第107号
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中国における産学研連携の概況(その3)

2015年 8月 7日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)

その2よりつづき)

2.3 大学の産学研連携の政策環境の改善

 第1に、社会環境が徐々に整ってきた。改革開放以来、党中央と国務院は科学技術体制の改革を巡って多くの重大決定を行い、科学技術と経済の融合の促進や科学技術成果の移転の促進に対し、指導的な役割を果たしてきた。全国科学技術大会では、自主革新能力の向上と革新型国家の建設を国家発展戦略と定め、企業を主体とし、市場ニーズに基づき、産学研連携の技術革新体系を作ることにより、国家革新体系の建設を全面的に推進することを打ち出している。

 2012年、国務院は「科学技術体制改革の深化と革新型国家建設に関する意見」を公布。産学研連携は新たな発展段階に入り、企業・大学・研究開発機関は各自のニーズから、多様な形式の産学研連携を積極的に模索、実践するようになった。

 第2に、大学と研究開発機関の科学技術成果の移転を促進する一連の政策・法規が相次いで制定された。1996年の「科学技術成果移転促進法」により、研究開発機関や高等教育機関などの事業単位と生産企業が結びつき、科学技術成果の移転を共同で実施することが国家により奨励された。

 1999年の国務院弁公庁「科学技術成果の移転の促進に関する若干の規定」は、科学技術成果の移転促進に関して次のように規定した。すなわち、研究開発機関や高等教育機関における職務上の科学技術成果の移転にあたっては、当該科学技術成果をあげた人と成果移転に貢献した人に対し奨励を与える。研究開発機関や高等教育機関の技術譲渡収入に係る営業税を免除し、各産業の技術成果譲渡、技術訓練、技術コンサルティング、技術請負などによって研究開発機関や高等教育機関が得た技術サービス収入に係る所得税を当面免除する。ハイテク成果によって、会社または非公司制企業に参加する場合は、ハイテク成果の評価額は会社または企業の登録資本の35%に達することができる、などが含まれる。

 2005年に改正された「会社法」においては、株主は現金による出資のほかに、現物、知的財産権、土地使用権などの価格評価が可能であって法的に譲渡可能な財産を出資することができる。株式会社の現金出資額は有限責任会社の登録資本の30%を下回ってはならない、との規定がなされた。この規定に基づけば、ハイテク成果の評価額を最高で会社の登録資本の70%にまで上げることができる。さらに、国務院の関連部門は現在「科学技術成果移転促進法」の改正を進めており、大学の科学技術成果の移転推進がさらに強化される見込みとなっている。

 第3に、2006年に国務院が公布した「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)の実施に関する若干の補足政策」においては、産学研の連携を促進する税制を検討、制定するとともに、産学研共同による技術の習得、改良を支援するため、国家重点産業では重要技術の習得、会長を産学研連携で設立した技術プラットフォームが優先的に行うこととした。この政策は、産学研連携の今後に関し、新たな方向性を指し示すものである。

 第4に、政府等の関連部門が産学研の連携を積極的に促進している。財政部は産学研の連携を促進する関連財政税制を制定している。教育部は各部門との協力を推進し、大学の科学技術成果の企業や地方への移転を奨励している。国務院国有資産監督管理委員会は中央企業(中央政府直属の国有系企業)による産学研連携を積極的に推進している。国家開発銀行は政策金融を通して産学研の連携を推進している。全国総工会(労働組合)は企業のイノベーション文化の醸成を通して産学研の連携を促進している。科学技術部と関連部門は「技術革新プロジェクト」を共同で実施し、産学研連携の有効な仕組みを模索している。

 「十一五」(第11次5ヶ年計画、2006年~2010年)、「十二五(第12次5ヶ年計画、2011年~2015年)では、産学研連携を支援するため、国家のリソースが優先的に割り当てられた。このうち科学技術サポート計画においては、産学研連携を促進することが計画実施の重要目標として掲げられている。また863計画では、具体的な製品に関するプロジェクトを産学研が共同で申請することを奨励している。科学技術型中小企業技術革新基金は産学研連携における革新プロジェクトを優先的に支援している。

 第5に、各地方は現地の状況に鑑み、産学研連携を推進している。江蘇省は科学技術成果移転資金を設け産学研連携を推進し、上海市は産学研戦略連盟のための予算を計上した。広東省は教育部及び科学技術部と省部共同で産学研連携を促進し、省部産学研連携発展計画を公布した。四川省や浙江省、甘粛省、河北省なども地域の自主革新能力を高めることを目的に、多様な産学研連携を奨励している。

その4へつづく)