第107号
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世界で影響力のある中国企業(その2)

2015年 8月14日  金 振(中国総合研究交流センター フェロー)

その1よりつづき)

世界Top100企業市場価値(時価総額)ランキング

 2015年6月、PWC社は、企業時価総額の世界Top100に関するレポートを発表した。2015年末までの時価総額をベースに行ったランキング調査である。今年3月まで、トップ100社の市場価値は16.2兆ドルに達している。国別に見た場合、アメリカがランクイン企業数(53社)、合計時価総額(全体の53%)ともに一位となっている(図5)。第二位は中国であり、ランクイン企業12社で全体時価総額の12%を占めている。それに対し、日本はわずか2社であり、割合も2%にとどまっている(詳細は表3を参照)。

 中国ランクイン企業の業種ごとの割合を見た場合、金融業が最も高く、中国企業全体の時価総額の52%を占めている(図6)。注目すべき点は、IT/eコマース分野において急成長を遂げているアリババと騰訊(Tencent)が全体の20%を占めていることである。時価総額ベースでも中国のIT関連企業の躍進が確認できた。

図5

図5 世界Top100企業の市場価値総額、国ごとの割合(2015年3月まで)

出典:PWC, Global Top 100 Companies by market capitalization (31 March 2015 update)に基づき、CRCCの金が作成
http://www.pwc.com/gx/en/audit-services/capital-market/publications/assets/document/pwc-global-top-100-march-update.pdf

図6

図6 世界Top企業にランクインした中国企業市場価値の業種ごとの国内割合(2015年3月まで)

出典:PWC, Global Top 100 Companies by market capitalization (31 March 2015 update)に基づき、CRCCの金が作成
http://www.pwc.com/gx/en/audit-services/capital-market/publications/assets/document/pwc-global-top-100-march-update.pdf

表3 米・中・日・韓のランクイン企業状況

図6

出典:PWC, Global Top 100 Companies by market capitalization (31 March 2015 update)に基づき、CRCCの金が作成
http://www.pwc.com/gx/en/audit-services/capital-market/publications/assets/document/pwc-global-top-100-march-update.pdf

M&A実績

 2015年6月、韓国現代経済研究院は「過去10年間における韓・中・日の越境M&Aの特徴およびその示唆点(韓国語)」と題する報告書を発表した。過去10年間(2005年~2014年)、製造業、サービス業など6分野における三カ国の越境M&A実績について分析した本報告書は、以下のように結論づけた。

 まず、過去10年間において、日中韓のM&A取引規模は、年平均16%の成長を見せ、世界全体取引規模における割合も2009年2.4%から2014年の9.3%までに拡大した。

 つぎに、過去10年間における中国のM&A案件数は、日本と韓国を上回っており、今後も拡大する傾向にある(表4)。また、中国企業M&A一件あたりの平均取引額は2005年の7000万ドルから2014年の1.5億ドルまでに拡大しており、日本(1.48億ドル)、韓国(0.85億ドル)を超えている。

 また、M&A案件を分野別にみた場合、それぞれ国の重点分野(上位5業種)は共通する部分も多いが、業種ごとのボリュームには差異がある。例えば、中国の場合、過去5年間において化学分野(30.9%)の案件数の割合が最も高いのに対し、日本は製薬(43.2%)、韓国は電子機器(26.7%)の割合が高い。また、M&A案件の成長分野を見た場合、中国はエネルギー、製造業、農業、鉱物を中心に拡大が見られるのに対し、日本と韓国はサービス業関連案件の増大が目立つ(図5)。

 以上のほか、M&A発生地域を見た場合、中国と韓国はアジアに重きを置きつつヨーロッパへの拡大を見せているのに対し、日本は北米が主な対象地域となっている。

表4 2005年~2014年までの国別M&Aの案件数   (件数、%)
出典:現代経済研究院「지난 10년간, 한중일 국경간 M&A 특징과 시사점」、2015年に基づき、CRCCの金が作成
規模(億)ドル 韓国 中国 日本
> 100 - 1(0.05) 5(0.2)
50~100 - 4(0.15) 8(0.4)
10~50 15(1.8) 89(3.4) 78(3.7)
5~10 23(2.7) 70(2.7) 84(4.0)
< 5 810(95.5) 2,429(93.7) 1,931(91.7)
合計 848(100) 2,593(100) 2,106(100)
表5 2010年~2014年におけるM&A案件分野別にみた上位5位業種(案件数平均)
出典:現代経済研究院「지난 10년간, 한중일 국경간 M&A 특징과 시사점」、2015年に基づき、CRCCの金が作成
韓国 中国 日本
  分野 ① 電子機器 (26.7%) ① 化学 (30.9%) ① 製薬 (43.2%)
② 半導体 (24.3%) ② 自動車製造・部品(20.5%) ② バイオ (10.0%)
③ 化学 (22.9%) ③ 機械類 (13.0%) ③ コンピューター(8.5%)
④ 機械類 (9.4%) ④ 電子機器(12.0%) ④ 医療機器 (8.4%)
⑤ コンピューター (7.1%) ⑤ 製薬 (9.9%) ⑤ 電子機器 (7.8%)

まとめ

 以上、1)企業ブランド価値、2)企業価値(時価総額)、3)M&Aの実績に関する3種類のデータをもとに、中国企業の世界的な影響力について整理すると同時に、日本や韓国との比較も行った。3種類のデータに限る場合、中国企業の実績は日本と韓国のそれを、それぞれ上回る結果となった。日本企業の世界的影響力の相対的な低下と中国勢の台頭が加速しているといってもよい。

 中国勢の活躍の背景を単純に、国内市場の大きさに帰結することはできない。技術革新に対する中国企業の注力こそが成長の鍵ではないかと思われる。世界5大特許庁(局)が発表した2014年特許出願状況に関する報告書によれば、2014年における国内特許出願数最多国は、前年比12.5%増を記録した中国であり、年間928,177件に達した。それは、第二位であるアメリカの57,8802件を大きく上回る実績である。ちなみに、日本および韓国は、それぞれ325,989件、210,292件であり、日本だけが前年比0.7%の出願数の減少が見られた。

 ただ、海外出願数だけで見た場合、中国は日本や韓国に比べて、まだまだその差が大きい。例えば、2014年、アメリカ国内における日本、韓国、欧州企業の出願数は、それぞれ、86,041件、36,159件、89,729件であるのに対し、中国はわずか17,340件ととどまった。しかし、中国企業の海外出願数を見た場合、アメリカ、日本、韓国、欧州の4地域すべてにおいて、前年比、それぞれ17.2%、19.0%、37.3%、18.2%の成長を見せている(出典:中国統計局「2014年世界5大知识产权局关键统计数据」)。中国の国際出願数は、今後も増え続ける見通しである。

 このような中国企業、あるいは中国市場とどう付き合うのかは、日本企業にとっての喫緊の課題ともいえる。