数は2012年比で50%増となり、のべ90万人に達した。

3. アメリカへの中国移民人口、2年連続の減少

 アメリカの永住権を取得する中国大陸籍の人の数はここ2年間で減少している。2011年にアメリカの永住権を取得した人の数は8万7,016人であったが、2012年は8万1,784人に減少し、2013年は2012年よりさらに9,986人減少して7万1,798人となった。その減少幅は12.2%である。中国大陸出身者のアメリカ永住権取得者数は全体の7.2%を占めていたが、減少傾向が見られる。2013年、中国大陸の職業技能を通じた永住権取得者数は2万245人で、全体の28.2%であった。前年比で2041人増え、その割合も4.9%増加した(2012年は23.3%)。

4. 中国がますます魅力ある移民先国に

 青書は、中国への移民は新たな焦点となっており、ますます魅力ある移民先国になっていると指摘する。国連の統計によると、2013年、中国国内に在住する外国人は84万8,500人で、この先十数年の年平均増加率は3.9%で、1990年~2000年の3.0%よりもやや増加している。そのため青書は、中国の移民先としての魅力はますます大きくなっていると指摘している。

 HSBCホールディングスが2014年10月に発表した「Expat Explorer Report 2014」によると、「外国人にとって最も魅力的な国・地域」のランキングにおいて、中国はスイスとシンガポールにつぐ3位にランクインし、アメリカや日本、フランス、イギリスなどの先進国を上回る結果となった。迅速な経済成長と比較的安価な生活コストが、中国がますます魅力ある移民先国となっている理由と考えられる。外国人を対象とする調査において、中国での経済状況指数(収入、財産、可処分所得など)は1位となっており、現地の経済満足度に対する調査においても、中国はトップ5にランクインしている。また、収入からみると、アジアは最も外国人に歓迎される地域であり、年収が25万ドルを超える外国人の割合はヨーロッパの3倍(アジアは14%、ヨーロッパは5%)となっている。中でも、中国はアジア地域で最も外国人に好まれる国で、年収が25万ドルを上回る中国在住の外国人の割合は世界平均の4倍(中国は29%、世界平均は7%)となっている。

5. 外国人材を引きつける政策面での成果が顕著

 青書は、中国の経済環境の弛まぬ改善と人材強国戦略の実施に伴い、各種の海外ハイレベル人材を引きつける計画、政策が続々と登場し、ハイレベル人材のリターン或いは訪問が顕著に増加していると指摘している。2013年末時点で、中国の留学帰国者の数は144万4,800人で、このうち2013年の留学帰国者は35万3,500人となり、前年比で29.53%増加した。2013年の外国専門家「千人計画」で、ハイレベル人材は4183人となり、前年比861人増となった。2013年、公安部(公安省)は1402人の「グリーンカード」を許可し、この数も2012年比で1202人増の16.6%増となった。これにより2004年のグリーンカード制度導入から2013年までに、取得者数は合計7356人に達した。

 CCGが国家外国専門家局の統計データを引用して指摘したところによると、2011年から中国政府が実施する外国人専門家「千人計画」開始以来、242人の外国人専門家が関連の政策と待遇によって中国に招かれ、主に北京、上海、江蘇、湖北、浙江といった先進地域で工学材料、生命科学、環境、情報といった分野で勤務している。これらの外国人専門家は出入国や在留、医療、保健、住宅、税収、給与といった面で保証を得ている。

6.「一帯一路」戦略を下支えする華僑

 統計によると、現在東南アジア地域に在住する華僑華人の数は、全体で約6000万人いる華僑華人の4分の1を占める。とりわけタイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア在住者が多く、これらの国々はまさに中国の「21世紀海上シルクロード」建設の主力となる。また、改革解放後に移民した934万人のうち、その多くが北アメリカやヨーロッパに渡っており、近年は中国企業の国際化と海外進出に伴い中央アジアやアフリカに移民する中国人の数も増加し、彼らは中国―ヨーロッパ、中国―アフリカをつなぐ橋渡し役となり、今後「一帯一路」戦略において重要な役割を発揮することになる。

 青書は、中国の新華僑華人の職業は多元化し、経済、科学技術の実力にも大きな向上が見られ、さらには現地の社会に溶け込み、政治・社会的地位も向上している。これらの人材がもつ素養や特徴は、中国のハードパワーからソフトパワーへの転換に独特の役割を果たしているといえる。

 投資、経営、創業、イノベーションといった経済活動において、彼らは国の「ハードパワー」であり、中国文化の伝承と発揚においては国の「ソフトパワー」でもある。彼らは新興産業の発展や外資誘致を促し、中国企業の海外進出を支えて国際化を実現し、中外の科学技術交流、文化交流を推し進め、中国の物語を語り、中国の声を伝え、広報文化外交(パブリック・ディプロマシー)を展開するなど重要な役割を発揮している。


出典:王輝耀主編『中国国際移民報告(2015)』社会科学文献出版社,2015年