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中国における産学研連携の概況(その4)

2015年 8月19日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)

その3よりつづき)

3.方式と体制

 中国の大学は、長期にわたる産学研連携の実績の中から様々な組織を形成してきた。これらの組織はそれぞれ異なる協力の仕組みを持っている。技術譲渡、受託研究、共同研究、科学研究プラットフォームの共同設立、研究開発組織の設立、人材共同育成と人材交流、産業技術連盟など様々な方式がある。

3.1 技術譲渡

 技術譲渡とは、大学が契約を通じ特許やノウハウ、実用新案などの知的財産権の使用権を譲渡する法律行為である。技術譲渡は産学研連携における中心的な方式の一つであり、今もなお急速に成長している(図表6)。統計によると、2006年から2012年までに、中国の大学の技術譲渡契約額は3.87倍に拡大し、大学の技術譲渡収入の割合は4.2%から5.2%に拡大した。

図表6 全国技術市場の取引契約額(万元)と高等教育機関の割合
出典:「中国科学技術統計年鑑」(2012)、統計出版社、2012年版
項目 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
全国
合計

18,181,813

22,265,261

26,652,288

30,390,024

39,065,753

47,635,589

64,370,683

高等教育機関

759,528

1,030,362

1,182,834

1,350,607

1,966,902

2,488,100

2,939,628

高等教育機関の占める割合

4.2%

4.6%

4.4%

4.4%

5.0%

5.2%

4.6%

 技術譲渡は権利と義務がはっきりしているという特徴を持つ。その協力関係は技術譲渡とともに終結することが多く、トラブルが発生した場合ではこれを調整するための専門的な技術契約関連法規が存在している。一般的には、大学は技術成果を譲渡先に引き渡したあとも、当該技術成果に対する所有権を喪失することはなく、譲渡先は当該技術の使用権を得るのみである。大学は技術譲渡を通じて経済的効果を直ちに入手できる。経済効果はその他の方式より低いが、リスクが少ない。

3.2 受託研究

 受託研究とは、大学が企業の委託を受け、新製品や新技術、新工法を研究開発する方式で、一般的には企業が必要とする技術を示し、資金を提供し、大学がプロジェクトの研究開発に責任を持つ。

 受託研究は産学研連携で最もよくみられる方式の一つである。受託研究は比較的シンプルで扱いやすい方式であり、当事者の権利と義務が明確で利益紛争は少ないとされる。大学は契約に明記されたミッションを遂行すれば科学研究費を獲得できる。また、研究チームを養成することもでき、リスクは主に企業が負担する。

 このような受託研究方式では、企業は一般的に2~3回に分けて委託研究費を支払う。こうすることで企業は研究の実施過程で効果的な監督を行うことができる。企業は技術ニーズに基づいて委託する大学を選択し、大学は自身の研究の基礎に基づき、企業と協力して目標を定める。実施にあたっては、大学と企業は契約内容について詳細な協議を行い、正式な契約書を作成する。契約成立後、大学は信義誠実の原則に従い技術開発を行い、開発過程の状況を委託企業に報告する。一方、企業は大学に相応する費用を支払い、プロジェクトの進展を監督する。ただし、大学と企業の間に情報の不均衡が存在しているため、場合によりギャップや道徳的リスクの問題を生じる可能がある。このため、委託研究には双方の誠実さと交流が必要となるだけでなく、適切な契約によって双方の権益を保護する必要がある。

3.3 共同研究

 共同研究とは、大学が企業や研究機関と連携して技術的課題を解決する方式を指す。この方式では、産学研の各機関が人員を派遣して臨時の研究開発チームを作り研究開発を行う。共同研究という産学研連携の方式は、産学研の各機関の長所を十分に発揮し、企業と大学、研究機関との協力ネットワークを構築することができる。企業にとっては、大学や研究機関の研究リソースを効果的に利用できるというメリットがある。また大学、研究機関の研究を企業のニーズにより近いものとすることができる。こうした連携方式の場合には、企業が明確な市場ニーズを把握しているとともに、一定の研究開発能力が必要となる。企業は連携の過程において研究開発能力を高めることができ、研究開発人材を育成することもできる。

 共同研究は企業の自発的な行為でもあり、政府の誘導による行為でもある。このため具体的な実施においては、協力パートナーの選定と契約書の作成、実施が重要となる。政府はここ数年、産学研連携による技術的課題の解決を重視しており、国家863計画やサポート計画、国家科学技術計画型中小企業革新基金などの国家科学技術計画や基金の関連規定において、産学研による国家科学技術計画プロジェクトの共同申請を優先的に支援する方針を持ち出している。

3.4 科学研究プラットフォームの共同建設

 科学研究プラットフォームの共同建設とは、大学と企業や研究機関がそれぞれ一定比率で資金や人材、設備を投入し、共同で研究開発機構や実験室、技術センターなどの科学研究プラットフォームを設立する方式である。

 現在は、主に二つの方式がある。一つは、大学と研究機関、企業が共同で設立し、共同で研究開発課題を選定、企業が研究費を提供し、一部の事例では政府が支援を行うことがある。大学と研究機関は人材と技術を提供し、企業からも人材を派遣するという形である。もう一つの方式は、大学と企業がパイロットプランを共同設立し、実験室の業務は大学が担当し、企業は大学研究員の指導の下でパイロットテストを行い、工業化生産の実現後、契約にしたがって利益を分配するというものである。企業が有名な研究機関や大学と科学研究プラットフォームを共同設立し、緊密な協力を展開するのは、海外でもよく見られる例である。

 現在、科学研究プラットフォームの共同設立は中国の実力のある企業によって受け入れられ始めている。たとえば、IT産業では多くの有名企業が中関村(北京郊外)の研究機関や大学と実験室を共同設立している。神州デジタル(企業)と北京航空航天大学コンピュータ学院が共同で設立したネットワーク共同実験室、得意音通会社(企業)と精華大学情報学院が共同で設立した精華・得意声紋処理共同実験室、中興通信(企業)と北京郵電大学が共同で設立した北京郵電大学・中興共同実験室などがその例である。共同実験室を器として長期的、持続的な産学研連携関係を構築することは、中関村の産学研連携の新モデルになりつつある。

 科学研究プラットフォームの共同建設は、比較的安定的で中長期的な産学研連携の方式であり、大学の確かな基礎理論と進んだ実験手段、高い研究開発能力などの強みを発揮し、企業の工学技術の開発能力や生産過程における技術を実現させる能力を十分に活かすことができる。科学研究プラットフォームは、大学の専門分野の技術革新に対して企業からの継続的な投資を可能にするとともに、大学の科学研究を市場ニーズに近づけることで科学技術の成果の製品化や産業化の周期を短縮するものとなる。また、科学研究プラットフォームを通じて、企業において技術の移転や人材の育成がなされることとなり、企業の研究開発能力の持続的向上を促すものともなる。

 科学研究プラットフォームは、連携する各機関に対する要求が比較的高い。各機関は強い協力の意向と共通した研究方針を持ち、協力組織や協力制度などの各方面で合意にこぎつける必要がある。また、各機関には一定の資金力が必要となる。科学研究プラットフォームの設立と運営には、いずれも資金援助が不可欠で、もしも相応の資金力がなければ科学研究プラットフォームの運営と発展は制約を受けることになる。

 科学研究プラットフォームの具体的な進行には、企業参加者のある程度の資金力が必要となる。このため、この方式は大企業と大学や研究機関との連携に適しており、資金が潤沢でないベンチャー型中小企業は科学研究プラットフォームには参加しにくい。政府の役割として協調とリーダーシップが重要となるのはこのためである。政府は産学研の各機関の橋渡しをするとともに、企業、特に中小企業に対して、税制や知的財産権の保護など多方面での支援ができる。さらに直接出資することで、科学研究プラットフォームを推進することもできる。たとえば、中国の国家工学技術研究センターは、政府が国家産業・科学技術発展計画に則り、科学技術と経済の融合の推進と科学技術成果の実用化と産業化の加速のために設立した技術研究開発プラットフォームである。

その5へつづく)


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