第108号
トップ  > 科学技術トピック>  第108号 >  2015年中国留学帰国者の就業起業調査報告(その1)

2015年中国留学帰国者の就業起業調査報告(その1)

2015年 9月15日  中国総合研究交流センター編集部

 「中国グローバル化研究センター」(CCG)と「智聯」傘下の中高級求人プラットフォーム「智聯卓聘」は8月16日、「第10回中国留学人員革新起業フォーラム」で「2015年中国留学帰国者就業・起 業報告」を発表した。同報告は、近年の留学人員の留学先国や専門方向、費用、成果、発展傾向などを全面的に示し、留学人員の帰国原因及び就業や起業の方向、状況などに立ち入った分析と解析を行ったものである。 

 報告によると、2014年、中国の留学帰国者数は36.48万人に達し、2013年とくらべて1.13万人増加し、増加率は3.20%だった。2014年までに、中 国の留学帰国総人数は180.96万人に達し、出国留学者の総数の51.4%を占めた。留学帰国者数の増加は、中国の総合的な国力の増強と政府による人材吸引の強化と関係している。大 量の留学帰国者が帰国発展するにつれ、かれらの就業と起業の状況も社会各界の注目を集めている。

 留学帰国者の就業や起業、社会再適応などの面での状況をよりよく理解するため、2015年2月から2015年7月まで、中国グローバル化研究センター(CCG)は「智聯卓聘」と協力し、「 2015中国留学帰国者就業起業調査」の研究を共同展開した。課題チームは、留学帰国者のグループに対してネット調査を行い、913部のアンケートを回収した。サンプル中、男性は54.9%、女性は45.1%だ った。調査対象は1980年代生まれと1990年代生まれの留学帰国者が中心となった。留学帰国者の留学先国は、米国や英国、オーストラリア、フランス、カナダ、日本、シンガポール、韓国などが中心だった。 

一、留学帰国者全体の状況の分析

(一)帰国時期は2010年の後に集中し、78.4%を占めた。2005年から2009年までの帰国者は15.6%、2000年から2004年、2000年以前はそれぞれ2.2%と3.8%を占めた。& amp; amp; amp; amp; lt; /p>

image

図1 留学帰国者帰国時期分布

(二)留学帰国者の国外で獲得した最高の学位は、講義型の修士学位と学士学位、研究型の修士学位が中心で、それぞれ33.2%、27.6%、21.5%を占めた。

(三)留学帰国者の国外で取得した学位の主な科目は商学、社会科学、工学、自然科学が中心で、それぞれ35.2%、20.8%、13.1%、12.8%を占めた。こ のほか人文科学の占める割合も比較的高く8.1%に達し、農学の割合は小さく0.8%にとどまった。

image

図2 留学帰国者が取得した学位の科目分布

(上から時計回りで「自然科学(数学・理学・化学・生物学)」「社会科学(経済・政治・社会・心理)」
「人文科学(文学・史学・哲学)」「工学」「農学」「法学」「商学」)

(四)留学帰国者グループの多くは留学の価値に対して肯定的に捉えている。留学が「割に合う」と考えている人は50.0%、「割に合わない」と考えている人は20.2%で、「どちらとも言えない」、「 答えにくい」という人もそれぞれ22.1%、7.7%いた。注意すべきなのは、留学の価値の評価は単純な経済的リターンによるものではなく、個人の総合的素質の向上も考慮する必要があるということである。 

image

図3 留学帰国者の留学効果の自己評価

(上から時計回りに「答えにくい」「割に合わない」「どちらとも言えない」「割に合う」)

(五)出国留学によって得た能力の向上は主に、「国際的視野」「外国語能力」「独立した思考能力」「生活適応能力」などが挙げられ、それぞれの認可度は78.7%、78.3%、71.3%、68.9%だ った。「専門知識・技能」「コミュニケーション能力」を挙げた人も50%を超えた。これと比較すると、「革新能力」や「人脈拡大」を挙げた人は少なく、それぞれ39.4%と34.2%だった。

image

図4 留学帰国者の留学で得たレベルアップ

(上から「国際的視野」「外国語能力」「独立した思考能力」「生活適応能力」「専門知識・技能」
「コミュニケーション能力」「革新能力」「人脈拡大」「その他」)

(六)65%を超える留学帰国者が、5年以内に留学の経済コストを取り戻すことができると考えている。コスト回収にかかる期間としては3年から5年を挙げた人が最も多く35.9%を占め、5 年から10年と1年から3年はそれぞれ24.1%、22.5%で、10年以上と答えた人も10.3%いた。1年以内とした人はわずか7.2%だった。

image

図5 留学帰国者の留学経済コスト回収の期間分布

(七)8割を超える留学帰国者が帰国後、社会への再適応を果たしている。「ゆっくりと溶け込んだ」という人が54.4%、「すぐに溶け込んだ」という人が32.7%だった。一方で「なかなか溶け込めない」と いう人も12.9%いる。社会的な力を十分に生かして文化活動や交流活動などを積極的に展開し、留学帰国者のよりスムーズな中国社会への再適応をサポートする必要がある。

image

図6 留学帰国者の国内環境への再適応の状況

(上から時計回りに「なかなか溶け込めない」「ゆっくりと溶け込んだ」「すぐに溶け込んだ」)

 再適応の方法としては、「自然に溶け込む」「生活方式を中国化する」「自らの態度を調整する」「国内の友人を作る」という人が多く、それぞれ58.7%、49.8%、46.7%、35.7%だった。「 国内の社交型/学術型/ビジネス型の活動に参加する」「個人資本を国際運用・移転する」も国内の環境に入る重要な手段で、それぞれ20.2%、7.3%を占めた。

image

図7 留学帰国者の国内環境への再適応の方式

(上から順に「自然に溶け込む」「生活方式を中国化する」「自らの態度を調整する」「国内の友人を作る」
「国内の社交型/学術型/ビジネス型の活動に参加する」「個人資本を国際運用・移転する」「その他」)

二、留学帰国者の就業状況分析

(一)留学帰国者の就業は民営企業と外資企業に集中している

 留学帰国者の就業地域は北京や上海、広州、深センなどの一線都市と省政府所在地に集中している。また中部や西部の都市、とりわけ成都や西安、武漢などに引きつけられる留学帰国者も増加している。

image

図8 留学帰国者の就業都市分布

 留学帰国者の就業組織のタイプは多様化しているが、民営企業と外資企業に集中している。36.1%の留学帰国者が本土の民営企業に、26.7%の留学帰国者が外資企業に、13.5%の 留学帰国者が国有企業に、8.9%の留学帰国者が事業単位に就職しており、政府部門への就職と留学帰国者による民営企業設立もそれぞれ2.7%を占めた。留学帰国者の就職する企業は、社 員500人以上の中型から大型の企業が中心で、31.2%の留学帰国者は社員1000人以上の企業に、45.3%の留学帰国者が社員500人以上の企業に就職している。

image

図9 留学帰国者の就業の企業タイプ

(上から時計回りに「中国の民営企業」「外資企業」「国有企業」「その他」「事業単位」
「政府部門」「留学帰国者による民営企業設立」)

image

図10 留学帰国者の就業の企業規模

(二)留学帰国者の就業産業の分布は広く、金融業がトップである

 留学帰国者の就業するトップ10産業のうち、「金融業」が最多で14.3%、「貿易/卸売/小売業」「不動産/建築業」「インターネット」がそれぞれ7.2%、6.9%、5.5%を占めた。「 次世代情報技術」や「文化クリエイティブ」の比率は比較的小さかった。

image

図11 留学帰国者の就業の産業分布

(上から順に「金融業」「貿易/卸売/小売業」「不動産/建築業」「インターネット」「次世代情報技術」「メディア/
エンターテイメント/スポーツ」「新バイオエンジニアリング/新医薬」「大学/研究機関」「政府/公共事業」「文化クリエイティブ」)

 職務では、「販売・マーケティング」を選ぶ留学帰国者が最も多い29.6%で、「生産/運営」「研究開発」「行政業務」「人事」「財務管理」を選んだ留学帰国者はそれぞれ11.8%、12.9%、1 0.9%、8.3%、10.1%だった

image

図12 留学帰国者の就業の職務分布

(上から順に「財務管理」「その他」「人事」「生産/運営」「研究開発」「販売・マーケティング」「行政業務」「研究開発」)

(三)強みは外国語とコミュニケーション能力、弱みは国内の関係の断絶

 留学帰国者は留学がもたらす強みとして主に「外国語」と「コミュニケーション能力」を挙げており、それぞれ64.3%と51.7%の留学帰国者がこの面で自らに強みがあると考えている。ま たそれぞれ50.1%と48.8%の留学帰国者は、「専門技能」と「イノベーション能力」において自らが強みを持つと考えている。また38.6%は、「自己アピール能力」で強みがあると考えている。留 学帰国者のうち「人脈・ネットワーク」の面で強みがあると考えている人は15%に過ぎなかった。

image

図13 留学帰国者の就業にあたっての強み

(左から順に「外国語」「コミュニケーション能力」「専門技能」「革新能力」「自己アピール能力」「人脈・ネットワーク」)

 留学帰国者は、社会関係・ネットワーク、求職時間、専門技能などの面で弱みを持っている。留学帰国者の就業の最大の弱みは「国内の関係やネットワークが国外に留学したせいで断裂している」ことであり、4 7%の学生が自らにこの弱みがあると考えている。29.7%の留学帰国者は「専門技能の面で国内の名門大学の学生と比べて強みが明らかでない」と考えており、27.7%は自らが「 出向トレーニングの機会を失ったので政府部門での仕事を見つけにくい」と考えている。「帰国の時期が遅く、国内の求人活動に間に合わない」「学んだ専門に国内での需要がなく、国外での実習経験も認められない」も それぞれ26.7%と24.8%を占めた。さらに12.4%の留学帰国者は、自らの「外国語能力が国内の名門大学の学生と比べて強みが明らかでない」と考えている。

image

図14 留学帰国者の就業にあたっての弱み

(左から順に「国内の関係やネットワークが国外に留学したせいで断裂している」「専門技能の面で国内の名門大学の学生と比べて強みが明らかでない」「 出向トレーニングの機会を失ったので政府部門での仕事を見つけにくい」「帰国の時期が遅く、国内の求人活動に間に合わない」「学んだ専門に国内での需要がなく、国外での実習経験も認められない」「 外国語能力が国内の名門大学の学生と比べて強みが明らかでない」)

(四)留学帰国者は仕事への満足度が低く、転職率も高い

 留学帰国者は仕事への満足度が低く、「満足している」という人も36.4%いたが、46.4%の留学帰国者は現在の仕事に「不満足」で、「非常に満足している」という人はわずか1.2%だった。

image

図15 留学帰国者の現在の仕事に対する満足度評価状況

(上から時計回りに「非常に満足」「不満足」「満足」「どちらとも言えない」「非常に不満足」)

 76.5%の留学帰国者は帰国後、転職の経験を持っている。転職の頻度を見ると、2年以内に転職したという人が最も多く、39.5%に達した。3年から5年で転職したという人は28.8%、5 年以上してから転職したという人はわずか8.2%だった。

image

図16 留学帰国者の帰国後の転職頻度分布状況

(上から時計回りに「1-2年」「1年以内」「3-5年」「5年以上」「転職していない/しない」)

その2へつづく)


出典:中国グローバル化研究センター(CCG)「2015中国留学帰国者就業起業調査報告」 http://www.ccg.org.cn/Event/View.aspx?Id=2576