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中独イノベーション協力が変える東アジアの分業構造

2015年 7月22日韓友徳(「中央日報」中国研究所所長)

 対中国経済依存度が高まっている韓国にとって、中国は重要な貿易パートナーであると同時に、アジアにおける最大の競争相手でもある。かつては日本を意識していた韓国の国家戦略も、近年は中国重視へとシフトしつつあり、中国研究の国内体制もかなり充実してきた。2010年、韓国政府は、日本の中国研究の実力に関する調査を実施し、自国の研究体制の強化を訴えた。ちなみに残念ながら、日本みずから実施した中国研究レベルに関する調査研究は、ほとんど確認できていない。

 韓国国内の政府研究機関、シンクタンクから、毎日のように中国最新動向に関する研究成果が発信されており、質・量ともに目を張るものがある。韓国における中国戦略研究は中韓という二国間関係にとどまらず、必ずいってよいほど、日本を含めた東アジアの観点が軸となっている。例えば、2014年12月、韓国現代経済研究院が発表したレポート「韓国経済の対中国依存度に関する現況と依存度」や「過去10年間における日中韓企業のM&Aの特徴および示唆点」は、とても読み応えのある調査報告書である。

 いままで、韓国は日本を対中戦略における重要なファクターとして考えていた。しかし、最近では、ドイツを強く意識する傾向が見られる。本記事は、その背景についてわかりやすくまとめたものである。特に本記事の文末の一文は象徴的である。

 『ドイツの協力を得て急発展する中国にどうやって打ち勝てようか? かつて韓国は中国を「世界の下請け工場」と見下し、「韓国は世界の下請け工場を操るR&Dセンターだ」と豪語した。しかし、技術開発や市場のイノベーションで後れを取ってしまえば、韓国こそが中国の下請け工場に転落するだろう。ゲームはすでに始まっているのだ。』

 解説:中国総合研究交流センター フェロー 金 振

 ドイツ銀行のアジア・太平洋地区投資銀行執行主席を務めていた蔡洪平氏は「アジア最高のディールメーカー」(ユーロマネー)と称えられる。その蔡氏が今年2月に突然辞職を発表し、「漢徳ファンド」へ移籍した。まだ正式に設立されてすらいないこの投資会社を選んだ理由はなぜか?業界の好奇の視線を集めたこの謎は、「漢徳ファンド」の発足によって徐々に解ける。報道によると、漢徳ファンドの投資ターゲットは中国とドイツの中小企業だ。ドイツの技術を必要とする中国企業、あるいは中国市場を必要とするドイツ企業を繋ぐのが主な目的となる。当初の設立資金は10億米ドルで、中国の国富ファンドが大株主として資本参加するという。つまり、蔡洪平氏は「ドイツ技術の導入」という中国の国家プロジェクトに身を投じたのである。

 現在、経済的に中国と最も親しい国は最強の米国ではなく、隣の技術強国・日本でもなく、ドイツである。過去2年間、首脳が4回にわたり相互訪問するなど、両国の関係は非常に親密だ。双方の狙いはただ一つ、「イノベーション協力」であり、その中国にとっての成果こそ製造業強国を目指す「中国製造2025」である。今年3月にハノーバーで開かれたセビット(CeBIT:情報・通信・デジタル機器&システムの統合見本市)の開幕式では中国の李克強総理が演説し、「ドイツの『第4次産業革命(インタストリー4.0)』と『中国製造2025』は同一のコンセプトである」と述べ、「製造2025」が「第4次産業革命(2013年に始まる)」を基にしたものであることを明かした。現在、遼寧省瀋陽市では「中独設備製造産業団地」の整備が進行中で、同事業は「中国製造2025、ドイツ版第4次産業革命4.0試験区」とも呼ばれる。このように、中国はドイツとの提携による製造業のイノベーションを進めている。

 中国経済に「脱アジア」の動きが見られる。過去30年余り、中国の産業協力の主たるパートナーは日本や韓国、台湾といった東アジア諸国だった。これらアジア諸国からの部品を中国で組み立てた後、欧米へ販売するという分業構造だ。しかし、中国企業の技術水準が上がり、部品は中国国内で調達されるようになると、この枠組みは崩れつつある。生産大国である中国と、技術強国であるドイツとの協力――この動きが今後さらに加速するのは明白だ。中国と周辺のアジア諸国とは、これまでの協力・分業関係からライバル関係に変わるだろう。この競争の中で後れを取った企業は、市場から淘汰されることになる。

 これは、韓国企業にも直結する問題である。山東省煙台市に工場を持つ斗山インフラコア社は、2010年時点で中国のショベルカー市場において約15%のシェアを誇り、販売数は2万台余りを数えた。しかし現在、そのシェアは半減。中国企業の追い上げがその原因だ。中でも、建機分野の代表的メーカーである三一重工の追撃に押された。三一重工は2010年のシェアは6.6%だったが、現在では約17%と斗山を逆転した。

 三一重工が導入したのはドイツの技術だ。同社は2012年にドイツの有名な大型建機メーカー・プツマイスター(Putzmeister)買収を機に、技術導入をスタート。さらに、ケルンにR&Dセンターとトレーニングセンターを設立した。斗山の関係者は「技術面でも、三一重工はすでに韓国製品に追いついた」と無念がる。

 中国企業が技術という武器を手に入れれば、韓国企業は中国市場から淘汰されてしまう。家電に続き、鉄鋼やケミカル製品でもそれは起こった。韓国が競争力を誇った自動車やスマートフォンの分野も、もはや絶対に安心とは言えない。これこそ、韓国が中独のイノベーション協力に頭を悩ませる原因だ。

 世界では今、製造業分野でのイノベーション戦争が起きている。スローガンこそ異なるものの、米、仏、日いずれも目指すものは製造業環境のスマート化だ。韓国も「製造業イノベーション3.0」を打ち出しているが、多くの事業は現政権の任期が終了する2017年までとなっており、次期政権でどう変わるかは未知数である。イノベーションにおいて、技術と同様に大事なのは商業化であり、それを阻害するものは規制である。韓国では、規制撤廃関連法案の国会審議が止まったままだ。このような状況で、ドイツの協力を得て急発展する中国にどうやって打ち勝てようか?

 かつて韓国は中国を「世界の下請け工場」と見下し、「韓国は世界の下請け工場を操るR&Dセンターだ」と豪語した。しかし、技術開発や市場のイノベーションで後れを取ってしまえば、韓国こそが中国の下請け工場に転落するだろう。ゲームはすでに始まっているのだ。


中央日報(中国語版):http://chinese.joins.com/gb/article.do?method=detail&art_id=137237
(日本語訳監修:中国総合研究交流センター フェロー 石川 晶)


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