第108号
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中国の土壌汚染の現状と防止対策(その1)

2015年 9月18日

庄国泰:環境保護部自然生態保護司 司長

1962年4月生まれ、福建省泉州出身。自然生態と農村環境保護、生態文明の推進事業に長期にわたって従事。『環境保護』など重要学術誌への論文発表多数。「土壌修復技術方法・応用」などの書籍の翻訳編集を担当。2012年から環境保護部土壌環境保護法規起草事業指導チームメンバー。近年は、「土壌環境保護『十二五』計画」や「土壌汚染防止・処理法」草案提案稿、「土壌汚染防止・処理行動計画」などの重要文書の起草・作成を筆頭となって組織し、中国の土壌環境保護事業の発展を力強く推進している。

概要

 土壌汚染問題は、早急な解決を求められる重大な環境問題である。中国の土壌環境の状況は総体として楽観を許さず、一部地区の土壌汚染は深刻で、耕地の土壌環境の質が懸念され、鉱工業跡地の土壌環境問題も際立っている。土壌汚染は原因が複雑で、深刻な危害をもたらすものであり、土壌環境の監督管理体系の整備も遅れ、土壌環境保護は数多くの試練に直面している。今後は、(1)土壌汚染の防止・処理政策の法規標準の整備、(2)土壌汚染物の排出源制御の確実な強化、(3)汚染土壌の環境リスクの厳しい管理・制御、(4)土壌汚染処理・修復の試行モデル事業の展開、(5)土壌汚染防止・処理の科学技術によるサポート能力の建設強化、(6)土壌汚染防止・処理の投入メカニズムの構築――という6つの面から土壌汚染の防止・処理事業を強化する必要がある。

 土壌汚染問題は、社会的な関心が高く、人々の注目する重大かつ難しい問題であり、早急な解決が求められる深刻な環境問題の一つである。土壌環境の質は、耕地の質に直接かかわり、農産品の安全や居住環境、健康に大きな影響を与える。土壌環境問題が取り沙汰され、人々の環境保護意識が高まる中、国家は土壌環境保護事業をますます重視しはじめている。習近平総書記は、重金属汚染と土壌汚染の総合的な処理の推進に力を入れなければならないと強調している。また李克強総理は、汚染防止・処理の強化のために断固とした措置を取らなければならないと指摘している。現政府は、土壌汚染の防止・処理を、汚染面で立ち向かうべき3つの戦いの一つと定めている。「土壌汚染防止・処理法」と「土壌汚染防止・処理行動計画」の制定が急ピッチで進められている現在、土壌環境保護事業は、得難いチャンスと試練を迎えている。

1 楽観できない中国の土壌環境の状況

1.1 土壌汚染の現状

 国務院の決定に基づき、環境保護部は2005年4月から2013年12月まで、国土資源部と共同で、初の全国土壌汚染状況調査を行った。中華人民共和国の陸地国土が調査範囲となり、調査地点はすべての耕地と一部の林地・草地・未利用地・建設用地をカバーし、実際の調査面積は約630万平方キロメートルに及んだ。調査では、統一の方法・基準が採用され、全国の土壌環境の質の総体状況がほぼ掌握された。

(1)全国の土壌環境の状況は総体として楽観できないものとなっている。全国の土壌調査地点の基準超過率は16.1%で、そのうち「軽微」「軽度」「中度」「重度」の汚染地点の比率はそれぞれ11.2%、2.3%、1.5%、1.1%だった。汚染の類型は「無機型」が主で、「有機型」がこれに続き、「複合型」汚染の比重は比較的小さく、無機汚染物の基準超過地点数は、基準超過地点全体の82.8%を占めた。汚染分布の状況から見ると、南方の土壌汚染は北方よりも深刻だった。長江デルタや珠江デルタ、東北旧工業基地など一部の地域の土壌汚染問題が比較的目立ち、西南地区や中南地区では土壌の重金属基準超過範囲が比較的広かった。カドミウム、水銀、ヒ素、鉛の4種の無機汚染物の含有量の分布は、北西から南東、北東から南西に向かうほど高くなる傾向が見られた。カドミウム、水銀、ヒ素、銅、鉛、クロム、亜鉛、ニッケルの8種の無機汚染物の調査地点における基準超過率はそれぞれ7.0%、1.6%、2.7%、2.1%、1.5%、1.1%、0.9%、4.8%だった。BHC、DDT、PAHの3種の有機汚染物の調査地点における基準超過率はそれぞれ0.5%、1.9%、1.4%だった。

(2)耕地の土壌環境の質が懸念される。耕地土壌の調査地点における基準超過率は19.4%で、そのうち「軽微」「軽度」「中度」「重度」の汚染地点の比率はそれぞれ13.7%、2.8%、1.8%、1.1%で、主要汚染物はカドミウム、ニッケル、銅、ヒ素、水銀、鉛、DDT、PAHだった。林地土壌の調査地点における基準超過率は10.0%で、そのうち「軽微」「軽度」「中度」「重度」の汚染地点の比率はそれぞれ5.9%、1.6%、1.2%、1.3%で、主要汚染物はヒ素、カドミウム、BHC、DDTだった。草地土壌の調査地点における基準超過率は10.4%で、そのうち「軽微」「軽度」「中度」「重度」の汚染地点の比率はそれぞれ7.6%、1.2%、0.9%、0.7%で、主要汚染物はニッケル、カドミウム、ヒ素だった。未利用地土壌の調査地点における基準超過率は11.4%で、そのうち「軽微」「軽度」「中度」「重度」の汚染地点の比率はそれぞれ8.4%、1.1%、0.9%、1.0%で、主要汚染物はニッケルとカドミウムだった。

(3)鉱工業跡地の土壌環境問題が際立っている。調査対象となった重汚染企業690社の用地と周辺の5846カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は36.3%を占めた。主な関連産業としては、鉄鋼や非鉄金属、皮革製品、製紙、石油・石炭、化工・医薬、化繊・ゴム・プラスチック、鉱物製品、金属製品、電力などがある。調査対象となった工業跡地81区画の775カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は34.9%を占め、主要汚染物は亜鉛、水銀、鉛、クロム、ヒ素、PAHだった。主な関連産業としては、化学工業、鉱業、冶金などがある。調査対象となった146カ所の工業パークの2523カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は29.4%を占めた。そのうち金属精錬類の工業パークとその周辺の土壌の主要汚染物はカドミウム、鉛、銅、ヒ素、亜鉛で、化学工業類の工業パークとその周辺の土壌の主要汚染物はPAHだった。調査対象となった188カ所の固体廃棄物処理処置場の1351カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は21.3%を占め、汚染物は無機汚染物が中心だった。ゴミ焼却場・埋立地は有機汚染が深刻だった。調査対象となった13カ所の採油地区の494カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は23.6%を占め、主要汚染物は石油炭化水素とPAHだった。調査対象となった70カ所の採鉱地区の1672カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は33.4%を占め、主要汚染物はカドミウム、鉛、ヒ素、PAHだった。非鉄金属の採鉱地区の周辺土壌は、カドミウム、ヒ素、鉛などの汚染が比較的深刻だった。調査対象となった55カ所の汚水潅漑区のうち、39カ所で土壌汚染が見られた。1378カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は26.4%を占め、主要汚染物はカドミウム、ヒ素、PAHだった。調査対象となった267本の幹線道路両側の1578カ所の土壌調査地点のうち、基準超過地点は20.3%を占め、主要汚染物は鉛、亜鉛、ヒ素、PAHで、汚染地点は道路両側150メートルの範囲に集中していた。

1.2 土壌汚染の要因

 土壌環境は開放的なシステムであり、土壌環境の質は様々な要素の多重的影響を受ける。局地的には、人為活動の影響がより際立っている。中国の土壌汚染は、工業化発展の過程で中長期にわたる累積によって形成されたものである。土壌汚染の主要原因は、鉱工業や農業生産などの人類の活動に加え、自然由来のバックグラウンド値が高いことも挙げられる。局地的に土壌汚染が深刻となる主な原因は鉱工業企業の汚染物排出にあり、比較的広い範囲での耕地土壌の汚染は主に農業生産活動の影響を受けたものである。一部の地域や流域に見られる土壌重金属の深刻な基準超過は、鉱工業活動とバックグラウンド値の高さの重なった結果と考えられる。

1.2.1 鉱工業企業の汚染物排出は局地的な土壌の重汚染と高リスクの主因である

(1)金属の採掘・精錬活動による汚染。非鉄金属・鉄鋼の精錬は、採鉱地区と鉱物資源型都市の土壌重金属汚染の主要な原因となっている。金属の精錬過程においては、重金属を含む粉塵の落下が、周辺土壌の重金属汚染をもたらす重要な原因の一つとなっている。採掘・精錬での廃水の直接排出と土法炉による精錬も、企業の周辺土壌の重金属汚染をもたらしている。

(2)重汚染企業の生産による汚染。重汚染企業はその生産過程で、設備の老化や生産工法の遅れなどにより、汚染物を無秩序に排出し、企業周辺の土壌汚染をもたらしている。関連研究によると、中国では毎年、60万トンにのぼる石油が蒸発や漏れなどで環境に流出し、そのほとんどが土壌に進入している。また重汚染企業が排出する工業廃水には大量の重金属と有毒な有機汚染物が含まれ、その直接排出が企業周辺の土壌汚染をもたらしている。

(3)工業跡地による汚染。1990年代以来、産業構造と土地利用計画の調整に伴い、多くの工業企業が移転または閉鎖された。一部の工業跡地は環境リスクが比較的高く、新たな汚染源となり、周辺の土壌環境の質に脅威を与えている。

(4)廃棄物堆積場による汚染。鉱物資源の開発利用の過程において地面に堆積される廃石や選鉱くず、残渣、フライアッシュは、風化や溶出などの作用を通じて、重金属が活性化され、様々な形で周囲の環境に散失し、土壌に入って環境汚染をもたらす。廃棄家電やスクラップ車には、鉛や水銀、カドミウム、クロムなどの重金属、ポリ臭化ビフェニルやポリ臭化ジフェニルエーテル、石油炭化水素などの有機汚染物が含まれ、不適切な処理は土壌環境汚染をもたらす。中国のゴミ処理処置は、堆積や埋め立てが中心で、成分の複雑で汚染物の含有量の極めて高い浸出液が土壌や地下水に大量に入り込み、周囲の土壌汚染をもたらしている。非衛生な埋立地周辺の土壌汚染はとりわけ深刻である。河川や湖の浚渫による汚泥は、重金属や残留有機汚染物の含有量が一般的に高く、処理をせずに都市の緑地や農地に直接用いると、土壌汚染を引き起こし得る。

(5)石炭燃焼の排出物による汚染。石炭燃焼は、大量の水銀や鉛、PAHなどの汚染物を生み、大気から落下して土壌に侵入し、蓄積されれば広範囲に、または地域的な土壌汚染をもたらす。関連研究によると、中国で石炭燃焼によって毎年放出される水銀は220トンを超え、水銀排出総量の38%を占め、金属精錬による排出に次いで多い。

1.2.2 農業生産活動は耕地土壌における広範囲の汚染の主因である

(1)汚水潅漑による汚染。工業汚水の直接潅漑または汚染された河川水を使用した農地灌漑は、耕地の土壌汚染の主要な原因の一つとなっている。

(2)農薬、化学肥料、農業用フィルムなどの農業用品の使用による汚染。DDTやBHCなどの有機塩素系農薬は1980年代に全面的に使用禁止とされた。だが安定性と残留性が高く、土壌環境における分解が緩慢であるため、現在でも土壌中に広く検出され、一部地区では比較的高い残留が見て取れる。さらにDDTはジコホールの原料、BHCは農薬の中間体とリンデン(γ-BHC)の原料として依然として中国国内で生産・使用され、新たな土壌汚染を生んでいる。銅を含む農薬やヒ素を含む農薬(亜ヒ酸ナトリウムやヒ酸石灰など)の使用は、農業土壌とりわけ果樹園の土壌の重金属汚染の主要な汚染源の一つとなっている。常用されるリン酸肥料にも一定量の重金属が含まれており、とりわけ目立つのはカドミウムである。リン酸肥料の長期使用は、局地的な農地土壌のカドミウム汚染の原因の一つとなっている。統計によると、中国の農業用リン酸肥料の使用量は毎年増加しており、ここ30年の累計使用量は1.63億トンに達している。リン酸肥料の使用によって耕地土壌に入り込んだカドミウムの総量は数百トンに達すると見られる。農業用フィルムの大量使用は、施設農業土壌におけるフタル酸エステル汚染の主要な汚染源である。農業用フィルムは、フタル酸エステル類化合物の含有量が非常に高い。全国の農業用プラスチックフィルムの年間使用総量は、176万トンに達する。農業用フィルム中のフタル酸エステルはプラスチックから土壌環境に入り込みやすく、広範囲のフタル酸エステル汚染を引き起こすものとなる。

(3)残茎焼却の排出物による汚染。残茎の露天焼却によって放出される顆粒物と各種の気態汚染物の土壌への落下は、土壌中のPAH等の汚染源の一つとなっている。

(4)家畜・家禽の飼育による汚染。家畜・家禽の飼育も土壌の重金属汚染をもたらす重要な原因である。硫酸銅や硫酸亜鉛、ロキサルソンなどの飼料添加剤には大量の銅、亜鉛、カドミウム、ヒ素などの重金属物質が含まれ、家畜・家禽の糞便の有機肥料としての農地への利用は土壌の銅などの重金属汚染をもたらす。家畜・家禽の大規模飼育による廃水潅漑の影響を受けた耕地や、飼育場の有機肥料を使用した耕地の土壌では、ヒ素、カドミウム、銅、亜鉛などの重金属の基準超過が深刻である。

(5)汚泥使用による汚染。統計によると、全国の汚水処理能力は2010年末までに一日当たり1.25億立方メートルに達し、含水率80%の汚泥が年間約3000万トン算出されている。汚水処理場の汚泥のうち農地で使用されるものは45%に達する。汚泥には、重金属やポリ塩化ビフェニル、ダイオキシンなど多種の汚染物が含まれ、農地における汚泥の長期使用は土壌汚染を引き起こす。

1.2.3 バックグラウンド値が高いことなども一部の地域と流域の土壌重金属の基準超過の主因となっている

(1)バックグラウンド値の高さによって引き起こされる重金属の基準超過。中国の西南地区や中南地区には広範囲の非鉄金属鉱床帯が分布しており、カドミウム、水銀、ヒ素、鉛などの元素のバックグラウンド値が比較的高く、これに加えて金属の採掘・精錬、カドミウムを多く含むリン酸肥料の使用などにより、これらの地区では重金属の基準超過が広まっており、地域的な土壌重金属の複合汚染が激化されている。

(2)流水の運搬と洪水災害による汚染。長江の中下流両岸の土壌のカドミウム汚染は、流水の運搬と洪水災害と関わりのある可能性が高い。カドミウム鉱床帯とバックグラウンド値の高い地区では、洪水などの作用により、土壌中のカドミウムが、流域の中下流で凝縮区または凝縮帯を形成し得る。

(3)森林火災による汚染。中国では毎年、森林火災によって産出されるPAHと揮発性有機の汚染物がそれぞれ40トンと9.5万トンに達する。多くは最終的に地面に落下し、土壌に一定の汚染をもたらす。

1.3 土壌汚染の危害

 土壌環境保護は長期にわたって重視されてこなかったことから、歴史的に積み重なった土壌環境問題が少しずつあらわになりつつある。新旧の汚染物が共存し、無機・有機の複合汚染が起こっているという特徴が見られ、局地的には「中度」と「重度」の土壌汚染が現れ、農産品の品質の安全と人体の健康に対して深刻な脅威が形成されている。

(1)農作物の産量と品質に対する影響。土壌汚染は作物の生長に影響し、減産を引き起こしている。農作物に特定の汚染物が吸収・濃縮されることで、農産品の品質に影響が出ている。中国における土壌汚染による農産品の減産と重金属の基準超過によって生み出される損失は毎年200億元に達する。例えば、湖北省大冶地区では、非鉄金属精錬による汚染物排出の長期的な影響で、土壌のカドミウム汚染が深刻化し、コメや野菜のカドミウムの深刻な基準超過が発生している。また2001年には、広西チワン族自治区環江県の鉛・亜鉛鉱山地区の多くの選鉱場の選鉱くず庫が洪水で決壊し、沿岸の5000ムー(約333ヘクタール)以上の農地が重大な汚染を受けた。

(2)人々の健康に対する深刻な危害。汚染農産品の長期の摂取は人体の健康に損害をもたらす。住宅・商業・工業などの建設用地の土壌汚染も経口摂取や皮膚接触、呼吸などを通じて人体の健康に危害をもたらす。例えば、広東省翁源県大宝山鉱山地区では、長期にわたる不合理な鉱物資源の採掘により、周辺の農地と農作物に重大な汚染を引き起こし、下流の上ハ村の村民には重病が頻発するなど、重大な健康被害をもたらしている。

(3)生態環境の安全に対する脅威。土壌汚染は植物や土壌動物、微生物の生存や繁殖に影響し、正常な土壌生態プロセスと生態系の機能をおびやかす。土壌中の汚染物は転化や移動によって、地表水や地下水、大気などの環境に入り込み、周辺の環境媒体の質に影響し得る。

その2へつづく)


※本稿は庄国泰「我国土壌汚染現状及防控策略」(『中国科学院院刊』第30巻・増刊,2015年、pp.46-52)を『中国科学院院刊』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。