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中国における産学研連携の概況(その9)

2015年 9月 2日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)

その8よりつづき)

5.2  江蘇産学研連携の方法と事例

 江蘇省は中国内では比較的早く経済発展が進んだ区域で、活力のある省である。2013年の統計では、江蘇省のGDPは59億元に達し、一人当たりGDPは7.4万元(約1.2万米ドル)であった。

 近年、江蘇省ではイノベーション型の発展戦略を打ち出し、科学技術のイノベーションプロジェクトを力強く推進している。その中核となる手段は、産学研の緊密な連携であり、イノベーションリソースを江蘇に集積すべく積極的に取り組んでいる。これにより、技術革新は産業へとつながり、その融合を促進することで、イノベーション体系の全体的な機能を向上させ、省の発展戦略を実践する上で有力な支えとなっている。省内の企業はすでに1000の高等教育機関と安定した産学研連携の関係を結び、研究開発に投入した資金は全体の2.4%を超え、科学技術進歩の貢献率は57.5%に及ぶ。区域のイノベーション能力は5年連続で国内1位を維持し、人材競争力と知的財産権の発展指数もともにトップに位置している。

産学研連携関連組織の整備

(1)省部連携

 江蘇省は科学技術部、教育部と共同で科学研究連携イノベーション実験室を設立し、ナノテクノロジー、バイオ医薬、通信環境の整備の3つの科学研究分野と産業のイノベーションとを連携させた基地をスタートさせた。

(2)省院連携

 江蘇省は中国科学院中国工程院北京大学清華大学、中国電子科学技術グループ会社、中国農業科学院、航空科学工業などと戦略的な連携協定を結び、県レベル以上の政府と1300以上の高等教育機関との協力関係をもたらした。

(3)省内連携

 省の科学技術庁、財政庁、教育庁など9つの機関によって産学研連携を指導する部門を設置、特に科学技術庁には産学研連携を担当する専門部門を設置した。

事例 中国科学院と江蘇省の連携

 中国科学院は中国の最高学術機関である。その組織はすでに完備された自然科学の学科体系で構成されており、ほぼほぼすべての専門分野をカバーしている。また、多くの研究成果を上げ優秀な科学者を抱える。

 江蘇省では、中国科学院との連携を早い時期からスタートさせた。1996年から4回にわたる戦略的な連携協定を結び、全省の各地や企業に中国科学院との連携を奨励した。長い時間をかけ、院と省の連携関係は絶えず深化している。

 双方の協力関係は著しい成果を上げている。

 一つは、相互間で全面的に補完し合っている。これは中国科学院が管轄する応用型の研究機関はすべて江蘇と連携プロジェクトがあり、江蘇のすべての県は中国科学院と連携プロジェクトを持っているのである。

 二つ目は、共同で基盤を構築し、安定運用している。

 代表的なものは2つの独立した研究所(蘇州ナノ所と蘇州医工所)、2つの研究センター(連雲港エネルギー動力研究センター、無錫IoT研究発展センター)であり、他にも50を超える支部、センターなど新たに研究開発機関を共同建設している。

 3つ目は、プロジェクトによる研究成果が顕著なことである。

 院・省による連携プロジェクトは企業に700億元以上の収益をもたらし、8年連続で全国の各省のトップを維持している。これは中国科学院と地方間の連携では最も広範で、最も規模が大きく、最も顕著な成果を上げている省であることを示している。

科学研究リソースの企業への集約を推進

(1)産学研の先端的な共同研究を展開

 高等教育機関の研究者が企業のニーズに合わせ、企業と共同で基礎研究、応用研究を行うことである。現在、1000件以上の先端的な共同研究プロジェクトが組織されており、省は4億元以上の経費を投入し、20億元以上の成果をもたらしている。

(2)企業の研究開発機関の設立を推進

 企業研究生(大学院生)研究開発ステーション、ポスドク研究開発ステーション、企業院士研究開発ステーションなど合計は2500に及ぶ。また、大型・中堅企業が設置した80%の研究開発機関が、高等教育機関と密接な協力関係を築いている。

(3)「科学技術鎮長団」による研究開発の展開

 全国の高等教育機関から博士や教授を選抜し、団体を組む形式で経済的に発達した県に派遣、副県長を団長に、団員を副鎮長に任命する。この取り組みにより「地方のニーズに合わせた選抜派遣」の原則のもと、地方のさらなる経済発展と併せ、科学技術のイノベーションと管理能力を向上させることができる。同時に、高等教育機関の優秀な人材を地域で実践を通して鍛えることができるので、素質の向上といった面でも有効である。

 2008年に「科学技術鎮長団」の取り組みを始めてから、合計で7回にわたり高等教育機関、政府機関、大型の科学技術企業から2500名程の専門技術者を100近くの地方に派遣している。結果として、産学研連携による契約は4000件以上に昇り、契約額は約49億元に相当する。また、インキュベートした科学技術企業は197、企業に研究開発機関の設置を促し、1976件の成功を収めた。さらに、企業が国レベル、省レベルの各種科学技術プロジェクトの申請を行ったのは6000件以上、育成した人材も5.4万人に及ぶ。

(4)科学技術担当幹部(企業イノベーションポスト)による研究室の展開

 産学研連携のプロジェクトのもと、2回にわたり省の内外の100以上の高等教育機関から特別招聘の340名の専門家を企業に派遣し、技術担当幹部、エンジニア幹部、研究開発センター長などの職位を与え、企業の技術革新のためのサービスを全面的に提供する。

(5)科学技術イノベーションのための研究室の展開

 蘇北地域では科学技術イノベーションのための研究室を設置し、専門プロジェクトのための経費として3000万元を投入、企業が高等教育機関や第三者の仲介機関に拠出する科学研究費の補助を行っている。これにより、産業を牽引する役割を十分に果たしており、蘇北地域の中小企業のイノベーションを積極的に後押し、今も企業の科学研究費の投入を拡大させている。

(6)省レベルの転化専門プロジェクトの設立

 重要な技術成果の転化プロジェクトは、2004年設立以来、合計で1260件の技術移転を行い、その経費は100億元を超え、400億元の収益をもたらした。その内の90%前後が産学研連携によるものである。

科学技術リソースの産業への集積を推進

(1)省の産学研連携イノベーション基地の建設

 通信、インタ―ネット、無線ネットワーク、ナノテクノロジー、バイオ医薬などの新興産業の発展を加速するため、23の省レベルの産学研連携イノベーション基地を建設、各地のイノベーションリソースが集積するよう誘導したことで、「一区一戦略産業」「一県一中核産業」とする発展的戦略を推進した。

(2)産学研連携によるイノベーションパークの建設

 省レベル以上のハイテクパークなどのサイエンスパークの建設を支援した。重点産業の発展を目指すため、国内有数の科学研究機関や海外のイノベーションチームを推薦し、産業技術研究開発機関あるいは産業技術研究開発、専門技術サービス、知的財産権と技術移転サービスなどを一体化した開放的なサービス機能を持つサイエンスパークを共同で建設した。

(3)産業技術イノベーション連盟の発展

 産業技術の向上を目指し、企業、高等教育機関との連携の推進、長所の補完、利益共有、リスク分担を実践する産業技術イノベーション連盟の組織化を推進することで、より一層イノベーションニーズが関連産業へ集まるよう誘導した。2013年末には、工業分野において国内には39の国レベルの産業技術イノベーション連盟があり、農業分野においては江蘇省に29の同連盟が共同で設立された。

高等教育機関のサービス能力の向上

 高等教育機関の技術移転センターの設立を促進し、必要性が認められる地域にはその支部の設立を奨励した。高等教育機関の技術移転センターの評価体制を模索し、センターが機構に基づき実体化し、運用面、チームの専門性、サービス特色、リソースの国際化などの面でレベルアップすることを支援している。現在、全省では28の高等教育機関技術移転センターがあり、150の支部を設立し、専門職と職員を合わせて1300名以上が業務に従事している。2011年から2013年にかけて、4100回以上の技術取引を行い、技術移転は3万件、取引額は110億元であった。

交流とマッチングのためのプラットホームの構築

(1)ブランド化の展開

 2年に1回、江蘇産学研連携成果展示商談会を開き、中国科学院、エンジニア院、北京大学清華大学、中国農業科学院、中国電子科学技術グループホールディングスなどの重点科学教育機関の支援を受け、イノベーション活動のブランド化を図っている。すでに4回の開催を終え、科学技術成果の展示は合計で7000件以上、省内の関連企業の商談への参加は10000を超える。

(2)専門テーマの技術成果商談会の開催

 地方の重点産業のニーズや発展に合わせ、地方政府と共同で江蘇省の企業、融資機関が一堂に介し、専門家チームと専門テーマの技術成果商談会を開催する。これには、技術成果や関連技術により、江蘇省の産業化を促進する狙いがある。すでにLED関連の照明、海洋工程設備、自動車、環境保護、超重力などの領域にわたり9回の商談イベントを開催し、成果展示の合計は1000件に昇り、連携の意向を確認できたプロジェクトは600件であった。

(3)産学研連携による情報プラットホームの設立

 「江蘇省産学研連携ネット」と「江蘇省産学研連携情報プラットホーム」は技術ニーズのネット公開など多様な機能を開発、運用していく。高等教育機関、企業、地方科学技術管理部門など主体となる機関に対して開放し、サービスを提供している。

 現在の登録ユーザー企業は6000(企業、高等教育機関、専門家、科学技術などのユーザー)、科学技術成果の発表は1500件にのぼり、377の専門家チームが紹介されており、企業からの技術ニーズは1300件、企業と専門家とのネットでのやり取りは1900回、その内成果に至ったものは1400件に及ぶ。

(おわり)

主要参考文献:

  1. 蘇竣、何晋秋ほか「産学連携―中国大学のナレッジ・イノベーションと科学技術産業研究」中国人民大学出版社、2009年12月
  2. 孫福全ほか「産学研連携イノベーション:理論、実践と政策」科学技術文献出版社、2013年1月
  3. 「2013年中国科学技術発展報告」科学技術文献出版社、2014年12月
  4. 「中国科学技術統計年鑑(2012)」統計出版社、2012年
  5. 「産学研連携が経済・科学技術教育の発展を促す」人民日報、1999年9月8日第4版
  6. 「広東産学研連携:イノベーション駆動の発展に向けた重要な糸口」科技日報、2014年3月
  7. 「科学技術体制改革に関する中国共産党中央の決定」1985年3月中国共産党中央発表、[1985]6号

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